影の患い2

激しく攻めるもう一人の透伊に、透伊は防戦を強いられていた。状況は拮抗、否―――

(押されてる……俺の方が?)

じわじわと焦りに似た感情が透伊の心をざわつかせる。しかし考える暇を与えまいと、もう一人の透伊はナイフを投擲してきた。

「くっ……!」

足を振り上げナイフを払い、後ろに跳び退って距離を取る。それを見て、どうにも進まない状況に痺れを切らしたのか、もう一人の透伊は大きな溜め息を吐いた。

「あーあ……やっぱ駄目だな」

冷ややかに見下すような目でもう一人の透伊が言う。

「何……?」

「この世の全ての謎を解き明かすとか言ってさぁ、なーんも分かってないじゃん」

もう一人の透伊はクルクルと弄んでいる。余裕の表れといったところか。如何せん自分と同じ姿形をしてるので余計に腹が立つ。パシッ、と弄んでいたナイフを掴み続けた。


「なんにも変わってないよ。『アイツ』が死んだ時とさぁ」


ドスッ

「あ……?」

生々しい音が響き、もう一人の透伊が小さく声を漏らす。透伊の脚が、もう一人の透伊の腹を貫いたのだ。驚愕の表情を浮かべワナワナと震えるもう一人の透伊を見つめ、ケロリとした声で言い放つ。

「お前やっぱ俺じゃねーわ。だってさ……」

ズルリ、と脚を引き抜き、崩れ落ちるもう一人の透伊の髪を掴んで上を向かせる。



「『俺』が『アイツ』の事を、軽々しく口に出す訳ないだろ」



もう一人の透伊に、ピシ、を亀裂が走った。
 

作者:邪魔イカ

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最終更新:2014年05月22日 17:36