翌日。静まりかえった事務所で、依頼人と依頼人が連れてきた男達は神妙な面持ちで此方を―――というより結の隣で鼻歌を歌いながらルービックキューブで遊んでいる透伊を見つめていた。
「随分と早かったですね。ある程度時間がかかると思っていたのですが」
(それは私も思っていたよ)
結は心の中でそう呟いて自嘲した。話をまともに聞いていないのか、透伊は楽しそうにキューブをカシャカシャと弄る。男は薄い笑みを浮かべて
「まあ良いでしょう。こちらにとっても好都合です。では、報酬を」
そう言って、依頼当時に出したアタッシュケースと同じ物を取り出した。中にはあの頭が痛くなるような大金が詰められているのだろう。最早断ることも億劫になり、大人しく受け取っておくことにした。後で募金して赤い羽根でも貰って来よう。
男は結がケースを受け取ったのを確認して、隣の透伊に視線を移した。透伊の手にあるルービックキューブを見ると、色が揃っているのではなく、サイコロの目の様になっていた。中々器用だ。
「それでは井ノ本透伊さん。我々と共に来ていただきましょう」
男は相変わらず薄い笑みのままだ。透伊はしばらく黙っていたが、ふ、と笑って
「やーなこった」
そう言って舌を出した。