俺の妹がこんなに可愛いわけがない

俺の妹がこんなに可愛いわけがない

作者 伏見つかさ
イラスト かんざきひろ
レーベル 電撃文庫
分類 推薦図書
巻数 12巻(完結)
ジャンル 現代ラブコメディ

「絆は熟年夫婦並み。しかし、キャラ人気に振り回された不遇な幼馴染」

登場する幼馴染

田村麻奈実(たむら まなみ)

年齢 17歳(同い年) 高校二年 ※作中で三年に進級
幼馴染タイプ ずっと一緒系
属性 天然、地味、家事万能、包容力抜群、眼鏡っ娘
出会った時期 幼少期

 京介の幼馴染で、子供の頃からずっと一緒で、現在も同じ高校に通っている。和菓子屋の娘で、両親、祖父母、中学生の弟の六人家族。
 天然気味のおっとりした性格。普通、平凡という印象を絵に描いたような少女で、ショートカットに眼鏡の垢抜けない風貌。わりと可愛い顔つきをしているが地味。眼鏡を外すと美人……ということもなく、やっぱり地味。趣味は料理と縫い物で、家事能力は全般的に高い。成績も優秀で、京介の勉強の面倒も見ている。包容力豊かで、傍にいるだけで癒されるような空気を作り出し、優しいお婆ちゃんのようと言われる。実際に機械音痴で、横文字が苦手という年寄りくさいところがある。また、天然な性格もあって攻撃的な態度も受け流してしまうので、人と仲良くなるのが上手く、京介の知らない間に、京介の妹桐乃の友人あやせと仲良くなっていたりする。
 京介とは、幼馴染や恋人を通り越して、長年連れ添った熟年夫婦のような空気を醸し出す仲で、周囲にはカップル扱いされており、互いの両親にも付き合っているように認識されている。京介に好意を抱いているが、京介に恋愛対象として認識してもらえていない。また、桐乃には嫌われており、その地味な印象から地味子と呼ばれている。揶揄ではあるが彼女の特徴を的確に表している言葉でもあり、禁止スレを含めWeb界隈でも、地味子と呼ばれることが多い。

高坂京介(こうさか きょうすけ)

年齢:17歳 高校二年 ※作中で三年に進級

 この作品の主人公。成績も見た目も普通の、平穏無事をモットーとするごく平凡な高校生。いつもダルそうにしており、面倒ごとを嫌う性格だったが、妹の桐乃が隠し持っていたオタク趣味の秘密を知ったことで、波乱の日常に巻き込まれ、オタクの世界に足を突っ込んでいくことになる。
 自分と違い完璧超人である桐乃とは、長らくまともに口も聞いていない仲だった。自分から頼みごとをしておきながら、我がままで理不尽な仕打ちをしてくる桐乃に苛立ちを感じながらも、桐乃のために、オタクの友達作りに協力したり、仲違いした表の友達との関係の修復に奔走したり、桐乃を守るために敢えて自ら汚名を被ったりと、熱い兄貴ぶりを見せる。結果的に損をすることも多いが、妹のために兄が何かしてやるのは当然だから仕方がないと割り切っている。最初は、オタク趣味を外側から客観的に見ていたが、桐乃を通して出来たオタク友達との交流で、自身もオタクに染まっていっている。
 幼馴染である麻奈実とは子供の頃からの付き合いで、「麻奈実の隣が自分の安息の地」「一緒に縁側で茶をすすっているだけで幸せ」「自分の家より田村家の方が落ち着く」などと、素で言い切るほど馴染んでいる。麻奈実とは今のような関係をずっと続けていきたいと考えているが、麻奈実と恋愛関係になるという発想には及んでいない。また、桐乃をはじめ、他のヒロインたちの気持ちに関しても鈍感。

