作者:ゴミカスハートフル
麻琴は自分が吹き飛ばした魔獣が飛んでいった方向を眺めていた。
空だけは元の世界と依然変わりなく、心地よい晴れを映し出す。
「さて、と。これからどうしますかねー」
麻琴は先程の戦闘を思い出す。
鋼鉄の爪を持った魔獣。土壇場で発現したスタンd…超能力。『もしかしてオラオラですかーッ!?』『YES YES YES OH MY GOT!』
「いやねーよ。何ですか今の」
再び何事もなかったかのように考察に戻る。
麻琴は先の戦闘で勝利した。しかしそれは「敵と相性が良かったこと」に助けられた結果だった。
実際魔獣の爪が鉄でなかったら、麻琴はそれを反射する事もできずに爪の餌食となっていただろう。
もしこの先、「非常に相性の悪い敵」と出会ったりしたら、最悪命を落とす可能性は十分にある。
それに、未知であるこの訳の分からない世界で、女が一人で過ごすのはやはり不安の伴うものだ。
それをカバーする、日常で、戦闘で、共に信頼しあい助け合う存在―――
「決めた。相棒を探しましょう。スカウトしちゃいますスカウト」
「目標」を決め、麻琴は立ち上がった。
魔獣を吹き飛ばす時に使った鉄製品の山から鉄球をひとつ取り、とりあえず道なりに歩き出す。
考えてみれば、「神隠し」のニュースは自分が飛ばされる前から多くあった。と言うことはもしかしたら、自分より前にこの世界に飛ばされた「古参」が居るかもしれない。
もしそういう人にあった場合の言葉遣いを色々考えながらてくてく歩いていると、
「あっ。居た」
ちょうど反対側から、セーラー服姿のトンファーを持った少女が歩いてきた。
「おーーい、すみませーーーん」
手を大きく振り、相手が此方に気付き顔を向けてきたとき、はたと気付く。
(…?何か…妙ですよ)
見れば顔は青ざめ、目は焦点が定まっていない。
足取りはふらふらと危なっかしく、時折風もないのに前髪がなびく。
「あ…あのー?大丈夫ですかー?ノックしてもしもぉーし?」
溜まらず麻琴が心配して声をかけ終わるか終わらないかのタイミング。
突如、少女は地を蹴った。猛スピードでそのまま麻琴に肉薄する。
「な…っ!?」
そして前蹴りが繰り出される。そのカノン砲の如き爪先が突き刺さるコンマ数秒前。
麻琴は違和感の原因を「突き止めた」。
「見て理解した」。少女の額に蠢く「異形」を麻琴は見たのだ。
麻琴はそれと似たものを知っている。
とある奇妙な漫画の吸血鬼が、部下に忠誠を誓わせる際にその部下の「脳」に額から埋め込む自身の細胞。
額から根を伸ばし脳に絡みつき、神経を乗っ取り寄生先をコントロールする「ソレ」と、少女の額の上で躍動する物は、酷く、似ていた。
(…『肉の芽』……!)
