第02回トーナメント:決勝③
No.4343
【スタンド名】
バッド・バード・ラグ
【本体】
煤架 耶樹(ススカ ヤギ)
【能力】
楔を打ち込んだモノを真っ二つに割る
No.449
【スタンド名】
タイト・ロープ
【本体】
ドナルド・“ドン”・ハーディン
【能力】
張力を調整できる縄を操作する
バッド・バード・ラグ vs タイト・ロープ
【STAGE:ビル街】◆rHIQHWITdU
ゴーストタウンと化したビル街……。
その夜の闇に、腰にロープを結びつけ、ドナルド・ハーディンは立っていた。
今までの経験、『幸運』と呼べる巡り合わせ、そして予期せぬ成長。
それらによってここにたつことができていることを、彼は知っていた。
そして、相手がそれと同等の何かを持って、ここに来ていることも。
果たして、相手はやってきた。黒一色のバイクに乗って。
「やっと来たか、遅刻してるぜ」
「いやいや、違うねん、これでも飛ばしてやってきたんやで?」
欠片も謝罪感を漂わせず、煤架 耶樹はヘルメットを脱ぎながら言った。
「俺はドナルド・ハーディン、ドンでいいぜ」
「ども、煤架 耶樹や」
「……」
「……」
しばしの沈黙が流れる。先に破ったのは、耶樹だった。
「『バッド・バード・ラグ』ッ!」
スタンドを発現させ、腰の『クサビ』を投擲する。
放たれた三つのクサビは、寸分たがわずドンの胴体に向かっていく!
しかし、
「んなっ!?」
「そう簡単に食らうと思ってたか?お前が遅刻するもんだからよ、先に仕込んじまったんだわ」
三つのクサビは、途中で何かに『弾かれたようにして』地面に落ちたのだ。
金属質の軽い音が三つ、立て続けに響く。
「糸って、知ってるだろ?アレな、黒く塗るとえらく目立たないんだ。
マジックでもよく使われる手なんだぜ、それをな、あちこちに張ってあるんだ」
「そらまたせっこいなあ……そんなんありかいな」
「遅刻するお前が悪い」
さらりと流すドン、一方、耶樹はムッとした顔で
「そんなら、直接殴るまでや!
突っ込め、『バッド・バード・ラグ』ッ!」
スタンドを先行させ、ドンに向かって突撃を敢行する。
それを見たドンは、にやりと笑う。
「猪突猛進だねえ……長生きできねえぞ」
「そりゃどういう……のわッ!?」
驚きもするだろう、目の前に突然黒い塊が現れ、それが『拳』になって自分に襲い掛かったのだから。
「な、なんやっ、これはぁっ!?」
「俺のスタンドさ……やれ、『タイト・ロープ』」
「おおととっ!」
空中からのラッシュが始まる。拳は一つだけではなかった。
いくらスピードが勝っていようが、数の暴力には勝てない。いくつかガードしそこねて、胴に入る。
「ぐぶ……!」
なんとか拳の範囲から退避し、口元の血をぬぐう。
「どういう仕組みやねん、今のは……」
「結界さ、縄で作った、な」
「メチャクチャでんがな……ま、しかし……」
ゆっくりと立ち上がる。
手には先ほど投擲したクサビがあった。ガードしている間に、回収していたらしい。
「(『クサビ』は回収できたからよしとするで、こればっかりは数に限りがあるからなあ……それに)
あんさんの『スタンド』の正体も、なんだかんだでつかめてきたで。多分、糸かなんかで発現するスタンドでっしゃろ?」
「勘がいいな……ま、そんなところだ。で、どうするつもりだ?」
「そら、決まってるやろ」
そういうと、耶樹はくるりと振り返り、走り出した。
「む……」
「戦略的撤退ってやつや!」
先に『舞台』を作られた耶樹にとって、今、この場所は不利すぎる。
考える時間が必要だった。ドンが松葉杖を持っていることも、『追ってこれない』という判断材料だ。
やがて、耶樹の姿は、ビルの陰に隠れて見えなくなる。
「思ったよりも頭は悪くねえ、か……さすがにここまで勝ち抜いてるだけはあるな」
しかしドンは動かない、どころか、不敵な笑み浮かべている。
「だが、俺の『縄の結界』はここ一帯に仕掛けてあるぜ。つまりそれは、俺の『目』がそこらじゅうに張り巡らされてるってわけだ。
簡単に逃げられると思うなよ?煤架君よ……」
彼は、動く必要がないのだ。
そう、この『縄の結界』はすべて『一本の縄と糸』でできているのだ。
『縄を媒体として発現する』ドンの『タイト・ロープ』の掌握力は、先の戦闘にてさらに『糸』のレベルにまで昇華している。