麻奈実婆さんと京介爺さんの台詞とエピソード

  • 普通を絵に描いたような麻奈実との腐れ縁は、とても居心地のいいものだった。こいつのとなりにいると、安心できる――そんなところも妹と逆だよな。
  • 俺が進路を決定した理由は、こいつと同じ大学に行きたかったからだ。別に惚れているから――とかでなく、この心地いい腐れ縁を、なるべく長く続けていたかったから。
  • 下校中、偶然、桐乃たちと擦れ違った京介と麻奈実
    • 「いまの、すっごくかわいい娘たちだったね――いいなー、若いって」
    • 「婆さんや、自分が女子高生だってことを思い出しなさい。もの忘れ激しいよ?」
    • 「分かってますよう、お爺さん。でも、わたしが中学生のときだって、あんなに垢抜けてなかったでしょう。中学生っていったら……まだまだ子供なのにね……わたしよりずっと大人っぽいんだもん。羨ましいなあ……わたしも、もうちょっと頑張ろっかなー」
    • 「……いいよ別に……おまえはそのまんまで」
    • 俺は、垢抜けたイマドキの女の子なんぞより、地味で普通な幼馴染みのとなりにいたいよ。
  • 「地味子って言うんじゃねえ!? 確かにそれ以上あいつを的確に表す言語は存在しないかもしれないけどな。俺はあいつの悪口を自分以外の口から聞くのが大嫌いなんだよ」
  • いつも世話になっているお礼に好きなところに連れて行ってやると言う京介。公園でのんびりしたいと言う麻奈実とベンチでくつろぐことに。
    • ベンチに座っている麻奈実は、アツアツのお茶を受け取るや、ハンカチで包んで、大事そうに抱える。俺が半分ほど茶を飲み干して、となりを見るとまだ同じポーズでいる。
    • 「どうかしたか? 別に火傷するほど熱くねぇぞ?」
    • 「え……えへへぇ……なんでもない」と……何故かお茶を抱きかかえて、にやけている麻奈実。
    • 「……んー……なーんか、いいよね……こういうの。……ずーっと、千年くらいこうしていてもいいくらい」
    • 「そりゃ、いくらなんでも、気ぃ長すぎだろ。おまえの前世は絶対盆栽だな」
    • 「それでもいーよ? きょうちゃんがお世話してくれるならね?」
    • そうやって、俺たちはしばらく、くだらねー話をしながら、ベンチで日向ぼっこをしていた。
    • いつだって、となりに麻奈実がいるだけで、田舎の縁側でくつろいでいる気分になる。
  • 桐乃の人生相談に関する騒動で、くたびれた様子の京介に
    • 「お疲れさま、きょうちゃん。……頑張ったねぇ」
    • 事情を全然知らない幼馴染みの、そんなゆるーいねぎらいだけで。
    • 俺は、十分に報われた。

