季節はずれのクリスマスツリーのような格好をした少女と、片腕を白巾で吊った少女。
その2人が朝日を浴びる橋の中央で、お互いの顔を見て立ち止まる。
その間合い、7~8mといったところか。
(ギリギリの距離、だね……)
『クリスタル~』が攻撃しても届かない距離。
しかし『フェイセズ~』が吸収を開始しても、完全に『絞られる』までに距離を詰め、ガブリエラに攻撃を加えられるであろう距離。
(私に出来るのは『一撃』……かな……)
硝子の緊張が更に高まる。
長い長い数秒間の対峙 ―
「あ、そうだ!」
その沈黙を破ったのは、何かを思い出したかのようにガブリエラの声。
「……?」
「ね~知ってますかあ?わたしたち、しあい中なんですよ?」
「うん……!?」
硝子に嫌な予感が走る。
「えへへ……いきまーす!フェイちゃん!」
ブワッ!と橋桁の隙間から。『雲』が飛び出す。
一瞬で硝子の周囲に『フェイセズ~』が立ち込めた。
(!……既に……っ!)
ガブリエラは試合開始からずっとスタンドを展開させていた。
硝子からは見えない、橋の下に。
それを今思い出した、という訳か。
「『たおしたら勝ち』~うふふ♪」
纏わり付き、吸収を開始しようと蠢く『フェイセズ~』。
だが、急激にカサつていく唇の感覚にも硝子は意外なほど冷静だった。
(そう……どこから来るのであれ、こうなることは解ってた……あとは私が予定通り動くだけ!)
まずはガブリエラに向かって駆け出す!
「『クリスタル・ピース』!」
走りながらスタンドを発現させる。
人型で現れたそれは朝日を受けて眩しいほどに輝いている。
(あ!……あのきれいなスタンド!)
ガブリエラが目を奪われた一瞬 ― その瞬き2回ほどの間に『クリスタル~』が彼女の腕を掴もうとする。
「わわっ!フェイちゃんこっち!」
『クリスタル~』に少し遅れてガブリエラの元へと詰め寄る硝子。
主人の元に集まろうとする『フェイセズ~』。
目前に近づいた硝子が息を切らせながらガブリエラに問う。
「はぁ、はぁ……寿さん……泳げる?」
「ん?……およげ……ないですう……」
「……そう。私も泳げない」
「ん?」
その会話中にも『フェイセズ』は硝子にまとわりつき……そして吸収を開始……しようとしたのだが、
(これが……私の選んだ『一撃』!)
それはその場で粒子化してガブリエラを切り刻むことでもなく
― 与えられた数秒でガブリエラを『絶命』させる自信がなかった
それは人型のまま、殴打ラッシュを仕掛けることでもなく
― 同じく数秒でガブリエラの意識を喪失させる自信がなかった
ガブリエラを抱えこんだ『クリスタル・ピース』は、そのまま橋の欄干へと向かい、それを乗り越え、
「わあああああああぁぁぁああぁ!」
ガブリエラの悲鳴とともに、池へとダイブする!
外したメガネを内ポケットにしまいつつ大きく息を吸い込むと、硝子も続いて飛び込んだ。
ドボン!
ドボン!
と2つの水音がした後を、のっそりと『フェイセズ~』の『雲』が追いかけていく。
(……あの娘らは、何をしておるのだ……『両者溺死』では立会人たる我輩の面目がたたんぞ……)
2人が落ちた水面の波紋を眺めつつ、高欄上で腕を組む実の眉間にまた皺が寄る。
(あ……腕……)
水面に落下した際の衝撃で、義手が外れてしまった。
浮き上がっていく義手を、若干の寂しさを伴いつつ見上げながら、池の中へと沈んでいく硝子。
水深は2~3mというところだろうか。
(『クリスタル・ピース』……!)
と、沈降が止まる。
硝子の体を支えているのは、自分のスタンドで作った『ガラスの浮き』。
泳げない自分でも、これを操ることで水中での浮沈や移動は自由に出来るだろう。
そして、中の空気を使えば当面は呼吸にも不自由しない。
なによりも、自分が水中にいる限りは……
(これであのスタンドの『水分吸収』を封じられるはず!)
いくら『フェイセズ~』が凄まじい吸収能力を発揮しても、周り中が水である。
池の水を吸い尽くしでもしない限り、自分にダメージが及ぶことはないだろう。
そもそも、これだけの規模の池の水を吸い切れるとはとても思えない。
どこかで飽和するはずだ。
それが硝子の計算であった。
吊る腕がなくなった白巾が体にまとわりつく。
(このまま、水の中で勝負をつけるッ!)
それを引き剥がしながらガブリエラが落下したであろう方へ、彼女を探す為に移動を始める。
一方のガブリエラ。
「がぼばばばばばばば!」
池の中で不恰好に手足をばたつかせる。
苦しさから息を吐き出しかけると、口の中に水が流れ込んでくる。
欲張りなリスのようにほっぺたを膨らませるが、みるみる顔が赤くなる。
(ぐぐぐぐぐるしいぃいいいいいぃいいい~~~~!フェイちゃんたすけて!)
