―――三方原からの通信が途絶えた。
この連絡に、フィールドに激震が走った。
サバイバルゲームの参加者はすぐさま試合を中止、捜索に当たった。
しかしこのフィールドはそう広くはなく、さらに一面の野原であるため隠れる場所もない。山や室内フィールドでないため、発見はすぐだろうと皆考えていた。
最後に三方原の姿が確認されたのは、フィールドに点在する遮蔽物のうちの1つのそば。そこから敵陣にライフルを連射しながら突っ込んで行くところまでは確認されていた。
「……『神隠し』?」
プレイヤーの一人が、ふと、気付いたように言った。
最近、世界的に「神隠し」が多発している。ワイドショーを賑わせているネタの1つだが、いくら世界中の学者が頭をひねらせても全く解決策が見えない問題である。
「神隠し」は、日本人なら一度は聞いたことのある言葉だが、その神隠しと全く同じ状況が世界各地で発生しているのである。
その「神隠し」に、この地方のサバイバルゲームプレイヤーやフィールド運営者の間で有名な三方原譲が遭った。
「……帰ってくるよな?」
主催者は不安そうに呟いた。
返事は返ってくるはずもない。
一方、当の本人は気丈に振る舞っていた。
「これあれじゃねーの、んー…神隠しだっけ?」
「うへぇ、荒んでんなこの街。何か空気も澱んでるし、遠くは白く霞んでねぇか?光化学スモッグかー勘弁して欲しいなぁ」
など、言いたい放題である。しかし、彼の頭はフル回転していた。
――ここは何処か。
見たところ、棄てられて久しい東京って感じ。
――何があるか。
さっきまで構えていたG36のモデルガンは無い。目の前にはアタッシュケースがある。信号機が点灯しているから電気は問題ない。
――今は何時だ。
サバゲーの時は14時頃だったはず。腕時計が正しければ14時39分。太陽の位置を考えても同じくらいだ。
――何故連れてこられた?
解らない。
――どうやって連れてこられた?
解らない。
――自分が誰かわかっているか?
自分は三方原譲19歳。サバゲー好きの旅好きで大学生。あだ名は暴れん坊孔明。
よし、大丈夫。
「あ、だいじょばない!!」
服が違う!カーキのカーゴパンツに黒いTシャツ、カーキのベストだったのに、
「都市迷彩のカーゴになってやがる!しかもベストも都市迷彩だ!しかも軍用ブーツになってる!」
完全に都市戦仕様なんですけどー、怖いんですけどー!
……ん?都市戦仕様?
「ってことは、戦えってことか?」
武器も無い、食糧もない、拠点もない。そんな環境で、しかも何を目的に、何を目標に戦えと。
…いや、戦う目的も目標もあるか。目的は、当面は自己防衛だ。最終的な目標は、やはり帰還ということになる。
「でも武器がなきゃ始まらねぇよなぁ」
そこでこのアタッシュケースか?開けたら爆発とか恐いけど、まあいいか。とりあえず道の真ん中はまずいし、これ持って道の端に――って重たっ!?10kgくらいないかこれ!
10kgあるコイツ自身が武器です、とかナシだぜ?
「オープン・ザ・プライス!」
開けてみると、中には銃器、手榴弾類、実弾の弾薬などがぎっしりとつまっていた。医療キットみたいなものもある。こ、こいつぁ…。
「どうやって入ってんだろう?」
………。…考えたらあかんパターンのヤツや。
うん、いやまぁ、とにかく武器は手に入ったわけだ。となると次は、
「水と飯と寝床の確保か…」
ここで立ち止まって考えていても仕方ねぇし…まぁ、とにかく歩くか。
「あ、アタッシュケースにキャスター付いてんじゃん。変なとこで気ィ使ってんなオイ」
…そうして俺は歩いていった。
すぐに帰れるかも、という希望はすぐに打ち砕かれることになる。
――絶望的な消耗戦が幕を開けた。