  • 友人の赤城に麻奈実と付き合ってるのかと聞かれ、それを否定した後、
    • 「たとえば……他の男が田村さんに言い寄っても、おまえは構わないっての?」
    • 「は? そりゃ構うよ。ダメに決まってんだろ。誰だよその物好きは。ぶっ飛ばすぞ」
    • もしもそんなやつが現れたなら、全身全霊をもって妨害してやる。
    • いいか、俺はあいつのとなりにいるのが一番落ち着くんだよ。色恋とか抜きにしてもな。
    • それを邪魔しようってんなら、誰だろうと許さん。
  • 麻奈実に何故か避けられるようになった上、数日連絡が取れなくなり、不安でいてもたってもいられなくなった京介は桐乃に相談。プレゼントでもあげてご機嫌取ればとアドバイスされ、麻奈実の帰りを待ち構える京介。
    • ……ちょっと早く来すぎたかもな……。
    • そんなことも思う。でも、しょうがないだろ? 早く麻奈実の顔を見たかったんだよ。
  • 「おまえが何を悩んでんのかは知らないし……俺には話したくないんだろうってのは、なんとなく分かるんだ。でも、それで納得してやるわけにはいかない。いくらカンケーねえって突っぱねられても、見てみぬふりはできねえよ」
    • 「俺がしんどいとき、おまえはいっつもしゃしゃりでてきて、勝手に世話焼いてくれたんだよ。頼んでもいねーってのにな」
    • 「それは、だって……きょうちゃんのこと、ほっとけないもん」
    • 「知ってる。なにせおまえは、俺のお袋よりお袋みたいなやつだからな」
    • 「……それって、大好きって意味?」
    • 「おう」「え、ええっ――!?」
    • 「あ――ち、違うぞっ。いまのはそういう意味じゃなくてだな……ああクソ……ええっと……売り言葉に買い言葉っつーか、家族的な意味というか……だな……その……」
    • 必死に誤解を解こうとする試みると、そんな俺をぽかんと眺めていた麻奈実が、とつぜんくすくすっと笑いを漏らした。指で目尻の涙を拭いてから、
    • 「もぉ……きょうちゃんって……ぜんぜん変わらないね」
  • 結局、麻奈実の悩みはしょうもないことであったことが分かり、呆れ半分で安堵した京介は、予定通りプレゼントを渡すことに、
    • 「やるよ、これ」
    • 「……これ、わたしに? あ、ありがとう……でも、どうして? 今日、わたしの誕生日――だったっけ?」
    • 「おまえの誕生日は十二月四日だろ? 俺が忘れるかって。ちゃんとその日はその日で、なんかくれてやるから安心しろ。いまやったのは、そうじゃなくって……あ~もう何でもいいだろ!」「いいから、もらっとけ!」
    • 「すっごい可愛い枕~~っ。ありがと~~。きょうちゃ~~ん」
    • 「きょうちゃんだと思って大事にするね!」
  • ――やれやれ。俺たちの腐れ縁は思いの外、頑丈なのかもしれね~な。
    • この天然地味眼鏡な幼馴染との付き合いは、随分長いものになりそうな予感がする。
    • 俺と麻奈実がお互い、そうしようと心掛けていく限り、俺たちの望は叶い続けるからだ。
    • その望みさえ、いずれ変わるときがくるのだとしても。
    • いまはこれでいい。何ひとつ問題ねえ。
  • 「見てる見てる。超かわいい」
    • めんどくさいのでテッキト~~に褒めてやると、「え、えぇ~っ」単純な麻奈実はぎゅっと両目をつむり、鞄をぱたぱたさせている。ひとくさり照れるや、にへら~~として、
    • 「えへへ……そうかなっ。た、たぶんねっ。よく眠れてるからだと思うっ。ほら、夏休み前からわたし……。"きょうちゃん"と一緒に寝るようになったからっ」
    • 「おまえ教室でなんてことを!」
    • 抱き枕のことだからね!

