第04回トーナメント:準決勝①




No.3734
【スタンド名】
ジャック・ナイフ
【本体】
来栖 真輝斗(クルス マキト)

【能力】
無限にナイフを出すことができる


No.4492
【スタンド名】
ドッグ・マン・スター
【本体】
脚蛮 醤(ギャバン ジャン)

【能力】
マーキングしたもの同士を同期させる




ジャック・ナイフ vs ドッグ・マン・スター

【STAGE:酒場】◆aqlrDxpX0s





私、「脚蛮 醤(ギャバン ジャン)」はこの戦いを通して『ふたつの教訓』を得た。

―――ヒトは見た目で判断することはできない―――

これが、ひとつめの教訓である。



『貴方と来栖 真輝斗(クルス マキト)の戦いの顛末を聞かせて欲しい。』
そう書かれた手紙が先日私のもとに届いた。
差出人は知らない女性の名前だったが、大会運営委員の肩書きがついていた。

大会運営委員ということもあって無視するわけにもいかないので、
都内の喫茶店で待ち合わせをし、私はあの男との戦いの一部始終を話すことにした。

喫茶店で私の目の前に現れたのは、スーツ姿でメガネをかけた女性だった。長い髪を後ろでひとつにまとめている。
その女は席につくやいなや、さっそくだが勝負の顛末を聞かせて欲しいと言ってきた。

私はその席で彼女にまず、この戦いで得たふたつの教訓のことを話した。
それは私がこの戦いで手にした最も価値のあるものであったし、
『自戒』として、私が話したいことでもあったからだ。

ふたつめの教訓は、

―――スタンド能力だけでは、勝負に勝つことはできない―――

                     ……ということだ。


私はこのふたつの教訓を前置きにし、あの男との戦いの顛末を話しはじめた。


戦いの舞台は都内の路地裏にあるバーだった。
開始予定時刻より15分ほど早く着いた私は、中に入って誰もいないのを確認してから店内を物色した。
……といっても店内を把握するのには5分もかからなかったのだが。
というのも店内は思ったよりも狭く、棚に数多くの種類の酒が並べられたバーカウンターと、
カウンター席が10席、4人掛けのボックス席が2つあるだけだったのだ。

だいぶ時間を余してしまった私はバーカウンターのコンロでヤカンに火をかけてコーヒーを頂くことにした。


開始時刻が近づいても、対戦相手は現れなかった。
店には窓もなく、勝手口もないので、出入りできるのは店のドアだけだった。
換気口もあるが、人が通れるような大きさじゃない。

仕方がないのでもう一杯コーヒーを飲もうと再びヤカンに火をかけたとき、店のドアが開いた。

マキト「…………」

入ってきたのは、軍服を着た男だった。右目を隠す前髪と、左目の創が特徴的だった。
どこか、キザな印象を感じさせる。


マキト「おまえが、トーナメントの対戦相手か?」
ジャン「『トーナメント』……どうやら、そのようだな。」

そう、言った直後。

マキト「そうか……『ジャック・ナイフ』ッ!!」

ズラララララッ


その男はすかさずスタンドを発現させた。
そしてさらに、『ジャック・ナイフ』と呼ばれたそのスタンドは両手に数多くのナイフを持っていた。
それが何本ほどあるか、確認する間もなく……

マキト「放てッ!!」

ビュビュッ!!

ジャン「!!」


その両手の無数のナイフを私めがけて投げてきた!
バーカウンター内から入り口の扉までは5mもなく、拡散するように放たれたナイフを避けるほどの時間も隙もなかった!


ズガガガガガガガガガガ!!!

私は、両腕で顔を覆い、投げられたナイフのほとんどを体で受け止めた。
その男は私を敵と認識するやいなや、攻撃を仕掛けてきた。
合理的かつ完璧な攻撃方法だった。……ナイフを投げた相手がスタンド使いでなければ。


マキト「何……?」

……男が驚くのも無理はない。私はあらかじめ防御策をその服に施していたのだ。
カウンター内にあった『包丁』と私の『衣服』を『同期』させた……勿論、私の能力で。

私が包丁を同期させたことで期待したのは、その切れ味ではなく……『丈夫さ』。包丁のルーツは、硬く丈夫な『日本刀』にある。
飲食店で使われる包丁ならば、安物のすぐ刃が欠けるようなものを使っているとは考えられない。それなりのものを使っているはずだ。

