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第06回トーナメント:準決勝②




No.5441
【スタンド名】
ミストレス・メーベル
【本体】
アゲハ・フラテリカ

【能力】
鞭の痕を「折れ線」に変える


No.4569
【スタンド名】
フロム・ヘル・ガーデン
【本体】
厚狭田 亨児(アサダ キョウジ)

【能力】
触れたものを「強化」する




ミストレス・メーベル vs フロム・ヘル・ガーデン

【STAGE:遊園地】◆aqlrDxpX0s





  「力が強いこと」……それはこの世で一番大切なことだと思う。
  単に筋力が強いとかそういうコトじゃねェ。言い換えれば、「ケンカが強いこと」だ。
  それさえあれば、この世で手に入らねェモンはない。
  極端に言えば盗みをしたとしても、ケーサツでも軍でも返り討ちにするだけの力があれば、ソイツを止めることは不可能だ。
  ま、俺はそんなコトするのはいちいち面倒だし、主義に反するからしねえケドよ。

『フロム・ヘル・ガーデン』のスタンド使い、厚狭田亨児(アサダキョウジ)は高校を中退し、ケンカに明け暮れる生活を送っていた。
厚狭田の住む界隈に彼に敵う者がいなくなると、厚狭田は強者を求めてアメリカに渡った。
アンダーグラウンドのファイトクラブは彼を満足させる環境といえた。
戦うことを邪魔する者はいない。むしろ、彼の戦いは観客を興奮させ、勝利することで多額のファイトマネーを得ることができた。
時々そこでスタンド使いと戦うこともあったが、彼は萎縮するどころかそれを楽しみにさえしていた。

そのファイトクラブで、彼が敗北したことは一度としてない。
彼が望んで得られないものは、何一つとしてなかった。

(まあ、得られないものがあるとすれば、そりゃ恐怖ってヤツなんだがよ。
それで、次の戦いが遊園地でやると聞いて"コレ"を楽しみにしてきたんだが……)

「真っ暗なだけで、何一つ怖かねェな……。このお化け屋敷を設計したヤツぁアホ丸出しだな」

そう独り言を呟きながら厚狭田は「恐怖の黄金体験!!」と大げさに看板に書かれたお化け屋敷の建物から出てきた。
お化け屋敷から出ても、空は墨を塗ったように黒く、明かりも街灯しか点いていないため遊園地にしては暗かったが、
厚狭田にとってはお化け屋敷の中のほうがずっと暗く感じた。

厚狭田は体にさらしを巻き、お菓子の包み紙のような柄をしたアロハシャツを羽織っている。
ベージュのハーフパンツに黒いビーチサンダルを履き、夏の砂浜でならかならず一人はみかけるような出で立ちだが、
顔に眉はなく、立派にそびえるその頭の「トサカ」はまわりの海水浴客を威圧し、近づけさせないだろう。
海の家でヤキソバでも焼いて販売しているのならば、少しくらいは近づいてくれる人もいるかもしれないが。
とにかく、ふつうの成人男性とは違った生き方をしているだろうことは予想させる姿であった。

「営業していないんだから仕掛けも動いてないし、真っ暗なのも当たり前じゃない。……馬ッ鹿じゃないの?」

そう吐き捨てるように言いながら近づいてきたのは、『ミストレス・メーベル』のスタンド使い、アゲハ・フラテリカだった。
彼女もまた、俗世離れした生き方を感じさせる格好だった。

キラキラとしたネックレス、小さな宝石のついたピアスをつけ、大きく胸元のあいたドレスを着ている。
腰からのびたスカートは膝くらいまでの丈があり、歩くと脚の美しさがいっそう映えて見える。


「……ずいぶんとイイ女だが、デートでもすっぽかされたのか?」

「格好は気にしないでちょうだい。普段着なんてもってないし、これが一番動きやすいのよ」

「あ? 動きやすい?」

アゲハの後ろからもう一人、スーツ姿にショートの金髪の女性が現れた。

「先程も申し上げました、が」

金髪の女性……この試合の立会人は語気を強めて言った。

「試合の最中、施設内のすべてのアトラクションは停止させていただきます」

「あ、そうかい。……もしかして、そっちのねーちゃんが俺の対戦相手か?」

「はい、厚狭田亨児様、アゲハ・フラテリカ様共に揃いましたのでこれよりルールを説明させていただきます」


遊園地の入場門近く、お化け屋敷の建物の前に厚狭田とアゲハは向かい合い、その間に立会人が立っていた。

厚狭田からはアゲハの背後に明かりの消えた入場門のカウンターと、そのすぐ前にある花時計が見えた。
正面に立たないとよくは見えないが、その2本の針はどちらも大体上のほうを指しているようだった。

