タタン… タタン…
六郎「ZZz…… ンガッ!」
山道を走る列車の中で六郎はいびきをかいて眠っていた。
決勝戦の舞台は山奥にある鉱石博物館……そこへ行くために六郎はこの列車に乗った。
六郎「ほあぁ~~っ…………雨か。」
六郎がふと窓を見ると、無数の雨粒が窓に打ちつけられていた。
そとの景色は六郎が寝始めた時とあまり変わっていなかった。
六郎「午後4時……まだ1時間しか経ってなかったのか。到着まであと30分……でもこの雨なら遅れちまうかもなあ。」
タタン… タタン…
六郎は車内を見渡した。自分の他には観客は乗っていなかった。
六郎「もう一眠りするか……たしか終点だったし、駅員が起こしてくれるだろ……」
そして六郎はボックス席の対面の席に足を乗せて再び眠りについた……。
パウラ「はあ……はあ……はあ……」
トイレの一室にいたパウラは便座には座らず、カギをかけたドアに寄りかかって震える自分の体を両手で抱えていた。
ACE<どうしたのですか、パウラ。こわいのですか?>
パウラ「うん、怖い……でも、がんばらなくちゃ。」
ACE<大丈夫、あなたは強い。……でもあなたにはイマイチ戦いに集中できないクセがある。それがスキを生んで、相手につけこまれるのです。>
パウラ「……うん、そうだねセンセイ。私はこれまでの戦い……そのどちらでも先制攻撃をくらった。だからこそ『今』は……先手をとらなきゃね。」
ACE<そうです。『常在戦場』……敵に言い訳は言わせません。この『チャンス』……逃す手はありませんパウラ。>
パウラ「うん…………」
タタン… タタン…
『列車』の揺れる音と天井に雨が当たる音が聞こえる。
『決戦の舞台へ向かう列車』のトイレにパウラはいた。
パウラ「まさか……『対戦相手が同じ列車』に乗っているなんてね。」
タタン… タタン…
六郎「zzz......」
六郎はまだ眠っていた。足を対面の席にのせたまま、体を横にしていびきをかいていた。
そして…………その六郎の席の後ろに、少女が立つ。
ズガガガガガガ!!!!!
六郎「!!!!」
六郎は大きな音と、自らを襲う大きな『揺れ』によって目を覚ました。
六郎「なんだ!事故か!?」
しかし六郎がそう言うやいなや、自分の体を席から落とされて、六郎は床に転がった。
六郎「なッ……!!」
そして、次に六郎が見たものは、床に転がる自分に覆いかぶさるように倒れる座席。
六郎の体は重い座席に押しつぶされるようにして身動きが取れなくなった。
パウラ「…………『アナザー・センチュリー・エピソード』。固定された座席を『スライド』させて動かし、ヤツのほうに押し倒した。」
パウラからは座席の下敷きになった六郎の姿は見えない。
パウラ「…………なんの反応もないなぁ。気絶したのかな?」
ACE<油断は禁物、ですよ。>
パウラ「ああ、わかってるよセンセイ。ヤツが少しでも姿を見せたらラッシュを叩き込むよ。センセイのスピードには期待してるんだからね。」
ACE<ええ、おまかせくださ……!!>
ACEが構えた直後、六郎に覆いかぶさった座席に無数の突起が生えてきた。
その突起は次第に伸び、シューシューと花火のような音も聞こえ始め……。
六郎「『クレセント・ロック』ッ!!」
無数の突起は、『ロケット』となり、パウラに向けて発射される!
ドシュドシュドシュドシュ!!!
パウラ「!!センセイ、ガードしなきゃ!」
ドドドドドドドドドドドドドド!!!
ロケットの爆発音が連続して聞こえた。車両にもビリビリと衝撃が走る。
ガン!ガコン!!