『包丁』……もとい『日本刀』の鋼鉄の丈夫さを得た私の衣服は、飛んでくるナイフなどいとも簡単にはじいた。


マキト「………『スタンド能力』か。」

この一瞬の攻防で私はこの男から大きなアドバンテージを得ることができた。
……スタンドとは、いわば『超常現象』である。常識では考えられない現象を起こすことができるのがスタンドの力なのだが、
逆に言えば、スタンド使いにとっては自分のスタンド以外の超常現象さえ把握してしまえば、それを相手のスタンド能力と判断することができるのだ。

ジャン(今の『ナイフ』……あの男でなく、スタンドが取り出したな。それも、ありえないほどの数を。)

スタンドはひとりにつき、ひとつの能力。
私はこのとき、相手の男のスタンド能力を『ナイフを生み出す能力』と断定した。

そして鋼鉄のシャツで受けた印象では、そのナイフはただの変哲もないナイフだ。
ナイフに特殊な効果をもたらすものではない。もしそうなら、今の攻撃で施すのが最も効果的だ。


マキト「傷ひとつつかないところを見ると……『そういう能力』なのか。」

『そういう能力』……この男が、私のスタンド能力をどう見たのかはわからないが、せいぜい物質を硬化させるとかそういった程度だろう。
『同期させる力』とまでは見抜けるはずがない。

相手のスタンド能力の全容を把握した私と、私の能力をおぼろげにしか捉えられないこの男では間違いなく私のほうが有利だった。


……その、はずだったのだが。


マキト「だが、『関係ない』な。」

『関係ない』?


ズラララララ!

男のスタンドが再び両手にナイフを発現させた。スタンドは両手のナイフを扇を広げるようにして持っている。

マキト「放てッ!」
ジャン「な!?」

ビュッ!

男のスタンドが再び私めがけナイフを投げた!


ズガガガガガ!!

私は再び両腕で顔を覆い、ベストで、シャツの袖で、手袋でナイフをガードした。
無論、私には切り傷ひとつついていない。
さっきこの男は何を見ていたのだ?何を考えているんだ?

ズラアッ!

そう、思っているうちに男は再び両手にナイフを発現させ……

ビュオオオッ!


再び、投げてくる。

ガガガガガガガッ!!
ジャン「く……」

ズラララッ!
ビュッ!


しかも今度は両手いっぺんではない。片方ずつ、間をおかずにナイフを投げ、発現させながらまたナイフを投げる。
絶え間ない攻撃に私は身を守ることしかできなかった。このまま鋼鉄のシャツでガードし続け、男が投げ疲れるのを待つほか無かった。

ガガガッ
ズブッ!

ジャン「グッ!!」


突如、左手首に襲った痛み。
間違いなく、男のナイフによるものだった。

どうやら、ナイフがシャツをつきぬけて手首に刺さったようだ。


……何も考えていなかったのは、私のほうだったのだ。

『日本刀』の硬さを得たとはいえ、シャツと刀では厚さがまるで違う。
私は、薄い鉄板を着ているようなもの。
ナイフが衣服に垂直に向かってくれば、突き通るのはわけない。
さらに言えば、水滴だっていずれは鉄をも穿つ。……それがナイフなら、なおさらだ。

ザグッ!


ジャン「痛ッ……!」

今度は右腹部をナイフが掠めた。垂直でなくともついにシャツをも破ってしまったのだ。
こうなってはもはやこのままガードし続けることはできない。

私はしゃがみこんでバーカウンターの中に身を隠した。


私がそれまでバーカウンターの中に隠れなかったのは、男の居場所がわからなくなるからだ。
私はバーカウンターの中を這いつくばって、出入り口とは対角線上の隅にあるバーカウンターとフロアをつなぐ通路に向かって進んだ。


ゴトッ、ゴトッ!
足元のダンボール箱に当たりながら音を立てて進んでいった。

みっともない、みじめな思いがした。
余裕ぶってバーカウンターで待ち構えたりしなければ、
あの男が来た瞬間に攻撃を仕掛けていれば、
まずは相手の能力を見極めようとか考えなければ、
こんな気持ちになることはなかったかもしれないのに……。

私がバーカウンターからフロアに移動しようとしているのは音でバレていることだろう。
私があの男なら、私が飛び出す瞬間に、ナイフを再び投げてくる。

……いいだろう、覚悟してやるよ。


バッ!!