アゲハからは厚狭田の背後に、営業してなければ何も怖くないお化け屋敷がすぐ近くにあり、
その横からのびる広い通りの向こうにはジェットコースターやメリーゴーランド、観覧車などのアトラクションが見えた。

厚狭田とアゲハはともに動かなかった。
その理由は相手の出方をうかがっているからではなく、立会人の存在にあった。
立会人がいる以上、戦いにはルールがあり、それを聞かなければ戦うことはできない。
アゲハは1回戦がそうであったし、厚狭田にとっては初めてだが、立会人を無視し不意打ちを仕掛けることは彼の矜持に反することであった。


立会人はおもむろに一枚のコインを取り出した。

「厚狭田様、表と裏どちらになさいますか?」

「はっ?」

立会人の突然の言動にアゲハは驚き、思わず立会人を睨みつけてしまった。

「厚狭田様、表か裏どちらかお選びください」

「ねえ、ちょっと……あなたまさかコイントスで勝負を決めようってんじゃないよね?」

「それが何か問題でも?」

「あるにきまってるでしょう!」

「…………表だ」

「え?」

厚狭田は異論も唱えずに答えた。

「こんな楽しいお祭りが、そんな簡単な勝負で終わるはずねえだろ? 立会人さんよ」

「それでは厚狭田様が表、アゲハ・フラテリカ様が裏ということで。ちなみに数字が描かれてあるほうが裏です」


ズズズズズズズズズズ……

その後の立会人の行動に2人は思わず目を見張った。
立会人の肩からもう一つの腕が……華奢な彼女の腕とはまるで正反対な、ふとくてごつい形の腕が現れたのだ。

「ス……スタンド!」

「まあ、当然っちゃ当然なんだろうけどよー……」

「お二方、コインから目を離さないよう願います」

立会人の持っていたコインはいつのまにか、スタンドの大きな手が持っていた。
手の平を真横に向けたまま、曲げた親指の爪先だけを包むように握り、丸めた人差し指の上にコインを置いた。

ピィィ―――――――z__________ン!!

立会人のスタンドはコインを思い切り弾き飛ばした。

厚狭田とアゲハは身構えてコインをみつめたが、
コインは真上に飛ぶどころか、3人の立っている場所から遠くへ一直線に飛んでいった。

もはや小さすぎてコインは見えなくなったが、飛んで行った先、観覧車のほうからバヂッと何かが破れる音が静かな園内に響いた。
その観覧車をよく見ると、そのひとつのゴンドラがゆれているように見えた。
厚狭田とアゲハが目をこらしてさらによく見ようとすると、立会人が話しだした。

「申し訳ございません。手元が狂ってコインを遠くへ飛ばしてしまいました。……ですが『幸い』、ゴンドラの窓に当たり、窓を破って中へ落ちたようですね。
 どちらでもかまいませんが、私のもとへ持ってきていただけないでしょうか? 私は『持ってきていただいたコインの表裏を見て』、勝負を判断しようと思います」


ドドドドドドドドドドド……

「ヘヘッ、そういうコトかい。ビーチ・フラッグスを往復でやるようなもんか」

「くだらない……そういうジョーク、アタシ嫌い」

「私はここで待機しております。それでは……『お願いいたします』」

その一言が勝負開始の合図となり、厚狭田とアゲハは同時に駆け出した。

観覧車に若干近い位置にいた厚狭田がアゲハの前を走っていた。
厚狭田が履いているのはサンダルなので、決して走りやすいとは言い難いが、アゲハはさらに走りにくいミュールを履いていたため、
徐々にではあるが厚狭田はアゲハとの差を広げていった。

