ドッペルゲンガーというものがある。
英語では『ダブル』、漢字表記では『復体』と言われ、自分そっくりの姿をした分身、又はもう一人の自分を見る自己像幻視を指す言葉である。一般的には超常現象として考えられ、『ドッペルゲンガーを見たものは死ぬ』とも言われている。
「分かりきった事を聞くのは好きじゃないんだけどなあ」
そう言うのは目の前にいる『自分』。目の前に自分がいるとはなんとも奇妙と思うだろうが、とにかく『自分』がいるのだ。
「うーん、そこでその台詞が出るとは。流石『俺』だな」
透伊がふう、と溜め息を吐きながら言うと、目の前の『もう一人の透伊』は目を細めて笑った。
「当たり前だろ。『俺』がいつも言ってたんじゃないか。「分かっている事を繰り返すのは好きじゃない。人は常に未知に向かって進むものだ」……ってさ」
「んー、なるほど。じゃあお前が最初に言ってた「俺はお前だー」ってのは本当だったってことなのね。うーわー自分が二人いるとか気持ち悪い。下手したらSANチェックもんだなコレ」
「あはは、全くその通りだよな。だからさぁ……」
言うが早いか、もう一人の透伊が踏み出し透伊の頭を目掛けてキックを繰り出した。咄嗟に腕で受け止めるが、流石に『自分』の蹴りと言ったところか。白衣を着た状態でも受けた腕に尋常でない衝撃が走った。
「片方は消しちゃってもいいよなあ?」
もう一人の透伊が顔を歪めて笑った。何とも胸糞の悪い。
「気が合うじゃあないの……」
少しばかり『自分』に灸を据えてやる必要があるらしい。透伊はうんざりしながら、だがやはり同じように笑った。
作者:邪魔イカ