第06回トーナメント:決勝③
No.4971
【スタンド名】
ニュー・ファウンド・グローリー
【本体】
エミリアナ・セブロ・メサ
【能力】
スタンドが描いたものを具現化する
No.5441
【スタンド名】
ミストレス・メーベル
【本体】
アゲハ・フラテリカ
【能力】
鞭の痕を「折れ線」に変える
ニュー・ファウンド・グローリー vs ミストレス・メーベル
【STAGE:水族館】◆/R99hGowSU
「エミリアナ・セブロ・メサ、只今到着しました!」
「ヒャヒャヒャヒャ!ギリギリセーフダナ!」
深夜、昼間の賑わいが嘘のように青い静寂が満ち満ちた水族館。
その中にある回遊水槽フロアの入口に、陽気で溌剌とした声が響き渡る。
その声に呼応して、入口に立っていた糸目の青年が執事のような立ち振る舞いで応対する。
「お待ちしておりました。エミリアナ・セブロ・メサ様でいらっしゃいますね」
「はい!エミリって気軽に呼んでくださいっ!!
ああっ、すみません!ちょっと興奮しちゃって!
それにしても凄いですね、この水族館!」
目の前に続くドーナツ型の回遊水槽には大小様々な魚達が自由気ままに泳ぎ回っていて、ジンベエザメやマンボウがゆったりとエミリ達の周りを漂っている。
まるで海の中を散歩しているかのような感覚に、エミリの声は一段と明るく弾んだものとなっていた。
「それではエミリ様、アゲハ・フラテリカ様がお待ちで御座います
回遊水槽の中央フロアまで参りましょう」
「あれ、あなたが対戦相手じゃなかったんですね……」
そう言われるまで、糸目の青年こそがこの決勝戦の立会人であり、自分の対戦相手ではないと気付けなかった。
それほどまでに、エミリはこの水槽の魚達に夢中になっていたのである。
「オイオイ大丈夫カヨ。シッカリシロヨナ」
「~~♪」
そんな様子を見てNFGが諌めるものの、エミリは先導の立会人を追い越して鼻歌混じりで奥へ奥へと進んでいってしまった。
「水族館、ね」
アゲハ・フラテリカは休憩スペースの椅子に腰掛け、目の前に広がる巨大な水槽を眺めていた。
アクリルの向こうでゆらゆらと揺れ動くクラゲはどこか気怠そうに見える。
「クラゲはいいわね。自由で、何も考えなくて済むものね」
そう呟くとアゲハは懐から煙草を一本取り出し、火を付けようとする、が。
「アゲハ・フラテリカ様。先程も申し上げたように館内は全面禁煙となっておりますので」
突如背後に現れた立会人に、ヒョイと煙草を没収されてしまう。
このやり取りを交わすのは水族館に入ってから既に四度目だ。
アゲハも立会人の目を盗んでいるつもりなのだが悉く即没収という結果に終わっている。
「はいはいゴメンナサイね。
……そんなことよりも、試合開始時刻が過ぎているんだけど
アタシの対戦相手はまだなのかしら?」
手のひらをヒラヒラさせてぶっきらぼうに謝った後、アゲハはイルカショーの入口側の壁に掛けられた時計を指差して不満げに問い掛ける。
「申し訳ありません。つい先程まで一緒にここへ向かっていたのですが、途中で見失ってしまいました」
「ええっと……」
「つまり、アタシの対戦相手は迷子になったと?」
「はい」
呆れて物も言えないとはこのことか、水族館で迷子になるなんてまるで家族旅行に来た小学生だ。
私の頭が惚けていなければ、この戦いは決勝戦という位置付けだったはずだけど。
探してきます、と踵を返して元来た道を辿っていく立会人を尻目に、アゲハは五本目の煙草に火を付けた。
「あの~……ここ、全面禁煙みたいですよ?」
瞬間、ドキリとした。
まだ幼さの残る声は明朗な少女のそれだった。
彼女の存在に気付けなかったのは、私がぼうっとしていたからなのも勿論だが、彼女から殺気や敵意といったものが全く感じられなかったからだ。
アゲハは後ろに立つ少女を一瞥してから無言で煙草を消す。
「ゴメンナサイね、気付かなかったわ」
「いえいえ、謝るほどでもないです
あのっ、もしかしてお姉さん、トーナメントの出場者さんですか?」
「あら、じゃああなたが立会人の言っていた迷子ちゃんね」
迷子ちゃんという言葉に、エミリは苦笑する。
実際、ハシャぎ過ぎて迷子になっていた所、偶然このフロアに辿り着いたのである。
道中、NFGに散々説教されたことを思い出し、少し頭が痛くなる。
「ごめんなさい……
あんまりこの水族館のお魚さん達が魅力的でつい奥へ奥へと行っちゃってつい……」
心底申し訳なさそうに頭を下げ謝るエミリの様子を見て、アゲハは少し可笑しくなる。
こんなに純真な子に会うのは久し振りだった。
彼女はきっと誰にでも好かれ愛される人間なのだろう。
自分とは真逆の人生を歩んで来たんだろうな、と考えて今度は少し悲しくなった。
「あっ、自己紹介がまだですね!