池の中まで追いかけてきた『フェイセズ~』がガブリエラの体に纏わり付こうとする。
が、その体を構成する水分が、逆に周り中の水に遮られうまく動けない。
(ぐる……息ができないいぃぃぃぃ!)
ガブリエラの顔の周りで無理やり膨張し、水のないスペースを作ろうとする『フェイセズ~』。
一瞬、大きな泡が出来たが、すぐに無数の気泡となって上に浮いていく。
苦しさからそれを吸い込もうとしたガブリエラは、逆に大量の水を飲み込むことになってしまった。
「がぼっ!」
嚥下の反射で大きく咳き込む。
その反動でまた水が口に入る。
「がぼぼぼぼぼぼぼ」
(く、く、くるし…………)
気が遠くなる。
体はどんどん沈んでいく。
(やだぁ……やだあ!……まだ『ネズミィランド』であそびたいし……おいしいものも……)
カプッ……
力なく口が開き、肺に残っていた空気が泡となって吐き出される。
朝日差す水面に向け、それはキラキラと輝きながら浮かんでいく。
(…………あ……きれい……キラキラで……あのスタンドといっしょ…………)
無意識のうちにその泡へと手を差し伸べながら、沈みゆくガブリエラの視界は暗くなっていった。
(あの子……どこにいるの?)
自分と共に池の中に落ちたはずのガブリエラが見つからない。
そんなに自分と離れた位置に落ちたはずはない。
ここは池。遠くへと流されていくとも思えない。
(はやく見つけなきゃ……)
勝負をつけるという意味でも、そしてガブリエラがそのまま溺れて沈んでいる場合を想定しても、だ。
『クリスタル・ピース』の『浮き』を調整して体を沈め、池の底を探ろうとする。
(……あれ?)
硝子は異変に気づく。
池の底がさっきより明らかに近い。
(なんでここだけこんなに浅……えっ!?)
池の底に足がついてしまった。
(違う……水が……)
ゆっくりではあるが、池の水位が徐々に下がっていることに気づく。
水底に立つ硝子の頭が水面からじわじわと露出し始め、とうとう目の高さまで水位が下がる。
(……これは……!?)
水面には、さっきまで自分の左腕に嵌っていた金属製の義手が浮いていた。
いや、浮いているだけではない。
なにかに吸い寄せられるように、スーっと自分の後方へと流れていく。
その義手の動きに釣られるように、首と目線を動かした硝子の表情が凍りついた。
(……!!!……こ、こんなっ!)
高欄の上から湖面を眺めていた実も、同様に驚愕の表情を浮かべていた。
池の中央から、ぐぐっと巨大な水の塊がせり上がり始めたのだ。
(なんだ!?この化け物はッッッッッ!)
その高さは、やがて実の立つ高欄を超え……水面から20m程はあろうか。
更に大きくなり続けるその塊から、ズボォォォォ……という音を立て、巨大な水の右腕が突き出した。
「……ん~……ん?」
ガブリエラが目を覚ます。
「……あ、寝ちゃってましたあ……えへへ」
ぼーっと、目を開ける。
「……あれぇ?ここはどこですかぁー?」
自分の視界が随分高いことに気づく。
すっかり明るくなった『ネズミィランド』の園内が眼下に一望出来ている。
「んん?」
そして……自分の下に見える橋には見覚えがある。
あの橋から、硝子と彼女のスタンド『クリスタル・ピース』と共に池へと落下したはず。
「あれえー?あそこからお池に落ちてー……落ちたのになんで高いの?……フェイちゃんはどこ?……あ!」
自分のスタンドの位置を感じ取ろうとして、ガブリエラは全てを理解した。
自分がいるのは『フェイセズ~』の中。
正確に言えば、池の水を超高圧力で固定し巨大な塊となった『フェイセズ~』の内部に作られたスペース。
しっかり呼吸も出来ている。まるで巨大ロボのコクピットの様な空間だ。
「フェイちゃんすごおおおおおおぃ!」
歓喜の声を上げる。
ガブリエラは水分を高い圧力で固め、人間すら乗ることの出来る『雲』を何度も作っていた。
あとは規模や程度……スタンドパワーをどれだけ発揮出来るかの問題だ。
全盛期イチローのように3打数で8安打を放つことは、通常の因果の中に生きる人間には不可能だろう。
しかし、ボルトがもっと足を早く動かせば100mを3秒で走り抜けることも出来るだろう。
室伏の筋力がもっとあれば、投擲したハンマーに地球の重力圏を突破させることも出来るだろう。
― たったそれだけのシンプルな限界突破。
溺れる寸前、無意識のうちに絞り出されたガブリエラの『力』。
それは『フェイセズ~』に池の水の大半を吸い上げさせ、そのまま凄まじい圧力で山のような水塊として固定してみせた。
その水塊からは巨大な『右腕』が生え、表面には無数の不気味な顔が浮かんでいる。
「こんなにパンパンだけど……動かせるかなぁ……ぐぬぬぬぬぬ」
彼女がギュッと眉を寄せ、スタンドのコントロールに意識を集中すると『右腕』がぐうっっと持ち上がる。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぅーーーーーーー!」
愛らしい額に青筋を立てながらも、ガブリエラは満面の笑みを浮かべていた。
つぅ……っと一筋、鼻血が垂れる。
「わー、すごい!……ためしにーーーーとりゃあー!」
『フェイセズ~』の『右腕』を、たまたま目の前にあった『なにか』 ― 橋の高欄目掛けて振り下ろす。
数メートルはある水の拳!巨大質量の直撃を受け、高欄は粉々に砕ける。
一方、水で出来た『右腕』は、砕けることも弾けることもなく腕の形を保ったままだ。
――――――――――
「なッ……!?うおおおおおおォッッッ!!!」
高欄の上で呆然としていた、この試合の立会人『五百旗頭 実』は溜まったものではない。
巨大な水の化け物が突然自分に向かって腕を振り下ろしてきたのだ。
直撃される寸前、危機一髪で橋の上に飛び降り、砕け落ちる高欄を見上げる。
その背後にそびえ立ち、ゆっくりと蠢く水の塊。
(ぬうっ……あの化け物……いや、水の塊の中にいるのはあの小娘!?これは彼奴のスタンドか!?)
