作者:R
あれ?ここどこだろう
真っ暗だ
えーと…私、何してたっけ?
ああ、そうだ
あの時たしか爆発に巻き込まれて…
『紅、しっかり』
懐かしい仲間の声だ
でも、あれ?
私の仲間はずっと前に死んじゃったんだよ?
私も死んじゃったのかな?
『紅、起きなよ』
『大丈夫、紅はまだ生きてるよ』
生きてる?本当?
あんな爆発に巻き込まれたのに?
『ほら、早く起きなって』
もうちょっとこうしてたい
『そんなところで?』
そんなところって、どこ?
『見てみなよ、目を開けて』
瞼重いな、まだ寝てたい
なんか肌が熱い、なんだろ?
爆発で火傷でもしたかな、ひりひりする
でもだるいし、動くのやだなぁ…
『ほら、さっさと起きる!』
うーん、もうちょっと
『EMERGENCY!EMERGENCY!緊急出動要請!』
ああもう!二人ともうるさいな!
分かった!今起きるってば!
紅「起きれば良いんでしょ!」ガバッ
紅「あ……れ?」
二人がいない、さっきまで目の前にいたのに。でも目閉じてたら見えないか普通…って、ことは
紅「夢、か」
そりゃそうか、だって二人とも
もう死んじゃってるんだから。
ところで、ここはどこ?
高く上がった太陽に熱されたアスファルト、その上に横たわっていた私、獣化が解けた生身の自分の肌。
どうりで熱かったわけだ。
てか、本当にどこですか?
紅「指揮官さーん…」
小さく呼んでみるが、返事はない。というより、人の気配もしない。崩れたビルの隙間を、埃っぽい風が通り抜けていくだけ。
紅「…」
なんだか、一気に心細くなってきた。敵襲に備えて獣化した方が良いかな?
でも、許可なく獣化すると指揮官さんに凄く怒られちゃうんだよなぁ…
紅「どうしようかなぁ…」
だけど完全生身の今、攻撃されたら対処出来ないし、指揮官さんは連絡取れないし…。
紅「…バレなきゃ良いかな」
一応周りを警戒して、獣化する。
獣化は簡単、ただ目を閉じて、
『今から戦う』、そう考える。
するとイレズミのようなものが肌に浮かび上がり、一瞬光を発して全身を覆う、それだけ。
次に目を開ける時は、世界の感じ方も、自分の体も、全く変わっているのだ。
紅「どうしてこんなとこ来ちゃったんだろ、爆風で飛ばされたのかな?」
私はとりあえず、この町を散策してみることにする。
それにしてもこの廃墟のような町は、ついさっきの爆発で起こったような崩れ具合じゃない。新しそうに見える建物もあるけれど、人影はない。
爆発の現場にしては怪我人の一人も転がってないなんて、やっぱりおかしい。そもそも私も、大きな怪我なんて一つもしていないじゃないか。
私はあの時、確かに爆発に巻き込まれたのだ。敵の仕掛けた罠にはまって。
それなのに、次に目を覚ました場所が血生臭い戦場でもなく、アルコール臭い病室でもなく、敵も仲間も誰も居ない廃墟のような町だとは。
紅「やっぱりおかしい!」
まさか夢?それにしては余りにもリアルで、まるで自分だけ別世界に飛ばされてしまったような…
紅「なんか…マンガ的な展開!?」
ちょっとワクワクしてきた、でもそれが、本当に起こっていることだったら?
仲間もいない、帰る場所もない。
一人ぼっち?
紅「…誰かーっ!誰かいませんかーっ!」
知らない町で大声出して、危険とは思うけど、この際もう敵でもなんでも良いから出て来て!
ぼっちよりは全然マシだ!
私は息を止めて耳を澄ます。僅かな音も聞き逃さないように。
すると近くで、「スゥッ」と息を吸う音が聞こえた。小さな音だか、今の私が聞き逃すことはない。
生き物の気配だ、誰かいる!
私は音を頼りに地を蹴り走る。多分2ブロックか3ブロック先に、誰かないし何かはいるはずだ。
獣化で得られる強靭な脚力を使って、全力で走る。目標地点まであと少し!
目の前の道に積み重なる残骸。割と高いが今の私には問題ない高さだ。
地を蹴り、飛び越えた先
そこには人影があった
その人影の正体は……
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ここから作者:邪魔イカ
キィン!
