さくらんぼ(いちごサイド)

 「お姉さん、迷子?」

 わたしがそう声をかけると、ふわふわのワンピースを着たお姉さんは驚いた顔で振り向いた。見開かれた瞳はさくらんぼみたいに赤くて、髪の毛は銀色。
 目はからーこんたくと? 髪は…ぶりーちってやつで染めたのかなあ? よくわかんないけど、凄く綺麗。

 不思議なお姉さんを観察している間、お姉さんは「あー」とか「えーと」とか言いながら俯いたり視線を彷徨わせたりした後、突然眉を寄せて左手に握っている刀を睨んだ。

 「…うるさいな、黙ってろよ」

 「?」

 「別にそういうわけじゃ…! ってあああ、ちが、違う。違うから…違うの、本当に…」

 独り言を言い始めたかと思いきや、慌てながら 違う、と首を振るお姉さん。

 あ、もしかして。

 「その刀さんと、お友達なの?」

 この前、おがみちゃんが言ってたなあ。“どんな物にも心はあるんですよ”って。
 おがみちゃんもよく、お花に話し掛けてるし。

 お姉さんは一瞬赤い目を丸くして、すぐに悲しそうに口元を歪めた。

 「…友達なんかじゃないよ」

 震えてる声。
 あ、どうしよう。聞いちゃいけないことだったのかな。
 空気が重い。どうしよう。何か別の話題、何か―――…そうだ。

 「お姉さんの目、さくらんぼみたいで綺麗だね!」

 「……さく、…?」

 …あれ。
 話題を変えようとした、ん、だけど……お姉さんの表情に変化はない。どうしよう。えっ、どうしよう、どうしよう!

 慌てるわたしをよそに、お姉さんは俯いて、小さな声で―――。

 「…え、」

 「……あと、私、迷子じゃないから。…じゃあ、ね」

 去って行くお姉さんの背中を呆然と見つめながら、さっきの言葉を頭の中で反復する。

 “……あり、がと”

 …変だなあ。ありがとう、なんていっぱい言われてきたのに、嬉しくてたまんないや!
 早く帰ってハギちゃんに話そうっと!

 

作者:在原

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最終更新:2014年05月22日 17:26