第10回トーナメント:決勝③
No.6552
【スタンド名】
エロティカル・クリティカル
【本体】
クリームヒルド・ブライトクロイツ
【能力】
自分が投擲した物を絶対に命中させる
No.3761
【スタンド名】
リトル・テンポ
【本体】
照屋 風夏(テルヤ フウカ)
【能力】
物体の魂「九十九神」を操る
エロティカル・クリティカル vs リトル・テンポ
【STAGE:廃工場】◆3p07Uw3oRY
日は沈み、鋭い寒さが肌を覆う時になった。
季節的にも冬と言っていいほどの寒さ故に町を歩く住民達の格好はしっかりと防寒対策がなされている。
今、家に帰っている彼らはこの町の高校生だ。
高校生は制服というもにが存在し、それを学校生活の基本の格好であり帰りがけでさえも着なければならない。女性にとって実に可哀想なものだ。何故なら女性の制服は足を外気にさらけ出すようなデザインをしている。
そのデザイン故に凍えるような寒さが足へ刺さり身が震えてしまう。部活動で汗を流し、精一杯頑張ってせっかく温まった身体も帰り道では冷え切ってしまう。
なので彼女たちは寒さに震える。
しかしあの少女を見ると彼女たちは何を寒く感じているのか疑問が生まれる。
「早く来ないかなー対戦者」
足を露出させた少女、照屋風夏。語弊だがスカート履かずに足を晒けだすのが特徴の人物だ。
決勝戦、そう言葉に出し息を吐く。緊張の様子が伺える。
『大丈夫だよ、フゥ』
風夏のスタンド、リトル・テンポは、今回のトーナメントでは珍しい遠距離操作型である。物に宿る九十九神を操る能力を持ってこれまでの勝利を勝ち取った。
リトル・テンポは本体に励ましの声を送る。
『クイズ番組は録画してから出掛けたから大丈夫だ』
「さすが!」
どうやら風夏はトーナメントよりも番組を気にする派のようだ。
『フゥ、分かっていると思うけど決勝戦だからね?』
「そう同じことを何十回も言われたらタコを耳栓替わりに使っちゃうよ?」
『そんなに言ったっけな』
「言ったよ、全くリトルは細かいのか粗っぽいのか・・・ん」
『フゥ、どうしたの?』
「あれ対戦者っぽい感じしない?」
風夏の指差す方向、そこには一人の女性が立っていた。
彼女はクリームヒルド・ブライトクロイツ。白衣を纏ったロシア人だ。実は彼女も遠隔操作型のスタンドを操る。珍しいカードの対決となる。
風夏が彼女に気づいてから数秒の間をあけてようやく気付いた。
「ありゃありゃ、またやってしまった・・・はい」
「え?あ、はい」
ポケットから赤い封筒に入っていた招待状を取り出して見せた。
風夏もとりあえず招待状を見せた。
この行動はルール上で決められたものではない。
なので別に招待状ものを見せる必要はない。
しかしこの行動により『自分は対戦者です』というアピールを口を使わずにすることが出来る。そして口答であえて伝えないということは、無駄な喋りはせずに戦いを始めるというサインに取れる。
知らない人でも何と無く分かる簡単な挨拶だ。しかも招待状には自分の名前が書かれている。トーナメントの選手同士の挨拶には最適である。
「照屋風夏。あなたが今度の対戦者ね、早速だけど...」
言っている途中で風夏が小さく笑う。
「・・・何かおかしなこと言った?」
「いや!何でもないです!名前はクリームしゃんでいいですね!!」
風夏は失礼なことをしてしまって怒らせたと思い、慌てて言い訳をした。思いっきり噛む。
興奮するようにして舌を回す風夏にクリームヒルドは答えた。
「クリームヒルドね」
「あわわわ・・・」
『落ち着こう』
「まあクリームって読んでもらっていいよ
長い名前よりもそっちで慣れているし」
「す、すみません」
そう言って息をゆっくり吐いて落ち着きを取り戻そうとした。
だがクリームヒルドは口を開く。
「さーてとこんな路上でやるのもあれだし...」
その直後のクリームヒルドの身体からスタンドが飛び出し風夏の胸倉を掴んだ。
「ふぇ?」
変な声を出した風夏に構わず、反撃の余裕も与えずにクリームヒルドの背後へ背負い投げた。