※肉の芽とは、『ジョジョの奇妙な冒険』第三部のラスボス「DIO」が、上記の通り部下に忠誠を誓わせる為に脳に埋め込む自身の細胞を指します。
これを埋め込まれた人間はDIOにカリスマ性を強く感じ、意のままに操られてしまい最終的には肉の芽が脳を侵食して、その人間は死を迎えます。
ここではそれと似た性質を持つ、『対象を乗っ取り最終的に殺してしまう魔物』の事を、麻琴がそう呼んだという認識をお持ち下さい。
蹴りがめり込む直前、麻琴は後ろの広い範囲に強い電磁波を放射し、同時に自身に磁力を与えた。
爪先が鳩尾に突き刺さる。
それとほぼ同じタイミングで、運良く後ろに有った「磁石化」した車に体が引き寄せられる。
結果、「打撃が加えられた方向に動き」、ダメージを半減する事に成功した。
すぐさま車と自分の磁力を解除する。そして咳込みながら、鉄球を取り出して呟く。
「もしあれがあの肉の芽なら、早いところ摘出しないとどんどん脳を『喰っていく』…
やれやれです。『相棒を探す』って定時帰宅のスケジュールに、『この娘を救う』って臨時業務が割り込んで来ちゃったみたいですね」
取り出した鉄球に黒き電子を纏わせ、構える。
此方の闘気に反応したのか少女がゆっくりと顔を向け、寄生した生物の声で、
「キシャアアアァアアアアァァアアアアァッ!!」
甲高く鳴き叫んだ。
――――開戦。
走り出してきた少女の足に砂鉄の輪を引っ掛けて躓かせた隙に、鉄球を射出する。
普通の人間ならば傾く体を停めるべく直ぐに手なり足なりを前に出して、その地点に止まるだろう。
しかし少女が元からそれを可能にする肉体だったのか、はたまた魔物に乗っ取られた体にセーブが効いていないからなのか、少女は直ぐにはとどまろうとしなかった。そして顔が地面とぶつかるかぶつからないかの「際」で、大きく足を踏み出し、そのままの角度で走り出した。上を鉄球が通過する。
少女は接近し、下からトンファーのアッパーカットを放つ。
慌てて鉄球を手元に引き寄せガードし、一旦後ろへ飛び退いてから建造物の構築に使われているナットなど小さな金属部品を引っ張って集め、大量に打ち出した。だが全て、トンファーで払い落とされる。
磁力と旋棍術の、激しい攻防が続いた。
――やがて20分後。
どちらも対峙している状況は、最初と変わりはない。
しかし、少女が戦闘開始から全く同じ状態で消耗が殆ど見えないのに対し、麻琴の呼吸は荒く、消耗が目に見えていた。
(…どうしましょう…まず打ち出した車を蹴り飛ばすなんてこの人どういうことなんですか)
暫しの膠着状態が続く。
麻琴は思考を重ねる。
(何か策を練らなければ…!
あのガードをぶち破り、一緒に魔物も引き抜く…
何か…)
とりあえず必死に磁力に関する記憶を思い出していく中で、幼き頃の記憶が引っ掛かった。
磁石を同じ極同士でむりやり近付けてから放すと、一方が回転してくっついた体験。
(回転…?…もしかしたら…)
右手と鉄球に、それぞれ反発する向きに揃えた磁力を与え、手を少し撫でるようにずらすと、引き合う極が手の方を向くように鉄球が回転した。
(……!)
すぐさま手の極を切り替えずらす。するとまた回転する。切り替える。回転する。
これを繰り返した事により、見事鉄球は回転を得た。時間に比例し回転はどんどん強く、速くなっていく。
「実際これで成功するかも分からない…だがッ!万策尽きた今!全てこれに賭ける覚悟を決めた!」
異変を感じとったのか、少女が跳躍し、此方へ突っ込んでくる。
対する麻琴は、自身の磁力と惑星の磁力の反発を使い真っ向から突進し、
「これで終わらせます!食らってくたばれ鉄の竜巻!
ど ら ら ら ら ら ら ら ら ぁ ー ー ー ッ ! ! !」
凄まじい勢いで回転する鉄球を、手に纏わせたまま渾身の力で叩き込んだ。
少女が慌ててトンファーで防御する。
しかし!
麻琴が形容したように正にその回転は竜巻レベル!その威力少女が直に抵抗するには余りにも大きすぎた!
そして!鉄球を押し込むと同時に左手で額の魔物を掴んだ!
右手は前に強く、左手は迷い無く後ろへ―――
『必ず助ける』という覚悟が遂にッ!
魔物を抜き取り手に残し、少女を吹き飛ばしノックダウンした!
