作者:邪魔イカ
学校の一大イベントの一つ、学園祭。この私立折伽羅学園にも、学園祭の季節がやって来た。
アリス「明日は学園祭だね、フェンリル!」
フェン「そうだな」
年に一度のイベントに胸を踊らせる者もいれば、
大塚「なあ、おかしくない?前日までこんな仕事してさ」
ポリシア「大塚さん、口より手を動かしてください」
大塚「…………はい」
準備に追われる者もいれば、
透伊「学園祭か……学校でめんどくさいものベスト5に入りますよね。まぁ、俺は既に対策を打っています」
結「……一応聞くが、その対策とやらは何だ?」
透伊「保健室か使われてない教室で寝る」ドギャーン
結「どうしようとお前の勝手だが、サボる宣言を堂々と教師の前でするのはどうなんだ」
必死に逃げる手立てを考える者もいる。
それぞれの思いをのせ、折伽羅学園の学園祭は開幕する。
~魔法使いと狼少女の場合~
「フ…………フェンリル!」
アリスは咄嗟に目の前を通りかかった人物を呼び止めた。フェンリルはそれを受けてアリスの方へ振り向く。
「なんだよ。何か用か?」
「えっと、あ、あのね……」
しどろもどろなアリスに訝しげな視線を向けるフェンリル。一言だ。一言だけ言えればいいのだ。
「よ、良かったら一緒に回りたいなー……なんて」
声がどんどん小さくなっていくのが、嫌でも分かる。そんなアリスの言葉に、フェンリルは一瞬驚いたような顔をして
「あぁ、別にやる事もねぇしな」
と言った。
「ほ、ほんと!?」
「あぁ……何だよ」
良かった。勇気を出して誘った甲斐があった。アリスは喜びを隠そうともせず、表情は緩みきっていた。フェンリルはまた訝しげな目でアリスを見ている。
「じゃあ、中庭に行こ!私アイスの引換券持ってるから!」
アリスはフェンリルの腕をぐいぐいと引っ張って、足取り軽く中庭へ向かった。
中庭では、クラス毎に様々な出店を出していた。アリスのクラスはアイスクリームを売っている。アリスは券とアイスを交換して、フェンリルの元へ駆けていった。
「お待たせ」
「ああ……何の味だ?それ」
「カボチャ味!私が希望出したの!」
言いながら、アリスは鮮やかなオレンジ色のアイスクリームを舐める。カボチャの甘い味が広がって美味しい。
「ふーん……」
「あ、フェンリルも一口食べる?」
「ん」
アリスは「はい」とアイスをフェンリルに差し出す。フェンリルはアイスを歯を立てて一口かじった。
(あ、そういえば……)
アリスはフェンリルがかじった部分を見つめて、『あること』に気が付いた。気が付いてしまった。途端にアリスの顔がボッ、と火を吹いたように熱くなる。
「ん、美味い」
フェンリルは暢気にアイスの感想を言って、スタスタと歩き出した。
「フェ、フェンリル!!」
アリスは叫ぶように名前を呼んで、後を追いかけた。
~気弱な少女とトリハピ教師の場合~
七宮日和は激しく後悔した。友人の紅が校舎へ宣伝に行くと言っていたので付いてきたのが始まりだった。だが今は学園祭という一大行事の真っ只中。校舎内は大勢の人で溢れかえっていたのだ。そのため完全に萎縮してしまい、宣伝しようにも上手く声が出せない。
「あ、あああアイス中庭ででで……」
「日和ちゃん、落ち着いて!大丈夫?」
傍にいた紅に声をかけられ、ハッと我に帰る。心配させてしまったようだ。日和はシュンと肩を落とした。
それからは、主に紅が声かけをして、日和は隣で看板を持っていた。何のために来たのだろう。どんどん考えがネガティブになって、日和は溜め息を吐いた。
そんな時だった。後ろから明るい声が聞こえたのは。
「おう、頑張ってるかーお前らー」
突然後ろから声をかけられ、日和はビクッと肩を震わせた。振り向くとそこには体育教師の天津中主が、両腕で何やら色んな物を抱えながら立っていた。
「あ、ヌシ先生こんにちは」
「こ、こんにちは……」
「こんにちはなんだぞー」
「何だかいっぱい持ってるけど、どうしたんですか?それ」
紅が問うと、ヌシは「よくぞ訊いてくれた!」と言わんばかりの笑みを浮かべた。
「ふふん、三年が出店で射的をやっていたのでな!腕試しにやっていたのだが……五段あるうちの上三段の景品を全部取ったところで『もうやめてくれ』と泣き付かれてしまったんだぞ」
(あ、相変わらずだなぁ……)
はっはっは、とあっけらかんに笑うヌシに唖然としてしまう。紅も日和と同じ気持ちなのか、苦笑いだ。
(でも、ヌシ先生は凄いな……)
銃火器が好きで、授業は射撃の演習が殆どの周りから見たらちょっと、いやかなり危ない教師かもしれない。でも、誰にでも分け隔てなく接し、自由奔放で明るい。日和には無い物をこの人は持っている。
なので日和は、天津中主に少しだけ憧れを抱いていた。断じてトリガーハッピーに憧れている訳ではないが。
「そういえば、お前達のクラスは何をやっているのだ?」
「中庭でアイス売ってます!是非来てください!」
「ふむ」
紅が持っていたビラを見せ、それをヌシが覗き込む。
「時間が出来たら行くぞ。中庭だな」
ヌシがそう言った直後、日和の額にコツン、と軽く何かが当たる。手に取って見てみると
「ドロップ……?」
小さな缶のドロップだった。どうやらヌシが射的で当てた景品の一つだったらしい。
「餞別だぞ。頑張れよ」
ヌシは日和にニッと笑いかけ、「またなー」と両手に荷物を抱えたまま行ってしまった。
ヌシから貰ったドロップの缶を見つめる。少し、少しだけ顔が熱い。隣にいた紅の
「よかったね」
という言葉も、今はまともに聞こえなかった。