風夏の身体は重力の力を無視し水平に飛ばされていき、そのまま寂れた工場へ突っ込んで行った。
「まずは下準備ね。じゃなきゃ勝利の方程式は成り立たない」
独り言を言ってクリームヒルドは廃工場へ追うようにして向かって行った。
「・・・・・いたたた」
投げ入れられた建物、廃工場。
天窓から射す月明かりがコンクリート床を照らす。その床は所々が油で汚れ、備品は隅に少しある程度残っているものの、パッと見た感じガランとしている。
『気を抜いた瞬間を狙われたか...想像してた通りだけど最後の相手は油断大敵だよ、フゥ』
「うん、気をつけるよ....いたたた」
受け身を取ったとはいえ、勢いよくコンクリートに叩きつけられた衝撃はかなりのものであった。
どこか怪我してないか気になったがそんな余裕はない。
クリームヒルドはすぐに入り口の手前までやって来た。風船にヘリウムガスを入れながら。
『なにやっているんだ...?』
「風船?」
やがて風船はパンパンに膨れ上がりクリームヒルドはそれを空に放った。ふわふわと浮かんでいく姿を確認してから建物に一歩踏み入れた。
「風は安定している。問題ないね・・・ふぅ~...」
そして一呼吸してクリームヒルドはある情報を口にした。
「私のスタンドめい。エロティカル・クリティカル。投げた物を標的に命中させる軌道操作系のスタンドよ」
風夏は驚いた。リトルも驚いた。淡々と自分のスタンド能力をバラしたからだ。スタンドバトルは情報戦。如何に自分の能力の本質を隠しつつ戦うことが鍵となっていく。能ある鷹は爪を隠す、だ。
しかし彼女は情報という名の爪を自ら出した。
「いきなりバラしちゃの!?」
「別に隠すほどのものじゃないしね~」
軽い口調でそう言った。彼女にとって取るに足りないことらしい。
彼女の能力をバラす発言に対し、リトル・テンポは思う。
(能力を明かす?決勝戦でそんなことするなんて、どうやって勝ち上がったんだ・・・?嘘の情報か?真の情報か?....ともあれ様子見るのが一番の安全策だ)
『フゥ、ちょっと見ておいて』
「え、うん。オッケーだよ」
「しかし自我持ちのスタンドとかいいな~。
こっちのスタンドはちっとも声を出さないのよ・・・む!」
何かを感じたのか後ろへ慌てて後退した。直後、何かが派手な音を立てて落下した。
落下物の正体は一本の鉄骨だ。彼女が先程までいた位置に落下した。
「危ない、鉄骨が直撃するところだったわ
.....うぇ!臭っ!この鉄骨匂うよ!」
「は、外しちゃったか」
風夏は小声で呟いた。
さっきの鉄骨は自然落下ではない。鉄骨に宿る九十九神が、誰も使わなくなった工場を支えているのを馬鹿らしく思っていた。なので支える仕事を休ませた。仕事を休んだからそこを支える必要はない。
なので鉄骨は落下したのだ。
『・・・今まで無意味に頑張っていた鉄骨には精神的ストレスが溜まっている。もはや爆発寸前かもね』
落下した鉄骨が真っ直ぐに立ち上がった。
「鉄骨が勝手に立った?」
『臭い・・・か。そんな言葉を爆発寸前の彼に言ってしまったなら』
鉄骨が真っ赤な色に変色し、グニャリと『つ』の字に曲がった。
『ブチ切れるだろうな』
鉄骨が曲がった部分をバネのように使って怒り対象へ飛びかかった。
「!!」
サイドステップで華麗にかわした。だが鉄骨の怒涛の攻撃はやまない。追いかけるかの如く確実に追跡した。そして彼女の頭に激突しようとする。
「そのまま当たれ!」
だが所詮、ただの鉄骨が怒り狂い単細胞に動くようになっただけだ。
その飛び掛かりを彼女のスタンドが背負い投げで流し投げる。そして鉄骨は宙を舞い、天窓に吸い込まれるように飛んで行きガラスをぶち砕いて飛び出て行った。
ガラスの破片がパラパラと落ちる
「・・・・・今のは」
クリームヒルドは手首をブンブン回す。
その間に風夏は相手の能力は嘘か真かどうか考えた。
「うん、うん、うーん」
「リトル、嘘は言っていないみたいだよ。ネタバレさせた能力効果なら十分に実現可能だし、複雑に考えることもなさそうだし」
『本当のことだったのか。一体何を考えて・・・』
バン!
