作者:邪魔イカ
紅は三人に、この世界に飛ばされた者達が幾らか集まっているという場所に案内して貰った。何とか形を保っているビルを中心に、所々に人の生活している跡が見受けられた。
「おっ、おぉーいジョー!」
ヌシが遠くの人影に向かって大きく手を振る。人影もそれに気が付いたのか、こちらに歩いてきた。都市迷彩の戦闘服の様な服を着て、手にはアサルトライフルを持っている。
「ヌシさん、『ジョー』じゃなくて『ゆずる』なんだけど」
ゆずる、というらしい青年は深い溜め息を吐いて言った。が、ヌシは全く意に返さずハハハと笑う。そのすぐ後ろで結が呆れたようにしていた。
「見回りの途中悪いな、三方原」
「それは別に構わないけど…アイツに見つかりさえしなけりゃ」
「聞こえておるぞ、ミカタハラ」
「げっ……!!」
背後から声が聞こえた途端に顔を歪めるゆずる。彼の背後には、背の高い男性が煙草をふかしながら立っていた。
「あ、ロイドさんだ!」
透伊が男性に向けて声をかける。ロイドと呼ばれた男性は透伊を一瞥した後、こちらに視線を向けた。
「この少女は何だ」
「新しくこの世界に飛ばされたみたいですよー」
ロイドは「ほう…」と一言だけ発し、再び煙草を口にくわえた。
「まだこの世界のこともよく分かっていない。ここに居させてやれないか?」
結がそう言うと、ロイドは紅をじぃっと見つめた。どことなく品定めをするような目だ。直後、ロイドがふっと鼻で笑う。
「断る理由は無いであるな。如何せん人手が足りん」
そう言うとロイドは、スッと右手を差し出した。
「吾輩はロイド・カワード。一応エクソシストをしている」
「インチキだけどな」
「何か言ったか、ミカタハラ」
ゆずるが呟いた一言に耳ざとく反応するロイド。この二人はあまり仲が良くないのだろうか。
紅は恐る恐るロイドの右手を握る。
「霧崎紅です」
「オレは三方原譲。よろしく」
「よろしくお願いします」
今度はゆずる、もとい譲が言うので、紅はぺこりと頭を下げた。
「お前にどれ程利用する価値があるか、見極めさせて貰うとしよう」
煙草の煙の中で、ロイドの唇が薄く弧を描いた。
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とにかく此処で世話になることが決まった。ロイドと譲に一通り周辺を案内して貰った後、あちこちをぶらぶらと廻っていると――
「ねぇ!あなたが新しく来た人?」
――声をかけられた。振り向くと、そこには一人の少女。紫色のジャケットに鍔の広い帽子を身に付けており、絵本に出てくる魔法使いの様な出で立ちだ。
「そ、そうです」
紅が小さく頷くと、少女はパアッと表情を明るくする。そして、紅の手をしっかり掴んでブンブンと振った。
「本当!?ここ女の子少ないから、凄く嬉しい!あ、私アリス=セレーネ!」
アリスは尚も手を握って、嬉しそうにニッコリと笑った。
「う、うん。よろしくね。えっと…アリスさん?」
「『さん』なんて要らないよ。アリスでいいよアリスで!」
「うん。よろしくね、アリスちゃん。私は霧崎紅」
「紅ちゃんね。よろしく!」
アリスがまた嬉しそうに笑うので、紅もつられて微笑んだ。
「じゃあ紅ちゃんも気付いたらこの世界にいたんだ」
「うん。アリスちゃんも?」
紅はアリスと共に、ゆっくりとビルの周辺を歩いていた。そしてふと、この世界に来た時の事についての話になった。アリスも紅と同じく、この世界に飛ばされた原因は分からないらしい。
「うん。ていうか、この世界に飛ばされた人の殆どがそうみたいだよ」
やはり、紅やアリス、此処にいる者の他にも飛ばされた者がいるらしい。此処にいる者達は集まって協力し、元の世界に帰る方法を探しているそうだ。
(帰る方法、分かってないんだ…)
ちり、と一瞬だけ不安がよぎる。
「私、此処に来られて良かった。一人だったら、きっと不安で仕方なかったと思う」
紅は消え入りそうな声で呟いた。それに気が付いたのか、アリスが紅の顔を覗き込む。
「紅ちゃん!」
アリスがガシッ、と紅の両肩を掴んだ。いきなりの事で少し吃驚する。
「大丈夫だよ紅ちゃん!ここの人達はクセもアクも強いけど、みんないい人だよ!」
「あ、アリスちゃん?」
何気に失礼な事を言っていないか。
「それに、何かあったら私もついてるもん!」
ニッと笑うアリス。その笑顔に、感じていた不安が消されていく。
「うん。ありがとう、アリスちゃん!」
紅も笑う。
この世界に来てちゃんと笑ったのは、初めてかもしれない。
ちょっとしたオマケ。
見守る大人達
ロイド「吾輩らが気を揉んでやる必要は無かったであるな」
譲「揉んでやる気も無かっただろ」
ロイド「バレたか」
透伊「可愛い女の子同士が仲良いのって、いいですよね~」
ヌシ「仲良きことは美しき、だな!」
透伊「ですね~」
結「…本当にそれだけか?透伊」
透伊「……さて、一段落ついたことですし、俺たちはまた探索に行きますか」
結「おい」
譲「つーかまだ行くのかよ…」