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第12回トーナメント:決勝③




No.6754
【スタンド名】
ティン・エンジェル
【本体】
白鷺 かふら(シラサギ カフラ)

【能力】
接触する二つのモノを徐々に癒着させる


No.1057
【スタンド名】
バタフライ・キッス
【本体】
壮周(ソウシュウ)

【能力】
とまった場所に蝶々型の穴を空ける




ティン・エンジェル vs バタフライ・キッス

【STAGE:お寺】◆C4zT4u8GVA





 ディザスターにおける幹部級の実力者である滕翦瑜(テン・ジャンユ)の死の一報が届いたのは、
 二回戦終了から6時間後のこと。
 その情報をいち早く耳に入れたのはアジア近辺を根城とする老齢の幹部、ソーントン・マグワイアであった。

「…………」

 ジャンユ率いる実験部隊を、彼は個人的には蛇蝎のごとく嫌ってはいたが、
 その財源確保能力には一目置いていた。
 情報を伝えた間者を下げると、マグワイアはため息をついて、ソファーに深く腰掛ける。

 そんな時、マグワイアのオフィスをノックする音が響く。
 間者を下げてすぐだったため、そのノックオンに多少疑問を抱きもしたが、そこは幹部としての経験の差か。
 例え間者が殺されるような事態に陥っていたとしても動じぬ気構えで以て「どうぞ」と言い放つ。


「夜分遅くに申し訳ございません。わたくしは白鷺かふらと申します。以後お見知りおきを」

「いや、名乗らんでもいい。知ってるぞ「シラサギ・カフラ」」

 中二病デビューを迎えて間もないような右腕にびっしり巻かれた包帯と、ゾンビ映画にも負けず劣らぬ土気色の血色。
 その中にあっても気品と優雅さを失わぬたたずまいの少女。

 こんな少女にジャンユが負けたのか?とマグワイアは思った。
 否、思おうとしたが、たたずまい以上に異様な存在感を放つ「異常さ」から直感で見抜き、即座に動くことを戸惑わせた。

「我ら『ディザスター』に用かね。カフラ嬢」

 そうして切り返すが、かふらからの返答は意外な物であった。

「ええ、ですがどうぞお構えすることなく。単純に「交渉」をしに来ただけですので」


 二回戦終了から三日後。
 室町時代に建立された寺の柱に凭れかかった唐服の男・壮周(そう しゅう)は、
 立会人を名乗った「馮曼仲(ふう まんちゅう)」(恐らく偽名だろう)と言う男と共に、対戦相手となる白鷺かふらの到着を待っていた。

「あと3分だ……確かそうだったな」

「それはいいですね。カップラーメンを用意しましょう」

「惚けるな立会人。お前は11時になっても来なければその時点で不戦勝と言っただろう」

「戦わないならそれに越したことは……」

「それは残念ですわ」

 一抹の苛立ちを覚えながらも、もう少しで帰れると確信していた壮周の出鼻を、その言葉が挫く。
 その白鷺かふらが現れた。
 お嬢様と聞いていたが、その服装は顔がすっぽり隠れるフード付きのパーカーに下はジャージだ。
 裾をつまんでお辞儀をするスカートもない。
 二回戦で重傷を負ったという情報は嘘ではないらしい。

「はじめまして壮周さま。わたくし……」

「挨拶はいい。そんなもん聞いて何になる」

「白鷺かふらだろう? 白鷺家の。それ以上の情報は要らないよ」

「……そうですか」

 かふらはかふらで、壮周の素っ気ない態度にショックを受けるどころか、恍惚を浮かべていた。
 壮周という人間を「識る」過程での恍惚。
 顔が見えなくても分かる。十分伝わるその狂気。
 彼女特有の、大多数の男性に向けて行なわれる勝手なリサーチであり、アプローチだ。
 それを見せつけるようにやっているが、それでも壮周は機械のように冷静に馮曼仲に言う。

「開始を告げて失せろ。「それでは」も開始のあとの「です」も要らん。ただ開始とだけ告げて、結果が分かる位置で待っていろ」

 馮曼仲は苦笑いを浮かべ、少しだけ逡巡したのち、言われたとおりに「開始」とだけ言って
 寺の奥のもうそろそろ蚊の一匹でも飛んでいそうな茂みへと向かった。


「素っ気ない態度。嫌いではありませんが、それが手を抜く動機にはなりませんので」

「識る過程を終えた後、勝たせていただきますわね」

 そう言ってかふらは自らのスタンド『ティン・エンジェル』を発現させ、壮周のもとへと向かわせる。

 無鉄砲。
 いや、無計画。
 なんにせよ、破壊力もヴィジョン的威圧もまるでない『ティン・エンジェル』をためらいなく特攻させるのには勇気がいる。

「それを簡単にやってのけるか。だが――」

「憧れはせんぞッ!」

 壮周はそう言って自らのスタンド『バタフライ・キッス』を、「人型形態」で発現させる。
 射程距離こそ短くなるが、破壊力とスピード、そして「空ける」穴の規模は蝶々形態の比ではない。