突然何かを叩く大きな音が鳴り響く。
急な出来事にビクリと体を硬直させたのち、顔を上げる。
その音の正体はクリームヒルドがコンクリート床を手のひらで叩いた音であった。
『な、なんだいきなり...』
「そ、その構えは・・・!」
その姿は早押しクイズ番組で誰よりも速く押した者達を連想させられる。
その姿に風夏の身体は本能のように肉体を動かす。
「クリームヒルドさんどうぞ!」
『!?』
「ごめん条件反射」
風夏はついクイズ番組の司会みたいなことを言ってしまい、恥ずかしそうに舌を見せる。
クリームヒルドは声高らかに言い放つ。
「てるてる風夏のスタンド能力はズバリ!
無生物に意志を与える能力!」
『・・・・・・分かるもんじゃないから安心出来るな』
「ん~・・・・・残念!」
「なっ・・・!正解じゃないのか!?分からないッ!」
「正解は九十九神の思いを具現化する能力でしたー!」
『ちょっと待て』
「九十九神だったか・・・ッ!クソッ!」
コンクリート床を拳で叩く。
クリームヒルドは何か悔しがっていた。
『フゥ』
「一度やってやって見たかったんだよね~・・・ん、どうしたのリトル?」
『自分の能力明かしちゃ駄目だろ・・・』
「・・・・じょ、条件反射だから許して!」
衝撃の失態を即座に知った彼女に対して、クリームヒルドはニヤリと口元を歪めた。
「あえて能力をバラすことで緊張感を緩め後にノリに乗せて能力をゲロらせる。見た感じクイズ番組見てそうな顔しているしその趣向を利用して心理誘導させた・・・!」
戦いにおいて未知ほど恐ろしいものは存在しない。
未知なだけに戦いに負け、命を落とした者はよくいる。
だからクリームヒルドは相手の能力を知るために自分の能力を明かして緊張感を緩ませそこからクイズ番組の茶番に乗っからせた。
まあもっともクイズ番組が好きだという根拠は偏見で決めつけ、また条件反射で動くというのも偏見で決めつけて実行したこの作戦。偏見が間違っていたら自分の能力だけがバレるというとてもハイリスクな吊橋だった。
『あんなことで心理誘導されてしまうのか・・・』
「あ、あははははは」
乾いた笑いをする風夏にリトルは気を込めて言った。
『・・・・でもばれたものは仕方ない。畳み掛けるよ、フゥ!』
「ガッテン了解だよ、リトル!」
「じゃあ早速だけど」
クリームヒルドは風夏の背後を指差す。
「アレどうする?」
「あ、アレ?」
何かが破壊する音が響いた。
その音に驚き、首を急いで振り向かせた。
そして驚愕した。巨大な走行車、トラックが取り付けられたドリルで壁をぶち壊し侵入してきた。
「な・・・なッ!?」
「ただのトラックじゃない。ロシアにいた友人に頼んだ特注品よ。どんな衝撃にも耐える装甲を持ちそして道を阻む物は砕き進む超振動するドリルを装備させた世界一のトラック。別名、装甲車!」
壮大なサウンドスピーカーが暴れるほどのエンジン音。あまりの迫力に呆然と立ち尽くす。
発想が凄すぎるよ。彼女がそう思ってた頃にはトラックは目の前だった。轟音を鳴らし進み迫ってきた。
ーーーー避けれない。
音がピタリと止まった。
いつの間にかに閉じていた目を開けるとトラックは鼻先スレスレで止まっていた。
『旅疲れだよ。ロシアから日本までの海を渡ってきたらそりゃもう疲れちゃうね』
「・・・・・・・おわああああ!?」
時間差で驚く。
「あ、ああ、ありがとうリトル!」
『気にしないで。あんなの誰だって呆然とするよ』
お礼をする風夏に対してリトルは苦笑しながら言った。
「なるほど、旅疲れか。まあ止められても問題ない」
クリームヒルドの手のひらには小型リモコンが握られていた。それをポケットにしまい込み言葉を続けた。
「ちなみに安全装置がつけてあるから人に当たるギリギリで必ず止まってトラックのドリルの先端から電撃が出て気絶させるという仕組み。だったから大怪我することは決してない」
『あと少し遅かったら電撃食らってたのか・・・』
「色々とレベル高過ぎでしょ・・・」
トラック?の力とロシアに驚いた風夏達。
「さてそろそろ来るかなー、私の相棒」
『相棒・・・?』
「あ、もしかして近距離パワー型のスタンドだと思ってた?確かにそんな感じはあるかもしれないけど偏見で決めつけるのは甘い。ふふふ」
