飛ばされた者達~譲編・後編~

ガンマニアな元警官・女の私立探偵・性別不明の科学者というちぐはぐトリオ、お互いが互いに依存している双子、エクソシスト詐欺師、自称魔法使いの明るい女の子、ポジティブシンキングのバスケ部………等など。
この人たちはもとより敵意がなかったり、協力の意思があったりして友好な関係を組めた。
もちろん、出会った人達のみんながみんなそうだったわけでもない。こんなワケわからん世界に飛ばされてきたんだ、当然「信ずるものは我が身のみ」な奴も居た。
初日に出会った氷・雷能力ペアなんかもこの部類でいいだろうし、炎を纏う人外さんもいた。この人外さんとは戦わずに逃走した結果、命をかけた鬼ごっこになった。最終的には逃げ切ってやったがな。

そんな面白い出会いをしてきた俺ですが、現在、これまでの出会いを霞ませる強さを持った方とエンカウントしています。

それはミニスカートからのびる生足がまぶしい、警察の制服を着たにこやかに笑う女性。
澄んだ大きな目、快活そうに見せるウェーブのかかった綺麗な髪、スラリとした四肢、抜群のプロポーション。同世代の女性が嫉妬で般若と化してもおかしくない、世の男性の理想を体現したかのような、美しさも可愛さも兼ね備えた人物。

だ が バ ズ ー カ 装 備 。

「ほらほらほら!もう少し私を楽しませてみなさいよ!!」

爆発するビルの一部、散乱する瓦礫、巻き上がる粉塵、笑う彼女。
気が付けば、辺り一帯は廃墟と化していた。

「どうしてこうなった…」

俺の嘆きはバズーカの発射音に書き消された。
約20分前まで話はさかのぼる。



15食の食料のうち、14食は食べてしまったので次の食料を探すことにした。ラストは今日のランチだ。

「安定して供給される飯が食いたいなぁ…」

元来順応性は高いので、飛ばされてきてからも何とか生活できている。しかし、いつ襲われるか分からない恐怖と銃の重さ、そして何よりも安定した衣食住と娯楽がないことがだんだんと精神を蝕んでいった。

「暇と贅沢は人を殺す毒薬、なんてね…」

これだけ暇だと哨戒中にも関わらず、つい歌を歌ってしまう。

あるー晴れーた日ーのことー♪
まほーいじょーのユーカイが♪

緊張感がない?
そりゃそうさ、ずっと警戒していたら精神が擦りきれちまう。

「限りーなくー 降りそーそぐー♪」

ライフルを構えるのを忘れてそのまま無警戒でビルの角を曲がる。

「「ふかのーじゃないわー♪」」

自分の声じゃない声が乱立するビル群にこだました。

「ハルヒかわいいよねー、ハレ晴レユカイのダンス覚えちゃったし」
「っ!」

慌ててG36を構えてダットサイトを覗く。
前方、クリア。後方、クリア。右方…左方もクリア。というか人影がない。

「あはは、かぁわいい。そんなに慌てちゃって!」
「どこのどなたかは存じ上げねぇがな、話しかけるなら姿を見せなきゃマナー違反だろ。姿を見せないんなら電話しろ電話ァ!!」
「ハイハイ…っと!」

ヒュタッ、と音を立てて進行方向の約20m先に突如として現れたのは女性。

「電話番号知らないからねー。姿を見せちゃいました♪」
「……そんで?いきなり話しかけてきて何の御用だ?」
「いやー話しかけるつもりは無かったんだけど、懐かしいなーって思ってね」
「はーん、あぁそう。んで?さっきまでどこにいた」
「う・え♪」

上ぇ?と上方を見ると、ビルの窓が一枚だけ空いていた。

「あれ何階だ?15?」
「ん?18」
「お、おう…」

まずい、コイツ相手にしたらいけないヤツだ。

「足腰強いんだな、能力?」
「さぁね?」
「………まあ、特に何の用があるって訳でも無いみたいなので、俺はこれで」
「フフ、待ちなさいって」

あぁぁ、嫌な予感がする!
今思えば、どうして振り切って逃げなかったのか。どうして

「なんなんスか…」

なんて構っちゃったのか、小一時間問い詰めたい。

「私ね、暇なのよ」
「俺もですよ。ネットもゲームも無ければ遊ぶ友人もいない」
「それでね、私戦うのが好きなの。バトルマニアなの」
「そうですか、俺は平和主義ですけどね」
「それでね、私武器を持ってるの」
「そうですか、俺も持ってますけどね」
「それでね、死んでほしいのよ。暇潰しのために」
「そうですか、嫌ですけどね。そんなんで死ぬのは」
数瞬にらみ合いが続いたあと、反射的に伏せた。体が勝手に動いた、というのは本当にあるらしい。
直後、激しくうるさい何かが体の真上を通過していき、後方にあるビルの一部を轟音と共に吹き飛ばした。