ひんやりとした感触の魔物を地面に叩きつける。
「さてと」
「ギギッ!?」
ドライアイスも震え上がる程の冷たい目線に、思わず魔物は後退りした。
ちらりと傍らで気絶している少女を見てから、麻琴が続ける。
「こんな組織も法も有るか分からない世界ですけど、でも罪には裁きが必要ですよね」
「アババババババ」
「オバサン『裁きなんていっても、手順はどうするの?』麻琴『その点はご心配無く。判決から刑の執行まで全て私にお任せ下さい!』オバサン『素晴らしいわ!これなら異世界で被害に遭っても安心ね!』」←※麻琴が喋っています
何時の間にか麻琴の頭上に、大小様々な鉄製品が浮遊している。
「えっとー。罪状はか弱い女の子を乗っ取りあんなことやこんなことをした罪で判決は極刑。言っておきますけど上告は受け付けてません。でも勘弁してくださいね?元の世界と違って――」
「愉快なオブジェに生まれ変われますから」
「ヒィィィィィィィィィィ!!!!!」
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァァ!!!!!!」
車が押し潰す。
鉄パイプが殴打する。
ナイフが貫く。
ナットが穿つ。
かけ声と共に、鉄塊のカルテットが魔物を裁いた。
―――――――
―――――
―――
―
その日の夜。
「!」
意識を取り戻した少女が跳ね起きる。その途端、頭の奥がずきりと痛んだ。
傍らに座った麻琴が声を掛ける。
「まだ休んでて下さい、闘った後なんですから、ええと…名前聞いてませんでしたね。
私は東雲麻琴です。あなたは?」
「……サーティー。サーティーと呼んで」
「いえっさー。…それじゃ、無理しない程度にお話しましょう。まず、あなたはいつから…」
(…呼ばないのね…)
二人は色々と話し合った。
それによると、少女―――サーティーは麻琴と同じ日に飛ばされ、同じ様に直ぐ魔物に襲われたが『トンファー』を手にして勝利した。しかし直後隙を突かれ、例の魔物に乗っ取られてしまったという。
また、元の世界ではとある小国で傭兵をやっていたそうだ。
「そりゃあの身体能力にも納得ですねー‥」
「謝っても謝りきれないわ。…私の弱さが、あなたを襲ったんだもの」
「いえ、お気になさらずです。…それよりも…」
麻琴はここにきて、本来の目的を思い出した。
(これぞフラグって奴ですよね…よし!言ってみましょう)
「サーティーさん」
急にずいっと顔を近付けられどぎまぎしてしまい、つい大きな声で返してしまった。
「っはい!ななな何かしら!?」
「私と、コンビを組んでくれませんか?」
「…コンビ?」
鼓動を抑えつつゆっくり起き上がり、暫しの間考える。
(確かに…いつどんな能力を持った敵が襲ってくるか分からないこの世界だと、相当の実力者でも無いと一人で生き抜くのは難しいでしょうね…それに)
サーティーは、魔物に操られていた時僅かに残していた意識の中で見た麻琴の姿を思い浮かべた。
(彼女――麻琴は、掛け値無しで私を助けてくれた。私は、きっと報いなければならない…麻琴のその「心」に)
「了承するわ。これからよろしくね、麻琴」
麻琴の顔がぱっと明るくなった。
お互いの右手を差し出し、それをしっかりと握り合う。
「な…ないすとぅーみーちゅーとぅー、サーティー」
「…無理して英語使わなくていいのよ」
月明かりの下で。
人間、悪魔、吸血鬼、孤狼、魔女、etc.etc.――様々が集うこの異界に、少々凡個性な、しかしその胸に確かな「黄金の精神」を持つ二人による、新たな「コンビ
」が誕生した瞬間だった。
このコンビが、異世界でどんな「潮流」を巻き起こすのか―――
それは管理者も知り得ない、無限のifの中に埋もれているのだろう。
―魔物・『極刑』により再起不能―
To Be Continued…