お前が言うな。と言いたいところだがリトルは言葉を飲み込んだ。
近距離パワー型ではない?つまり遠隔操作型ということだろうか。しかしまたしても分からない。
さっきの発言から自分のスタンドを遠くに行かせているということになる。
一体何の為に、いや考えるほどでもなかった。遠くに行かせる理由は限られてくる。
するとーーーー
その時、耳に新たな九十九神の声が聞こえた。
まるで現代の不良のような喋り方だった。
「リトル、誰かこっちに来ているよ?」
『ま、まさか』
止まったトラックの上を何かが飛び越えた。
そしてその何かはクリームヒルドの前に止まった。
それは。
「うん、流石ね。私のスタンドは!」
『ば、バイクッ』
それはバイクだ。
エロティカル・クリティカルがトラック特攻中に近くのバイクを盗んできたのだ。
「これにより一方的な関係が始まるのよ!」
クリームヒルドはそう宣言し、バイクに乗ってアクセルを踏み彼女の視界を横切る。
「え?バイクって何かやばかったっけ?」
『ああ、かなりやばい・・・』
バイクの動きは風夏達を囲うように円を書きながら回り続ける。
そして操縦者は懐からクナイを取り出す。
「うわぁ、回りながら投げる気だ・・・そうだ!さっきのトラックみたいに動き止めれば・・・」
風夏の言葉にリトルは首を振る。
『それは無理だ・・・バイクの九十九神は活発な奴で大人が注意しても言うこと聞かない若者みたいな性格なんだ・・・それをコントロールするのは不可能だ・・・』
「そ、そんな・・・ひゃっ...」
衣服に何かが擦れたような感覚を味わう。
脇腹付近の布が浅くではあるが切れていた。クナイがかすったのだ。
『フゥ!クナイだ!気をつけろ!』
風夏を狙ったクナイが掠っただけで虚しく通り過ぎたかのように思えたが空中で刃物の向きを変え、彼女を再び狙う。
「あー!もう駄目押し!!」
彼女は幸運なことに足元に鉄パイプが落ちていた。それを拾い向かってくるクナイをフルスイングで打ち、弾き飛ばす。
弾き飛ばされたクナイは地面に落ち、動かなくなった。
「あれ?一回当たったら能力は解除されるの?」
クリームヒルドはバイクを止めてから風夏を褒めた。
「いい着眼点ね。標的に狙って投げても障害する物に当たれば能力は解除される。それが私の能力の欠点よ」
「ならこれで打ち返していけばいい。しっかり見れば打つことなんて難しいことじゃないし続けていけばクナイはなくなるでしょ」
「そう、しっかり見ればね・・・」
バイクのエンジン音が大きくなる。
「でもこれならどうかしら」
クリームヒルドの背後からもう一つの姿が見える。
エロティカル・クリティカルだ。しかもバイクに乗っている。
『2台だって!?』
「またまた取りに行かせてたのよ。それでどうする?」
今度は2台のバイクが動き出す。そして風夏達を挟むようにして再び円を書く動きが始まる。
「・・・・・・」
ブツブツ呟きながら鉄パイプを両手で握り締め、一向に動かない。
「どうしたの?まさか降参?それはやめて。ここで降参されちゃうと色々苦労が泡になっちゃう・・・」
「いや、降参はしないよ。防御の準備してただけだよ」
「そう、じゃあ遠慮なく投げるね....せいッ!」
スタンドと本体のコンビネーションで挟み撃ちでクナイが襲いかかる。
しかし風夏は突然動き出し、抜刀して斬るようにそれらを鉄パイプで二つとも叩き落とした。
「ん?」
二つとも叩き落としたことに気になったわけではない。
先ほどのド素人なフルスイングとは打って変わり、急に達人のような手捌きになったからだ。しかし人がすぐそんな動きに進化することはない。だから気のせいだろう。
クリームヒルドは再びスタンドと一緒にクナイを投げた。今度は追尾投げと通常投げを混ぜ連続して投げた。
だがしかし風夏は全てを無駄な動作なく叩き落とした。
クリームヒルドは少し驚く。
「どういうこと・・・さっきのは素人の振り方だったのに急に上手くなっている・・・」
冷静に疑問を言う。
「別に自分は上手くなってなんかいないよ」
そして鉄パイプを掲げた。