私の名前はエミリアナ・セブロ・メサ、気軽にエミリって呼んでください!」
「アタシはアゲハ・フラテリカよ。
宜しくね、エミリちゃん」
「私はこの決勝戦の立会人を務めさせていただきます、『立会人』です
宜しくお願いします」
「ひゃっ!?」
「ああっもう、毎度毎度アンタはねぇ……」
突然の立会人介入にエミリは言葉通り飛び上がり、素っ頓狂な声を上げる。
上辺こそ平静を装っていたが、今日二度目の『ドキリ』にアゲハは寿命が十年程縮まる思いだった。
大水槽を背にして二人の前に現れた立会人は、バツの悪そうな顔をして頭を下げる。
「申し訳ありません。
お二人に声をお掛けする時機を見計らっておりましたたらこんなことに……」
「謝ることはないですよ!私が迷子になってなければ二人でここに来れたんですから」
「そう言っていただけると私も救われます」
「フン……今度からは普通に現れなさいよ」
「はい、肝に銘じます。
……さて、お二人共自己紹介もお済みのようですので、今回の試合の内容をお伝えしようと思います
お手数ですが、大水槽前までお集まりください」
右手を大水槽の方へと差し出し、立会人はにこりと笑顔を二人に向けた。
「それでは、今回の試合の内容を発表させていただきます」
大水槽の前に集まった二人に向けて、立会人は左手を突き出す。
エミリとアゲハは怪訝な顔をしてその左手を凝視する。
そんな二人にはお構い無しに立会人は淡々と『試合内容』を告げた。
「今回、お二人には『魚取り』をしていただきます」
ピチュンッ!
立会人が話し終えるのと同時に、その左手から『異形』が飛び跳ねる。
「これは……」
「立会人さんのスタンド、ですか?」
はい、と頷き立会人は自らのスタンドを侍らせる。
姿形はブルーギルのようだが、その鱗は鋭利な刃物のようになっていて気味の悪い複眼をギョロギョロと動かしている。
「今から私のスタンドをこの大水槽へ放します。
お二人にはこの大水槽へ潜っていただき、私のスタンドをいち早く捕まえた方をこの試合の勝者とさせていただきます」
「ちょっと、潜るって、私水着なんか用意してないわよ
……まさか裸で潜れ、なんて言わないわよね?」
「御心配なく。
試合に必要なウェットスーツ、酸素ボンベ等は水槽の上部にご用意しております」
それでは、と立会人は大水槽のアクリル板に右手を翳す。
「アゲハ・フラテリカ様、エミリ様のどちらかが水槽に入られた時点で試合を開始いたします
両者、御武運を」
ズルゥゥ……
それと同時に、立会人のスタンドがアクリル板を透過して水槽に入り込んだ。
その姿はすぐに、他の魚達に紛れて見えなくなる。
「さて、と。まずは水槽の上に行かなくちゃね
……あら?」
試合が始まるのと同時に、アゲハはエミリが居なくなっていることに気付く。
「あの子、もう行っちゃったのかしら?」
辺りを見回してその姿を探すものの、エミリはどこにもいないようだった。
立会人だけが、水槽の前で回遊する魚達を見つめている。
(抜け駆けするような子には見えなかったけど……
やっぱり油断できないわね)
アゲハは足早にその場を離れた。
「アゲハさんっ!」
物陰からの不意打ちに、アゲハの心臓が一瞬停止する。
大水槽の上部、普段は飼育員達が魚に餌を与えるために使用しているフロアにアゲハは到着した。
ハンガーに掛けられたウェットスーツを確認し、自分とサイズに合う物を探していた所をエミリに強襲されたのだ。
強襲、といってもただ抱きつかれただけなのだが。
「……今日だけで大分寿命が縮んだ気がするわ」
「すみません!
