駅前で、見慣れた人に声を掛けられました。
「あれー、黒城は今帰り?」
「あ、っ里見、くん……ちょ、……ど、帰るとこ で、す」
(里見くん、元気そうです! よかった。でも、どうしたんだろ……)
彼の下の名前を僕は知りません。それでも、明るく接してくれる彼は、僕にとって大切な存在です。
「相変わらず堅苦しーな。呼び捨てでいーってばぁ! 今からマック行こーよ?」
「っえ、と……はい」
(と、友達だから、いい、ですよね……呼び捨て、ですか)
「そんな緊張すんなよー!」
「す、すみません……」
「黒城、身長伸びた?」
「あ、これ……厚底、なんで、す」
「ズリー! ってか、黒城んとこの制服マジかっこいいよね!」
「制服、目当て、で……入ったひとも……」
「わかるわー。おれも一度でいいから着てみたーい」
「今度、貸し――」
「マジで! やったー!」
来た道を戻ることになりましたが、会話が絶えることはありませんでした。
「僕、は……ホット、レモンティー、とっ、えっと、テリヤキチキンで。里見くん、何、食べ……ます?」
「おれ、クーポン券でオージーデリ単品とポテトLー」
――タラッタッター♪
「!!?(ビクッ)」
「ちょ、黒城どったの!?」
「かざす、クーポン……なん、て、初……めて、み、見ましっ、た」
(ななな何ですか今の!!あああ利便性を追求した平成の世は末恐ろしいです……)
「ぶはっ」
「どっ、どうしました?」
「な、なんでもない……(黒城って、めちゃくちゃおもしろい)」
店員の笑顔に見送られながら、2人で街中を歩き回りました。いつも通り過ぎるだけの街も、友達と見て回れば新しい発見が色々ありました。
「なあ、黒城。なんで今日上着着てないのー」
「9月で、も……暑、い です……」
「えー、今上着ある?」
「は、い」
(もしかして着たい、のでしょうか)
「貸してー!」
「はい。勿論、いいです、よ」
はしゃぐ里見くんが、なんだかかわいく思えて、自然に笑みが零れました。