ドンは、遅刻をしたから、という理由で仕掛けをした、といった。しかし、それは嘘である。
ドンは長大な『縄と糸の混合物』を用意した上で、更に1時間ほど前にここにやってきて、そのすべての仕込をはじめた。最初から、こうするつもりだったのだ。
『圧倒的な勝利』、それをドンは求めたのだ。しかしそれは、相手を見下すためではない。
ドンは足が不自由である、そしてそれは決定的なハンディだ。だから、『これぐらいやらなければ勝てない』という心構えなのである。
「勝たせてもらうぜ……」
悠然と構え、ドンはつぶやいた。
「(クソッ!どういうこっちゃ!)」
心中で悪態をつく、しかし無理もない。
何せ、行く先々で拳が現れ、耶樹を襲うのだ。
次々と襲い掛かるそれを何とか捌きつつ、耶樹は走る。息も少し切れてきた。
「(どんだけ長い縄やねん、しかも全体的に張り巡らされとる……これ絶対、ワイが遅刻してなくても仕込んであったやろ。
しかも、スタンドがいるちゅーことは、こっちが見えているってこと……これじゃ筒抜けやんけ、反撃も何もあったもんじゃないわ。
何とか出し抜かんと……おっ、アレは……!?)」
攻撃をかいくぐりながら耶樹は視線の先に『あるもの』を見つけた。
好都合なことに、今まで襲われていた糸からは死角になっている。
会心の笑みを浮かべながら、耶樹はそれに向かって走った。
「……これは?」
ドンの表情に不可解なものが走った。
つい5分ほど前、耶樹の姿が、物陰に隠れて見えなくなった。それ以降、影も形も見えないのである。
「何か策でも講じたか。
まあ、このまま降参するってことはないとは思ったが……いやしかし参ったな」
少しも参ったような顔をせず、ドンは一人ごちる。
それまでに準備を整えておくまでだ。『これ』は使わないと思ってたが、どうやらそういうわけにも行かないらしい。
ドンは待ち受けることにした。どうせ相手もこの戦場から出ることはできない、ならばゆっくりと行くのも、悪くない。
薄暗い場所。
耶樹が見つけたのは『マンホール』であった。
そして予想通り、地下には『縄の結界』は仕込まれていなかった、当然といえば当然であるが。
「落ち着け……ゆっくりや……慎重にいくんや……」
その中で、耶樹はブツブツとつぶやきながら、目の前の壁に向かって『クサビ』を打ち込んでいた。
額に汗水がたれる。精密動作性-Aクラスの『バッド・バード・ラグ』でさえも、この作業は精神を削り、骨を折る作業だ。
「じっくり……じっくりや……焦るな、ワイ……」
そして、最後の『クサビ』を、打ち込み終える。
「これで仕込みは完了……あとは、ワイの度胸しだい、か……」
額の汗を拭い取りつつ、一息つく。
そして見据える。今ここからでは見えないが、対戦相手である、ドンを。
「……お、っと?」
ドンが顔を上げる。そこには、耶樹が立っていた。
「ずいぶんと長く隠れてたな……『マンホール』と気づくのには少し遅れたぜ」
「あら、ばれてたんかいな。けど、もう関係ないやろ」
「まあな、だからこうして姿を現したわけだろ?どんな仕込をしてたんだい」
「そこまで見抜かれとるか……ま、ええわ。詮索の必要なんてないわけやからな」
そういうと、耶樹はひとつの『クサビ』を取り出した。
「さっきも飛ばしてたよな……その『クサビ』、能力のキーなのはわかるんだが、どういう能力なんだ?」
「クク、そうやな、せっかくだから教えといてやるわ。
ワイの『バッド・バード・ラグ』の能力は、このクサビで物を『割る』ことや。で、こいつを、今ここに突き刺すとやな……」
あっさりと説明する耶樹に対し、思わずドンは拍子抜けする。
そこまで言うと、耶樹は、『クサビ』を地面に落とした。それは、軽く地面に刺さる。
「?」
「見せてやるで……ワイのとっておきやッ!
割れろオオオオォォォォ――――――――――――――ッ!!!!」
雄叫びを上げ、『バッド・バード・ラグ』が、全身全霊の力をこめて、それを踏みしめる。
直後、大地が鳴動する。すさまじい地響きだ。
「!? なんだ!?」
「このクサビはな、起爆装置や。あるやろ?導火線に火をつける火種なんやで」
そして、ついに鳴動の原因が明らかになった。
ゆれていたのは、大地ではなかった。それは、周囲に建ちそびえる、巨大な巨大な―――
ビル郡だッ!!