「……………は?」
「次、いっくよ~♪」

その女性を見ると、肩に担いだ長い筒の狙いを伏せたこちらにつけていた。
なりふり構わずにさっき曲がって来た角に飛び込む。
飛び込んだ瞬間、背中を掠めるように飛んでいく何か。
チラリと角から覗くと、砲身がこちらを向いた。

「げぇっ、ロケット砲!?」
「愛用のバズーカよ!」

そう言ってまた一撃。今度は自分が隠れたビルの後ろ向かいのビルに着弾。…まずい、退路の一つを潰された。道が瓦礫で封鎖されてしまった。

「反撃するぞ!正当防衛だからな!」

ビルの陰からG36だけを出して弾をバラまく。
…手応えなし。全弾明後日の方向へ飛んでいったらしい。
だが、今の行動が彼女に火を点けたらしい。

「やっぱそうこなくっちゃ!!どんどん行くよ!」

次々と撃ち込まれる砲弾は盾代わりのビルの角の上の方にすべて着弾し爆発。
限りなく降り注ぐのは瓦礫とガラス片だったってオチか、なんてこった全く!

「死んでも文句言うなよ!?」

いったん瓦礫を避けるためにビル陰の奥に引っ込んでいたが、タイミングを見計らって手榴弾を投擲し、瓦礫を盾代わりにしながらライフルを連射する。
バズーカ砲を撃たれ、避けるように隠れ、装填の隙をついてライフルを撃つ。そんな応酬がいくらか続いた。
―――で、最初の方の場面に戻る、と。

「ほらほらぁ!亀みたいに引っ込んでたら落ちてくる瓦礫とか爆風とかで死んじゃうよ!」
「だぁぁぁっ!!お前もうバズーカ撃つのやめろ!!」
「やーだよっ!唯一の武器なのに」
「お前、バズーカ砲の歴史知ってたら人に向けて撃たねぇわ普通は!」
「知らなくてもトリガーは引けるじゃない」

あまりの正論に反論できなくなってしまった。ぐぬぬ…。

さて。彼女が隠れているビルに大量にロケットを撃ち込み、瓦礫と破片で殺す戦法をとってくれたお陰で、ビルの2階のこちら側の壁が破壊されている。そして瓦礫が階段代わりになっているので、容易に2階に上れるのだ。

「瓦礫が階段になってる今がチャンスか…」

もちろんビルの2階を移動中にロケット弾を撃ち込まれたら、まぁ間違いなく死ぬ。
でも、このまま続けているよりは生存率は上がる…かも。ならば腹をくくってやるしかない。
まずはスモークグレネードで敵の目を塞ぐ。時間差で2個投擲して、効果をより長く継続させる。

「きゃー手榴弾!伏せ―――って煙 ゲホッ 何も見えな ゲホゲホ 」

よし、GO!!
瓦礫を駆け上がり、2階を走り抜ける。
彼女が居る横あたりに来て、一時停止。煙が晴れるのを待つ。

「くっそー騙したな!?喰らえっ!!」

彼女にとっては恐らく俺が居るであろうところへ直接ロケット弾を撃ち込んだ。…こっちに来てなかったら死んでたわ。
作戦続行、スタングレネード投擲!…で、すかさず耳を指でふさいで目をきゅっとつむり、伏せる。自分もダメージを喰らいたくない。

「装填中のところを邪魔して悪いが…」

パン!!と乾いた音がして、スタングレネードが爆ぜた。

「キャアアァァァァ!!!!目がぁぁぁぁ!!」

目と耳が一時的に死んだんだ、パニックにもなろう。
ためらいなく2階から飛び降り、彼女に接近する。飛び降りる音が聴かれないためのスタン。スモークだったら聴かれてしまうからな。
暴れている彼女の背後にこっそり接近し、首に腕を回す。ここまで来たら後は一瞬。

「そぉい!!」
「きゅっぷい」

意識を刈り取って作戦完了。
ぼろっぼろのビルたちの谷間に女性を一人気絶させておくと何をされるか分かったものじゃないので、被害を受けていないビルの中に寝かせておく。もちろんバズーカ砲も忘れない。

「何しに来たんだっけ…」

戦いに来たわけではないのは覚えて…メシだ。メシ集めなきゃ。
様々な過程を省きに省いて結果だけを報告すると、あの後たまたま入ったビルに大量の食料備蓄があり、段ボール6箱分をとりあえずもらって帰った。これで20日は余裕か?

「あのビル、覚えとこ。貴重な食料倉庫だ」

日没も過ぎたし、寝る準備するか。
そういえば、こっち来てから生活パターンが平安時代みたいなんだよね。日没と共に就寝し、日の出と共に起床という。

「肩凝り治ったし、戻っても続けよう…」

ではおやすみなさい。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2014年05月25日 21:27