「飯っ!5日分15食を確保!」
缶詰や乾パンの山を指差して確認。指差し確認は兵士の基本だってどっかで聞いたからな。
「飲み水っ!30リットルを確保!」
2リットルペットボトルの山をさらに指差し。
「拠点っ!廃ホテルの一室を占拠!」
適当に歩いてたら発見したホテルに突入して、安全確認をした上で目についた一室を活動拠点にした。
ベッドがあり、冷蔵庫も空調も生きているため拠点としちゃあ申し分ない。
強いて欠点をあげるならば、ラジオやテレビが生きてないことかな。これじゃあテメーの足で情報を収集しろって言われてるみたいだ。
そんな三方原譲、現在はグレネードを4つベストにつけ、ホルスターにP228を入れ、P228とG36の予備マガジンを持ち、G36をたすき掛けして背中にまわしている格好だ。
「今この格好を誰かに見られたらヤバイよなぁ」
ま、そんなの気にするタマじゃないですけど。
現在時刻は16時半ちょい前。まだ日は出ている。
今とれる選択肢は2つ。索敵かそのまま宿営か…。
これから暗くなるという時間に出歩くのは危険だろう。しかし、拠点周囲のクリアリングもしないで寝るのもまた危険だ。
アタッシュケースの中には軍用懐中電灯はあったけど、暗視ゴーグルはなかった。夜、光源を持って歩くのは(もし敵対する奴が居たら)自殺行為だ。
でもなー、寝首を掻かれるのも怖いしなぁ…。
「んー…しゃーない、完全に暗くなるまでは哨戒に出るか」
懐中電灯も携帯して外に出る。
……出入口周囲クリア。とりあえず左回りに付近を一周してみよう。
「…よし、行くか」
自分の立てる音しかしない世界。自分がここに来る前から「神隠し」のニュースはやっていた。まぁだからといって、神隠された人たちがみんな同じ場所に来るわけではないだろう。
「…交差点か」
歩行者用信号の青信号が点滅していた。
遵法とか気にする必要はないのに、何となく立ち止まってしまう。もちろん、G36は構えたまま。
「…………信号、赤じゃん」
何となく、自分の行く末を示された気がした。
「うっわー…なんだこれ」
ホテルを出て約15分の地点で異変を発見した。
歩いている道路の上に恐らくは高速道路だと思われる高架があるのだが、たくさんあるその柱のうち3本が完全に凍っているのである。
しかもその凍り方というのが、厚さが1m以上ある氷が柱全体を覆い、所々には上に鋭く尖った氷柱が何本も突き出ているというのだから、パねぇとしか言いようがない。
「…ちょっと撃ってみるか」
G36を構え、3点バーストを3回撃ってみた。
初めて実銃を撃ったのだが、なかなかに反動が心地よい。なるほどガンマニアが実銃を撃ちにグアムまで行く訳だ。
…閑話休題、その話は置いといて。
この氷、固くねぇか?5.56mm弾を9発撃ち込んだところでヒビすら入らねぇとか…。
「これ、ホントに氷かよ?」
かなり冷え冷えのセラミック繊維とかケブラー繊維じゃなくて?
さて、話は少し変わるが、あのアタッシュケースに名前を付けた。『孤独な陸軍』という。すげぇ強い奴のことをワンマンアーミーって呼ぶんだがそれの和訳だ。まぁ俺のセンスの限界を見たね。
ただ、名付けた理由はそれだけではない。
あれを手にとった瞬間、中に入ってるもの――携行火器、ナイフ、医療キットの類い――の使い方を「理解した」と同時に、陸軍の兵士としての理想的な行動が全て頭に流れ込んできた。回避、索敵、格闘戦エトセトラ。最初は狂って死ぬかと思ったけどな。
だから、
「紛うことなく氷だっ!!」
ありがたいことに咄嗟に回避行動をとれた。
2秒前まで立っていた場所には氷の…なんだこれ、ランス?が突き刺さっていて、食らっていればこの世から退場させられていただろう。
ランスが飛んできたのは4時の方向だった。6時の方向にはまた氷漬けの高架の柱があるから、遮蔽物のある状況はありがたい。
「待て待て待て!誰かは知らんが敵対の意思はない!」
そう言いながら振り返ると、100mほど向こうに高校生くらいの少年少女2人組が立っていた。
「俺たちはもうそんな手は食わねぇよ!!」
少年の返事と同時にまたランスが飛んできた。
「こんな手を使ったのは初回ですけど!?」
軽くキレながら、反射的にG36をランスに向けてトリガーを引き撃墜を試みる。しかし5.56mm弾ではあまりダメージが入らないらしく、ほとんどそのままの大きさでまた突き刺さった。ま、当然これも回避。
「待て!話せば分かる!!」
「も、問答無用ですっ!」
「五・一五事件かよ!」
「絶対に私たちは生きて帰るんです!!」
今度は少女の方が返事をした。と思ったら後ろにある氷柱の一部が爆発した。そして爆発とほぼ同時に雷の音が鳴り響いた。まさかとは思うが、電撃で氷を破壊したのか…!?