(なんという『力』……かくも巨大な化け物相手に……如何にするッ!?)
ガブリエラの『力』に驚愕しつつ、硝子の方へと目をやる実。
池の水位は、既に硝子の腰のあたりまで下がっていた。
――――――――――
「フェイちゃんつよおおおおい!」
『フェイセズ~』内部のガブリエラは、あっさりと石の高欄を砕いてみせた自分のスタンドにまたも歓声を上げる。
「……で、なんだっけ?……あ!『しあい』!『たおしたら勝ち』でした~……えーと」
キョロキョロと下を見回すガブリエラ。
すっかり水位の下がった池の中、呆然と『片腕だけ生えた水の巨人』を見上げて立ち尽くす硝子がすぐに目に入った。
「うふふ~♪見つけたですよ~~~~。フェイちゃん!もういっぱついくよ!ぐぬぬぬぬぅぅぅぅ~~!」
ポタポタと鼻血を垂らしながら、またガブリエラが『力』を込める。
巨大な右腕を振り上げながら、地鳴りの様な音をさせながら『フェイセズ~』が硝子ににじり寄る。
巨大な水の塊が蠢く。表面各所に浮かび上がる不気味な顔は、低い呻き声をあげている。
池に飛び込む時メガネを外した為良く見えないが、塊の上の方に人影があるのが見える。
(あれが……あの子……?……これは、あの子のスタンド……?)
呆気に取られていた硝子は、頭上に出来た影に我に帰る。
(ハッ!……いけない!)
「やっちゃええええええー!」
ガブリエラの号令一下、腕が硝子目掛けて振り下ろされる。
(あ、危ないっ!)
躱そうとするも半身は水の中である。簡単に飛びのく訳にもいかない。
凄まじい水音をさせて、『フェイセズ~』の拳が水面に叩きつけられた。
「きゃあああっ!」
直撃はなんとか交わしたが、すぐ近くで発生した衝撃波、そして巨大な波をもろに浴び、硝子の華奢な体が吹き飛ばされる。
片腕の硝子には上手く受け身が取れない。更に水深の浅い場所に飛ばされ、したたかに尻餅をついた。
「痛っ……!」
右腕で素早く体を起こし、『フェイセズ~』から少しでも離れようとする。
そんな硝子に、遥か頭上からガブリエラが自分に向けて叫ぶ声が聞こえた。
「うっふっふーーー!おねえちゃん!『たおしたら勝ち』ですよーーーーー!」
(やっぱり……あの中にいるのはあの子か……)
顔を確認しようと、胸ポケットにしまったメガネを取り出し顔に掛ける。
矯正された視力で見てみれば、やはり『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』から自分を見下ろすのはガブリエラだった。
(……あ!……メガネ…………)
メガネを掛けた硝子は、ハッ!、っと何かに気づき、そしてゆっくりと後ろを振り向く。
すっかり上り、初夏の日差しと呼ぶに相応しい輝きを見せ始めた太陽。
(……そっか……メガネで……出来るかな?……ぶっつけで……)
硝子の逡巡を破るように、上からガブリエラが叫ぶ。
「うふふ~♪『たおしたら勝ち』なので、おねえちゃんをたおしますよーーー!うっふっふ~♪」
ガブリエラがその言葉を言い終わらないうちに、硝子はくるりと背を向け、岸へ向け走りだす。
「あ!まてー!にげるなー!フェイちゃん!………ぬぬぬぬぬぬぬぬ!」
逃げる硝子を追いかけようと、己のスタンドを動かすため『力』を込めるガブリエラ。
再びポタポタッっと鼻血が迸るが、気にする様子はない。
ゆっくりと巨大な水の塊が、ガブリエラの意思によって動き始めた。
バシャバシャと水を跳ね上げながら、必死で走る硝子。
後ろからは巨大なガブリエラの操縦する巨大な水の塊『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』が迫る。
「まてー!まてー!」
流れる鼻血を気にすることもなく、ガブリエラは笑いながら『力』振り絞り硝子を追跡する。
「はぁ……はぁっ……」
もう太陽は完全に昇り、強烈な朝の日差しを園内、そして硝子に浴びせている。
思えば、仮眠のためにベッドに入ったものの、少しも寝られなかった。
硝子にとっては徹夜で戦ってるようなものだ。
『自分は体が弱い』 ― これまでの人生、ずっとそう思っていたのだが。