「なにィィィッ!?」
「食らいやぁッ!」
叫んだ瞬間、耶樹の体が遠くに飛んでいく。しかしドンはそれどころではない。
「(この圧倒的質量、崩落による破壊力!こいつはまずいッ!)
だが!俺の『タイト・ロープ』は集まるだけなら時間はかからんッ!集まれッ、『タイト・ロォォォォオプ』ッ!」
叫んだとたん、この一帯に仕込まれた『糸』と『ロープ』がものすごい勢いでドンの下に集まっていく!
集まったスタンドであるそれらは、ドンをグルグルと取り巻いていき、そして―――――
ドゴォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!
すさまじい轟音と瓦礫と煙を撒き散らして、全てのビルが、崩壊した。
耶樹がやったのは単純明快、『地下のビルの基礎に『クサビ』を打ち込むこと』である。
しかし、それには綿密な計算と、正確な手加減が必要であった。万が一やりすぎれば、その場で崩れて自分がお陀仏である。
それでも、耶樹はそれを全てこなした。あとは、それを蜘蛛の巣状にクサビで加減して『ヒビ』を入れ、地上のその中心で『クサビ』を打ち込めば、大崩落の完成である。
しかしこの作戦、もしもドンがその場所を離れてしまったら、どうするつもりだったのか?答えは『考えていない』だ。あんまりといえばあんまりである。
理屈ではない何か、それを感じ取ったとしかいえないであろう。事実、ドンは動かず、大崩落に巻き込まれたのだ。
ちなみに、耶樹が飛んでいったのは、『クサビ』で割った街灯の破片を能力解除で引き寄せさせたものだ。『クレイジー・D』と同じ要領である。
「こいつは本当に参ったもんだぜ……。
まさかビル街ひとつ崩すとはな、弁償代とかどうなってやがるんだ?」
ドンは、生きていた。ロープを全て収束させ、分厚いドームにしたのだ。
普通の縄であればそのままつぶされるが、これは違う、『スタンド』だ。その張力を最大限にまで引き出し、ビルの瓦礫をも防ぎきったのだ。
あとは、スタンドの人型の部分を外に出し、少しずつ瓦礫を取り除いていけばでることは可能だ。その作業にとりかかろうとした瞬間、耶樹の声が響いた。
「どうや?ドンさん、ワイの仕掛けは?」
「どうも何も……めちゃくちゃすぎるぞ、お前」
「ハハハ、全力で挑まんと、勝てそうになかったんでなあ、時間かけたんやで」
「だが、結果として俺は生きてる。俺の守りはそう簡単には破れんぞ?」
この『縄のドーム』の防御力には、ドンも自信がある。
ビルが崩れてこようが防げるのだ。それをどうこうできるとは思わなかった。それが『いけなかった』のだ。
「甘いなあ、油断禁物なんやで?」
そこまで来て、ようやくドナルド・ハーディンは己の失策に気がついた。
ついさっき、そう、ついさっきこいつは、自分で言ったではないか。
こいつの能力は―――
「『割れろ』」
声とともに、視界が開けた、いや『開かされた』。
鉄壁であるはずの、刃物はおろか、銃弾さえも防ぎきれると豪語できる、己の『縄のドーム』が。
目の前の男の、たった一つの『クサビ』によって、周囲の瓦礫ごと、その入り口を開いてしまったのだ。
「な」
「止めってのはな、あくまで自分でさすものなんやで?
最後まで、抜かりはしないものや」
間に合わない。周囲に展開した『タイト・ロープ』を人型に変えるには、圧倒的に速度が足りなかった。
「ぐおっ!」
胴に蹴りを食らい、地面に倒される。
そして、馬乗りになり、顔面に向かって『クサビ』を突きつける。
「どうや?降参、するしかないんとちゃうか?」
「クッソ……うっかりしてたぜ。
勝つと約束したんだがな」
「まあ運も多少絡んでたで。けどこっちも負けるわけにはいかんかったんでな。で、降参するんか?」
「チッ……しゃあねえ、参った、降参だ。これ以上ボコられたくないからな」
ついに、ドンが白旗を揚げた。
「確かに聞いたで?」
「おう、だから早くどいてくれ。そろそろ『タイト・ロープ』が限界だ……!」
「へ?……ぬおおお!」
『割れ目』を入れられたせいで、ドームの防御力は低下していた。
そんな状態で放置されれば、誰にでも結末は思いつく。
結局、再び瓦礫に埋められた二人は、30分の後、泥だらけ煤だらけで残骸から這い出たそうだ。
★★★ 勝者 ★★★
No.4343
【スタンド名】
バッド・バード・ラグ
【本体】
煤架 耶樹(ススカ ヤギ)
【能力】
楔を打ち込んだモノを真っ二つに割る
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最終更新:2022年04月13日 22:45