氷はともかく、電撃に真正面から戦闘を挑むのは愚策。
「撤退するか?」
背中に氷槍が刺さるかまっすぐ雷を受けるかの2択だな。却下。
「とりあえず遮蔽物に隠れよう!」
このままじゃ死ぬ。
G36の撃ち尽くしたマガジンを交換しながらそう思った。訳の分からない内に神隠しに遭って、訳の分からない奴らと戦って、訳の分からない内に死ぬ?…どんなモブキャラだ。
「人生の主人公がそんなサクッと殺されて堪るかっつーの」
そうは言っても、電撃と氷槍が交互に飛んでくるこの状況。どうしたものか。
①交渉・説得
②迎撃・安全確保
③降伏・従属
②は無理だな。殺る前に殺られる。③は無いわ、何されるか分かったもんじゃない。
「となると、交渉か…」
ならば丸腰で行かねば交渉として成立しないだろう。G36とグレネードを置き、攻撃が止んだ隙を見て飛び出す。そしてすかさずホールドアップ!
「見ての通り、抵抗の意思はない!だからそちらも矛を収めて、話し合いに応じてほしい!」
頼む、応じてくれっ!…と願うもむなしく、氷槍が3本飛んできた。人生のバッドエンドを覚悟したが、突き刺さった場所は俺の体ではなく、前方と左右に50cmほど離れたポイント。
「刺さったとこから動いたら、電撃がお前を焼くぞ!」
なんで電撃?と思ったが、発射から着弾のラグが無いからか。確かに逃げれんわ。それでも交渉には応じてくれるみたいで第一段階はクリア。
「俺は三方原って言う大学生だ!19歳!つい先ほど神隠しに遭って、現在は哨戒をしていた!君たちの名前は!」
「俺は篠原!そんな話、信じられるわけがない!飛ばされたのにアサルトライフルなんかをぶら下げてる奴なんか見たことがないぞ!」
「アサルトライフルに関しては説明が長くなるから省略するが、要するに拾ったんだ!」
「なめてんのかお前!!」
事実ですけど…。それにしても、『飛ばされたのにアサルトライフルなんか』?
氷槍といい電撃といい、少なくとも「とある科学の」ばりの超能力者でなければ扱えない代物だろう。それなのに『アサルトライフルなんか』ときた。
「君たちのその超能力みたいなもの、すごいな!禁書目録や超電磁砲みたいだ!」
「飛ばされたときに手に入れた能力だ!お前のも見せろ!」
「……あー、すまん。能力ってなんだ?」
「なんだって?」
やっぱりな。たぶん、神隠しに遭ってこちらに飛ばされてくるときに何か能力や武器になるものを手に入れるんだろう。彼らは能力だったんだ。でも俺は武器を手に入れた。彼らは能力以外も手に入れる可能性があることを知らないんだ。
…今考えると、『孤独な陸軍』は俺が能力の代わりに手に入れたものだったんだな。
あちらさんも同じ考えに至ったようだ。女の子の方はまだ理解していないみたいで首をひねっているけど。…その仕草、かわいいと思うよ。
「どうして私たちを見つけたんですか?」
電撃少女からの質問。いや、そういわれても。
「遭遇した、と言う方が正しいと思う。適当な場所に寝床を定めて、安全確保の為に歩いていたから」
今度は氷使いの少年から。
「それはつまり、お前と敵対する奴らを殺すつもりだったってことか?」
「つまりはそういうことだが、明らかに敵対する奴ら以外は撃退程度のつもりだった!」
「……最後!お前は俺たちに敵対するつもりはあるか!」
あるはずがない。敵対即ち死だし、なによりも。
「さっき、そちらのお嬢さんが生きて帰るって言ってただろ?俺だって骨を埋めるのは地元の方が良い。目標が同じである以上、敵対は失策以外の何物でもない!!聡明な君たちなら分かっているはずだ!」
敵を多く作れるほど強くもないし、帰還のためには協力は必要になってくるはず。
やはり理解してくれたようで、解放してくれることになった。
「お前を解放する!動いて良いと言ったら、もと来た道を帰れ!!」
「それはありがたい!しかし、俺も背中からズドンと殺られる可能性を捨てきれないからさ、お互いにそうしないか!」
「お前にそんな権利があると思ってるのか?」
「俺が角をビルの曲がって、こっそり狙撃って可能性を考えなかったのか?女の子の方は相討ち覚悟なら殺れるぜ。その辺はほら、お互い日本人みたいだし、日本的信頼に基づいてってことで!」
ごめんハッタリ。弾速より光速の方が速いに決まってる。
「……分かった。後ろを向け!」
「それじゃ、せーので動こうや」
と思ったら、あちらさん揉めてるみたいだ。どうやら女の子の方がせーのを言いたくて仕方ないみたい。…そういうところ、かわいいと思うよ。
「それじゃ、またどこかで会うかも知れませんね。せーの!」
後ろを確認したい気もあったが、まずは歩き出す。相手側の情報をほとんど引き出せない交渉だったが、まぁ命が助かっただけ良しとしよう。
G36とグレネードを回収して、拠点に戻ってきた。
時刻は17時15分頃。やはり哨戒をして良かったと思いながらゆっくりと飯を食った。
ふと、ノイズしか拾わないラジオが目に入った。ラジオ局があれば何か聞くんだがな…まぁいい。まだ早いけどおやすみなさい。
……ザザ…ザー………
《お--大塚、動きg-あったみt-だ--》
《放っておk-、どうせなにm-できはs-な--》
《お前m-暇なやts-だな、武k-を------なんて》
《何t-なくd-》
…ザー……ザザザ……