(……これだけでも……私、随分『強く』なったよね……ふふっ)
危機的状況にも関わらず、心のなかでつい苦笑してしまう。
とは言え、体中打ち身だらけ、普段の硝子の生活なら数年分ともいえる運動量を一晩でこなし、とっくに限界を超えている。
もし気を抜けば、たちまち気を失って倒れてしまうかもしれない状況。
(これが……私の最後の『手段』)
立ち止まり、そしてガブリエラと『フェイセズ~』へと向き直り、ピッと伸ばした隻腕をガブリエラに向け、指を広げて掌を見せる。
「寿さん……これが私の最後の『手段』……」
呟くように硝子が言う。
距離のあるガブリエラにその声は届かない。
「ぐぬううううう……あ!」
それでも、逃げていた硝子が突然立ち止まった事に気づく。
ガブリエラも先程から鼻血を垂れ流すほどスタンドパワーを振り絞っているのだ。
疲労がない訳がないが……それでも彼女は嬉しそうに笑っている。
「ふう……ふう……フェイちゃん!もうひとがんばり!いくよお!うぐぐぐぐぐぐぐ」
『OHHHHォォォォゥOOOォOOOHHホォHHHH……』
一斉『フェイセズ~』表面に浮かぶ顔達がに低い唸り声を上げる。
「せーの!んぐぐぐぐぐぐぐ!……ん?」
『フェイセズ~』の『右腕』をまたゆっくり振り上げながら、ガブリエラは気づく。
遥か下。
自分に向けて隻腕を突き出した硝子の周りにキラキラと光るものが無数に浮遊していることを。
「あー!ずるい!またきれいなスタンド!……いいなぁ……あ!でもっ!『たおしたら勝ち』っ!」
更に『力』を込めるガブリエラ。プシュッ!と鼻血が吹き出す。
巨大な水の『腕』は垂直近くまで持ち上がった。
(『クリスタル・ピース』……最後の攻撃……)
煌めく破片が寄り集まっていく。
伸ばした隻腕の上に細長いロッド状の物体を形成。
その端は『フェイセズ~』上で『力』を込めるガブリエラに向いていた。
続いて、他の破片は後方に展開しつつ形を作っていく。
中心に直径数メートルの円盤状の物体が出来る。その周囲にも無数の小さな円盤。
そして立方体 ― これはプリズムだ。
そして大小の円盤はレンズ。
ロッドの後端には集光のためのプリズムとレンズ、そしてロッド内にも集光点距離を調整するためのいくつかのレンズ。
「太陽の光をかき集めて……狙撃する!」
「ん~?……なぁにあれ……」
ガブリエラは硝子のスタンドが何か(何かは解らないが)の形に集まっていることに気づいた
「んー……せっかくキラキラできれいなスタンドなのに……」
『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』の腕を振り上げたまま、ちょっと考える。
「わたしがだったら、もっとかわいい形にするのになー……ミギ―マウスとかー……えへへ」
硝子の顔に『ゴーグル』が掛けられる。『クリスタル~』の照準器だ。。
背後のレンズやプリズムが、ロッドの後端に光を集めるべく慎重に動き始める。
『フェイセズ~』は水で出来ている。その屈折も計算にいれなければいけない。
『ゴーグル』越しに見える『フェイセズ』内部の人影に向け、ロッドの先端をピタリと合わせる。
これだけの規模の集光・収束装置である。
焦点……集光点の温度は3000k ― 鉄が『溶ける』どころか『沸騰』し気体になる温度 ― を超えるはずだ。
『ゴーグル』の曲面を調整する。視野の中のガブリエラが大きくなる。
ついにはその表情が解るまでに拡大された。鼻血を流しながら上の空で何か考え事をしている。
中心にガブリエラの眉間を捉える。
(……勝ったッ!……)
このまま完全に太陽光をロッドに集中させ、ロッド内のレンズを微かに動かし、焦点距離をガブリエラに合わせ照射する ―
それだけで照射された部分は瞬時に『蒸発』するはずだ。
(これで……私の勝ち……)
ガブリエラの眉間を見据えながら、硝子は自分の勝利を確信する。
口角を上げ、勝利の笑みを作ろとする。
作れない。
意思とは裏腹に下唇は勝手に『への字』を作り、ヒクヒクと痙攣する。
1回戦の結末。血の匂い。
2回戦の結末。血の匂い。
(……でもっ……これで終わるんだよ!私の勝ちなんだよ!)
