作者:邪魔イカ
「………何故、ですか……」
透伊は呟く。その声はとても弱々しく、よく耳をすまさなければ聞こえない程だった。
俯く透伊は普段は見せないような、苦悶の表情をしていた。透伊の目の前にいる人物は何も言わず、それを見つめている。
「何故なんですか…………」
先程より少し強い声音で、透伊はもう一度呟いた。そしてギリ、と歯の噛み締める。
「何で、こんな事しなきゃいけないんですか…………」
また少し強くなった声音で、透伊は言った。言う、というより、訴えるという表現が正しいだろうか。透伊は目の前の人物に何かを訴えていた。
「答えて下さい…………!」
目の前の人物を睨みつける。
「ミスタードロ太…………!!」
仮面の下にある筈の表情が、透伊には分からなかった。
結「……………………何だこれ」
久信「ヒッサノブ」
「透伊、そこを退きなさい」
「っ!!嫌だ!」
ドロ太は子供を諭す様な口調で言ったが、透伊はそこから頑として動かない。
「ミスター、こんなの間違ってる!何でこんな事………」
透伊は苦悶に顔を歪め、更に続けた。
「あんなに語り合ったじゃないですか!女性の素晴らしさについて!」
―――何を語り合っているんだ、というツッコミはこの際無しにしよう。
「俺達は女性の素晴らしさに気付くことができた!なら俺達が、女性を守っていかなきゃいけないんじゃ」
「透伊」
それまで黙っていたドロ太が、透伊の言葉を遮る。透伊はぐっ、と押し黙った。
「私は自分の欲に忠実に生きる方法を知ってしまった……もう戻ることはできない」
ドロ太の瞳が、一瞬だけ揺らいだ気がした。
結「………………これはいつまで続くんだ?」
久信「ヒッサノブ」
「話は終わりですか?」
「……………っ」
「ならば……………」
ドロ太が透伊の横を通りすぎる。
「神原女史!貴女の下着を戴きます!!」
「って何で私なんだ!!」
ドロ太は物凄いスピードで結へ向かっていく。そしてドロ太の手が、結に届くかというその瞬間。
ヒュッ ガッ
「!!」
ドロ太の手を、何かが掠めた。その何かが通った方向を見ると、コンクリートの破片に小さなナイフが刺さっていた。紛れもなく、透伊が投げたものだ。
「ミスター………俺はあんたとは戦いたくはない………」
俯いたまま透伊は言う。そして顔を上げて
「だが………結さんに手ェ出そうってンなら、話は別だ!!!!」
その透伊の表情は、般若も阿修羅も我先にと逃げ出すような、それほどの凄みと怒気を孕んだものだった。
ドロ太は少したじろぎ、しかしすぐに平静を取り戻す。
「ふ………良いでしょう。相手になりm」
「うおぉおおおおぉおおお」
「あっ、ちょ、まっt」
「だりゃあああぁあぁあ!!!!」
透伊の脚はドロ太の腹部を捉え、そのまま上に蹴り上げた。
「アッーーーーーーーー!!」
ドロ太は天高く舞い上がり―――というか吹っ飛び、暫くしてベシャッと音を立てて墜落した。
「うっ……す、透伊………強く、なり、ま………ぐふっ」
ドロ太の身体はついに力を無くし、その場に倒れた。透伊はそれを見下ろす。
「ミスタードロ太………惜しい男を亡くしたぜ…………」
そして透伊は、振り向くことなく歩きだした。
結「だから何なんだこれは!!」
久信「ヒッサノブゥウ」