「ひゃっ!?」
紅の頬を何かが掠める。微かに硝煙の匂いがしたので、恐らく銃弾だ。
「む、外したか」
声のした先を見れば、予想通り拳銃をこちらに向けた男が立っていた。背はあまり高くなく細身だが、明るい金髪に丸眼鏡越しの赤い瞳が、何とも言えない―――あえて言葉にするならば、狂気の様な雰囲気を漂わせている。
この男は敵なのか。そう思い紅は警戒の体制を取ろうとした。その時、
「親方!空から女の子が!!」
「誰が親方だ」
男の後方から声がして、二人の人間が姿を現した。一人は長い黒髪を結わえたスーツの女性だ。左目には眼帯をしている。もう一人は白衣の―――少年か?顔立ちや外見は幼く、ぶかぶかの白衣が更にそれを助長させる。
紅は姿勢を低くして、三人の様子を伺った。するとスーツの女性がそれに気付いたのか、こちらを一瞥した後口を開いた。
「ヌシ、考え無しに銃を撃つなと、何度言えば分かる」
女性はヌシと呼んだ男に向かって、叱る様な口調でそう言った。ヌシはむう、と口を尖らせる。
「このような世界では、誰が敵かなど分からないだろう。疑わしきは撃て!だ」
ヌシは妙案だろう、と言いたげに胸を張って言う。それを聞いた白衣の少年はケラケラと笑って
「あっはは、ヌシ殿らしいじゃないですか!短絡的でアホらしい!」
とからかった。ヌシの耳がピクリと動く。怒ったのだろうか。
「なんだ、透伊。死にたいならそう言えば良かっただろう」
ヌシが拳銃を透伊というらしい少年に押し当てる。しかし透伊は表情を動かさない。
「はっはっは、ご冗談を」
口元も声もちゃんと笑っているのに、目が笑っていない。正直に言うと、
(こ、怖い………どうしよう)
紅は警戒するのも忘れて、呆然と険悪なムードの二人を眺めるしかなかった。
そしてその空気を打ち破ったのは
「やめんか、馬鹿者ども!!」
――スーツの女性の鉄拳だった。
スーツの女性の鉄拳をもろに食らった二人は、仲良く女性の足下に蹲った。女性はそれを見下ろしながら、パンパンと手を払う。
「まったくお前らは……今はそんな事をしている場合か?」
「あうあう……」
「結………キツすぎだぞ……」
そう呻く二人に、結と呼ばれた女性は
「当たり前だ、馬鹿者!」
と、また叱りつけた。
「このような世界だ。むやみやたらと攻撃を仕掛けて、孤立無援の状態になってしまっては元も子も無いだろう」
そう言いながら、結はこちらに向かって来る。紅はハッと我に帰り、また姿勢を低くして警戒の体勢に入る。
「待て。私たちは戦う気は無い」
結はまだ近づいて来る。紅も警戒を緩めはしない。その様子を見てか、結はふう、と溜め息を吐いた。
「……先はあの馬鹿が悪い事をした。すまない」
結が紅と目線を合わせるようにしゃがみこむ。そして、おもむろに右手を差し出した。
「私は神原結だ」
「俺は井ノ本透伊だよ!」
もう復活したのか、結の後ろからひょこ、と透伊が顔を出す。先程とは違い、ちゃんとした笑顔だ。ヌシは動かずそれを見ていたが、紅が攻撃しないのを見て敵意が無いと確信したのだろう。こちらに向かってきた。
「むう、攻撃する気が無いのは確かの様だな」
ヌシはしばらく紅をまじまじと見ていたが、
「私は天津中主だ!ヌシと読んでくれ!」
ニカッ、と笑う。そこに先程感じた狂気の片鱗は無い。
紅は緊張の糸が切れて、その場にへたり込んだ。そういえば、まだ名前を言っていない。
「き、霧崎紅です」
笑えているだろうか。
「紅か。早速で悪いが、何故この世界に来たか分かるか?」
「この世界?ここってイージスの近くじゃないんですか?」
「いーじす?聞いたことの無い名前だぞ」
耳を疑った。結も『この世界』と言っていたし、まさか本当に―――
「違う世界に飛ばされたとか…?」
「そうだろうな。かくいう私たちも少し前にこの世界に飛ばされて来た」
結の言葉も後半はほとんど聞こえなかった。知らない世界で、知ってる人がいない。
やはり、一人ぼっち。
言い表せない程の不安が、紅を襲う。それに気が付いたのか結はぎょっとして、透伊はクスクスと笑った。
「不安にさせちゃったみたいですね」
透伊の言葉に、結は気まずそうな表情で頭を押さえた。代わりに透伊が口を開いた。
「心配しなくても大丈夫だよ。君や俺達以外にもこの世界に飛ばされた人が、結構いっぱいいるんだ」
透伊の言葉に紅は顔を上げる。透伊はニッと笑って続けた。
「そういう人達が集まって、協力して戻る方法を探してる所があるんだ。良かったらそこへ案内しよう」
紅の頭に、ポン、と何かが置かれる。透伊の手だ。その手は紅の頭を優しく撫でた。
「大丈夫。君は一人ぼっちなんかじゃないさ」
俺達だっているじゃないか、と透伊が笑って言う。透伊の言葉と手は暖かくて、心地良かった。
一人じゃない。
それだけの事実がただ嬉しくて、頬を一筋の滴が伝う。
今度はそれを見た透伊がぎょっとした。
「えっ!?泣き、えっ……俺泣かっ」
「泣かした~。透伊泣かしたんだぞ~」
「透伊お前………」
「わああ言うなであります!!ごめんね!!大丈夫かい!?」
慌てる透伊をヌシと結が茶化す。そんな三人の様子を見て可笑しくなり、ふ、と笑みが零れた。
大丈夫。この世界でも、きっと生きていける。
(一人じゃ、ないもんね!)