茜 飛ばされる前

物心ついた頃には離婚で父親はいない。
二人で暮らした母親は酒に溺れ、暴力が絶えなかった。
隠しながらやっていたバイトのお金でやっとの生活。

ある日、母親の再婚で新しい父親がやってくる。
その男が連れた、前の妻との子供が大塚千尋。
千尋が年の離れた義理の兄になる。
そのことに関しては何も感じなかった。
戸籍は家族とは言え、家族でいる気は全くなかった。

母親からの暴力が悪化した。
千尋との露骨な差別。茜への嫌がらせ。
「あいつとの子なんて」
そんな言葉が何度も聞こえた。

父親は見て見ぬふり。
それに対して暴力から庇ってくれた千尋が逆に恨めしかった。

「お前のせいで私はこんな目にあっているんだ。」

そして私は道を外した。

ほとんど家には帰らず、仲間と過ごした。
それでも他人はなかなか信用できなかった。
煙草が唯一の癒し。全てを忘れさせてくれる一瞬の安息。

ある日。
千尋が行方不明になった。

その数週間後、一人暮らしを始めていた私の部屋に母親が押し掛ける。
「千尋を殺したのはお前だろ」
そう叫ぶ母親との殴り合い。
喧嘩が大分うまくなった高校生に敵うわけもない。
憎き母親を気絶させて部屋を飛び出した。

気付けばどこかのビルの屋上に足を運んでいた。

終わらせてしまえば、楽になるだろうな。

ぼんやり綺麗な夜景を眺めながら思い、ビルのから体を投げ出す。

その体が地面につくことはなかった。

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最終更新:2014年05月27日 22:09