東雲麻琴の災難

作者:ハートフル

 

「神隠し」。
その言葉を聞いて、あなたは何を連想するだろうか。
妖怪、化け狐、UFO、密室、etc、etc…
または「非科学的だ」と一蹴してしまう人もいるだろう。東雲麻琴も、そういう人間の部類に属していた。
―――実際に、彼女が神隠しに遭うまでは。

「……どこだろうここ」

麻琴は困惑していた。
たった今まで家族と夕食をつついていた筈の自分が、急に無人の街に飛ばされたのだ。幾らマイペースの麻琴と言えど、そうなるのは無理もない。
自分は夢を見ているのか?そうも思った。
しかし、ある記憶がそれを瞬時に掻き消す。
最近、世界中の科学者達の頭痛の種となっている「神隠し」のニュース。
もしかして――もしかして。
自分も同じ目に遭ったのではないか―――?

 

麻琴は現実をよく見る人間だ。
相手の言動に注目し、すぐさま嘘を見破り、今何をすべきか見極められる人間だ。
だから、この状況が嘘では無いと考えられるとなると、否が応でも不安を覚える。
しかし麻琴はすぐに平静を取り戻した。
マイペースな人間とは、自己をしっかり保てる人間とも言い換えられる。
何時までも迷っていたって仕方がない。先ずはここがどこなのか、そしてどうやって元いた場所に戻るか。
今考えるべき一番大切なことは、それだ。

「そうですね…考えましょう。そして行動しないと。『稼ぐに追いつく貧乏なし』とは、お婆ちゃんからの受け売りですから」
ことわざの意味を若干間違えてはいるが、とにかく麻琴はいつもの自分として行動を開始出来た。

「といっても何からしましょう…とりあえずここがどんな所なのか確認し――」

そう考えを練っていた矢先、

目の前の地面が、爆発した。

 

あわてて身を伏せる。砂塵が舞い、堪らず咳き込んだ。

「何ですか今のは…っ!?」

本日、神隠し、爆発と来て、3度目の衝撃が麻琴を襲った。
かろうじて目が開けられる様になってから顔を上げると、そこには、

「カロロロ………ルルル………」

金属光沢を放つ鋼鉄の爪を鳴らし。
優に3メートルは有ろうかと思われる躯を揺らし。
赤く輝く大きな二つの目で。

一頭の魔獣が、此方をじっと見つめて立っていた。

 

どれほど逃げただろうか。

「はぁっ…はぁっ……!!」

身体は思うように動かせず、骨は軋みを上げている。既に体力は限界を迎えていた。
ずしん、ずしん、と、後ろから地鳴りが聞こえてくる。

「まずい、っ、すぐっ、そこまで…!」

そこまで口にしたところで、麻琴は何かに躓いた。
「――――!!!」

そのまま前のめりに倒れ込む。直ぐに立ち上がろうとするが、その瞬間脚に激痛が走った。

「もう限界、って事ですか…くそっ…」

振り返ると、咆哮を上げる魔獣が数メートル先にまで近づいていた。
やがて魔獣は手を高く掲げ、

「ギャォォォォオァァアアアアアァァアアァ!!!!!」

鋭利な鉄の爪を麻琴に振り下ろした。

「あーあ…こりゃもう駄目かも知れないですね…」

避けようにも、体はもう動かない。

(ちょっとあっけなさすぎますよ…まぁでも命ってそんな物なのかもしれないですけど)

少し考えた所で、爪が目の前に迫る。
生まれ変わるなら南国の魚がいいな、などと思いながら、最期の時を待った。
しかし―――起こったのは、誰もが想像し得ない事象。

爪は――弾かれた。
 

 

それと同時に、麻琴の中に「膨大な情報」と溢れんばかりの「パワー」が流れ込む。

「…これは…」


―――――――――
――――――
―――

爪が弾かれた事へのショックから我に返った魔獣が気づいた時には、麻琴は目の前から消えていた。
慌てて後ろを向く。右、左と目を走らせたが、麻琴はどこにもいない。
攻撃が反射された。獲物が忽然と消えた。
かつて体験したことのない事態に、魔獣は焦燥を覚える。それに追い討ちをかけたのは、
上からの、声。

「私をお探しですか?」

「ッ!?」

まさかと思い上を見上げる。そこにいたのは、空中に立つ麻琴だった。
 

「この状況もよく分からない。私がこんな事を出来るようになった理由も分からない。でも、とにかく私は今力を得ていることは分かる。あなたを倒さなければ私が死ぬことも分かる。ならば私は生きることを選択します。私が得たこの能力で…」

麻琴の手の平で、黒い電子が輪を作っていく。
明らかに異質な光景。魔獣がいよいよ焦り、もう一度爪で切り裂こうとしたが既に遅く。

「私は、あなたを、ぶちのめす」

黒い電子の輪が魔獣の爪に飛んでいき、絡みつく。
瞬間、強力な磁石となった爪は惑星の磁力と引き合い、魔獣ごと地面に叩き伏せられた。

「ゴァァアァァァアアァァア!!!」

引き剥がそうとしても、強大な磁力に捕らわれ動かすことすらままならない。もがき、叫ぶ魔獣を麻琴は真っ向から見据えた。

「私が操る『黒い電子』、かなり便利な能力を持っているみたいなんです。自分を磁石にして星の磁力に反発して浮遊したり、鉄なら反射したり今みたいに地面に叩き伏せることだって出来ちゃいます。そして…」

麻琴の頭上に、トラック、看板、トタン、非常階段、鍋など、一定範囲内の鉄で出来た物が大量に引き寄せられてくる。

「こうやって鉄を集めて、一方に射出することも可能です。え?何で知ってるかって?うるさいなぁご都合主義なんですよそこら辺はこまけぇこたぁいいんですよ…とにかく!山椒は小粒でもぴりりと辛い…と言うのはお婆ちゃんからの受け売りです――ちょっと痛い目見て貰いますよ」

それらが一斉に魔獣の方を向き、

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァアーッ!!!!!」

麻琴のかけ声と共に猛スピードで魔獣を叩き、爪を残して魔獣を彼方へ吹き飛ばした。

「いきなり変な所に飛ばされて、化物が襲ってきたと思ったら超能力を手に入れて。今日は本当に…」

能力を解除し、磁力を失った鉄が落下しがしゃがしゃと音を立てる。その喧騒の中で、

「やれやれ、って感じです」

そう小さく呟いた。

―魔獣・鉄の雨を喰らい再起不能―
To Be Continued…
 

 

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最終更新:2014年05月29日 23:26