ヌシが敗北宣言を受けている頃――。
警察チームのビルから北に数百メートル離れた大きな倉庫の中で、数人の人影が輪を作っていた。
更紗 「なんとかここまで逃げれましたね。皆さん、怪我はないですか?」
大きな薙刀を小脇に抱えた少女が皆に声をかける。居合わせているのは、フェンリル、日和、茜、セクシーおじさんの五名だった。
日和 「わ、私は、大丈夫……です。はい……」
更紗 「そちらの方は?」
セクシー 「私も大丈夫ですよ」
更紗 「そうですか、良かった。茜さん、でしたよね? 怪我はないですか?」
茜 「一々確認しなくても見りゃ分かんだろ」
更紗 「え、あ、すみません」
フェンリル 「茜……そういう口のきき方はよせ。更紗はお前のことを気遣って言ってるんだ」
フェンリルにたしなめられ、面白くなさそうな顔をする茜。
茜 「チッ」
そのままそっぽを向いてしまった。
更紗 「えっと……」
フェンリル 「ほっとけ。優しくされた時の返し方を知らないだけだ」
茜 「誰がボキャ貧だコラ!」
日和 「お、おちついて……みなさん……こ、こういう時は……みんなで、協力を」
茜 「あぁ? もっと聞こえるようにチャキチャキ物を言えよ!!」
日和 「ひっ……! す、すみません! ごめんなさい!」
フェンリル 「おい、茜!」
セクシー (濡れおかき食べたい)
早くもチームワークに亀裂が入っていた。
○ ○ ○
その一方。
警察チームのビルを挟んで、更紗たちの真反対側の廃墟の中では。
レイチェル「でぇぇ!! 死ねェェ!!」
道端に転がるガレキや道路標識を手に、叫び声を上げながら暴れるレイチェルがいた。
その矛先が向けられているのは、同じ参加者であり、仲間であるはずの七瀬だった。
七瀬 「おっとォ! 危ない危ない」
風を切って飛んでくる塊を間一髪で避ける七瀬。
当たれば肉など容易くぶちまけることのできる質量を持ったレンガのブロックが頬をかすっても、その表情から微笑は絶えない。
レイチェル「チッ。ちょこまかとよく動くわね……!」
流石に狂気の投擲では傷を付けられないと悟ったのか、攻撃の手を止め、舌打ちをするレイチェル。
十メートルほどの距離を残して対峙する。
七瀬 「あれ、もう終わり? まぁ僕は君と戦う理由がないから別にどっちでもいいけどさー」
するどい歯を剥き威嚇するレイチェルとは対照的に、七瀬はあっけらかんとした様子だ。
レイチェル「どっちでも? どういうことよ」
七瀬 「いやー、今ここで君をボコボコにしても、このゲームが終わってからボコボコにしてもいいかなって」
レイチェル「はぁ? 本気で言ってるの? ふん、へそで茶が沸かせるわね」
七瀬 「いや割と余裕だと思うよ? 君ならまぁ……もって十分かな?」
レイチェル「やってみなさいよ、このクソガキがッ!」
七瀬 「君の方が見た目も子供っぽいけど、ねッ――!!」
お互い腰を落とし、今にもぶつからんとしていたその時。
譲 「うわーッ!! そこ! どいてくれーッ!!」
轟音と共に空から男が降ってきた。
○ ○ ○
そしてそのまた別の場所、西に向かって鬱蒼と広がる森の中で。
ドロ太「ささ、頑張って勝ちますぞー!」
アリス (よりによってこいつと同じ方に逃げちゃった――!)
ドロ太「うん? どうしました、アリス殿? 先程から元気がない様子」
アリス 「な、なんでもない……よ」
ドロ太「そうですか。では行きましょう……フッヘヘ」
アリス (今の笑い何――ッ!?)
恐らく相性最悪の二人が歩みを共にしていた。
多分続く。