(こりゃあ、サンダルを『使う』ほどでもねえかな。1回戦の女は『プロ』だったが今度の女はどうみても『アマ』だ。
 ま、あれでも一応1回戦を勝ち上がってきたスタンド使いだ。警戒すべきは……)

「『ミストレス・メーベル』ッッ!!」

厚狭田の3メートル後ろを走っていたアゲハは自身のスタンドを発現させた。

「出したな……スタンドを!」

アゲハに併走するそのヴィジョンは、骨のような装甲だけで構成されており、スカスカで、力強さは感じさせない。
ただし、シンプルなだけに美しく、神々しささえ感じさせた。そして、その左手には金塊を水あめみたく伸ばしたような、黄金に輝くムチを携えていた。

(『ムチ』……か! ヤベェな、今は観覧車に向かってて、俺がリードしてる状況だが、言い換えれば俺があの女に追われているのと変わりねェ。
 後ろからのムチの攻撃なんて……簡単には避けられねえ! どうする!? 『シャツ』をもう使っちまうか?)

追われ続けながら、うまくアゲハの攻撃に対処する方法を考えていたが……目の前10メートル先を屋内アトラクションらしき建物が立ちふさがっていた。
もうすぐ曲がり道――――

アゲハは道に設置されていた大きなダストボックスに飛び乗り、さらにそこから跳躍した。
「振り下ろせ、『ミストレス・メーベル』!!」


厚狭田がちょうど曲がり道を曲がったところでムチが何かに当たる音が頭上で鳴った。
ムチは命中せずにすんだのだ。
厚狭田の通った通路のそばには、遊園地のシンボルのひとつでもある大きな木がそびえていた。

「あ、アブねえ……ちょうど木の枝が通路の頭上まで伸びてたんだな。暗くて見えなかったんだろうが……高く跳んだのがアダになったなァ~運がいいぜ」

「違うわ、運がよかったのは……アタシだよ」

地上から8メートルほどの高さのところで通路にはみ出した木の太い枝にムチは命中してしまったが、弾かれたわけではなかった。
ムチの先端は木の枝に巻きついていたのだ。

跳びあがっていたアゲハの体はそのまま落ちることなく、木の枝を支柱にしてムチをターザンのように扱い、まるでステージのショーのように空を舞った。
体の位置が最高点に達すると、アゲハはスタンドを解除してムチを放した。
そのままアゲハが着地したのは、厚狭田の前を立ちふさがっていたアトラクションの建物の屋根の上だった。

「な、何だァッ!?」

「ここから観覧車まで、アタシを遮る障害物はない……一直線で向かえるわ」

アゲハが屋根の上に乗った建物は、複数のアトラクションが内設されているため、遊園地内最大といっていいほど大きい。
アゲハの乗った場所からは、屋根のむこうがわの端に観覧車が見えた。
対して下を走る厚狭田は建物を迂回しなければ観覧車にはたどり着けない。


「クッソ、普通に走るんじゃもう間に合わねェ! 『フロム・ヘル・ガーデン』、『走力を強化したサンダル』使うぜ!」

ドンッ!

(あのムチの射程から外れている今なら、止まらずに走り続けることが出来るッ! 立ち止まるまでは『一度』だ、ぜってェ追い抜いてみせるッ!)

だが、厚狭田の目論みはすぐに破られてしまう。

ガザザッ!

「うおッ、うおおおおう!!」

厚狭田の行く手を茂みが遮っていたのだ。
厚狭田の体はいくつもの葉に、枝に遮られて止められてしまった。

「なんっっでこんなトコに茂みなんか……いや、これは茂みじゃねえ!」

建物の屋根の上を走るアゲハは、屋根のへりをスタンドを発現させたまま走っていた。

「『ミストレス・メーベル』の能力は『ムチを当てた部分を折り曲げる』こと……道路に沿って並ぶ木の幹を『折り曲げて』、道を遮らせてもらったわ」

「木かッ!! クソッ、一度使ったモノをもう一度強化させるにはスタンドが触れ続けなければなんねェのに……」

(またサンダルが使えるようになるまで、ハダシでいくしかねえか……)

(今あの男が見せた『高速移動』……アレが能力なの?)