【……強くなりたい……】 ― 招待状を受け取った日、強く強く願ったこと。
【『戦い』とは、そういうものだと『割り切れ』】 - 2回戦の相手に言われたこと。
(『そういうもの』なの?……『強くなる』って、こういうことなの?)
不意に視界の中のガブリエラの顔が動いた。
「あ、キラキラで作るなら、チンカーベルとかもいいなー……ぜったいかわいいよーうふふ……あ!」
「……ん?……なんだっけ……あ!」
『キラキラのスタンド』でどんな形を作ったら『かわいいか』を考えていたガブリエラは、急に我に帰る。
「……『しあい』のとちゅうでしたぁ……えへへ……えーと」
キョロりと下を見回し、変形させたスタンドと片腕を自分に向けたまま固まっている硝子に気づく。
「あー!いたー!おねえちゃん!」
弾けるような笑顔。鼻血を垂れ流し続けてはいるが。
「うふふーたおしますよー!フェイちゃん!いくよぉーーーーー!」
『OHOOOォォォォォォォHHHHォォォォォゥゥゥゥゥ……』
『フェイセズ~』表面に浮かぶ顔達が一斉に硝子を睨む。
そして再び巨大な水の塊は動き始めた。
(!……)
動き始めた『フェイセズ~』にビクッっとする。
(くっ!……)
【強くなりたい】
再び照準をガブリエラの眉間に合わせる。
金髪の少女が笑顔が見える。
【割り切れ】
大きく息を吸う。
【割り切れ】
失ったはずの左腕がズキリと痛む。
【割り切れ】
ロッド後端に光が集る。
(……………違う………こんなの)
『ゴーグル』の中で目を伏せる。
そして『フェイセズ~』の腕が硝子の頭上に迫る。
ガブリエラの顔から『ゴーグル』の照準を外す。
(……違う……けど……まだ出来る事が必ず……私は諦めない!)
しっかりと『フェイセズ~』を見据える。
池の水を吸い尽くし、固まった水の塊。
今にも自分にその巨大な右腕を叩きつけようとしている。
(あ……あれは……私の『腕』……?)
池に落ちた時外れて、流れていった硝子の義手が、水と共に吸い上げられたのだろう。
それが『フェイセズ~』の『腕』の付け根あたりに漂っているのが見えた。
(!!っ!これっ!)
閃き。
グウウウウっと『フェイセズ~』の『腕』が硝子の上に影を作る。
慌ててその義手に照準を合わせる。
偶然には違いない。
まるで硝子の思いを誰かが後押ししてくれたかのような偶然。
「ふううううぅぅぅぅ……そりゃあーー!」
ガブリエラが笑顔で叫ぶ。
鼻血がドプっと迸る。
硝子の姿を真下に捉えた『フェイセズ~』がグワンと振りかぶられる。
(集光よし、収束よし、距離よし、射角よし……)
(よし!……撃てッ!)
プリズムが一斉に煌めく。レンズが輝く。
ロッドの中のレンズがギュッと固定される。
白い光線が一条、レーザーの様に『フェイセズ~』の中を漂う義手に向けて照射された。
金属製の義手は『クリスタル~』で極限まで収束された太陽光によって、たちまち数千度に達する。
当然のようにその周囲の水がぶくぶくと泡立つがが、強い圧力で固められた『フェイセズ~』の中である。
白熱する義手を包むように、最初、わずかに気化した部分のみが固定された小さな『水蒸気の泡』となる。
加熱蒸気 ― 高圧の中では水の沸点は上昇する。
周囲の水はぐんぐんと温度を上げながらも、まだ気化しない。
(間に合え……っ!)
そして『フェイセズ~』の腕が振り下ろされる ―
その動きは『フェイセズ~』内部の圧力にムラを作り出した。
刹那。
義手周囲の『水蒸気の泡』が弾ける!
その超高温の蒸気は膨張しながら瞬時に一帯の水温を上げる!
元から高温だった周囲の水はさらに膨張しながら、さらに周辺の水の温度を上げる!
その連鎖がコンマ数秒の間に発生した結果、もたらされたものは
水蒸気爆発
「……りゃあああ……ん?」
腕を硝子目掛けて振り下ろしたはずが、スタンドの感触に違和感を感じるガブリエラ。
「んん?」
その瞬間だった。
ゴバァ!と音がして『フェイセズ~』の腕の付け根が膨らむ。
「ん……?」
と、膨らんだ場所に目をやろうとした瞬間。
膨張する水蒸気の力が、水を抑えこむ『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』の圧力を凌駕した。
ド ン !
「わああああああああああああああああああああああ!!!」
スタンド ― いや、巨大な圧力で抑えこまれていた水 ― 『フェイセズ~』を形成する要素である ― が爆発する!
