作者:ゴミカスハートフル
異世界にも、外と同じ様に夜は訪れる。
しかしだからといって、全てのものが活動を止める訳ではない。
蛾が街灯の下で舞うように。
機械が動き続けるように。
狐が獲物の寝首を刈るように。
吸血鬼が夜哭くように。
――――無人の街のホテルの一室に、3人の男女が集まっていた。
「で、集まったは良いけどさぁ。ナニをどーしてれば良い訳なのよ、私たちは?」
唐突に口を開いたのは、短髪にドレスの目つきが鋭い少女。
成長途中の身体に、際立って目立つ悪魔の翼を持った「吸血鬼」―――
名前をレイチェル・ウル・ドラクル・ウインザーと言う。
「それを聞こうにも当人が居ないのではどうしようも有りませんよ。少しくらい待ったらどうです?」
切れ長の目に長身痩躯、白衣を着込んだ「医者」の青年―――藤堂斎が返す。
「………」
そんな様子を、帽子を目深に被った「どうみても少女」な見た目の女がぼんやりと見ている。
体に植物が生えていることも十分異常ではあるが、際立って目立っているのは「生物型兵器」故に備えられた、巨大な「合金の左腕」だった。
「Iron Maiden(鉄の処女)」から取って、「アイ」とレイチェル達は呼んでいる。
「待つっていってもー。何もすることないとまいっちゃうのよー。あーもーアイちょっとこっち来なさい。今日こそは腕相撲で勝ってや―――」
「…私が最後か。待たせてしまったな、貴様等」
ドアが開き、男が入ってくる。その瞬間、まるで天井が一気に低くなったかの様に空気が緊迫した物に変わった。
不安定な炎のように揺れる青い長髪。二重円が刺繍されたスーツを、筋肉質な体の上にそのまま羽織い、首には蛾を思わせるネクタイを巻いている。
「まったくよ。どこで道草喰ってたのかしらぁ?」
「あなたらしいと言えばあなたらしいですよね、そういうところ」
「…おかえり、ファレーナ」
ヨーロッパの巨大犯罪組織のボス。
自らの玉座の為に「無知なる者を利用し」「罪無き者を踏みにじる」邪悪。
ファレーナ=ディ・ザストロ――「災厄の蛾」をその名は意味する。
そしてこの4人こそが、「異世界を支配する」「主人に付き従う」「戦う」―――それぞれの目的は違えど、利害を共にした者同士で組織されたチーム「クレパス」であった。
藤堂が慣れた手つきで、ありあわせの材料を使いカクテルを作り皆に配っていく。
「…なんで私だけザクロソーダなのよ」
「当たり前でしょう。お酒は二十歳になってから☆」
「気持ち悪い!☆つけんなブッ殺すわよ!
それに私は吸血鬼!酒ッ!飲まずにはいられないのよ吸血鬼的に考えて!」
わーぎゃーと騒ぐレイチェルの横で、静かにカクテルを飲み干すファレーナ。アイはと言うと腕の隙間に生えたアサガオにそのカクテルをやっている。
「まあまあ落ち着いて下さいよレイチェル。それよりもファレーナ、今日は何をするために僕らをここに集めたんです?」
レイチェルのガトリングガンのような文句から逃れるために、新たな話題をファレーナに振ってムードを変えようとする藤堂。それが功を奏したのか、
「そうそうそれよそれ。何かやるならさっさと済ませちゃいましょ?」
上手く乗っかるレイチェル。
そんな様子にため息を吐いてから、
「新たな『計画』について、だ」
組織内会議が開かれた。
「アイ。『リスト』を出してくれ」
無言で頷いたアイが体の一部を外して広げ、パネル状にする。そこに表示されたのは、この異世界で生存している全ての能力者の情報が記されたリストだった。いや、全てと言うと語弊が有るだろう。
「あらぁ?この3人は新入りちゃんかしら」
「そうだ。『東雲麻琴』『サーティー』『庵原鳴海』…この3人のデータは名前と顔以外入手出来ていない」
「ではそれを調査せよ、と?」
「いや…今回は『殺す』」
皆が一斉に目をファレーナへと向ける。それを意に介した様子もなく、能面のような無表情で淡々と「計画」を語る。
「そしてこれを『宣戦布告』とする。この3人を殺し首を晒し上げ、幹部に揺さぶりをかけこの世界に影を落とす――
それが今回の『計画』だ」
数秒の静寂の後、皆一斉に立ち上がった。
「やっと『人間』の苦しむ顔が拝めるみたいですねぇ」
「た・た・か・え・るーーーッ!きゃはーッ!
最高に「ハイ!」ってやつよォォォアハハハッ!」
「…死なないでね、みんな」
「私と藤堂は庵原、レイチェルはサーティー、アイは東雲に当たれ。再びここに集まるのは7日後だ」
かくして「クレパス」は動き出す。
それぞれが部屋から出、街の闇に溶け込んで行く。
黒よりもなお濃く、闇よりもなお暗い「漆黒の意志」を持った4つの災厄が、「黄金の精神」を塗り潰すべく、猫又の幻影の中で解き放たれた瞬間だった。
To Be Concineud…