アゲハは順調に屋根の上を観覧車に向かって走り続けた。
厚狭田もアゲハに遅れぬよう追いかけるが、大きく差がつけられていた。


観覧車に先にたどり着いたのはもちろんアゲハだった。
ふと背後の通路を見るが、厚狭田の姿はまだ見えない。
片っ端から木を倒してきたので、それを越えながらではここへくるのはかなり時間がかかるだろう。

アゲハは観覧車を見上げた。
都市部にある観覧車のような巨大なものではなく、ゴンドラがたった12個あるだけのあまり大きくない観覧車だった。
すべてのアトラクションは停止しているので、観覧車も止まったままだった。
コインが窓ガラスを破った跡のあるゴンドラは時計でいう12時のほう、てっぺんにあった。

観覧車の乗り場のそばには管理室のようなものがあり、そこでスイッチを入れれば観覧車は動くのかもしれないが、
てっぺんのゴンドラがおりてくるまでには厚狭田に追いつかれるだろうし、そもそもスイッチを入れても動かない可能性もある。

アゲハは『ミストレス・メーベル』のムチを使って観覧車の骨組みをよじ登ることにした。


「ハァッ、ハァッ、ハァッ………クソ、やっと着いたぜ」

アゲハが観覧車に到着して数分後、やっとのことで観覧車前に到着した厚狭田は両手を膝につき、荒く呼吸をしていた。
そして観覧車を見上げると、アゲハはてっぺんのゴンドラの扉を開けて、中へ入ろうとしているところだった。



ゴンドラの中に入ったアゲハは、振り返って厚狭田を見下ろした。

「アサダといったかしら? はやくココまで登ってきなさいよ。ここまで来なければあんたはコインを手に入れられないし、
 アタシもあんたが来るまでここを降りないわ」

「……決着をここでつけようってわけだな? 面白れェ」

「けどね、アンタがよじ登ってくるんなら、このムチを叩きつけてやるわ。その覚悟がなければ、降参しなさい!」

「悪ィけどよ、降参ってものは俺ンとこのルールにはねえんだ。みっともなく、あがいてやるぜ!」

厚狭田は観覧車に向かい駆け出した。

(アイツのスタンドが遠隔操作タイプでないかぎり、攻撃射程はアタシのムチのほうずっと長い。一発入れさえすれば、アイツは動けなくなる……)

アゲハはゴンドラから厚狭田を見下ろし、どの位置から骨組みを昇ってくるのか、どういったルートで昇ってくるのかを予測した。
だが、厚狭田は観覧車の目前で突然、しゃがみこんだ。

「!?」

腕をおおきく振り、膝を伸ばすと、厚狭田の体は高く跳躍した!
アゲハの乗るゴンドラの高さまで届く勢いだ。

「『強化』したサンダルを使っての大ジャンプだッ!」

「そんな馬鹿な……でも、問題ない! ムチを当てさえすればッ、『ミストレス・メーベル』!!」

ゴンドラの上部まで跳んできた厚狭田に向け、ミストレス・メーベルのムチが襲いかかる!


バッシィッ!!

しなったムチは音速を超えたスピードで厚狭田の腹部に横から命中した。

「効かねェっ!!」

「えっ!?」

「おおらっ!!!」

ガシッ!