3巻の田村家へのお泊り編
  • ハロウィンフェア用のお菓子を食べた京介
    • 「これおまえが作ったの?」「え、えっ……なんで?」
    • いや、だって、さっきからずっと感想気にしているし……。
    • 俺に真っ先にこれ食わせようとしてたしさ。それに、ウマイって褒めたら、すごく喜んだろう、おまえ。
    • 麻奈実は、しばらく恥ずかしそうにもじもじと迷っていたようだが、やがて、こくんと頷いた。
    • 「……うん。わたしが作ったの。よかった……気に入ってもらえて」「…………おう」
    • 妙にこっ恥ずかしくなってきて、なにやら俺までもじもじし始めてしまう。
      • その様子を眺めていた麻奈実の祖父母
    • 「おまえらさっさと結婚しろよ」
    • 「お爺さんもたまにはいいことおっしゃいますわねえ」
  • 麻奈実の部屋に来た二人。京介はのんびりしようと言い、
    • 「そうだね……ゆっくりしよっか」「……おう」
    • 俺たちはゆっくりすることにした。他のやつらはどうだか知らないが、俺たちにとって『ゆっくりする』というのは、完全の額面どおりの意味である。
    • 「あ、そうだ……お茶飲む?」「ん~」
    • お茶飲んだり。ひたすらぼ~~~~っとしたり。あくびしたり。なんでもない話をしたり。別段なにをするでもなく、自然体で時を過ごす。
  • 風呂に入る順番を譲り合う麻奈実と京介
    • 「いまさら遠慮しないでよ~。きょうちゃんこそ、どうぞ、先入って、入って」
    • そんなやり取りが何度か繰り返されて……
    • やがて麻奈実は、ふとなにかを思いついたようだった。
    • すっと身を乗り出して、顔を寄せてくる麻奈実。悪戯っぽい表情でそっと耳打ちしてくる。
    • 「……やっぱり、一緒に入る?」
    • 恥ずかしがらせるための策略――冗談だと分かっちゃいる! だが俺は、不覚にもかなり動揺してしまった。
    • 「あははっ。きょうちゃん、顔、真っ赤」
    • すげえ悔しかった。くそ、麻奈実のくせに……調子に乗りやがって~……。
    • おまえの旦那になるやつは、結婚したあとでその事実を知って、毎日毎日照れくさい台詞で言葉責めされるんだろうよ。旦那が羞恥で悶死しても知らんからな。
  • 夜も更け、寝ようとする二人
    • 「きょうちゃん、いつもの部屋にお布団敷いておきましたからね」(麻奈実祖母)
    • そこには婆ちゃんが敷いてくれた布団があった。ただし、二組。ぴったりと並んで敷かれているペア布団。いわゆる夫婦布団というやつだ。
    • 「きょうちゃんが敷いたの!? わたしと並んで寝るために!?」
    • 「ち、ちちちち違ぇ――よ!? なに言ってんすか!? ば、ばっかじゃないの!? 誰がそんな……妙な勘違いしないでよねっ!」
    • 「で、でもでも! こんなにぴったりくっついて! 新婚夫婦みたいにっ!」
    • …………。あのババァ~~……。な、なーにが『敷いておきましたからね』だっ!
      • いろいろと言い合った末、
    • 「ああ、ああ……ここで寝ればいいんだろ? 別になんてこたねーよ。……なぁ?」
    • 麻奈実に同意を求めると、ふんわりとした微笑が返ってきた。
    • 「うん、わたしはいいよ……きょうちゃんさえよければ」
    • なぁ麻奈実。その無防備すぎる態度。俺以外の男にやったら絶対勘違いされるからな。
      • 仲良く隣同士の布団で寝る二人
    • 「なんだか……子供の頃みたいだね……?」
    • 「……そういや、ここん家泊まりに来たときは、いつもこうやって並んで寝てたよな、俺ら」
    • 「うん……まさかこの歳になって、一緒に寝ることになるなんて……思わなかったけど」
    • 俺たちは寝ころんだまま、顔を見合わせて苦笑しあう。
    • 「あの……一緒の大学、行けるといいね?」
    • 「……そうだな」
    • 「高校卒業して……そんで、大学通うようになったらさ……どうなるんだろうな」
    • 「たぶん……あんまり変わらないと思うよ?」
    • 「そうかもな」
      • 最近は互いの家にお泊りする機会が少なくなっちゃったねと言う麻奈実。何か言いたげな麻奈実の気持ちを察した京介は、
    • 「じゃ、今度は家くるか?」
    • 今度は家にくるか? ――俺にそう問われた麻奈実は、とても以外そうに、目を大きくして、ぱちぱちとさせた。次いで口元を毛布で隠したまま、こくりと頷く。
    • 「えっと、うん。……行ってみたいな」
    • けれどふにゃりと細められた目元だけで、俺には十分だった。言いたいことを言えずにいた、引っ込み思案な幼馴染みから、この嬉しそうな態度を引き出せたのは、誰かさんのおかげだった。その点だけは、感謝してやらんこともない。
    • 「あっそ。んじゃ……そのうち、な」
    • そうして夜は、至極まったりと更けていった。

  • 麻奈実と二人で初詣に出掛ける京介
    • 俺はほどけかけていたマフラーを結び直す。このマフラーは、クリスマスイブの夜に麻奈実からもらったものだ。
    • マフラーを巻いた俺を見やって「おそろいだね~」などとはにかむ麻奈実。
    • 麻奈実が着物姿なのに巻いているチェックのマフラーは、やはりクリスマスイブの夜に俺がくれてやったものだ。
    • 聞いて驚け、俺が買ってきたマフラーと麻奈実が縫ってくれたマフラーは、ほとんど同じ色と柄だったのだ。おおこっ恥ずかしい、強制ペアルックじゃねーか。
    • むりやり和服に合わせて巻いてきやがって……。おそろいのマフラー巻いて並んで歩いたら、バカップルにしか見えねーっての。

