夢魔さっちゃん、お邪魔します。
作者 |
櫂末高彰 |
イラスト |
pun2 |
レーベル |
ファミ通文庫 |
分類 |
推薦図書 |
巻数 |
3巻(完結) |
ジャンル |
現代学園青春サスペンス |
「一足遅かった覚醒」
登場する幼馴染
枕木現(まくらぎ うつつ)
年齢 |
15歳(同い年) 中学三年 ※作中で高校に進学 |
幼馴染タイプ |
ずっと一緒系 疎遠タイプ |
属性 |
優等生、腹黒、ヤンデレ |
出会った時期 |
物心ついた頃から |
尚史の向かいの家に住む幼馴染。尚史とは、幼い頃から家族ぐるみの付き合いで、小学生の頃までは、尚史のことを「たっくん」と呼び、よく遊んでいたが、中学生になった頃から、尚史が現を避けるようになったため、あまり話すことがなくなった。
長い黒髪で落ち着いた物腰の、清楚な印象を与える美少女で、男子生徒の憧れの的。さらに成績優秀な才媛。であったが……。
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以下ネタバレ |
優等生然とした表面とは裏腹に、内心では、両親に将来を強制され、優等生であることを強いられることに黒い感情を鬱積させ、自分を取り巻く全てに対して激しい憎悪を抱いていた。そこには、劣等感を理由に自分を避け、自分をひとりぼっちにした尚史も含まれており、偶然、手に入れた夢世界に入り込む力を使い、尚史の夢世界を破壊していた。そのことを尚史に暴かれた際には開き直って態度を豹変させ、憎悪を剥き出しにして尚史を責め立て、恐怖させた。
しかし、尚史によって、夢世界に押し込められていた感情を救い出された後は、憎悪が180度ひっくり返り、尚史に熱烈な好意を抱くようになる。尚史に子供の頃のように「うーちゃん」と呼ぶことを強要し、毎朝、尚史の部屋に押しかけては、寝ている尚史を襲撃、尚史の母や妹を懐柔して外堀を埋めてくる。尚史の本命がアリディアであると聞かされても、平然と「関係ない。奪い取ればいいから」と言い返し、二人の間に割り込んでアリディアを挑発する。尚史が誰かに傷つけられた時は、敵意を剥きだしにして相手に報復しようとする。など、覚醒と呼ぶに相応しい強かさと腹黒さを発揮する。
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夢野 尚史(ゆめの たかし)
年齢:15歳 中学三年 ※作中で高校に進学
この作品の主人公。成績も運動神経も普通で、取り立てて特技もない平凡な少年。そんな自分に劣等感を抱き、周りにコンプレックスを持っている臆病な性格。夢世界の事件に巻き込まれたことで、さっちゃんと出会い、その解決に関わっていく。
現とは、小学生の頃までは仲が良く、彼女のことを「うーちゃん」と呼んでいたが、中学に入った頃から、美しく優秀に成長した現に気後れし、周りにも冷やかされることを嫌って、現のことを避けるようになってしまった。現には、今でも憧れにも似た好意を抱いているが、その劣等感ゆえに、話しかけることも出来ずにいる。
課外活動ではパズル研究会に所属。同じ会員である、天才かつ変人の美少女「アリディア様」こと今野覚に下僕という設定で気に入られており、ギルバートと呼ばれている。その主従設定はアリディアの好意の表れでもあるのだが、鈍感で気づいていない。
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以下ネタバレ |
しかし、現に憎悪を向けられたことで、いかに自分が臆病で他人の気持ちを蔑ろにしてきたかを自覚し、自分の弱さと向き合うことを決意。結果、夢世界に閉じこもっていた現の心を救い出す事に成功する。その後は、現やアリディアと共に明諒高校に進学。周りの目に囚われず、困っている人を助けられる人間になろうと、積極的に他人に関わっていくようになる。
また、アリディアの好意にも気づいたことで、告白に近いことも行い、ほぼ両想い状態になるが、覚醒した現の猛烈なアプローチに邪魔され、火花を散らす二人の間で板ばさみになる。
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うーちゃんの覚醒前と覚醒後の台詞とエピソード
- 尚史の友人、青谷の台詞。現の覚醒前と覚醒後をよく表している。
- 「好きの反対は嫌いじゃなくて、無関心だって。知らねえって、興味ねえってことだろ? そいつの存在を認めてねえってことだろ?」
- 「『大嫌い』は『大好き』にひっくり返る可能性があるけど、『興味ない』はもう手の施しようがないってことよ」