厚狭田はゴンドラの手すりにつかまり、アゲハの体をゴンドラの中へ蹴り飛ばした。

「きゃっ!」

アゲハの体は狭いゴンドラの壁にたたきつけられた。
その間に厚狭田はゴンドラの中へ入る。

「さあ、辿りついたぜ。それから、どうするつもりなんだ?」

厚狭田はアゲハを見下ろして言った。
ムチは確かに命中していたが、厚狭田の体に異常はない。

「なぜ……? ムチは当たったのに……」

「ムチがあたったのは俺の体じゃねえ、このアロハシャツだ」

厚狭田の着ているアロハシャツ……ムチの当たった横腹の部分が折れ曲がっていた。
まるで鉄板を曲げたかのように、シャツの裾はピンと横に張っていた。

「アロハシャツの硬さを『強化』していたんだ。ムチの攻撃を一度防げるくらいになあ~~」

「『強化』……それがアンタの能力ってことね……」

「さて、コインを探す前に決着つけとこうかァ」

厚狭田はポケットからリボルバーを取り出した。

「言うまでもなく、コレの銃弾も強化してある。ただ撃ちぬかれるだけじゃ済まないぜ、てめェの柔らかい肉がねじりきられ、弾け飛ぶ」

「…………ッ!」


「なあ嬢ちゃん、どうしてこんな戦いに参加したんだ? 初対面で言う言葉じゃねえが、あんたいい女じゃねえか。戦いなんかしなくってもよ、幸せにはなれるだろうぜ」

「あ、あなたは……なんで、さ、参加したの……?」

「俺かァ? ……ま、理由なんてないわな。強ェヤツと戦いたい、それだけだ。俺こそが一番強いと、証明するためにな」

「『強い』……か、アタシも……強さが欲しいわ……」

「残念だが、勝ちを譲ることはできねえよ。……それじゃ、覚悟しな」

厚狭田はリボルバーをアゲハに向け、親指でハンマーをカチリと引いた。
トリガーに指をかけ……



バァン!

「……ッ!!」

銃声が鳴り響くも、アゲハは体に痛みを感じなかった。

バギッ、バリバリバリ……

何かが破れる音が上から聞こえる。
見上げると、弾丸はゴンドラの壁に命中し、壁をねじり切っていた。

バァン! バァン!

続けて2発、厚狭田はリボルバーを撃った。
同じく強化された弾丸は壁に命中し、ねじり切って壁を破壊した。

バギッ!

次の瞬間、アゲハが寄りかかっていたゴンドラの壁が崩れ落ち、アゲハの体もゴンドラから落ちようとしていた。

「きゃあああああああああああああああああああッッ!!」

アゲハはゴンドラから転落した。




「さて、コインはっと……お、あった。シートのスキマに挟まってたのか。落ちなくて良かったぜ」

厚狭田はコインを取ったあと、ゴンドラの扉から下を見下ろした。

「登るときは跳びあがれたけど、さすがに飛び降りることはできねえなァ~。骨組みをつたって降りるしかねえか」

ゴンドラからおりて骨組みにつかまると、下方に宙に吊られているアゲハの姿が見えた。
ミストレス・メーベルを発現させ、骨組みにムチを巻きつけさせてぶらさがっていたのだ。

「よし、落ちずにはすんだみてェだな。命まではとらねえよ、主義に反するからな」



アゲハはぶら下がったまま、観覧車を降りていく厚狭田を見つめていた。

「アタシが……幸せになれる……?」


「ホラ、コインは表だったぜ」

遊園地の入場門前で、厚狭田は立会人にコインの表面を見せた。

「なァ、あの女もしかしたらまだぶら下がったままかもしれねえ。おまえらで助けに行ってやれよ」

「……我々が手を貸すことはできません」

立会人の女は表情も変えずに答えた。

「冷てェ連中だな。俺だってまァ戦いには手を抜かねェけどよ、ここまで冷酷ってワケじゃあねえぜ。俺は闘士だが、人間だ」

「………………」

「……ま、いいや。あの女も傷はねぇし、自力で降りられるだろ。……決勝戦楽しみにしとくぜ、じゃあな」

「厚狭田様」

入場門から外へ出ようとする厚狭田に立会人は声をかけ、引きとめた。

「ステージの外へ出た場合、その時点で失格負けとなりますが」

「ああ? どうしてだよ」

「『勝負はまだ、ついておりません』」

「…………なんだって?」



「このコインは、私の投げたコインではありません」


ドドドドドドドドドドドドド……



そう、立会人が言うのと同じくして、観覧車の方角からアゲハが現れた。
彼女もまた、手に『コイン』を持っていた。

「て、てめェっ!!」

厚狭田はあわてて立会人の前に出て、アゲハに立ちふさがる。


「あんたが持っていったコインは」

アゲハは立ち止まり、話し出した。

「私がゴンドラに着いてコインを回収したあと、アタシが落とした別のモノよ」

「な……ッ!」

「コイントスをするとき暗くてよく見えなかったんでしょうけど……立会人が投げたコインはアタシの持っているこの『100円玉』よ。
 あなたが見慣れているであろう、日本のコイン。アタシが落としたコインは外国のものだから、あんたは疑いもしなかったでしょうけど」