そしてガブリエラの全身に強烈なショックが走り……気を失う。
爆散、そしてガブリエラの気絶により、縫合を失った大量の水が空中で弾けた。
(やった!……って……)
「あ……きゃああっ!」
硝子の上で弾けた『フェイセズ~』の腕。
つまり、頭の上にドーム球場をひっくり返したかのような水がぶちまけられたのである。
「『クリスタル・ピース』!!!」
瞬間『クリスタル~』は姿を変え、硝子を守るようにテント状に展開する。
一瞬遅れて、ドバっと水が降ってきた。
あたり一面を水浸しにしながら、全ての水が地面に落ちた。
池はみるみる水位を戻していく。
『クリスタル~』のテントを散開させ、池の方を眺める硝子。
(あ……)
さっきまで『フェイセズ~』の塊があった池の上空には、虹が掛かっている。
夢の国に一瞬現れた、夢の様な光景 ―
(………………あ!あの子は!?)
不意にガブリエラのことを思い出す。
池の水面を目で探ると、気を失ったガブリエラがぷかりと浮かんでいた。
ゆっくりと意識が戻る。なんだかちょっと体がだるい。
(……ん……んー?)
誰かが自分の近くにいる。
会話する声が聞こえてくる。
「フム……スタンドが破裂しても、不定形ゆえ肉体的損傷は特になし、か……止めを刺さんのか?」
「……少し待ってください」
(あれー?わたし、また寝ちゃってたのかなー……えーと……なんだっけ?)
薄目を開ける。
どうやら自分は、ベンチか何かの上に寝かされているようだ。
近くに人が2人、立っているのを感じる。
(えーと……あれ?『しあい』は―……なにしてたんだっけ?)
(あ、おねえちゃんをー……フェイちゃんでたおそうとしてー……)
(あれー?なんでわたし、こんなところで寝てるのー?)
もうちょっと目を開けてみる。
「あ……!」
自分の顔を覗きこんでいた硝子と目が合ってしまった。
思わずまた目をつぶる。
(そーだ!なんかフェイちゃんが、ばーーーんてなって、またお池に落ちてー……『しあい』中でした!)
「……寿さん、気がついた?」
硝子が声を掛ける。
(わああ……どうしよう『たおしたら勝ち』!……だけど、どうしよう……)
。
とりあえず、バレバレの寝たふりを続けるガブリエラ。
(うー……あ、そういえばフェイちゃんは……?)
いる。気配がある。
かなり傷つき、萎びている感触だが、まだ使える……。
(うー……ちっちゃくなっちゃったよう……たおせるかなあ)
「……寿さん、気がついたみたいだからそのまま聞いて」
硝子が静かに語りかける。
(ううう……たすけてフェイちゃん……)
「……この『試合』私の勝ち、で……いいよね?『降参』して」
(ちがうよー!『たおしたら勝ち』だもん!……フェイちゃん!)
寝たふり(一応)をしながら、なんとかスタンドを動かそうとする。
ゆっくりと硝子の元に忍び寄る、ボロボロの『フェイセズ~』。
――――――――――
(……!)
2人を少し離れて見守っていた実は、それに気づく。
(ヌウ!彼奴め……まだスタンドをッ!!……あの娘、気づいておるのか?)
ガブリエラの側に立つ硝子に目を向ける。
――――――――――
「『降参』して。これは『お願い』じゃないよ。あなたへの『脅迫』」
(ん?……んー……わからない……からー、フェイちゃんをそーっと……)
(そーーーっと、そーーーーーーーっと……)
目を閉じたまま、感触でゆっくりと『フェイセズ』を硝子の近くに展開させていく。
(よーし、フェイちゃんがんばれー!そりゃ!)
膨張するガブリエラのスタンドは、一気に硝子の周囲に立ち込めた。
先程までと比べれば、だいぶ情けない感じではあるが……
「!……スタンドをしまいなさい。3秒だけあげる。『降参』して」
『フェイセズ~』の発現に気づいた硝子が調子を強める。
(むー!なんでー?!『たおしたら勝ち』なんだよー!すぐフェイちゃんが……)
パチリ、と目を開いて硝子の方をみるガブリエラ。
と、目の前に浮いているのは『クリスタル・ピース』の一部だと思われる、小さな水晶のナイフ。
「わああ!ふぇ、フェイちゃん!」
『フェイセズ~』が力を振り絞って『吸収』を開始する!
池の中で戦い、ずぶ濡れだった硝子の服がみるみる乾いていく。
「あなたのスタンドが、私を干からびさせるまで何秒かかるのか知らないけど」
硝子の声に動揺はない。
「3秒よ。私が3つ数え終わった瞬間、そのスタンドが出てたら、このままあなたの頭に『ナイフ』を突き立てる」
「それでもあなたのスタンドが止まらないというなら私も諦める」
「いい?もう言わない。『降参』して……いくよ……『3』」
「ん?ん?」
硝子が何を言ってるのか、よく分からない。
ただ、『凄み』 ― のようなもの。
自分が何かとてつもないピンチの中にいる、という直感だけはある。
「……『2』」
(わわわわわわわわわわわ……)
「……『1』」
(わあああああああああ!)
