作者:R
フェン「…キューン」
(これは、どういうことだ?)
俺は一鳴きして、辺りを見回す。
(でかい、周りのなにもかもがでかく見える…なんでだ!?)
普段見下ろして見ているものが、見上げないと見えない。
とりあえず跳ねたり走ったりしてみるが、全然跳べない、全然進まない。そして何故か人の姿になることもできない。
フェン「キャンキャン!キャワン!」
(なんでだー!)
「あ!かわいいー!」
声がして振り返ると、目の前には足があった。そのまま見上げていくとパンツ…じゃなくて、アリスの顔が見える。
(ア、アリス…なのか!?
俺が見上げるほど、アリスってでかかったっけ!?)
驚いて後ずさるが、アリスは構わず俺に手をのばす。
フェン「キャンキャンキャン!」
(わー!やめろー!)
アリス「鳴かない鳴かない、大丈夫!ふかふかで可愛いなぁもう!」
アリスは俺を抱き抱えてほお擦りをしてくる。
(なんでだ、なんで周りのものが巨大化しているんだ!?)
俺はアリスの顔を押し退けようと抵抗するが、アリスはびくともしない。
むしろ嬉しそうにしている、ドMか!
アリス「こんな子犬がこの世界に迷いこんじゃうなんて…うーん
フェンリルに預けた方が良いかな?同じ犬だし、よしフェンリルを探そう!」
「キャンキャン!」
(何言ってんだアリス!俺は犬じゃなくて狼だって…え?
今こいつフェンリルを探すって、俺はここにいるじゃねーか!どういうことだよ!)
フェン「キャンキャンキャワン!キャンキャン!」
アリス「わわっ!どうしたの!?何もしないよ!?暴れたら危な…!」
その時アリスの手から俺の体が離れた。
(やべっ…なんとか着地しないと…)
べちゃっ
あんまり心地の良くない音と共に俺は地面に落下した、背中から。なんて情けない恰好だ、痛みのあまり動けない。
フェン「…グゥ」
アリス「だから危ないって言ったのに…!大丈夫!?」
アリスが優しく抱き抱える、胸が軟らけぇ…じゃなくて、何考えてんだ俺!
一体俺はどうしちまったんだ、こんな高さ屁でもないはずなのに。満足に動くことも出来ないなんて…ちょっとまてよ
さっきアリスは「子犬」って言ったよな、フェンリルは俺なのに気付いてない…?まさか!
フェン「キャンキャン!キャンキャン!」
(アリスちょっと下ろせ!)
アリス「何!?待って、今下ろしてあげるから!」
アリスは俺を地面に下ろす、それと同時に俺は駆け出し、近くに落ちていた割れた鏡に走り寄る。そして恐る恐るその鏡を覗き込むと、その鏡に映った俺の姿はどう見ても凶暴な魔獣「フェンリル」には見えない、コロコロした赤毛の子犬だった。
この俺が…子犬になっちまったっていうのか…!?
俺は自分の姿が信じられず、鏡の前を行ったり来たりを繰り返す。
(この鏡がおかしいのか?)
俺は鏡をつっついたり、臭いを嗅いだり、鏡の前で鳴いたりしてみる。しかし、何も起こらない。ただの鏡だった。
アリス「鏡が珍しいの?鏡で遊ぶなんてやっぱり子犬だね!可愛い!」
フェン「ワキャキャン!」
(ちがーう!珍しくなんかないし遊んでもいないわ馬鹿!)
どうすりゃ良いんだ、誰も俺がフェンリルだと気付いてくれないのか…。
じぃ…
(ん?)
俺は視線を感じて振り返る。アリスの後ろにいる、俺を見つめる誰かの姿を確認するために。
「…」
いた、あいつだ。見馴れたあいつ。こっちをガン見している。
アリス「オパール!こっちおいで!このわんちゃんと仲良くしてあげて!」
オパール「…ニャア」
フェン「キャン!キャンキャンキャワン!」
(オパール!俺だ、フェンリルだ!お前なら臭いで分かるだろう!?)
俺はオパールに必死でアピールする。だがオパールは…
オパール「……フッ…」
(この野郎鼻で笑いやがった…!)
フェン「キャンキャン!」
(お前気付いてるんだろ!なんとかしてくれよ!)
オパール「…」プイッ
フェン「キャン!キャワン!」(この野郎!後で猫鍋にしてやるからな!)
アリス「こらこらケンカしないの!
取りあえず、フェンリルを探しに行こう!行くよオパール」
アリスはオパールにそう声をかけると俺を抱き上げて歩き出した。
フェン「キューン…」
(いやだから俺はここだってば…)
今日は、見つからない相手を探す一日になりそうだ。
(アリス、早く気付いてくれー…)
続かない、終わり