「てめえ……なんでわざわざそんなことを」

「アタシが先にコインをとったとしても、ここへ戻ってこなければならない。その間、あんたと戦って勝てるかどうかは分からない。
 観覧車で再起不能にできれば一番良かったけれど、念のためエサをまいておいたのよ。ゴンドラにたどり着かれても、アタシが安全にここまで来れるようにね。
 拳銃向けられたときはさすがにヤバいと思ったけど……あとは、アタシが立会人にコインを見せるだけだわ」


「この……アマ……!! せっかく、命は見逃してやったってのによ……!」

「そんなこと、一度だって頼んでないわ。ようはあなたが『アマ』だったのよ。『ミストレス・メーベル』ッッ!!」

「なら、もう容赦はしねえぜ。俺は殺す気で、てめえを立会人には近づけさせねえ! 俺の勝利のために、強さの証明のためにッ!!
 『フロメ・ヘル・ガーデン』ッ!!」

ここで初めて、厚狭田はスタンドヴィジョンを発現させた。ナマコのようなグニョグニョした体は毒々しい紫の色をしており、カバのような大きな口がついている。
そこからむきだしたキバは、何モノでも噛み潰しそうな、恐ろしさを感じさせた。
厚狭田のスタンドの特徴として、その能力の他にあるとすればその大きな口と鋭いキバによる噛みつき攻撃だった。

(『強化』させたリボルバーの弾丸はまだ3発残ってはいるが……さっきのように狭いゴンドラの中でなければ、俺が抜くより早く、あのムチが襲ってくるに違いない……)

だが厚狭田は、あえてアゲハに接近するべく駆け出した。
走りながら、厚狭田はポケットからリボルバーを取り出そうとする……

「させないわ、『ミストレス・メーベル』!」

バシィッ!!

ミストレス・メーベルのムチが厚狭田の手首に命中した。
命中した部分はペッコリと谷のようになり、折れ曲がってリボルバーを地面に落としてしまった。

「予想通り……『リボルバーをとった手』に攻撃したな……?」

「………ッ!」

「これは本能なんだ……あのリボルバーの威力を知っているから、おまえはそれを持たせてはいけないと……反射でこの手に攻撃したんだ……だが、それは『間違っている』。
 おまえは、俺の足に攻撃しなければならなかったんだ。そうすれば、俺は動けなくなって、おまえは立会人のもとへ行けたんだ」

「ナメないでよね、ムチは振るときだけに当てるんじゃあない、『引く』ときにも当てることができる!!」

ヒュパッ!!

ミストレス・メーベルはムチをひいてしならせ、厚狭田の足に命中させた!

「ぐおっ、た、倒れる……!!」

踏み込もうとしていた厚狭田の右脚のふくらはぎに命中し、脚が折れ曲がって厚狭田はバランスを崩した。
だが、それすらも厚狭田の想定の範囲内だった。

「だが……射程距離内に入ったァ! 『フロム・ヘル・ガーデン』、噛みつけェ!!」

「ゴオラァアアアアアアアァァァッ!」

ガブッッ!!

「!!」


フロム・ヘル・ガーデンの巨大な口はアゲハの右腕も巻き込み、体を挟むようにして噛み付いた。
いくつも生えた鋭い牙はアゲハの腕に、胸に、腹に食い込み、血が流れ出ている。

「決着だッ! 死にたくなけりゃあ、降参しやがれッッ!!」

「うっ…ああっ…」


アゲハは痛みと恐怖に体を震わせるが、それを押さえつけるように、フロム・ヘル・ガーデンが体の動きを封じていた。

「……こ……こ…………」



アゲハは噛み付かれる痛みに耐えながら…………厚狭田を睨みつけた。

「これしきのことで……ひるむと思わないで……!!」


「なっ……!?」

その言葉に、厚狭田だけでなく、それを見ていた立会人の女ですら目を見開いた。
アゲハの目は、闘志に満ちていた。

「あんた……言ったよね……アタシがいい女だって。アタシだって、自分の容姿には自信を持ってるわよ。アタシの仕事には……ソレが大事なんだから」

アゲハの仕事……人によっては仕事とも言えないかもしれないが、それは娼婦だった。
自分の体を売り、それで食べていくこと。スタンド以外、彼女にはそれしかなかった。

「でもいつか花は枯れるもの。どんなに取り繕ったってそれはいずれ訪れるのよ。……そんなとき、美しさも枯れてしまったアタシに、いったい何が残るっていうのよ!!」


アゲハの体が封じられている以上、ミストレス・メーベルも自由には動けない。
動かすことができるのは……ムチを持った左腕ただひとつだった。
ミストレス・メーベルは、アゲハは懸命に左腕を、ムチを振り上げた。

「アタシはこの戦いを勝ち上がり……アタシにできることを見つけるッ! 新しい人生を見つけてやるんだッ!!」

ビュオッ!!

