フェン「なんだコイツ」
ある日、フェンリルは変な生き物に出会った。一見ただの幼女だが、雨が降ったわけでもないのに何故か体から水を滴らせている。
それになにより変なのは、生き物のニオイがしないことだ。
「おねえさん、わたしとあそんでくれる?」
フェン「え、いや」
「わたしまいごなの、かわいそうでしょ?だからあそぼう」
幼女はそう言いながら、ぴちゃぴちゃと水音を立ててフェンリルに近づいてくる。
フェン「ちょ、ちょっと止まれ」
フェンリルがそう言うと幼女は立ち止まり、きょとんとした表情でフェンリルを見る。
フェン「お前、なに?」
「まいごだよ、まいご。だからやさしくしてくれないといやだな、おねえさん」
フェン(まいご?それにしちゃあ平気なツラしてんじゃねーか。てかコイツ、さっきからまばたきひとつしてねぇし)
フェン「…悪いが俺は暇じゃねーんだ。他を当たりな」
フェンリルは幼女に注意しながら、少しずつ距離を置いていく。
「おねえさんどこいくの?おいていっちゃやだよ、わたしないちゃうよ」
フェン「しらねーよ、俺とは縁が無かったと思え」
「おねえさんひどい、わたしがこんなにこまってるのに、えーんえーん」
幼女は棒読みで言葉を話すと、大粒の涙をポロポロと溢す。フェンリルを見つめたまま無表情でだ。
幼女はどんどん涙を流し、どこから涙が流れてるのか分からないくらいに、自身の足元をびちゃびちゃにして水溜まりを作っていた。
フェン「いよいよ人じゃねぇな…」
「おねえさんはわたしにいじわるしたからたべちゃうからね、たべられてもしかたないんだからね」
そう言うと、幼女の口がぐにゃんと歪み、人を丸呑みできそうなほど大きく広がる。そして関節を無視した方向に大きく体を曲げると、物凄い速さでフェンリルに飛び掛かってきた。
フェン「っと!?」
フェンリルは身を捻りそれを躱すが、あり得ない方向に曲がった幼女の腕が伸び、フェンリルの足を捕まえる。そしてそのままフェンリルを上空に放り投げた。
フェン「のわぁー!」
体の上昇が止まったところでフェンリルが下を見てみると、そこには口を大きく開けた幼女がスタンバイしていた。
「いただきまーす」
フェン「くっそ!クレヴォウルフ!」
フェンリルは手のひらを下に向け炎で二体の狼を作り出し、幼女に向かってそれを放つ。
しかし幼女は伸びた腕を鞭のように振るうと、二体の炎狼を簡単に叩き落としてしまった。炎狼は形が崩れてただの炎となり、瓦礫に燃え移りそれを焼く。
フェンリルは休むことなく次の攻撃を仕掛ける。今度は目一杯息を吸い込むと、幼女に向かって高温の炎を吹き掛ける。
幼女はこの攻撃はまずいと判断したようで、後ろに飛び退り炎を避ける。幼女が後退したおかげでフェンリルは無事地面に着地することができた。
フェン(退かなかったら食われるとこだったな…)
フェンリルは立ち上がり幼女を見ると、馬鹿みたいに大きく開けていた口が、ゆっくりと元のサイズに戻っていくのが見えた。
作者:R