幹部組のお仕事

作者:名無しさん

鬱蒼と走る高速道路の下に潜んで存在する、廃れかけの小さな公園。そこにぽつんと一つだけ設置された錆びついたブランコは確かな人の重みを伴ってキィ、キィ、と鳴いている。

長すぎる脚を持て余すようにぶらぶらと揺らしているのは、子供用の遊具に相応しくない長身の男。
いや、もし彼が幼い子供だったとしても違和感を拭い去ることはできないだろう。ぼんやりと空を見上げる男の瞳は、コミカルすぎる猫の着ぐるみに隠されていた。


「……まったく、遅いよサクラちゃん」

突然、着ぐるみの下から声が漏れた。それに呼応するように誰も居なかった筈の公園の四方から人影が現れる。

「すみません、見回りが長引いてしまって」

サクラと呼ばれた女が、大きな銀色のフォークを抱えながら慌て気味でブランコに駆け寄った。頭上ではこれも大きな獣の耳が揺れている。

「まっ、怪我がないようならいいや。はいみんな集合~」

パン、と手を叩くと、他の三人もゆっくりと集まってくる。杖をついた男、バズーカを背負った女、俯き加減の少女。
全員が揃ったのを確認すると、男――大塚は、着ぐるみの下で小さく微笑んだ。

「それじゃ、報告会を始めようか」


「私の担当地区は少し人口が増えてきていますが、差し当たり問題はなさそうです。各々食料の確保に勤しんでいます」
「私の所もそんな感じかなぁ」

地に突き刺したフォークに寄りかかりながらサクラがメモ帳を読み上げると、千登世が横から同調した。帽子をくるくると回しながら唇を尖らせる。

「意外とみんな冷静に状況分析してるわ。もっとドンパチ始まるかと思ったのに」

『つまらない』とでも言いたげな口調に苦笑いしながら、大塚は少し距離をあけて立つ少女に声をかける。

「ポリシアちゃんの地区はどう?」
「……ちゃん付けやめてください。もう23なんですから」

ポリシアは不愉快そうに眉をひそめる。背中から生えた手に養分を吸い取られてしまったのだろうか、彼女の見た目は実年齢の一回りほども幼い。大塚などは可愛らしくて良いと思うのだが、本人としてはやや不満らしい。

「……私も同じようなものです。一つ二つ先住民との衝突がありましたが、死者は出ていません……たぶん」
「そうか。女子組の方は大した動きはないみたいだね」
「問題は俺の地区だ」
「何かあったのか、言弁?」

ずっと黙っていた言弁が静かに口を開いた。
 

「大きな戦闘が多発している。好戦的な輩が一部に集まりすぎている」
「パワーバランスが悪すぎたか……中心部だからねぇ、あの辺りは」

頬を掻く大塚を、言弁の光を映さぬ瞳が鋭く見つめる。

「あの地区だけ崩壊が激しすぎる。多少の片寄りでも壊滅に繋がるぞ」
「幾らか間引きますか?」
「うーん、そうだねぇ……」

サクラが訊ねるも、大塚は空を仰いではっきりとしない。言弁の杖がじり、と地を擦った。

「減らすんなら私が行ってこようか!?」
「駄目だ。お前を行かせたら火に油を注ぐようなものだ」
「えぇ~」

つまらない、と千登世が頬を膨らませるが、言弁は無視してサクラに顔を向ける。

「俺かサクラが適任だろう。俺の担当地区だから俺が行ってもいいが……」
「私は大塚の傍にいます」
「……俺が行ってこよう」

言弁が踵を返しかけたその時。

「いいや、俺が行くよ」
「大塚?」

キィ、と鎖を鳴らして大塚が立ち上がった。程度は違えど、皆一様に驚いた表情を見せる。

「わざわざ減らす必要もないさ。幾らか過疎ってる所に連れて行く」
「なら私も手伝います」
「大丈夫だよサクラちゃん、俺一人で。それに」

黒白の猫の頭を持ち上げて、大塚はにやりと笑った。

「一度、ちゃんとご挨拶しておきたいからね」

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最終更新:2014年05月27日 23:44