私はプールに飛び込むように頭からカウンターを飛び出した。

ビュオッ!!

それに合わせるように、出入り口前に立っていたその男は私めがけナイフを投げてきた。


ズガガガガガッ!!

10本ほど飛んできたナイフのうち3本ほどは外れ、5本は私の衣服にはじかれたが、
2本が私の脚を掠めた。
鋭い痛みが走ったが、致命傷ではなかった。

私にとって幸運だったのは、男が片手でなく両手でナイフを投げたこと。
再びナイフを発現させ、投げるには少しの間がある。

その隙に私は落ちているナイフを2本手に取り、その男めがけ投げつけた。


ビュオオオオオオオッ!!

その男はまだ、ナイフを発現させてすらいなかった。


ガシッ!

男は飛んできた2本のナイフの柄をいとも簡単につかんだ。

……ナイフを扱うスタンドと、そのスタンド使い。
ナイフの扱いには長けていて当然だろう。
それこそ明日からでも大道芸人として食っていけるほどに。

だからこそ、私はナイフを投げたのだ。

ジュウウウウウウウウウ


マキト「!!」

『火をかけたヤカン』を同期させたナイフを!
コンロの火で高温に熱せられたヤカンと同期したナイフは、同等の熱を持っている。
あまりの熱さに驚き、ナイフから手を離した瞬間、詰め寄って叩く!

その、つもりだったのだが……!


マキト「もう……惑わされんッ……!」

男は表情をゆがませたものの、決してナイフを落とさず、振りかぶって私に向かって投げてきた!
『もう、惑わされない』……今、そう言ったのか?まさか、同じようなことが前にもあったというのか?
そんなことは私は知らない……だが、今あの男はナイフを落とさず、私に向かって投げたのだ。
想定外のことが、起こっている!


男との距離を近づけようとしていた私は、当然防御の体勢をとっていない。
私に向かってくる熱せられた2本のナイフは……
1本は、私のベストで防がれた。


だが、もう一本は私の頬を掠め、耳に刺さるように斬りつけた。

ジュウウウウウウウウゥゥゥ……


ジャン「…………ッッ!!」

肌を斬り裂く痛みに加え、中の肉に直接熱い鉄板を当てられたような熱の痛みは、想像を絶するものだった。
たった一瞬掠めただけでも、もう降参したくなるほどに。


私は……『なめていた』。

私は、相手の能力を把握して、すでに勝ち誇った気に、相手を見下した気になってはいなかったか?

応用力があると自負していた私のスタンド能力に、驕ってはいなかったか?

私はあの男を見誤ってはいなかったか?

あの男のように、貪欲に攻撃し続けようとは思わなかったのか?

策を弄して、華麗な勝利を目指そうとはせずに……

あの男のように……身を焼かれても、退かぬ覚悟を持っていたか?



私はナイフで傷つけられた耳を触ってみた。

耳は横にパックリと裂けていた。


それがわかったとき、私の中で………何かが『キレ』た。

ジャン「あっ、ああああああっ、うああああああああああああああああああああ!!!!」


ずっと、思い上がっていた自分が恥ずかしい。
みじめな思いをさせられた自分が恥ずかしい。

……だったら、さらに恥かいてやろうじゃないか。
がむしゃらに、無鉄砲に、何も考えずに、あがいてやろうじゃないか。

出入り口前に立つ男との距離はおよそ7mほど。
私は突進するように男に向かって走り出した。

マキト「……ッ!!」

ズラララララッ


男のスタンドが両手に十数本のナイフを発現させた。
いいだろう、上等だよ、かかってこいよ!


ビュッビュッ!!

ジャン「ああああああああああああああああッッッ!!」

私は両腕で頭を覆い、そのまま突進する!


ズガガガガガガガガガ!!!