「このままこのちっぽけなヴィジョンを殴ることで終わり――」

 壮周が心の中でそう思った矢先、拳に触れるか触れないかの絶妙な角度で『ティン・エンジェル』はそれを躱した。

「……!」

 だが壮周の切り返しも速い。
 即座に自身を逸れた『ティン・エンジェル』を追うべく振り返るが、足の裏に違和感を覚えその動きが止まる。

「!?」

 違和感はほんの一瞬。
 だがその違和感の正体を壮周は知っている。

「…『ティン・エンジェル』」

 触れたものに接触したものを徐々に癒着させる能力。
 触れている間しか作動しない分、足と地面を癒着させたこの能力はすぐに解除された。
 だが――

「……なるほど」


 振り返るとかふらは居らず、『ティン・エンジェル』の姿もない。
 隙を作る程度のことは、一瞬の足止めでもできるということだ。
 だが、壮周は追われる獲物の心理を熟知する「刈り取るプロ」だ。
 窮鼠が逃げ込み、形成を立て直す機会をうかがう場所など、すでに分かっている。
 少し考えれば、目の前にあるのは誰だって分かる。


 寺の本堂の入り口は、やはり何者かが入ったような形跡を残していた。
 壮周はそれを認識すると、何も言わずに『バタフライ・キッス』を蝶々形態にバラし、戸の隙間から流し込むように飛ばしてゆく。

 人の気配はする。
 ゆさぶりをかけるように壮周は、『バタフライ・キッス』の蹴撃で以て手前の賽銭箱を蹴り飛ばし、扉を破壊する。

 壮周のやり口は飽く迄「狡猾」だ。
 ゆさぶりをかけこそするが、言葉で以ての挑発はしない。
 だからこそ精神的圧迫が相手にはのしかかる。

「だがあの女がそんなタマとも思えんがな」

 口には出さないにしても、壮周はかふらを飽く迄警戒している。
 壮周は、テン・ジャンユと戦うことになるだろうと想定し、計画を練っていたのだがそれをこの女は覆した。
 一抹の不安要素を孕んでいるからこそ、警戒をせざるを得ない。
 壮周の不安は、本堂の中に足を踏み入れてから五歩も歩まぬうちに現実の物となる


「後ろを取りましたわよ」

 音もなく忍び寄り、自分の喉元に匕首を後ろから突き付けるかふらの声があった。

「こっちか。白鷺かふら。底が浅いな」

 かふらの執念を直接認知しているわけではないが、ここにきて壮周は漸く口を開く。
 それも挑発の用途にだ。

「私、その程度の挑発には動じ――――」




 大きな音がした。
 何か巨大な者が落ちてくるような音。
 落ちてきたのは――――「天井」



 本堂の天井が、そのままの形で崩れることなく落ちてきたのだ。


「壮……壮周……さん。こ……これでいいんですね」

 床を『バタフライ・キッス』でくり抜いて瓦礫に埋もれることもなく本堂の下から出てきた壮周を待っていたのは、
 ロザリンド・ルーシー・ステイルその人であった。

 顔立ちは途轍もなくやつれ、疲弊が隠そうともにじみ出ており、
 貧者の誹りを受けてなお曇らなかった誇り高さも、もはや見る影はない。

 先ほどの天井落下トラップは、ロージーと壮周の麗しき共同作業だ。
 天井が落ちてくるように『バタフライ・キッス』で穴を空け、ロージーの『ボンドガール』でそれをふさぐ。
 シンプルだが、有無を言わせぬこの強力無比な能力を組み合わせることで実現する、
 半ば馬鹿すぎる、だがだからこそまともな思考では思いつかないトラップ。

 当然、『ボンドガール』の持続力と精密性では、相当精神をすり減らす操作が必要となる。
 リハーサルなしでロージーはそれを実現させた裏側に、どれほどの気苦労があったことか。
 そんなことは誰にもわからない。
 それを『強いた』壮周さえもよく分からない。と言うより彼は分かろうとすらしない。

「さてさて、終了しましたね?」

 天井が落下してかふらを押しつぶすタイミングを見計らってか、立会人の馮曼仲が再び現れる。
 言うまでもなく、この馮曼仲をも壮周は買収していた。
 ハナからロージーと組んでの、二対一を黙認させたのだ。

「……さて」

 決着は着いた。壮周がすることはロージーとロンドンの仕立屋の始末。
 ロージーはこのあとすぐ殺すとして仕立屋はどうしよう。

「はい、それではこの勝負……」

 壮周がそんなことを考えていた最中、馮曼仲が決着を告げようとした瞬間、


「……? !!!!????」

 馮曼仲の上唇と下唇が「癒着」し、その口をふさいだ。

「『バタフライ・キッスッ』!」

 壮周は間髪いれずに一匹の蝶々を飛ばす。
 その先には案の定、彼女がいた。
 蝶々がとまることによって彼女のフードが削れ飛び、「顔」がその全容を現した。
 皮を剥いだかのように、筋繊維が露出し、「バットマン」の『トゥー・フェイス』を髣髴とさせる顔立ちとなっている。
 間違いない。白鷺かふらは「二人いた」のだ。
 さっきのは顔の半分と声帯の一部を癒着させた『デコイ』だったのだ。