アゲハさん、そんなことよりもどうですか、私の水着!」
エミリはくるりと回って自身の水着を披露する。
オレンジを基調としたツーピースの水着は、健康的で元気一杯の彼女にとてもマッチしていた。
「いいんじゃあないかしら、アナタにピッタリだわ」
「ええっ、本当ですか!
良かったあ!頑張って描いた甲斐がありました!」
……『描いた』?
その言葉に、アゲハは首を傾げる。
そういえば、ここにあるのはウェットスーツだけなのにこの子はどうやって水着を手に入れたんだろうか。
考えられるとすれば、彼女のスタンド能力だろう。
描いたものを実体化させる能力……そんなところだろうか。
「アゲハさん?」
急に現実に引き戻されたアゲハの目に、エミリの心配そうな顔が飛び込んでくる。
考えはまだ頭の中を巡っているが、取り敢えずは試合を始めることにしよう。
「ああ、大丈夫よ。
そろそろ始めましょうか」
「はい!」
ウェットスーツに着替えるのをエミリに手伝って貰い、準備が完了したアゲハは水槽の淵に立つ。
同じくエミリもアゲハの横でピチャピチャと水を踏み締めている。
「それじゃあ、この水槽の中に入ったらお互い恨みっこナシの真剣勝負よ」
「はい!宜しくお願いします!」
フフっとお互いに微笑みを浮かべる。
水槽に向き直り、一呼吸置いてから、二人はスタート合図代わりの水音を響かせて戦いの場へと飛び込んだ。
同時刻。大水槽フロアには立会人と、もう一人、短髪の女性が佇んでいる。
水槽に二人が飛び込んだのを確認して、本格的に自身のスタンドを操作し始める。
その片手間に、立会人は傍らの女に大げさな口調で語り掛けた。
「珍しいですね、来ていたんですか」
「ええ、この戦いの結末が気になってね」
「余程気に入ったようですね、彼女が」
「まあね」
立会人には一瞥もくれずに、女は受け答える。
それ以上、二人は言葉を交わさなかった。
目の前のスクリーンに映し出された『決勝戦』にただただ見入っていた。
(カクレクマノミ!カクレクマノミだよ!
ああ、あれがナポレオンフィッシュだね!
変な顔だな~)
エミリは試合のことを忘れ、すっかり夢中になっていた。
どうやったのかは分からないが、この水槽には本来共生出来ないはずの魚達が一緒になって放されている。
普通の水族館、どころか世界中どこの海でも絶対に見ることができない光景に、エミリの心は感動の極致だった。
「オイオイ、ソンナコトヨリモハヤクすたんどツカマエヨウゼ」
(はいはい、分かってますーだ!
あ~あ、もっとお魚さん達と遊びたかったな~……んん?)
目の前をクネクネとロープのようなものが漂っている……
(ん~アナゴ?ウツボ?……まさか、ウナギ?)
「あほカ!アレハ……」
NFGが言い終わる前に、その物体は急浮上し、そしてエミリの右腕目掛け急降下するッ!
ビチィィィッ!
「くぅッ!」
ここは水中。陸と違って動きが緩慢になってしまい、エミリは避けきれずに謎の物体の攻撃を許してしまった。
「エミリちゃん、言ったわよね?
ここからは恨みっこナシの真剣勝負って……」
不意に頭上から響いた声に、エミリは咄嗟に顔を上げる。
そこには、さっきまでの柔和な雰囲気がすっかりなりを潜め、冷徹な表情を浮かべて自分を見下ろすアゲハとそのスタンドの姿があった。
ベコォ!