六郎は座席を蹴り飛ばして立ち上がった。
六郎「よくもやってくれたな……だがこの至近距離でロケットのラッシュ……これを喰らって無事だったヤツはいねえ。」
車内で無数のロケットが爆発し、あたりには煙が立ち込める。
六郎「ゴホッゴホッ……くたばっちまったか?まあ、先に手を出したのはテメエだ。文句は言わせねえよ。」
車内はいくつか窓が開いたままになっており、次第に煙は晴れていった。
六郎「…………ッ!」
六郎が見たものは横たわるパウラの姿ではなく、横に連なった座席。背もたれの裏面にはロケットの爆発による焦げ目がついていた。
六郎「チッ……、そういや『スライド』……つってたか。座席をスライドさせてガードしたってわけだ。
座席から生やしたロケットだ。座席でガードされても道理に適う……。」
六郎は並べられた座席に近づいたが、その向こう側にはパウラの姿はなかった。
六郎「アイツ……どこ行きやがった?」
六郎が周りを見渡すと、あちこちで開いていた窓の中に、上まで開けられた窓があった。
そして、窓の淵には土の足跡が雨に流されず残っていた……。
六郎「クソ、昔の映画みたいなマネしやがる!!」
六郎は窓から身を乗り出して、車両の上によじ登ろうとへりに手をかけて身をあげた。
六郎「あ……あれ?」
しかし、車両の上にもパウラの姿はなかった。
パウラ「こっちだ、オッサン。」
六郎「!!」
パウラの声は車内から聞こえた。
しかし、六郎がパウラの姿を確認しようと振り返る前に……
パウラ「うらぁっ!!」
ドガッ!!
パウラが六郎の腹を蹴り、車外へ突き飛ばした!
六郎「うおおおおおおぉぉぉぉッッッ!!」
ガシッ!
しかし、六郎はかろうじて『クレセント・ロック』で窓の淵につかまり、車両から離れずにすんだ。
六郎「あぶねえぞ、クソガキ!」
パウラ「オオ、しぶといな。………でも。」
パウラは窓に手をかけ……
パウラ「『スライドッ』!!!」
パウラは自分の手で窓を閉め下ろし、クレセント・ロックの指を挟んだ。
六郎「ぁいでえええええええっっ!!!!」
六郎は痛みに耐えかね、クレセント・ロックの手を離してしまい、完全に車両から落とされてしまった。しかも……
六郎「な……う、うおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!!!」
六郎が落ちたのはちょうど列車が深い谷の上の鉄橋にさしかかるところだった。
一度は線路沿いの地面に落ちた六郎だったが、地面を転がって六郎の体は急な崖に投げ出された!
ACE<もうすぐ橋にさしかかると読んでいたのですか?>
パウラ「んなわけないじゃん。グーゼンだよ、ぐーぜん。」
ACE<しかしこれであの人はリタイヤ……生きては戻れないでしょう。>
パウラ「…………列車の上にのぼろう、センセイ。」
ACE<………?>
はじめはこんな大会キョーミなかった。
勝って何があるのかわからねえし。
美容師の仕事も休まなきゃならねえ。
怪我したらそれこそ仕事できなくなっちまうし。
……だが、戦っていくにつれて実感したよ。
俺は、戦っている時が一番充実している。
この能力を一番生かせるのは戦っている時だ。
『クレセント・ロック』……使い時を見つけたんだ。
怪我するのは痛え、ああ痛え。
だが戦っている時、一番生きてる!って実感できる。
『今』も……生きてる!ああ、戦える!!
ドドドドドドドドドド………
崖に投げ出された六郎は、今空を飛び、走る列車を追いかけている。
巨大なロケットに乗って!
六郎「見えてきた……見えてきた!まだ、終わっちゃいねえぜ!!」
六郎は列車の上に立つパウラを捕捉した。
パウラ「センセイ……やっぱりアイツ生きてたよ。『ロケットを生やす能力』……こうなるかもしれないと思っていた。」
六郎「俺は準決勝を勝ったあと、このトーナメントの試合の詳細を調べた。奇しくも列車を舞台にして戦った連中もいてなあ、
そいつは鉄橋から落とされてから列車に追いつく手段がなかったんだと。
だが、俺は違う!まだ戦える!手段を持っているんだ!!」
パウラ「いこう、センセイ。一緒に。トドメは私が指さなくっちゃあならなかった。最後まで絶対に気を抜かない!!」
六郎「俺が戻ってくると予想していたとはな。ガキのクセに……見直したぜ!!いくぜ、俺は最後まで勝ち続けるんだ!!」
パウラ「すぐに終わるよ、オッサン。『アナザー・センチュリー・エピソード』!!」
パウラは列車の上にはりつけられた板を『スライド』させてはがし、風であおられた板は六郎の乗るロケットに飛んでいった。
六郎「…………!!」
パウラ「そう、あんたが戻ってくる事を予想した時……私の勝ちは決まっていたんだよ。
『ロケットに乗ってきた』のが仇になったな……」
板がロケットにぶつかろうとしていた。パウラの目的には……その板の重さは十分だった。
パウラ「自爆しな……自分の『ロケット』によって。」
六郎「――――――!!」
板は六郎の乗るロケットに正面からぶつかった。
パウラ「……………なんだって!?」
パウラは板がロケットに当たるのをしっかりと見ていたが、ロケットは爆発しなかった。
ロケットの推進力に正面からぶつかった衝撃は十分だったはずだった。………『パウラの予想では』。
六郎「……思い込みはいけねえなあ。」
六郎はロケットにつかまったまま、話し始めた。ロケットに変化はなく、列車の上を併走している。
六郎「ロケットは『爆弾』じゃあない、『推進装置』なんだ。もちろん、俺の能力では衝突した瞬間に爆発する『ロケット弾』はつくることができる。
だが基本はロケットなんだ。スペースシャトルを飛ばすロケットは大気圏をくぐるときの衝撃にも耐えられるんだぜ?
