第04回トーナメント:決勝③
No.4492
【スタンド名】
ドッグ・マン・スター
【本体】
脚蛮 醤(ギャバン ジャン)
【能力】
マーキングしたもの同士を同期させる
No.4861
【スタンド名】
フリーズ・フレイム
【本体】
サー・ヘクター・ギボンズ
【能力】
殴ったものの時間を「凍結」させる
ドッグ・マン・スター vs フリーズ・フレイム
【STAGE:最終処分場】◆aQVFw6W.SA
ゴミが堆く積まれた最終処分場。
衛生害虫の巣窟であり、腐臭、悪臭が跋扈するカオス空間でもあるこの場所に、紳士的な風貌たる外道“ヘクター・ギボンズ”が佇んでいた。
容貌的には不釣り合いではあるものの、この最終処分場は、ギボンズがスタンド『フリーズ・フレイム』の能力を最大限に発揮するのにはなかなか適した環境でもある。
押し固められ、巨大なる足場と化しているゴミとゴミとを、少し弄ればそれだけでトラップは完成する。
彼はふと、無言で如何にも高そうな、“ロレックス”だとか“ブレゲ”だとかそういう感じの時計を見てみる。
すでにいくつかトラップを仕掛けてはいるが、やはりまだ少し余裕はあるのでもう少し。
「アンタが……対戦相手か」
ギボンズに向けられる声。
現れたのは日本人と思しき若い男が現れる。今さら運営側の人間が現れることもあるまい。この男は対戦相手の脚蛮醤だ。
「そうだ。まず名を名乗っておこう」
「私はヘクター・ギボンズ。ナイトの受勲を受け、サーの称号を賜っている。私を呼称する際には特に何かとしていはしないが「ミスター・ギボンズ」とだけは言わんでくれ。」
「……脚蛮醤だ…………です」
一応、醤は自分の倍以上生きていると思われるギボンズに対して、敬語を使った。
ただならぬ雰囲気は漂うが、少なくとも彼は今の時点では何ら虚言を吐いてはいない。
自分と同じように勝負に勝ち残った実力者なのだ。
敵に対して敬意を払い、決して手を抜くことはない。先の戦いで学んだことだ。
ジャンのスタンド『ドッグ・マン・スター』の同期能力もまた、トラップの設置に適したスタンドだ。
「ジャン・ギャバンか。いい名だな」
「フランスで活躍したかの有名な役者のような名前だ」
「……よく分かんないスね」
「まあそれでいいさ。映画の趣味なんて年相応で結構」
「開始まであと1分か。ではジャン君。少し速いが始めるかね?」
お互い、あまり勝負が長引くことはないことがないと直感で理解していた。
飽く迄直感なのだが、何となくそんな気がしたのだ。
お互い最低限の言葉しか解さない。その言葉が口から吐き出されて間もない時点で、すでに二人はスタンドを顕現させていた。
と、言うよりも、待機状態だったスタンドを相手に見えるように、威嚇の意味合いを込めて姿を現わさせたと言った方がいい。
双方、スタンドなどとっくに発現している。
「……ッ!」
ジャンが『ドッグ・マン・スター』の手で、『来栖真輝斗』のナイフを投擲する。当然、ギボンズも『フリーズ・フレイム』で殴り、撃ち落とす。
破壊力、スピード共に近距離パワー型スタンドの中ではなかなか上位の物に位置するスペックを以ってすれば、決して困難ではない業。
だが、ジャンがそれを想定していなかったわけではない。むしろそれを狙っていた。
ギボンズのあのスタンドは能力自体が未知数となっているが、能力を引き出し、露見させずとも、『手に取れば』いい。
「先制攻撃は取られたか……だが刃物なぞでスタンドと渡り合えるとは思ってはいまいね」
「ああ……当然だろう」
だが、それでもジャンは第二のナイフをポケットから出そうとする。
「……?」
ギボンズとて馬鹿ではない。これが無策を装った策であることくらいは理解している。
流石にどのような手段で来るか、手の内自体は分からないが、警戒をし、備えることくらいはできる。初歩のうちの初歩。基本だ。
ジャンはナイフを構えた。
当然、投げると思いきや……投げない!
