《譲サイド》
とりあえず鳴海は行ってくれたか。主催のあのガンマニアな警官は、コース(案外整備されていて、街灯もある)を歩いても10分でゴールっつってたから、ダッシュすればまあ10分くらいで戻ってこれるだろう。
つまり、スレンダーマンとの鬼ごっこを10分以上生き残れってことだ。
「この重圧感…やっぱ仕掛けじゃあないだろうなぁ」
キィィィィィン、と嫌な耳鳴りがする。スレンダーマンが近くに居るのだろう。
「とりあえず逃げるっ!!」
鳴海を追うように道を走るは悪手。視界の端にテレポートして『肩たたき』か、進路上にテレポートして彼と追突事故で即死だ。スレンダーマンは死角から視界へと移って近づくから、木々の多い場所では此方が圧倒的に有利。しかし現在、森の中は暗闇に覆われていて死角だらけと言える。
「森の中の『視界』は懐中電灯の光が届く範囲だけか…」
とりあえず森の中を走る。木々をかわしつつ、時々ライトに照らされる黒いスーツを避けつつ。
「うおぁっ!…っと危ねぇ!!」
照らされたスレンダーマンを避けて左へ右へと角度も考えずに曲がっていく。街灯の明かりも届かない場所まで入ってきてしまった。方角の感覚などとうに喪われている。
「ハッ!ハッ!ハッ!」
何分走った?ここはどこだ?見つけてもらえるのか?鳴海たちは来てくれるのか?そもそも彼らはスレンダーマンの存在を信じてくれるのか?
余計なことばかり頭に浮かぶ。
俺だって、こんな奴を相手にして死にたくない。
集中が途切れてしまったせいか、ライトに照らされたスレンダーマンの足に反応して、顔を照らすように懐中電灯を向けてしまった。
「!! しまっ…」
無貌。
顔のない顔が俺を見ていた。
作者:代理店