「!」
嫌な音が耳に入る。
エミリは音のした自分の右腕に目をやり、驚愕した。
アゲハのスタンドに攻撃された手首から先がグニャリと折れ曲がってしまっている。
痛みはなく、手も問題なく動かせる。
スタンド能力による現象であることは明白だった。
「『ミストレス・メーベル』……
鞭の痕を『折れ線』に変える……」
すうっとミストレス・メーベルが鞭を振るう体勢に入る。
「その右手じゃあ満足に水を掻くこともできないでしょう。
次は左手、それで終わり」
スタンドを通じて冷たく言い放つアゲハをジッと見据えるエミリ。
一瞬の静寂の後、ミストレス・メーベルは二撃目の鞭を左手目掛け振り下ろした。
「『ニュー・ファウンド・グローリー』!!」
「言ワレナクトモッ!」
鞭が左手に当たる寸前、エミリはNFGに具現化させた板で攻撃を弾いた。
『折れ線』の能力により真ん中から折り畳まれた板は水槽の底へ沈んでいく。
(うええ…飲んじゃった)
焦りすぎて思わずスタンドの名前を叫んでしまい、少しばかり水を飲んでしまった。
具合の悪そうな仕草をするエミリを尻目に、アゲハは彼女のスタンドについて考察する。
(やっぱり描いた物を実体化する能力……
何でも具現化できるなら厄介だけど、戦いながらならそう大した物も描けない筈……)
(私のミストレス・メーベルが鞭を振るうスピードが勝つか、あの子のスタンドが障壁を描くスピードが勝つかって所ね)
「ボーっトシテンナ!姉チャン!」
下品な声に長考を指摘され、我に返るアゲハ。
見ると、エミリの周囲にミサイルの形をした物体が幾つも漂っている。
(真剣勝負の最中に考え事は厳禁、だよ!)
それは魚雷だった。
弾頭に備え付けられた高速スクリューが回転を始め、次々とアゲハ目掛け殺到する!
「クッ……何時の間に!
でも、この程度!」
ミストレス・メーベルが魚雷目掛け鞭を振るう。
一つ、また一つと迫り来る魚雷に『折れ線』を付けていく。
(そんな……一発も当たらないなんて)
「チィッ!全部落トサレタカ」
悔しそうに舌打ちするNFGにアゲハは不敵な笑みを浮かべ、そうじゃないと首を振る。
「落としてなんかいないわ……
『返してあげたのよ』」
ベコォ!
魚雷が自身の体に付いた『折れ線』に沿って折れ曲がる。
まずは弾頭の先がエミリ達の方を向き、そして……
ベコォ!
「ナ……ナンダトォ~!?」
一つ目の『折れ線』がある箇所の反対方向に付けられた二つ目の『折れ線』が折れ曲がり、魚雷の尻がアゲハの方を向く。
まるで天敵を見つけ踵を返して泳ぐ魚のようにエミリ達の方へ向き直った魚雷群は、先程と同じように今度はエミリ達に向かって殺到した。
「にゅ、『NFG』ッ!
盾を作って防いでッ!」
「ダメダ!間ニ合ワネェッ!」
バシュバシュバシュバシュウウウ!!
凄まじい爆発音と共に大量の気泡が発生する。
数秒後、エミリが居た場所が次第に鮮明となっていくが、そこにはもう、彼女の姿は無かった。
「この魚雷の威力……
あの子、本気で私を殺そうとしてたのね」
試合が始まる前のエミリの無邪気な姿を思い出し、すぐに頭から拭い捨てる。
人の性根などすぐに分かるものではない。
それに、まだ試合は終わっていない。
―――6分後
アゲハは遂に、海底に潜んだ立会人のスタンドを発見した。
スタンドは抵抗することもなく、すぐに捕まえることができた。
おそらく、対戦相手が死亡したので逃げる必要はない、と立会人が判断したんだろう。
何とも言えない虚しさを抱えながら、アゲハは水槽から上がり立会人の下へと向かった。
「おや、アゲハ・フラテリカ様」
相変わらず大水槽の前で魚達を見つめていた立会人が、アゲハの存在に気付き、不思議そうな顔で見つめてくる。
「何よその顔は……
捕まえたわよ、アンタのスタンド
これでアタシの勝ちね」
ミストレス・メーベルに掴ませていた立会人のスタンドをグッと前に突き出し、不機嫌に言い放つ。
しかし……
「いえ、これは私のスタンドではありませんが……」
「……は?」
ドドドドドドドドドドドド……
「そんなことよりも、戻らなくて良いのですか?
エミリ様が私のスタンドを捕まえるのももう、時間の問題ですよ」
その言葉を聴いて、暫時唖然としていたアゲハは大水槽のアクリル板に駆け寄り上を見上げる。
そこに映っていたものは……
(NFG!もう一回魚雷で攻撃してみようよ!
次はイケるって思う私は!)