投げずに、同時に取りだした「何か」を投げ、斬り裂いた。
その「何か」は「黒い紙」。変則的な軌道を描いてふらふらと宙を舞うが、『D・M・スター』の精密性があれば、なかなかの精度で、正確に紙を切り裂ける。
「『ドッグ・マン・スターッ!』」
出し惜しみをするつもりはない。だが、スタンド名以外を明かすことも、ボロへとつながる発言もせずにただスタンドの右手に持ったナイフで紙を切り裂く。
紙には、例によって★模様が描かれているのだが、その点でも隠ぺいは完璧だ。周囲が夜で、堆く積まれたゴミの陰にあるのも手伝っている。
「……!?」
ギボンズは、即座に発現した事象に驚愕する。自分たちの頭上に存在するゴミの塊が、数か所「細切れ」になり、降ってきたのだ。
「…………最初から本気かね。容赦のないことだ」
「本気で挑まねば、それこそ貴方に対しても失礼だろう」
「そうだな。それはそうだ」
弱音こそ吐いたが、どっち道この程度のゴミの塊『フリーズ・フレイム』の拳で撃ち落とせないわけではない。
それよりも驚きなのは、恐らく、いや確実にこの「脚蛮醤」のスタンド。
『自分と非常に類似した能力』だ。
それも、彼の推測が正しければ自分の『フリーズ・フレイム』とは相性がとても悪い類のものだ。
故に、ギボンズはこう思考する。
「この地形を把握しなければならない」と。
ギボンズは、ある程度の「山」を事前に切り崩している。『フリーズ・フレイム』を解除すればそれが大挙して押し寄せるのが確実であった。
ギボンズの思考が正しければ、「解除のタイミング」を誤れば、降ってくるゴミの「塊」に自分すらも埋もれてしまう。
恐らく、何十トンにもなるその塊は、流石にスタンドを以てしても防ぎようがない。
『フリーズ・フレイム』で停止させても、意味がない。こればかりは避けよう自体がないのだ。
「ならばこうだ『フリーズ・フレイムッ!』」
大げさに、大仰に言い放ちこそしたが、『F・フレイム』が行った行動は、派手な予備動作が伴わない『ナイフを取る』動作。
ここにきての『ナイフを取る』動作に、ジャンは大して驚きはしなかった。
「……」
この戦局、ジャンの方が不利とも取れない事はない。
状況だけで言えば、手の内を探れる要素を、敵であるギボンズに対してより多くさらけ出している。
「……!! 『ドッグ・マン・スターッ』」
それ以上の発言もない、サイレント俳優が表情だけで訴えるような動作で、ジャンもまた地面に転がるナイフに手を伸ばす。
「一手遅い……!」
ナイフを掴んだのは『フリーズ・フレイム』の手。
『ドッグ・マン・スター』もナイフの刀身部分に触れることはできたが、体勢が悪かったせいか分捕られる結果となった。
「……ッ!」
ジャンは、次撃に備え、後ろに跳び距離を取る。だがギボンズに取っては追撃など今はどうでもいい。
肝心なのはナイフの真相。ここに何かが隠されている。
今さっきチラっとみたが、ナイフの刀身には『★』が描かれていた。月下の元怪しく光る白刃に、恐ろしく場違いな黒い一つ星。
その時点で、推測と繋げ、合点がいっていた。経験から導き出した脚蛮醤のスタンド『ドッグ・マン・スター』の能力は、『★マークを刻んだもの同士をリンクさせる』能力。
恐らくそれで間違いないだろう。解釈の誤差はあれどほぼ間違ってはいないはず。
無論、看破させた事は露見さすまい。場所を取り、確実に勝負を決する――
「んん?」
だが、そこには『★』が描かれていない。さっきまであった『★』が。
『★』が消えたからくりはこうだ。
前もって、手でこすれば容易に消える程度の「塗料」で★マークを描いて、『ドッグ・マン・スター』で掴むふりをして拭き取る。
暗がりだからこそ通用する手口だ。もしも少しでも明るければ拭き取りの際のムラなどですぐにバレただろう。
それに同調してスタンドを解除したように『見せかけ』(腕だけにヴィジョンを集中させて)る。
だが、正直言ってそれがいけなかった。
「…………まさかとは思うが、解除したのかね? スタンドを」
ギボンズは、依然警戒をしていた。
展開ヴィジョンを肉体部位の一か所に絞り、巧妙に隠ぺいしている確率はとてつもなく高いから。
「これ以上手の内を教えるつもりはない」
あくまで会話は最低限に。
この状況、ギボンズにとっては追いつめられた感じだ。
何故ならば凍結の限界時間(持続力)が刻々と迫って来ている。ちゃんと計算こそしていたのだが、悉くそれが裏目に出、今に至る。
このままここにいれば確実に押し潰される。解除をしているのならばギボンズが行っていない『ジャン側』の山が崩れることはない。リンクしていないのだから。
もしも解除を偽装しているとしても、その『ジャン側』に少なくとも行かなければどっち道押し潰される。
「やれやれ、嫌な決断だな……」
無論、これは賭けだ。こんなバクチは趣味ではないのだが、ギボンズは走った。
どっち道、自分の身を護るのに必要なスタンドは解除しなければならない。
「!!!?」
ジャンは少し驚愕したようだったが、それでも備えはちゃんとしてあった。
射程距離が詰まる。4m……3m…………
「……!」
ジャンは、距離間を誤った。たった1m。それが致命的である。
スタンドを解除したギボンズは、袖に潜ませていた、より隠密性の高いデリンジャーを抜く。
だが、それがいけなかった。
これは双方に言えることである。
『★』が施された場所と『凍結』させた場所が、たった一か所でも被れば、それは全体が切り崩されることを意味していた。
ギボンズが引金を引くよりも速く、ジャンがさらに一歩距離を詰めるよりも速く、それは押し寄せ、蹂躙する。
そこに勝者はなく、あるのはゴミの山だけ。あっけなさすぎるほどに、あっけない幕間。
★★★ 勝者 ★★★
なし(両者生死不明)
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最終更新:2022年04月24日 18:47