コウ「怜さーん!どこですかー?」ガッシャンガッシャン
レン「あっこれ無理ゲー」
怜は物陰に隠れながら、コンクリートをクッキーのように砕いている紅を見ている。
最近平和ボケしてきた自分をなんとかしようと紅に模擬戦闘をお願いしたのだが、紅の並外れたパワーとスピードに早くも戦意喪失してしまった。
レン「自分でお願いした手前、退くわけにはいかないわよね」
サラサ「そうですよ、なんとか頑張りましょう!」
実はこの模擬戦闘、一対一ではなく二対一、紅VS怜&更紗の戦いなのである。
レン「なんでそんな元気なのよ…」ハァ
サラサ「なんでそんなに元気無いんですか!?さっきは「紅なんてケチョンケチョンにやっつけてやるわよ」って意気込んでたじゃないですか!」
レン「そんな昔のこと覚えてないわ」
サラサ「とにかく、隠れてないで紅ちゃんの所に行きましょう」
レン「良いわよ行かなくて」
サラサ「どうしてです?」
レン「だってもう来てるし」
サラサ「え」
怜が上を指差し更紗が見上げると、真上には紅がいた。少し傾いた電柱に器用に立ち、こちらを見下ろしている。
コウ「もう、やめる?」
電柱の上にしゃがんだ紅が、怜達に控え目に問いかける。
レン「やめない」
コウ「そっか、攻撃して大丈夫?」
レン「敵にそんなこと聞いてんじゃないわよ」
コウ「分かった」
次の瞬間、紅は電柱から姿を消した。
サラサ「消えっ…!?」
レン「どいてな更紗」
怜は更紗を思いきり突き飛ばし、自身もその場から飛び退く。
そのすぐ後、今まで隠れていた場所に隕石が落ちたかのような衝撃が加わり、紅が固く握りしめた拳でコンクリートごと地面を叩き割る姿が見えた。
もしそのままその場にいたら、全身骨折では済まなかっただろう。
サラサ「ひょわあああああ…」
レン「こっ…殺す気か!」
コウ「えっ!?ごめんなさい!」
怜と更紗の声に、紅はパッと両手を上げてその場で固まる。
レン「いや、何でもない。続けて」
怜はヒラヒラと手を振ると、背にある刀を一振りだけ抜く。
レン「模擬じゃなかったら待ってなんかくれないしね。ほんと弛んでるわ、私。
更紗!動ける!?」
サラサ「だっ、大丈夫です!」
更紗は立ち上がりながらスカートの埃を手で払う。そして一呼吸置くと、スッと薙刀を構え、凜とした立ち姿で紅を見据える。
レン「かっこいいじゃん」
怜はニヤリと笑う。更紗は切り替えが早く、いつまでも恐怖をひきずらない。真剣な表情の更紗には同性の怜でも惚れ惚れしてしまう。相棒としては申し分無い。
レン(けど、パワーもスピードも、こちらが不利なことに変わりはないわね)
怜はふうっと息を吐き出し、刀の柄を握り直しながら紅を見、そして更紗を見る。
怜と更紗は今、紅を挟むような形で立っている。
コウ「あの、私には遠慮しなくて良いからね。刃も通らないし」
レン(そもそも刃が通らない相手を、どう倒せばいいのか…)
作者:R