  • 妹となかなか仲良くなれないと悩みを打ち明ける京介
    • 「なんでおまえに……そんなことが分かる」
    • 我ながらひどい言い草だ。自分で相談しておいて。
    • なのに麻奈実は微笑んで、凝り固まった俺の悩みを溶かしてくれる。いつものように。
    • 「きょうちゃんの優しいところ、わたしが一番よく知ってるもん」
    • 「……おまえってやつは、よくまあ平気でそういう台詞を……」
    • 俺なんかよりも、こいつのほうがずっと優しいに決まってるぜ。
    • 「人のことが言えるのかな? 妹さんの窮地に、海外まで大急ぎで駆けつけたお兄ちゃん?」
    • 俺はいつまでこのネタで弄られ続けるのだろう。一生か? 一生なのか?
      • それを見ていた赤城
    • 「羨ましいやつだな」
    • 「まあな」
    • 「そこで『まあな』と答えるやつを、俺はおまえ以外に知らないよ」

概要

 平凡を愛する高校生高坂京介には、茶髪にピアスのイマドキの女子中学生……しかし、成績優秀、スポーツ万能、容姿も優れ雑誌のモデルもしている完璧超人の妹桐乃がいた。ここ数年まともに口も聞いていない最早別世界の住人とも呼べる関係であったが、ある日、桐乃の秘密を偶然知ってしまい、そのことで彼女の人生相談を受けることになる。
 これと言って取り得のない平凡な高校生が、反りの合わない妹に振り回され悪態をつきながらも、妹のために奔走し、妹を通して出来た新たな友人たちと交流を深めつつ、それに伴い、兄妹の関係性も変わっていくといった話。またオタク文化とそれを嗜好する者たちの姿も大きなテーマであり、桐乃の秘密も、実は「妹萌え」の18禁PCゲーム好きというもので、成人向けのアダルトゲームを大きく取り扱ったりなど、世間的に否定されがちな趣向をコミカルに、時に生々しく描いている。また、実在の個人ニュースサイトを登場させるなど、かなり挑戦的な試みがされており、そのことが話題になり、Web上での口コミを中心に人気を拡げていった。
 さて、馴染み部分についてであるが、天然ほんわか系で、その溢れんばかりの包容力で京介を見守る麻奈実。その麻奈実との穏やかな関係こそが自分の最大の幸せと言い切る京介。二人が醸し出す空気は、まさに長年連れ添った熟年夫婦というべき信頼感と温かさで満ちている。もちろん、物語のメインは京介が妹桐乃に振り回されることであるため、京介と麻奈実の関係はあくまでサブ要素ではあるが、僅かな描写の中にも、互いのことを知り尽くし、互いの存在を何ものにも替え難い大切なものと想い合ってる様がしっかりと描かれているため、何気ない日常会話だけでも、禁止委員なら悶えのた打ち回りたくなるような、羨ましさとけしからなさで溢れている。特に、京介の麻奈実に対する天然ナジミストぶりは危険度が高いと判断され、禁止スレでも大きく注目されることとなる。
 この強敵の登場に禁止スレも大いに湧き、新刊が出る度に大量の粛清者が出るほどで、危険指定に推す声も上がっていた。また、作者伏見つかさについても、デビュー作「十三番目のアリス」、同時期に一迅社文庫で出した「School Heart's」のノベライズでも、非常に危険度の高い幼馴染を描いていたことから、新たな十傑集候補として名前があがるほどであった。しかし、それも3巻までのことで、以降、評価が一変していくこととなる……。

