《鳴海サイド》
「フフフ、なかなかいい場所を見つけて来たであろう?」
この肝試しの主催、天津中主はフラッシュライトで下から顔を照らしながら一緒にいる2人に言った。その顔は正しくドヤ顔である。
「まあ街灯がやや明るすぎる気もしますけど、雰囲気はなかなかですよね」
「私は気が進まなかったがな…」
賛同するは年齢不詳、見た目から性別をも判断不能の井ノ本透伊。対して、強くはないものの反対だったことを述べるのは神原結、譲が言った「あの3人」の中では――もしかしたら「飛ばされた人」の中でも――一番の常識人である。
「全く…暇ならば訓練でもしていればよかっただろうに」
「確かにそうなんですけどねー結さん、高いパフォーマンスの維持には適度に休んで気を緩めることも大事なんですよ」
「それは分かる…。でも、わざわざあいつらを巻き込むことも無かっただろう?」
「その辺はヌシ殿に聞いてください。ねえヌシ殿?」
くるりと上体を回して、透伊はライトで遊ぶ中主に尋ねる。
「譲のヤツが私のデザートイーグルの補給を拒んだから、その嫌がらせだ」
ニタァ~とした笑顔で答える中主。私怨としても想像以上に下らない理由で、結は肩を落とし、仕方ない、こいつはこういう奴だったと諦めのため息をつく。
と、そこに3人のものとは別のライトの灯りが飛び込んできた。
「ヌシさん!結さん!スーさん居ますか!!!?」
3人がライトを向けると、必死に走ってくる鳴海が見えた。
「誰がスーさんですか」
透伊は順当な文句の声をあげるが、鳴海を見れば緊急事態と分かる。誰も反応しない。
「落ち着いてからでいい。何があったか話せるか?」
結は、倒れ込む鳴海を抱えつつ尋ねる。警察時代の癖なのか、顔は険しいが声色は優しい。
「はぁ…はぁ…あの……はぁ…はぁぁ…」
「無理しなくていい、ゆっくり話せ」
「…す…スレンダー…マン……です…」
この一言は、3人を本気にさせるには十分な働きをした。そんな質の悪い仕掛けを施した記憶はないのだ。
「ヌシ殿と私で先行します!」
「結!今は鳴海ちゃんと一緒にいてあげるんだ!来るのは後からでいいぞ!!」
そう言ったが早いか、ヌシと透伊は猛然と走り出した。
残された結と鳴海。鳴海のすすり泣く声だけが響く。
「あの…譲、君がっ! …わ、たし、何も…何も出来なくて……!」
「大丈夫だ、彼は強い」
「で、でもっ…スレン、ダーマンって……こっちから、は…」
「そのためのあいつらだ。普段はあんなのでも、ここぞと言うときは頼りになる」
ただ、と言葉を繋げながら結は鳴海の眼を見据える。その真剣さに圧されたか、鳴海も泣き止み、静かに結を見返す。
「ただ――覚悟はしておいたほうがいい。最悪の事態が起こる可能性はある」
作者:代理店