「……『ゼロ』」
瞬間、『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』は掻き消えた。
「……さあ、寿さん。『降参』を」
(うー、うーーー、うーーーーー、うーーーーーーー!)
ドサッ!
身を捩ると、ベンチから地面にうつ伏せで落ちるガブリエラ。
そのまま地面に突っ伏している。
「…………寿さん?」
倒れるガブリエラに掛けられる硝子の声。
「ううううううううううううううううう」
うつ伏せたまま、急に手足をバタバタさせはじめるガブリエラ。
まるで駄々をこねる子供のようだ。
いや……駄々をこねる子供そのままか。
突然、ガバっと体を起こす。
唇はギュっと結ばれ、プーっと膨らんだほっぺたは真っ赤になっている。
ベンチから落ちた時に擦り剥いたのだろう。おでこと鼻の頭には血が滲んでいるる。
手には地面にあった砂が握りしめられ、目には涙をためている。
「……寿さん、『降参』でいいわね?」
表情を変えずに硝子が静かに言う。
「ううううううううううううう!」
突然、握った砂を硝子に向けてバッと投げつけるガブリエラ。
そして、ぴょん!と後ろに飛び退いて叫ぶ。
「おねえちゃんきらい!やさしくないから!」
ほっぺただけじゃない。もう顔中真っ赤である。
そして、また数歩飛びのき、
「わたし、こんなのもーやめる!フェイちゃん!」
『フェイセズ・イン・ザ・クラウド』が集まり、弱々しい『雲』を作る。
飛び乗ろうとしたガブリエラ……だが、もはや人が乗れるような『雲』を生成する力は無かった。
「痛っ!」
『雲』をすり抜けて、地面にビタン!と転ぶ。
「ううううううううううううう!」
半べそ。
「みんなきらい!うわああああああああああーーーーーん!!!!」
脱兎のごとく、駆け出すガブリエラ。
その後ろを、のろのろと『フェイセズ~』が追いかけていく。
(…………寿さん……)
呆然とその後姿を見送る硝子。
やがてガブリエラの小さな背中は見えなくなった。
(……寿さん、ごめんね……これで……良かったのかな……)
ぼーっとそんなことを考えていた硝子に、背後から声が掛かる。
「ンッンー……これで良いのではないかな?」
実である。
「『もうやめる』、あの小娘はそう言ったではないか」
「え?……あ、五百旗頭さん……」
ぼんやりとしたまま、実に気づく硝子。
「加えて、会場からの離脱ッ!『敵前逃亡』すなわち『試合放棄』と見做す!以上を鑑みッッッッ!」
フンッ!っと大きく頷いて、実が叫ぶ。
「ここに!立会人の名に於いてェェェッ!今大戦の『決着』を宣言するゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
「今トーナメント決勝!貴様の勝利であるッ!万歳!万歳!万歳ィィィィィィィ!」
大げさな、そして奇妙な万歳三唱。
(あ……そっか……『試合』してたんだ……勝ったんだ、私……)
急に体から力が抜ける。
へたり。
そのまま崩れ落ちるように尻餅をついてしまった。
「ヌッ!どうしたッ!?」
「あ、いえ……なんかホッとしちゃって……あはは」
「フム……まあ、これだけ長時間の戦い。ご苦労であった。ゆるりと休むが良い……」
どっか、とさっきまでガブリエラが寝かされていたベンチに腰をおとした実が硝子を労う。
「なんとか無事に終わる事が出来、我輩も胸を撫で下ろしておる……フム……一つ聞いても良いか?」
穏やかな調子(あくまで彼にしては、だが)で硝子に問う実。
「え?……あ、はい……なんでしょうか?」
「先程、貴様……いや、お主は……自分のスタンドで集光兵器を作ったな?」
「……はい」
「随分手間取っていたように見えたが、直接あの小娘を狙うことは出来なかったのか?」
「え……?」
「いやなに、あれだけの出力よ。直接あの小娘を射抜けば、そこでお主の完全勝利であったろう」
「あ……」
「お主らの戦いは出鱈目過ぎて、我輩には理解出来ん部分も多かったが……クク……そこは気になったのでな」
「……出来たと思います。直接寿さんに当てることも」
「ほう……では、ここまで来て臆したか?フン……我輩には対しては、遠慮なく胴を貫いて」
「ち、違います!……あ、いえ……なんか『違う』って思ったんです」
「『違う』?」
硝子自身も、その時の自分の思いが、綺麗に整理されたものではないことは解ってる。
それを慎重に解きほぐしながら、言葉に変えようとする。
「……2回戦……五百旗頭さんの後に戦った人に言われました」
「『戦い』とは、そういうものだと『割り切れ』……って……相手を殺すことも、自分が殺される事も」
「フム……至極正論であるな」
「でも、ここまできて、こんなこと言うの卑怯かもしれませんけど」
ぎゅっと唇を結び、そして、開く。
「私は……『戦う』ためにこのトーナメントに参加した訳じゃありません……『強くなりたい』って思ったからです」
「フム……『戦って勝利する』だけが『強さ』ではない、と。なるほど、それは武士道よな。殊勝な事よ」
「え、えと!……あ、あの!難しいことはよく分からないですけど!」
硝子の声が上擦る。
「私には……それを『割り切る』ってのが、どうしても『強さ』の反対に思えたんです」
「あ、あの!自分でも何を言ってるのか、言いたいのか、よく解らないんですけど」
「『割り切る』って、スルーするっていうか、逃げるっていうか、無視するっていうか、その……」
硝子の顔は真っ赤である。
「私は、自分の気持ちや痛みや、相手……いや、他人の思いや痛みも、ちゃんと向きあえたり考えたり出来る人になれたら、って」
「ずっと、逃げてたから……自分の感情からも、他人の感情からも……ちょっと突きつけられると、すぐ倒れたりしてて」
ハッ!