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以下ネタバレ |
尚史に犯人であることを暴かれ、『大嫌い』を全開にした現
- 「ねえ、そんな馬鹿面さらしてないで何か言ってよ。タカシの話がすごく要領悪いから、私の方から話してあげてるんだよ? ちゃんと聞いてる?」
- 「ショック受けちゃったの? やだなあ、これくらいでビックリしないでよ。まだ私の恨みの百分の一、ううん、百万分の一も伝えきれてないんだよ。もうタカシってば軟弱過ぎ。本当、気持ち悪い。死ねっ」
- 「自分に都合が悪いからって、現実逃避するのはやめてね。勝手に人のイメージ作り上げて、それに当てはまらないからって失望するのもやめて。私はね、タカシ、こういう女なんだよ。タカシのことが嫌いで、すっごく恨んでるの。どうしてかわかる? わからないよねえ? 自分だけ逃げて、私のこと放ったらかしにした奴なんかにねえ」
- 「タカシはけっこう期待されてたんだよ。お父さんもお母さんも、タカシが将来医者か弁護士になったら、私と結婚させようって話してた。そのときは、私は何をしてても良かったの。小学校のときまではね、私とタカシ、どっちかが期待に添ってくれれば満足だったのよ。私の負担も半分で済んでた。私がダメでもタカシがいると思えた。だけど、あっさり逃げやがって。私にばっかり押しつけやがって!」
『大嫌い』が『大好き』にひっくり返った後の現
- 「おはよう、たっくん。今日は一緒に頑張ろうね」
- 現がいる。すぐ側にいる。屈託のない笑顔で挨拶した。
- 高校合格祝いのパーティーを枕木家と一緒に行った時のことを思い返す尚史。
- 気になることがある。主に自分を見る現の視線が。パーティーの間、彼女に常に見られていたような気がするのだ。それなのに、現の方を見ると目を逸らしてしまう。何だか少し怖かった。
- 朝の襲撃1
- 目を覚ますと、現に馬乗りになられていた尚史
- 「おはよう、たっくん」幼なじみの枕木現が、極上の笑顔で朝の挨拶をする。
- 「お、おはよう、現」「うーちゃん、でしょ?」
- 「……おはよう、うーちゃん」「うん。おはよう」
- 「って、うーちゃん! 毎朝、起こしに来なくて良いって言っただろっ」
- 制服姿の彼女の肩をそっと押す。尚史の上に跨ったまま、現は首を傾げた。
- 「可愛い幼なじみに毎朝起こしてもらうのが嬉しくない男子なんて、いないわよ?」
- 「その何となく偏見くさい知識、どこで仕入れたのっ? あと、自分のこと可愛いって言い切ったね?」
- 「だって事実だし」
- 朝の襲撃2
- 目を覚ますやいなや、体を横に転がす。(ベッドに飛び掛ってきた現を避ける尚史)
- 「……おはよう、うーちゃん」
- 「おはよう、たっくん。どうして避けるの?」
- 制服姿の現が尚史のベッドで寝ていた。枕を抱き締め、それに顔を埋める。
- 「幼なじみの朝の挨拶を避けるなんて、人間失格よ?」
- 朝の襲撃3
- 電子音を止める。布団の中で身を捩ると、隣に人の温もりがあった。
- 「ん……。あ、おはよう。たっく――」
- 「何でうーちゃんが隣に寝てるんだよっ?」「何だよっ? 今日はどんなキャラ!?」
- 「幼なじみを起こしに来て、つい自分も寝ちゃう天然キャラ」
- 尚史に、アリディアのことが好きなので、自分のことはあきらめてくれと言われた現
- 「正直、たっくんが今、誰が好きでも誰とつき合ってても関係ないんだ」
- 「……どういうこと?」
- 「たっくんが今、今野さんのことを好きなのは知ってる。でも、一年後は? 五年後は? 十年後は? わからないよね? つまり、これから私のことを好きになってもらえば良いだけなのよ。今野さんからたっくんを奪い取れば良いの。シンプルだわ」
- 「ほら。構って欲しい相手にきつく当たるような感じ? やっぱり私、ずっと、たっくんに執着してたんだよ。これはもう、結婚するしかないね」
- 二人で昼食を摂ろうとする尚史とアリディアの間に割り込んでくる現
- 「そうだ。明日から私がたっくんにお弁当作ってあげるね。味の好みは熟知してるし」
- 「おばさんに聞いてるから大丈夫だよ。たっくん、卵料理と、鶏の唐揚げが好きなんだよね? 鶏好きなんだよね?」
- 母さー――――ん! すでにそんなところまで現が攻略していたとは知らなかった。
- 「……うーちゃん。明らかに邪魔しに来たね。僕はアリディア様と二人っきりでお弁当を食べたいのに」
- 「知らないの、たっくん? 最近は性悪も萌えポイントなんだよ」
- 「味の好みだけじゃなくて、たっくんのことなら何でも知ってるなあ、私」