「カッカッカ!サッキ全弾振リ切ラレタバッカジャネェカ!」
カラフルな熱帯魚の群れと戯れながら、
立会人のスタンドを楽しそうに追い掛ける、エミリアナ・セブロ・メサとNFGの姿だった。
―――5分後
「はい、確かに
今回の勝者はエミリアナ・セブロ・メサ様に決まりました」
「イエーイ!勝ったー!」
「ケケケケケケ!コレデ俺達ノ優勝ダゼ!」
喜びのあまりピョンピョンと飛び跳ねるエミリ、その後ろで椅子に座り憮然とした表情を浮かべ煙草を吸うアゲハの姿があった。
立会人に煙草を没収されそうになった所を、スタンドをちらつかせて拒否したら引きつった笑顔を作って戻っていった。
最初からこうすれば良かった、煙草の煙を吐き出しながらアゲハはそう思った。
「ねえ、エミリちゃん。
まんまと騙してくれたわね」
立会人との会話を終え自分の所に向かってきたエミリに、アゲハは手に持った立会人の『スタンドもどき』をひらひらさせて吐き捨てる。
「あははは……
念のために作って置いたんです、立会人さんのダミースタンドを」
実は、試合が始まる前、エミリは一足先に水槽の上部へ移動し自分の着る水着を描いていたのだが、その時にこのダミースタンドも描いていたのだ。
試合が始まれば精巧なダミーを具現化している暇は無くなる、と考えての行動だった。
「……案外、抜け目のない子だったってことね
じゃあもう一つ、魚雷の爆発の後にあなたが消えたトリックを教えてくれる?」
「それは簡単ですよ!
ズバリ、これです!」
NFGが線を走らせ四角い『何か』を形作る。
線を書き終えると、次第に線の内側にある空白に何かが浮かび上がってきた。
「これは……私?」
そこに浮かび上がってきたものは、驚きの表情を浮かべたアゲハ自身の姿だった。
「鏡ですよ!
この鏡を使って私が消えたように見せかけたんです
水中なら鏡だとバレにくいかなあと思って」
なるほど、と天を仰ぐ。
してやられたと思った。
エミリが言うには、あの魚雷は目眩まし用で、人を傷付ける程の威力は無かったらしい。
敢えて魚雷をその身に受け、その後で鏡を具現化して海の藻屑になったように見せかけたというのがあの場面の顛末だった。
「それじゃあ、アゲハさんまたね!
絶対後でメールするからね!」
「ええ、楽しみにしているわ」
全てが終わった後、エミリにメアド交換をせがまれたアゲハは快く了承した。
連絡先を聞いてくるのは仕事の客ばかりで、『友達』として連絡を取り合おうと言ってくれたのは彼女が初めてだった。
アゲハは始め戸惑いつつも、初めて『友達』ができたことが素直に嬉しかった。
負けてはしまったけれど、これだけでも充分『幸せ』に近付けたと思う。
そう思いながら、アゲハは水族館を後にするため、退場口へと向かう。
「負けてしまわれましたね、アゲハ・フラテリカ様」
不意に、声を掛けられた。
聴いたことのある声だった。
声のした水族館の受付の方へ目をやると、そこには見知った顔の女性、アゲハの二回戦で立会人を務めた女の姿があった。
「アンタ、なんでここにいるのよ」
訝しげに詰問するアゲハとは対照的に、女は笑みを浮かべて対応する。
「言ったじゃありませんか。私、あなたのことが気に入ったって……」
そう言うと、女は懐から黒い封筒を取り出し、アゲハに差し出す。
「本当はあなたの優勝商品として手渡すつもりでしたが……」
封筒を受け取ったアゲハは、それをまじまじと見つめた後、女に再度詰問しようとしたのだが……
「あれ、消えた……?」
既に女の姿は無く、その場にはアゲハと封筒だけが取り残された。
封筒を開く。
中には二枚の紙が。
一枚目は何かの契約書。もう一枚は手書きで文字が羅列された紙切れ。
思わず笑みがこぼれた。
これが優勝商品?なんて高慢ちきな女なのかしら。
水族館を出た後、アゲハはすぐに携帯を取り出し、二人の『友達』にメールを送信する。
『これからも宜しくね』と。
★★★ 勝者 ★★★
No.4971
【スタンド名】
ニュー・ファウンド・グローリー
【本体】
エミリアナ・セブロ・メサ
【能力】
スタンドが描いたものを具現化する
当wiki内に掲載されているすべての文章、画像等の無断転載、転用を禁止します。
最終更新:2022年04月24日 21:06