+ 以下ネタバレ含む
 4巻でそれまでの破壊力が鳴りを潜めたかと思えば、5巻以降、桐乃の友人黒猫がメインヒロインへと路線がシフトされ、さらに平穏な変化しない日常を望み続けていた京介の思考も、変化する新しい世界を求める方向へと変わっていってしまい、黒猫を中心としたオタク仲間との交流により多くの描写が割かれるようになる。それに伴い、麻奈実の登場回数が激減してしまい、1巻あたり1シーンしか登場しないこともざらになり、3巻までのようなメイン回もなくなってしまう(5巻以降、麻奈実がメインになったパートは一つもない)。酷い時には、台詞一つあれば良い方という有様で、その間に、黒猫が京介との仲を深めていってしまい、もはや禁止どころか推奨展開と言っても仕方がない状態に陥り、禁止スレ内でも落胆の空気が漂い、急速に注目を失っていく。
 原因として、この作品の初期の頃、Web上で苛烈な麻奈実叩きが横行していた時期があり、そのことが少なからず影響を与えたと考えられる。もちろん推測の域を出ない部分も多いが、元々Web上での口コミを主に人気を拡げていったこと、4巻に今後、黒猫をメインヒロインに路線変更していいか読者の意見を募るアンケートが付けられていたこと(結果はある程度予想通りだったため、あらかじめ書き始めていた展開で5巻を出したが、違っていた場合は書き直すつもりだったとのこと)、担当編集がWeb上の反応をチェックしているなどと発言していることからも、読者の意見にかなり敏感になっていたことが伺え、これらがまったくの無関係であったとは考えづらい。
 その後、メディア展開されたアニメ版やPSPのゲーム版では、新規ファンにもその魅力が評価され、麻奈実は一定の地位を取り戻すが、その頃には原作の流れは固まってしまっており、時は既に遅しであった……。
 もちろん、物語は桐乃との絡みがメインなので、そちらが優先されることも、人気キャラがある程度優遇されることも仕方がないことである。禁止委員としても推奨ENDに傾く可能性を予想していなかったわけではない。しかし、露骨に出番を減らされるという形で、戦う機会すら奪われてしまう展開は予想外であった。麻奈実が多くの禁止委員が強敵と認めるに足る幼馴染ヒロインであることは間違いないだけに、禁止委員としては、非常に複雑な心境を抱かされることになってしまった作品である。また、魅力的な幼馴染に対して、その相方の気持ちがぶれないことがいかに大切かということも教訓として残してくれた作品であるとも言える。

+ そして最終巻……。
 物語として結末は、最終巻で京介が突如、桐乃に対して兄妹以上の感情を抱いていたことを暴露。好意を寄せていたヒロイン達を全て振り、桐乃を恋愛相手として選ぶという驚愕のラストとなった。しかも、社会的立場をかなぐり捨てても近親愛を貫き通すぐらいの覚悟で決意したのかと思えば、期間限定の恋人ごっこでお茶を濁すと言う中途半端なもので、また、そこに至る過程があまりに不明瞭で唐突であったため、この結末には各所で賛否両論が巻き起こった。
 また、麻奈実に対して、彼女を振る際、不誠実で媚びるような態度を取った挙句、桐乃と二人でお泊りをする際のアリバイとして名前を利用するなど、許しがたい仕打ちを行ったため、京介の株は最底辺まで暴落することとなる。
 序盤の夫婦ぶりから一転、巻を追うごとに作品外の事情に翻弄されていき、最後は負債を背負わされる破目になった麻奈実。その痛ましい姿は、禁止委員に限らず、幼馴染を愛好する者たちの心に、忌まわしい記憶として深い傷痕を刻みつけた。
 せめて麻奈実の以後の人生に幸あらんことを切に願いたい……。

※補足
2011年にPSP用ソフトとして発売された「俺の妹がこんなに可愛いわけがないポータブル」及び、2012年に発売された続編「俺の妹がこんなに可愛いわけがないポータブルが続くわけがない」には、原作者シナリオ監修(全ヒロインではない)の各ヒロインの個別ルートが用意されているため、麻奈実と京介の禁止ENDを見たい禁止委員はこちらをプレイするべきかもしれない。

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最終更新:2015年10月19日 15:32
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