「この子が上手くなったんだ。達人のような動きなら出来る!そう言っただけだよ」
『プラシーボ効果ってやつだよ』
「なるほどー」
クリームヒルドはダラリと声を出して窓際へ近寄った。
そして窓ガラスを触って微笑んだ。
「まああなたの能力も見れたことだし・・・」
そして窓からガラス板を綺麗に抜き取った。
「チェックメイト。」
全身使ってぶん回しガラス板を風夏達に向かって放り投げた。
その軌道線には金槌を持ったエロティカル・クリティカルがいた。
「エロティカル・クリティカル!砕けッ!」
迫り来るガラスを金槌で叩き、バラバラに砕かれ破片が飛び散る。
エロティカル・クリティカルの追尾投射能力。この能力は何かに当たると追尾性は失われ、地面へ落下する。能力が解除されてしまう。
しかしだ。実のところ、能力解除はぶつかることが条件ではない。別の条件がある。
それは衝撃を分散する働きが起きた時だ。
例えば皿が落下して割れない時がある。この皿は落下直後に肉眼では見れないが硬い物だとは思えないほどに曲がったりして振動している。
この振動より衝撃を散らしている。
彼女の能力は投げた物の内部にスタンドパワーを入れてるわけだが遠隔操作型の力は非力だ。
物体のぶつかる衝撃で起こる振動でスタンドパワーが簡単に散らされてしまうのだ。もう一度言うが遠隔操作型は非力だ。ちょっとした物理現象に負けてしまう。
しかしそれは砕けなかった時に起こる話だ。
金槌で叩いて簡単に割れてしまうほどに脆い物には無縁の話だ。
ガラスは砕け散るだけなのだ。
割れたガラスの破片が散弾のように襲いかかる。
『まずい!』
「そういう使い方アリなの!?」
『外にいたら駄目だ!内側に逃げろ!
「え!?既に工場の中だよ!」
『違う!もっと内側に入るんだ!」
もっと中に逃げる。一体リトルは何処のことを言っているのか、それは。
「もっと内側・・・あそこか!」
風夏は目的の場所まで走り出しその内側へ逃げ込み扉を急いで閉めた。
彼女達のいる場所の外側に硝子弾が撃ち込まれる。
全弾撃たれたのを確認しクリームヒルドはゆっくりとその場所に近づいた。
撃ち込まれた箇所にガラスが突き刺さっていた。
貫通しているかもしれない。もしそうなら彼女達の命はないであろう。
しかしその心配は無用だった。何故なら彼女達の逃げ込んだ内側というのは
クリームヒルドの友人が創った改造トラック、装甲車の荷台だからであった。
「問題ない。全ては順調・・・後は時を待つだけ」
彼女は荷台の扉を見つめた。
そして彼女の意識は自分の世界に入った。
荷台の中にいる風夏は内側のロックをかけて座り込んだ。
「た、助かった・・・・・」
『危なかった・・・何処のB級映画なんだか・・・』
「ふぅ...」
『はぁ...』
「・・・・・・」
『・・・・・・フゥ、この状況かなり不味くない?』
「・・・・・・かなり不味いよね」
一体どれだけ不味いのか。
外にいる九十九神達曰く、扉の目の前にクリームさんがクナイ持って出待ちしている状況なのだ。
「だ、脱出手段考えよう!あーえっと・・・そうだ!トラックさん!」
(何なんだぜ?せっかくだから休ませて欲しいんだぜ)
『タイヤ動かせるかな』
(一応動かせれるぜー)
「お願いがあるの。このまま前進してクリームヒルドさんから距離を取って欲しいの」
(えー、それはちょっとやめたほうがいいんだぜ)
『何故?』
(実はこのトラックには緊急爆破装置って言うのがあるんだぜ)
「・・・・・・あー、緊急脱出装置ね!それも一つの手...」
(緊急爆破装置だぜ)
「・・・・脱出」
(爆破だぜ)
『・・・・・』
(そう落ち込むなよ、きっと何とかなるって。ちなみに緊急爆破装置のスイッチはクリームヒルドが持っているんだぜ)
「絶望しかないや・・・ははは」
『・・・・扉開けるのは駄目、距離をとってから脱出も駄目。となると』
「となると?」
躊躇うように口を開く。
『・・・このトラックを勢いよくバックさせ敵を怯ませた後に襲い掛かる。ナイフを首元に近付ければ降参するかもしれない』
「ちょっとひどくない?」
『出来るだろうか?』
質問を投げかけ九十九神は答えた。
(申し訳ない。実はバック走行が出来ないように改造が...)