- 「今朝も部屋まで起こしに行ったときぃ……あ、ごめんっ。これって二人だけの秘密だったね」
- 「そういえば、二人だけしか知らないことって多いよねえ。秘密、共有しちゃってるもんね。幼なじみだからっ」
- 「たっくんは私のことだけ気にしてれば良いの。他の女になんて構わないでね」
- 流れるような動作で、現が包丁を持ち上げる。真顔で言った。
- 「あなたも同じ目に遭わせてあげよっか」
- 「だって、たっくんの指に傷をつけたんだよ! 死ぬべきだよ!」
- 「たっくん、夏休みのデートは県外へ出ようね。泊りがけで」
- 「さっきまで風紀委員だったんだけど、夏休みは羽目を外しがちだから、風紀委員で近辺を自主的に見回るって言うんだよ。うちの委員長、頭おかしいよね? だから、デートは家の中か、うーんと遠くでするしかないの」
- 現は目がまったく笑っていない微笑みを張りつけたまま尚史の側まで寄り、耳元で静かに「今野さんと一緒だったんだ。ふーん」と囁いてくれた。
- 遊園地に遊びに来た尚史たち、尚史と二人きりになろうとヒロインたちが牽制しあう中、
- 「ねえ。ここまで来て、遠慮はやめない?」
- 「はっきりさせましょうよ。みんなたっくんと二人きりになりたいのよねえ」
- 「たっくんが、三回同じアトラクションに乗ってくれれば良いのよ。そうすれば、私たち三人とも、たっくんと二人きりでアトラクションを楽しめるでしょ?」
- 本当に三回ずつ各アトラクションに乗る羽目になった尚史
- ……うーちゃんの仕掛ける罠は本当に怖いっ。特にじわじわ追い込まれていく感じがすごく怖いよっ。どうしてこういうこと、すぐ思いつけるんだよ。
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概要
ある日、夢の中でさっちゃんと名乗る少女に出会った夢野尚史。彼女は、人間が持つ夢を管理する夢魔で、何者かによって、尚史の夢世界が壊されていると告げる。犯人を探して、夜な夜なさっちゃんと共に、他人の夢に入り込んで行くうちに、犯人は尚史の身近にいる人物であることが判明し……さらに、尚史は自分の抱える心の弱さとも向き合うこととなる。
ミステリー的要素や、異能者バトル要素もあるが、基本はコンプレックスを持ち、他人と素直に向き合うことが出来なかった少年が、事件を経て、精神的に成長していく櫂末高彰お得意の青春もの。あらすじを見ると、ミーツものに思えるが、ミーツヒロインであるさっちゃんとは、一切恋愛フラグは立たない。主なヒロインとなるのは、幼馴染である現と、主従関係(という設定)にあるアリディアである。
現とは、幼い頃から家族ぐるみで付き合ってきた幼馴染で、1巻では、尚史も現に好意を寄せているのでメインヒロインっぽい立ち位置にいるものの、尚史が現を避けていることもあって、会話も少なく、存在感は薄い。しかし、あることをきっかけに性格を豹変させると一気に恐ろしい存在感を発揮する強キャラに変化する。
そして、現が本領を発揮するのは2巻からである。
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以下ネタバレ |
現は、1巻で、ヤンデレというより『病んでる』という状態で尚史を恐怖に陥れ、一気に恋心を冷ましてしまう。尚史の恋心も、アリディアに傾いてしまい、圧倒的に不利な状況になる。
しかし、覚醒した2巻からは、1巻で見せた腹黒さを尚史を落とすことにフルに発揮し、まずは、幼馴染のアドバンテージを活かして夢野家に入り込み尚史の家族を攻略。アリディアと二人きりになりたい尚史の目論みを先読みして、二人の仲が進展しないよう割り込んで来る。時には、ライバルと休戦協定を結んで、共同で尚史を落としに掛かってくる。など、劣勢状態をものともしない強かさを見せる。そのほとんどを、満面の笑みを浮かべながら計算ずくでやっているのだから、尚更恐ろしい。
2巻以降、尚史の本命はアリディアという点は揺らがないので推奨展開であるのだが、そんな空気をものともせず、現の存在感は強烈で、劣勢をひっくり返し、既成事実を作って押し切ってしまうのではないかという恐ろしさを感じさせてくれる。もしも覚醒が、尚史の心がアリディアに傾く前であったのなら、恐ろしい禁止図書になったかもしれない。
一応、完結と宣言され3巻で終了しているが、夢世界関連の謎は解決しないままで、実質打ち切りENDである。
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最終更新:2012年04月18日 23:26