作者:ゴミカスハートフル
ファレーナ・ディ=ザストロは「殺された」。
イタリア全土を巻き込む程のマフィア同しによる抗争の最中、自らもまたマフィア組織「クイーン」の首領である彼は腕利きの殺し屋総勢百人を引き連れて抗争を鎮圧せんと闘いに乗り出した所、運悪く額に一発凶弾を受け、事絶えたのだ。
――――しかし、彼が死ぬことは無かった。
ファレーナが目覚めた時。彼の眼前に広がる世界は基本世界では無く、死後の世界でも無かった。
「異世界」―――其処でファレーナは、自らに備わった「能力」の情報と共に蘇った。
「成る程な…そうか。わたしはまだ生きているのだな……『この世界』で…『魔術』を手に入れて…」
自らの境遇を確認するように、小さく呟く。そのまま静寂に身を横たえ、暫し思案する。
自分は何をするべきか。この世界でどう生きるか。
「フフフ…フハハハハハハ!何を考える必要があると言うのだ…世界が変わったからと言って、わたしの生き方を変える理由にはならないだろう……『勝利して支配する』…わたしは依然変わりなく、帝王の座を掴めば良い」
天津中主は歩を止めた。
食料品を探しに街を散策していた彼は、自分と同じ様に「逸脱した狂気」を持った人間の存在を近くに本能的に感じたのだ。
「結か透伊…では無いだろうな。あいつらはポーカーやってたハズだし」
透伊がどんな大掛かりなイカサマを仕掛けるのか、などと考え、軽く笑みを零す。
「んんー…まぁ誰でも楽しめればよかろうなのだ。行ってくるか」
中主は再び歩を進める。
ビルの屋上に飛び乗り、動物的なカンで目当ての人物を探し奔走した。
――――そして彼らは会合する。
最初に相手を見つけたのは中主だった。
「…マジなのか」
中主はビルの下に見える男を刑事だった頃に知っていた。
ファレーナ・ディ=ザストロ。ヨーロッパ系列犯罪組織「クイーン」の首領。早い話が大罪人だ。
普通の人間ならそう言う風に認識した相手からは逃げるだろう。普通の警官なら逮捕しに向かうだろう。
しかし天津中主は三度の飯より銃器が好きな「狂人」だ。彼が警察官になったその理由は「銃が撃てるから」。彼にとっての人間は「撃ってはいけない的」であり、犯罪者であれば「撃っていい的」となる。
―――つまり、中主にとってのファレーナもまた、
「ふっふっふ…久し振りに上物に出逢えたな。血がたぎるとは正にこの事なのだ」
彼が飼う狂気の獲物に過ぎなかった。
階段を使うことなく、中主はそのままビルの屋上から飛び降りた。
ファレーナの前方10m程先に、金髪の男―――天津中主が降ってきた。
新しい玩具を与えられた時の子供のような目をファレーナに向けて、これまた子供のような笑いを見せる。右手にカラシニコフを、左手にP90を備えていなければ、その姿はとても無邪気に見えたのだろう。
ファレーナはそれを見て、目の前の男が「敵」であると認識した。
「ひとつ問おうか。貴様に『自分のルール』と言うものはあるか?」
ファレーナは中主に語りかけた。早く戦いたくて堪らない中主にとっては、ファレーナが唐突に口にした事に反応が遅れるのは当たり前のことだった。
「?何を言っているのだ?」
「わたしには…一つ有るんだ。これから冥土に送る相手には、必ず贈り物を事前に届けていてね」
軽く微笑を浮かべ、言葉を紡ぐ。
「貴様にはこの『コイン』を手向けよう。空に放ったこれが地に落ちた音が、貴様に贈られる死刑台への行進曲だ…『覚悟』をしておけ」
途端に、ファレーナの内から爆発的な殺意が迸る。
常人ならそれだけで気絶しかねないその「漆黒の殺意」をまともに受け、中主は更ににやりと笑みを湛えた。
「要するに撃たせてくれる訳だな!わはははははははッ!!私の名前は天津中主!!死後よろしく頼むぞ!!!」
コインが、放られる。
空中でくるくると舞い、ファレーナの手から放物線を描き、
やがて、地に落ちる。
小さな音が一度響く。
それが、開戦のゴングとなった。
動き出したのは二人ともほぼ同じタイミング。
ファレーナが手を翻すと、影から一斉に数百匹の真っ黒な蛾が飛び出し、猛スピードで中主に迫る。
「効かあああああああああああん!!!」
その全てを、中主のP90の弾丸が穿ち消し去る。
しかし。
「ぐぅっ!!?」
「計画通りだ」
小さな蛾を撃ち落とす、マシンガンと言えど精密性の必要な作業に気を取られ、中主は後ろから迫る黒球に気付く事が出来なかった。
喰らった途端、中主を猛烈な「不快感」が襲った。
「かっ…は…ぁ!?!!ぐはぁッ!!」
溜まらず跪く。冷や汗が全身から吹き出し、悪寒が止まらない。
「これがわたしの能力【Maradite】だ…黒の光を形を変え大きさを変え相手にブチ込む。その光は相手の生命力を刈り取り、消えた魂のスペースは絶望的な『不快感』となって相手を襲う…」
淡々と語り、次の一撃を加えようと構えた所で、ファレーナは笑い話を耳にした。
「はっはっはっは!面白いぞファレーナ!」
中主だ。地に膝をつき、顔面蒼白となりながらも笑いを止めない。
「だが一手仕掛けたのはお前だけじゃあないぞ!」
そう言いながら後ろに飛び退く。と同時に、ファレーナの後ろでカチリと小さく音が響いた。
その存在に気付いた時には既にカウントダウンは0を切っていて。
(爆弾…!!)
10個の時限爆弾が、辺り一面を吹き飛ばした。
魔術で咄嗟に防御するが、爆弾の鉄の破片が容赦なくファレーナの身体に突き刺さる。
「ごは…っ」
盛大に血を吐いた。掠れる視線の先には、立ち上がった中主の姿があった。
互いに睨み合う。暫しの沈黙が場を支配した。
それを破るのもまた、二人同じタイミングでだった。
カラシニコフを、黒球が纏う手を同時に構える。
だが、それが攻撃に至ることは無かった。
「はいはーいお取り込み中スミマセン、一旦ストップストップ!」
おちゃらけた男の声は、二人の得物を「空間」に消し飛ばした。
二人が何か言うより速く、今度は猫又の幻影が二人に纏わりついた。途端に両者の意識はフェードアウトしていく。
眠った二人をどこか遠くへ送ってから、男――大塚千尋は溜め息を吐いた。
「全く…ドデカい戦闘はバランスが崩れるから控えて欲しいんだけどな」
それにしても、と大塚はファレーナを頭に浮かべた。
「ファレーナとか言ってたっけ…厄介な『災厄』が来たもんだ…」
To be contineud…