「……って、何言ってるんですかね、私!……あはっ、と、ともかくですね!」
「私は『立ち向かう』んです!……出来るだけ、ですけど……ってごめんなさい!意味不明で!」
「……ほう」
正直、実には硝子が何を言いたいのか今ひとつピンとこない。
ただ、彼女が自分の歩むべき『道』を見つけたことは解る。
その道の先にあるものが、彼女の求める『強さ』なのだろう、ということも。
(フーム……よく解らぬ……が)
「……今はそれで良いのではないか。答があるものでもなかろう……」
「しかしッ!お主は今大戦の優勝者であるッ!その誇りを忘れて貰っては、立会人たる我輩の面目がたたん」
「それだけは忘れてくれるなよ」
「あ……はいッ!……って、偉そうなこと……いえ、訳わかんないこと言っちゃいましたけど……」
眉を八の字にし、困ったような笑顔。
「さっきの五百旗頭さんの『決着』って言葉を聞いて最初に思ったのは……あ、これで左腕を治して貰える……って」
ちらりと、肘から先を失った左手を見る。
「あはは……口ばっかりですね、わたし……自分の『傷』なのに早速逃げようとしてるのかな、とか……あは」
「で、でも、ちゃんと建前が持てるようになっただけでも進歩なんです!……わたしにとっては」
「おおッ!そのことだがな」
何かを思い出したかのように、実が表情を変える。
そして、ニヤリ、と硝子の目を見る。
「運営に元通りの腕を付けさせるのも良いかもしれんが、一つこの五百旗頭の提案を聞いてみんか?」
「……提案……?って……?」
「フム……実は、こんなものがあってなぁァァァ!」
どすん!
どこから取り出したのか、重そうなアタッシュケース。
「ククク……まずはこれを御覧じろ」
パチンパチンと鍵を外し、蓋を開けると……ブシュ!っとモヤのような物が溢れ出た。
中には ―
実の腕と似たような、ただ、ちょっとデザインの違う機械の『左腕』。
「この腕は、我輩が予備の腕として持ち歩いていたものよ。自衛隊からぶん取っ……いや、受け取ったものだがな」
「……はあ……」
「ムッ!予備というと、余り物を押し付けるように聞こえるかもしれんが、そうではないッ!」
「『この槍、使い難し』……凄まじい切れ味でな、流石の我も使いあぐねる代物ではあるが、優勝者たるお主なら使いこなせよう」
「……はい?」
『腕』を取り出し、硝子にビシィ!と突きつけながら
「これは試製・義手型荷電粒子砲であるゥゥゥゥゥゥ!!!!」
「…………?」
「世界一たる我が国の科学技術により小型化に成功した、神の雷鎚よッッッ!」
「アラキニウムイオンを内蔵の加速器によって光速近くまで加速ッッッッ!!!掌の射出孔から撃ちだすゥゥゥゥゥ!」
「その威力たるやッ!かの戦艦大和をも一撃で沈める代物であるッッッ!!!!」
「……はぁ……」
「どうだッ!『強さ』を求めるお主にはうってつけであろうッ!この五百旗頭からの戦勝祝いであるッ!受け取れェェェェ!」
「は、はい?……いえ、結構です……」
「フムッ!遠慮!謙遜!我が国の美徳であるッ!大いに結構!しかし戦友たる我を相手には無用ゥゥゥッッッ!」
「…………あ、あの、本当に……遠慮でも謙遜でもなく……ごめんなさい」
「遠慮は要らんと言うておろう!……………………いらんのか?……本当に?戦艦大和も一撃ぞ……」
「は、はい……、いらないです…」
「ッッッしかしだな!斯様な『名刀』これを逃せば二度と!」
なんとも言えない顔で、しかしキッパリと硝子が答える。
「……そういうのいらないですから」
「」
最終更新:2022年04月16日 22:26