男の投げたナイフはいくつかは鋼鉄のシャツではじかれ、いくつかは脚を斬り付け、頬をかすめ、いくつかはシャツを突き抜けて私の腕や体に傷をつけた。
しかし、私は止まらずに走った。
痛みはあまり感じなかった。
目の前の男を殴ることしか、それだけしか、考えてなかったから。

ジャン「『ドッグ・マン・スター』ッッ!!」

男との距離が2mに近づいたところで、私は己のスタンド『ドッグ・マン・スター』を発現させた。

マキト「なッッ!!」

男のスタンドは両手にナイフを1本ずつ逆手に持って、身構える。

すでに拳を振りかぶっていたドッグ・マン・スターは男のスタンドめがけ拳を突き出した。
一手遅れて男のスタンドもナイフで私の身を斬りつけようとする。
だが、私の拳のほうがわずかに速かった。
スピードは男のスタンドのほうが速かったかもしれないが、タイミングはドッグ・マン・スターが速かった。


ドグォオッ!!

マキト「グふぅッ!!」

ジャン「うおおおおおおおらああああああああああああああああ!!!」

ドゴドゴドゴドコドゴドゴドコドコドゴドコドゴドゴドゴドコドゴドゴドコドコドゴドコ!!
ドゴドゴドゴドコドゴドゴドコドコドゴドコドゴドゴドゴドコドゴドゴドコドコドゴドコ!!

初撃から間をおかず、ラッシュを叩き込んだ。


私が最初の一撃を当てられたのは、
あの男が私がなりふり構わず突っ込んでくるとは思っていなかったからかもしれないし、
私がそれまでスタンド像を出していなかったので、虚をつけたからかもしれない。
さらにあの男が違うほうの手を突き出していれば、私の攻撃は避けられていたかもしれない。

結局、勝因が時の運であれ単なる基礎能力の差であれ、
間違いなく言えるのは『スタンド能力による』勝利ではなかったことだ。


ドッグ・マン・スターのラッシュは途中で大きく空振りしてしまったところで止まった。
しかし、男はその後反撃してくることは無かった。
男は攻撃を受け続けているうち、いつのまにか気絶していたようだ。


ジャン「………おっ、おおっ……うおおおおおおおあああああああああああああああああ!!!」


私は、雄たけびを上げた。私らしくもなく、大声で。
喉がかれるまで、叫び続けた。


目の前に座る女性は、頼んだコーヒーにはまったく口をつけずに私の話をじっと聞いていた。


ジャン「結局、私は勝利することができたが、私にとっては勝利よりも価値のあるものを手にすることができた。
    もし準決勝の相手が彼でなかったなら、私は決勝に進んでも無様にボロ負けすることしかできなかっただろうよ。」

女性「…………」

ジャン「決勝では、貪欲に勝ちを目指してやる。どんなにカッコ悪かろうが、ボロボロになろうがな。」


女性「…………ふうん。」
ジャン「『ふうん』?」


その女性が発した一言は、見た目の印象から受けた真面目で上品なイメージとはかけ離れた口調だった。

女性「…………マキトくん、負けちゃったんだ。」

ジャン「は?」


すると女性はイスから立ち上がって、束ねていた髪をほどき、シャツの胸元のボタンをあけて谷間を見せ、メガネを外して挑発的な視線で私を見下ろした。

女性「残念だったなあ、ちょっと期待してたのに。」
ジャン「…………?」

女性のあまりの豹変ぶりに驚き、私は口をあんぐり開けて女性を見上げていた。

女性「あなたとヤってみるのも面白そうだけど……マキトくんを慰めるほうが楽しそうね。」

そういうと女性はテーブルの上の手帳をカバンに入れ、尻を振りながら歩いて喫茶店の出口へ向かっていった。
扉のノブに手をかけたところで女性は私のほうに再度振り返った。

女性「あ、一応言っておくけど、私、大会委員じゃないからね。そーでも言わないと話聞けないと思ったから。」
ジャン「な、なんだって?」
女性「じゃ、さびしくなったら手紙に書いた電話番号に連絡してね。じゃあねー☆」

女性はウインクを残して喫茶店を出て行った。



あの女性、手紙の差出人の名前………『ジェシカ・タチバナ』と言ったか……。

『ヒトは見た目で判断することはできない』……か。


まだ、教訓が私の身に染みてないようだ。

★★★ 勝者 ★★★

No.4492
【スタンド名】
ドッグ・マン・スター
【本体】
脚蛮 醤(ギャバン ジャン)

【能力】
マーキングしたもの同士を同期させる








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最終更新:2022年04月24日 18:36