「…………流石に、恐れ入る。今さっきつぶれた奴はどこで調達した?」

「私、白鷺かふらですのよ。壮周様。白鷺家の実力を以てすれば容易き事でございますわ」

 スタンドパワーをほぼ使い切り、戦闘能力が皆無なロージーはアテにできないにして、
 実際のところ壮周もかふらも、驚くべきことに「ほとんど疲弊していない」のだ。

 この状況、どちらからどの解釈で見ても五分。
 残された手段は互いが死ぬまで殴り合うのみ。そう思い、壮周が仕掛けようとした瞬間――


「まいりましたわ」


 唐突に、白鷺かふらは降参を宣言した。


 降参を宣言し、壮周と馮曼仲が呆気にとられる中、かふらは意識を保つのがやっとであったロージーのもとへと駆けよる

「あなたは…………」

「うふふ、こんな顔立ちでごめんあそばせ。わたくし、白鷺かふらと申しますの」

「『ディザスター』からの嘆願を受けて、あなたも助けに参りましたわ」

「…………マル…ヴィ」

「マルヴィナ・シャノン様ですね? 壮周様の手の物が確かに見張っていましたが」

「「滕翦瑜」率いる『実験部隊』が全て始末しておきましたわ」


「…え?」


 その言葉は、明らかにおかしかった。
 テン・ジャンユは、死んだ。死んでいる。死んだ……はずだ。

 なのに、ここから遠く離れたロンドンの地にいる刺客を討つよう命令を下せるか?
 答えは否、いないのだから命令を下せるはずがない。
 テン・ジャンユの不在は白鷺かふらの存在によって既に確定している事実なのだ。
 なのに……

「ええっと…白鷺かふらさん。もう降参ってことでよろしいですかね?」

「ええ、構いませんよ。それはそうと……」


「決着がついた時点で、このトーナメントは終わるのですね?」


 馮曼仲はゴクリと唾を飲み、静かにうなづく。
 そうして告げる。

「この勝負、壮周氏の勝利となります」


 壮周がこれほど焦ったのは、裏世界に身を投じて間もない時期以来。
 そうして、馮曼仲の一言によって決着が完全についた次の瞬間、壮周の意識は途切れた。


 決勝終了から三日後。

 アジア近辺を根城とする老齢の幹部、ソーントン・マグワイアのオフィスに、ある人物の姿があった。

「……情報は本当だったのだな。よもや『ムーン44』のスタンド使いが貴様の影であったとは」

「アイツの能力は強力だからねえ~ 俺もまんまと一杯喰わされたよ」

「……だが、貴様も運がいいではないか。白鷺家の後ろ盾を得て復帰できるとは」

「テン・ジャンユよ」

「してジャンユよ、その影の能力はこれまで『ディザスター』に大いに貢献してきたが、『ムーン44』はもうない」

「その穴はどう埋める気だ?」

 マグワイアの辛辣な言葉に、『テン・ジャンユ』はこう返す。

「そこは副官のかわい子ちゃんと相談するよソニー」

 そう言って『テン・ジャンユ』はマグワイアのオフィスをあとにした。


 オフィスを出て数十歩。
 この『テン・ジャンユ』は『テン・ジャンユ』であって『テン・ジャンユ』ではない。
 中身はもちろん壮周である。


 筋書きはこうだ。


 本物のテン・ジャンユの顔の皮を『ティン・エンジェル』で癒着させ、
 あの時死んだ本物のジャンユは、自身の能力の強力さ故に増長し、ジャンユを陥れた『影』である

 「白郎周(はく ろうしゅう)」というかふらがその場で適当に考えた名前の偽物と言うことにされた。
 (かふら、ロージー、壮周の三人から取った適当極まるネーミングだ)。

 そうして、それから三日後に壮周はテロ鎮圧グループによって殺害されたということにされた。

 テン・ジャンユという『ディザスター』にとって重要な人材は「復活」し、
 かふらはその追撃の手から逃れる(その上、『実験部隊』の副官に収まることもできる)。
 実際のところ、この強引な手口に疑問を抱かぬ者はほぼいない。
 だが――――

「口調はマスターしたようですね。「ジャンユ」様」

「…………疲れる」


 それを言わない方が身のためであるということで、誰も背こうとする者はいない。
 顔と右腕、そして臓器を『実験部隊』と『白鷺家』の総力を以て取り戻したかふらは、そう言って「ジャンユ」に缶コーヒーを手渡した。

★★★ 勝者 ★★★

No.1057
【スタンド名】
バタフライ・キッス
【本体】
壮周(ソウシュウ)

【能力】
とまった場所に蝶々型の穴を空ける








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最終更新:2022年04月17日 14:05