「…あるぇ?」
私―――谷笑子はそう言って、首を傾げてみた。
はて、ここはどこだろう。
私は確かいつも通り病室の窓を目覚まし時計で割って抜け出そうとしたら見つかっちゃって怒られて、なんだよちくしょうばあか、割りやすい窓にしてんじゃねえよばあか、なんて悪態吐きながらベッドに潜り込んで瞼を閉じた、はず…なのに。
このどこもかしこも真っ白な空間は何なの。夢?夢なの?
夢にしちゃ意識がハッキリし過ぎな気がしなくもなくもなくもない……し、思い当たる節もあるけれど、夢以外だとは思いたくない。考えただけで眉間に皺が寄ってしまう。いかんいかん、笑顔笑顔。
指で口角を無理矢理上げているせいで思いっきり引き攣っている笑顔で何気なくくるりと後ろを向いた私の視界に飛び込んできたのは、今にもこの真っ白な空間に溶け込んでしまいそうな少年だった。
いつから居たんだとか、なんで居るんだとか、お前誰だとか、もしかしてこれお前の仕業かとか…聞くことは絶え間なく頭に浮かぶのに、不自然に吊り上がったままの私の口は、それらとは全く関係のない言葉を紡いだ。
「やっほー、少年!」
私は妙にハイテンションな声で話し掛け、ひらひらと少年に手を振る。
…ああ、やっちゃった。私の悪い癖。
ついつい興味が理性を上回っちゃうんだよね。けどまあ仕方ないさ、人間だもの。
「…ぼく?」
白い少年は暫く宙を眺めていたかと思うと、徐に自分を指差し小首を傾げてそう言った。
その言葉に頷いて、「よっこいしょ」なんて年寄りじみた声を出しながら私は立ち上がり、少年と向き合うように座り直す。
「初めまして、白い少年。
私は谷笑子。谷で笑ってる子、って書いてタニショーコだよ」
「…えと…秋山、祥」
アキヤマショウ。
頭の中で名前を反復し、視線を彷徨わせる素振りをしつつ、少年を観察する。
一言で言えば、白い。それに尽きる。
日本人じゃない…という可能性は低そうだ。名前的に。だとしたら、アルビノなんだろうか。又は―――、
「わあ…」
さらり。
突然髪に触れられたことで、私の思考は急停止した。
作者:在原