「――ん?」
ふと目を開けると、そこは理玖の知らない場所だった。
「最近こういうの多いなあ、いよいよおかしくなったかな?」
独り言のつもりで呟くと、律儀に返答があった。
『お前はもともとおかしいだろ』
周囲に理玖以外の人影はなかったが、この声に理玖は驚いたそぶりもなく、心外だなあ、とだけ呟いた。
憎まれ口のような返事の主はわかっていた。腰に差した妖刀からの返事だ。
この妖刀は殺すことしか頭にないのに、変なところで律儀だな、と考えていると、がさっと物音がして、人間が現れた。
その人物は、理玖を見て驚いた表情をし、おそるおそる近づいてきた。
そして、少しだけこちらに手を伸ばし、
「大丈夫ですか?」
と聞いてきた。
理玖は一瞬言われた意味がわからなかった。
もしかしたら、自分以外の人間には独り言にしか見えない妖刀との会話を聞かれていて、それで怪しい人と思われ、
『(貴方の頭は)大丈夫ですか?』
という意味で尋ねたのか?ちょっと失礼じゃないかなあ……というところまで思考を巡らせたところで、小さく伸ばされた腕が、転んだ人に伸ばされるものではないか、と気付いた。
目の前の人物にわからないように視線を巡らせ、自分の状態を確認してみると、確かに尻餅をついた格好のように見える。
納得し、いつものように笑みを浮かべて立ち上がる。
「大丈夫、ありがとうね、えっと……」
中世的な外見に、女性か男性か、判断がつかないでいると、
「あ、水と言います」
と、目の前の人物が笑顔で名乗った。
「水さんね、ありがと。俺は理玖」
別に自己紹介をしたいわけじゃないんだけど、と思いながら、人当たりのいい笑みを浮かべ、自分の名前を告げる。
と、同時に、水の様子を観察する。
(変わった格好だな……ん?牙?)
笑みを浮かべたことで、普通の人間より歯が鋭いことに気付いた。
(もしかして、人外か?さっき控えめに手を伸ばしたのも、人外故の剛力で、俺の体を傷つけないように、という配慮だったのか……?)
考えを巡らせていると、水が話しかけてきた。
「理玖さん、ですか。もしこの辺初めてなら、自分の家に来ますか?」
理玖は罠かと思ったが、自分の推理が正しければ、あんな気遣いはしないだろう、と結論づけた。
(もし人外なら、相当強いんだろうな……かなりのお人好しのようだけど……戦いたい)
心の内を黒い考えで満たしながらも、そんな考えをしているとは微塵も思わせない柔和な表情で、
「そんなに気を遣わなくて大丈夫。ただ、一つだけ、お願いがあるんだけど……いいかな?」
と言った。水は軽く首を傾げ、
「内容によりますが……なんでしょう?」
と答えた。
理玖はそんな水の様子がおかしいのか、それともこれからの展開が楽しみなのか、より口角を吊りあげ、そして――
作者:銀