板の一枚や二枚当たったところで、俺のロケットには何の影響もない!!」
パウラ「く…………」
六郎「おまえもこの大会を勝ち抜いて……成長したかもしれねえ。まさか俺が戻ってくると読んでるとは思わなかったからな。
だが覚えときな……戦いにおいては『思い込み』が最も危険だと言うことを!」
ロケットは勢いを増して列車に向かっていった。
ACE<パウラ、私の陰に隠れなさい!>
パウラ「え………センセイ!」
六郎「このまま列車に突っ込め、クレセント・ロォォォォォック!!」
ドゴォォォォォン…………!!!!
ロケットが列車に突っ込み、列車は破壊された。
ザァァァァァァァ………
黒い雲が空をおおい、木々に囲まれていっそう暗くなっているその線路には、破壊された列車が横倒しになっており、
その傍らには少女ひとりが横たわっていた。激しい雨が少女の体を濡らす。
パウラ「ん…………痛ッ!」
意識を戻したパウラは両手で自分の身を起こそうとするが、全身に激痛が走り、起きる事ができなかった。
パウラ「骨……いくつか折れてるかもしれない。」
ACE<パウラ…………>
意識を取り戻したパウラの傍らにACEが現れた。心配そうな表情でパウラを見つめている。
パウラ「……しくじった。」
ACE<ええ……>
パウラ「でも、アイツも前の私のようにまだ甘いね。……トドメをささないなんてさ。」
ACE<……………>
パウラ「……アイツは、どこに行った?そのへんに潜んでるのかな?」
ACE<もう………戦わなくていいのです、パウラ。>
パウラ「え?……何言ってんだセンセイ。」
ACE<あの男……勝ちには貪欲でしたが、悪い人間ではありません。彼はわざと……直接パウラにではなく、車両の前方に落ちて車両だけを破壊しました。
きっとロケットで崖から戻ってきた時、これこそが『車両を破壊すること』だけが目的だったのです。>
パウラは破壊された車両を見た。車両は脱線し、線路も切られている。……どうやっても列車は動かないだろう。
パウラ「ああ、そうか……私は負けたんだね。」
ACE<あなたはまだこれからです。………強くなりましょう。>
パウラ「うん、がんばろう………一緒に。」
山奥の鉱石博物館
対戦の立会人が到着した六郎を迎え入れた。
立会人「ロケットで飛んでくるなんてすごい手段ですが、それよりもなぜ全身傷だらけなんです?
あなたはこれから優勝をかけて戦うということがわかっているんですか?」
六郎「………立会人か。そういう人間が立ち会うパターンもあるんだな。」
立会人「聞いてます?」
六郎「ちょーどいい。俺は指定された場所に、指定された時間までに来たわけだが……もし遅れたらどうなってたんだ?」
立会人「はぁー……決勝だというのにそんなことする人がいるとは思えませんが……そうなったら失格ですよ、失格負け。」
六郎「なるほどな……はぁー……」
立会人「そんな展開まずありえませんけどね。興醒めじゃないですか、そんなの考えられない。」
六郎「ハハッ、『ありえない』……か。」
立会人「決勝前にケガしてくるのもありえないと思いますがね。
……あなたの対戦相手もまだ来ていませんが、もう30分で時間ですのでそろそろ来るでしょう。」
六郎「……来るかな?『アシ』もないのに。」
立会人「はっきり言ってあなたは戦いをナメている。そんな満身創痍で勝てると思っているんですか?」
六郎「ああ………たぶん、勝てるさ。」
六郎はソファに深く腰を下ろし、タバコに火をつけてつぶやいた。
【スタンド名】
アナザー・センチュリー・エピソード
【本体】
パウラ