ミストレス・メーベルはムチを厚狭田のほうへ向けて振った。

「く…………」

(確かに……俺は見誤った! 『アマ』だったのは俺のほうだ! だが……どんなに気力を振り絞ったとしても、これが最後の攻撃なのは間違いねえ!)

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!!!」

厚狭田は目前に迫るムチを、体をのけ反らせてかわそうとした。
背中を地面に下ろすというよりは落とすように、ムチをくぐりぬけようとした。
ムチは厚狭田の胸の上を、アゴの上ギリギリを、鼻の上をかすめ、自慢のリーゼントの先を削り、通り過ぎた。

「か、かわしたッッ! ギリギリだが、勝ったァ!!」

「狙いは『あんたじゃないわ』、そして勝ったのは、アタシよ」

ガァン!!


ムチが何かに命中した。周囲に金属を叩いたような音が響く。

命中したのは……厚狭田の後方にあった『街灯』。

街灯はムチの命中したところで折れ曲がり、仰向けの厚狭田に向かってゆっくりと倒れてくる……。

「うおぁあああああああああああああああっっ!!」


――――――――――――――――――――――――――――――――――

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「コインは『裏』だったわ」

アゲハは左手に持った100円玉の数字の面を立会人に見せた。

「コインは『裏』……ではこの勝負、アゲハ・フラテリカ様の勝利となります。……おめでとうございます」

「…………ふん」

「その100円玉の表面に描かれている花……ご存知ですか?」

「は? 知らないけど……」

「それは日本でしかほとんど見ることのできない花、『桜』というものです」

「へー、そうなの」

「そのコイン、記念に差し上げます。私からの気持ちということで」

「…………1回戦の立会人もヘンだったけど、あんたもヘンな人ね」

「決勝戦でのご武運を祈っております」

立会人の女は深々と礼をした。


「……そりゃいいけどさ、このケガどーにかならないの?
 アトが残ったら、アタシの仕事にも影響するんだけど」

「では、後ほど手配いたします。戦いで負った傷は、決勝前までに治療させていただきますよ」

「あ、いいんだ。できないって言われるかと思ったのに」



「とんでもございません……私、あなたのことが気に入りましたから」

「……………は?」


――――――――――――――――――――――――――――――――――

――――――――――――――――――――――――

―――――――――――――――


……夜が明けたころ、厚狭田は遊園地の入場門前で目を覚ました。
空がまだ暗かったのは、雨が降っていたからだった。

雨粒が厚狭田の頬をうち、目を覚まさせたのだ。

厚狭田が自分の手を脚を見ると、ミストレス・メーベルのムチの跡は残っていない。
だが、腹の上に金属製の街灯がのしかかっており、動くと痛みが走った。

「ああ……そうか、この街灯が腹に当たって気絶して……噛み付いてたフロム・ヘル・ガーデンも解除されたんだな」

まわりをみわたしても、誰の姿も無かった。
自分は負けたのだと、確信した。人生ではじめての敗北だった。

「くそ…………」


雨は、しだいに強まっていった。
髪もぬれて、自慢のリーゼントもほぐれ地面に垂れている。

いくつもの雨水が目に入ってくる。


「悔しい……悔しいなあ……ッ…………」


『悔しさ』、それは勝ち続けることですべてのものを手に入れ続けてきた彼にとって、初めての感情だった。

「くそっ……くそおッ…………! もう、ぜってえ負けねえ……! 今度は、絶対に負けねえからな……!」

★★★ 勝者 ★★★

No.5441
【スタンド名】
ミストレス・メーベル
【本体】
アゲハ・フラテリカ

【能力】
鞭の痕を「折れ線」に変える








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最終更新:2022年04月16日 15:33