「なんで!?」
(破壊を尽くす物に何故後退を与える?後退など邪道!嬉しい時でも困った時でも破壊だぜ!)
「破壊・・・・・・」
『どうする?恐らく距離取ろうとしたら起爆されるだろうしだからと言って扉を開けるわけにも行かない』
「・・・」
『フゥ?』
「リトル、多分これしか手段はない。ここにいるからこそ出来る手段がね・・・
脱出する必要はない・・・・ここだけが安全だから出来ることがある・・・!」
『ま、まさか!』
そして風夏は周りの九十九神にあるお願いをした。
直後、何かが崩れる音がした。
それから数分経ったであろう。
先程までここにあった工場は瓦礫になり変わった。
この惨状を起こしたのは風夏であった。
一体何をやったのか、答えは簡単だ。廃工場の全て骨組の九十九神に休ませるように呼びかけただけだ。
そうすることで工場を支える物の力が弱まり、そのまま倒壊したのだ。
瓦礫の中からトラックが飛び出してきた。そして荷台から風夏達が出てくる。
「危ない危ない・・・あと一歩で負けるところだった」
『凄い発想をしたな・・・こういう方法があるなんて」
「まあね・・・・」
彼女は思った。
自分のスタンドでこんなことが出来るだなんて、と。
彼女のスタンドはエロティカル・クリティカル以上に貧弱なスタンドの筈だ。
なのにこんなことが出来てしまったことにちょっと笑いがでそうになる。
『口が緩んでるよ』
「あははは」
『さて、瓦礫に埋まちゃった人助けないとね』
「大丈夫かなぁ・・・うっ」
直後、彼女の後頭部に一つの蹴りが浴びせられた。その一撃で彼女は一発で気絶した。
『フゥ!?』
リトルは驚いて後ろを振り向いた。
そしてさらに驚いた。そこにクリームヒルドがいたからだ。
「やあ、スタンドさん。いい試合が出来て嬉しかった。ってその子に伝えといて貰える?」
『瓦礫の下敷きになったんじゃ・・・・』
「そう思うじゃん?実はそうじゃないのよ」
彼女は上空を指差した。
そこには変わった光景があった。
『風船が飛んでいる・・・それも一つや二つどころじゃない・・・』
数多くの風船がその空間に浮かんでいたのだ。
「タネ明かしよ。私はね・・・」
クリームヒルドの身体を彼女のスタンドが抱え込んだ。
「こうやったのよ」
スタンドが彼女を上に放った。彼女はそのまま上空へと飛んでいく。
『自分も対象・・・そ、そうか!あの風船は移動のために置かれた目印だったのか!』
「その通り。そして天窓から脱出した。私が先ににね」
『ちょっと一つ聞きたいことがある。なんで風船設置を・・・』
上空に浮かんだまま彼女は答える。
「予防線よ。如何なる相手でも脱出経路は確保しなきゃ意味ない。」
『・・・・・』
「ちょっと脱出する際に力んじゃったけれどもね・・・」
彼女は地上に綺麗に着地した。
リトル・テンポを真正面に捉え言い張った。
「これだけは言わせて貰う。私の勝ちよ」
リトルの頭に軽いチョップが入った。
『・・・・・ああ、負けを認めるよ』
★★★ 勝者 ★★★
No.6552
【スタンド名】
エロティカル・クリティカル
【本体】
クリームヒルド・ブライトクロイツ
【能力】
自分が投擲した物を絶対に命中させる
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最終更新:2022年04月17日 12:33