シー・マスト・ダイ
作者 |
石川あまね |
イラスト |
八重樫南 |
レーベル |
ガガガ文庫 |
分類 |
禁止図書 |
巻数 |
1巻(完結) |
ジャンル |
近未来学園サイキックサスペンス |
「君が世界を滅ぼすとしても、君が好き」
登場する幼馴染
志水はるか(しみず はるか)
年齢 |
中学二年(同い年) |
幼馴染タイプ |
ずっと一緒系 |
属性 |
優等生、テレパシー能力者、巨乳 |
出会った時期 |
小学生低学年 |
誠のクラスメイトで、校内でトップクラスの人気を誇る美しい少女。長い黒髪を伸ばし、中学生にしては非常に発育の良い胸をしている。真面目で大人しい優等生だが、誠の前では強がりを見せたりと、やや子供っぽいところもある様子。
学年トップの高い超能力値数を誇るテレパシー能力者で、襲撃部隊にターゲットとして疑惑を持たれてしまう。最初はストレスがかかると制御出来ず、自分の思念を周囲に発散してしまう程度の能力だったが、襲撃事件の中で強い精神付加を感じ続けることで、徐々に強力なものへと進化していく。
誠とは小学校低学年の頃からの付き合いで、川で溺れかけたのを助けてもらったのをきっかけに親しく話すようなった。その後も何度も自分の危機に駆けつけ、不安な時に相談に乗ってくれたことなどから誠のことを深く信頼している。事件の中でも、誠を頼りにする態度を見せ、誠が危険のことをすると焦燥を感じ、誠の無事を確認すると安堵する姿を見せる。
矢口誠(やぐち まこと)
年齢:中学二年
この作品の主人公。容姿は平凡だが、成績優秀で、温和で人から好かれやすく、真面目な生徒たちの間では中心的存在になっている。超能力値は子供の頃から低いままで、まったくと言っていいほど上昇する気配はない。襲撃部隊に制圧された状況下でも、超能力が使えないことで不安や無力さを感じるが、取り乱さず打開策を考える冷静さを持っている。
はるかとは小学校低学年の頃に知り合い、今でも親しく話す仲で、細かい癖や好みを知っている。子供の頃から、ずっと好意を抱いているのだが、恥ずかしさや気後れから、気持ちを伝えることが出来ていない。また、不思議と幸運に恵まれ、過去に何度もはるかの危機に駆けつけることが出来、はるかの信頼を得ることに成功している。いざという時の行動力もあり、襲撃事件の最中でも、機転を利かせて、相手を出し抜く大胆さを見せる。また、はるかが自分を信頼してくれることに喜びを感じ、孤立していくはるかを自分一人でも助け出そうとする意思の強さを見せる。
その他関係の深いキャラ
北島良平(きたじま りょうへい)
年齢:中学二年
誠たち二年五組のボス的存在。強力なサイコキネシス能力者。粗暴で自己中心的な性格で、過去にも数々の問題行動を起こしてきた不良。襲撃事件の最中でも横暴な振る舞いを続ける。複数の女子生徒の手を出している好色な男でもあり、はるかのことを狙っており、誠を目の敵にしている。
はるかと誠の台詞とエピソード
二人の仲が深まるきっかけになった思い出
- 小学三年の冬、クラスの男女で河原をそりで滑り降りる遊びをしていた時、勢いよく滑りすぎて川に落ちてしまったはるかを助けるため、誠は真冬の川に飛び込んだ。はるかを助けることに成功するも、風邪をひき一週間寝込む羽目になるが、これがきっかけではるかと話をするようになる。
- 小学五年の遠足の時、中学生に絡まれたはるかを助け出し、さらに仲が深まった。
- 中学一年の時、はるかが養父母に、自分達は本当の両親ではないと聞かされショックを受けた時、誠が相談に乗り、慰めた。
- 二年五組の教室に貯水タンクが飛び込む事故があった時、タンクが頭をかすめパニック状態になったはるかを宥め落ち着かせた。
- はるかも男の視線に気づき、助けを求めるように誠のシャツの袖を握った。男がはるかへの目線を切った後も、彼女は誠のシャツを握ったままだった。
- 誠はこのような状況にも拘わらず、少し嬉しかった。はるかが自分を選んだことが嬉しかったのだ。周囲には他にも男子生徒がいる。その中で選ばれたのが自分だ。心が自然とほっこりした。
- 「あたし、そんなに不安そうに見える? でも、そんなに心配してるわけじゃないよ。ちょっと信用してるもん」
- 「矢口くんがいればなんとかなるって」いきなりの言葉に誠は動揺した。
- 「なんだよ。そういってくれるのは嬉しいけどさ、ぼくはそこまで信頼してもらえるような人間じゃないぜ」
- 「ううん、あたし信じてるよ。矢口くんならきっとなんとかするって。小学校の頃からそうだったけど、矢口くんて土壇場やピンチにやたらと強いじゃない。(中略)あたし、矢口くんがピンチをどうにかしなかったところ見たことないもん。矢口くんならきっとなんとかしてくれるよ」
- 誠は自分の顔が赤くなっているのが分かった。
- 普段のはるかの様子が思い出される。誠に対して笑いかける彼女、電車の中で老人に席をゆずる彼女、誠のテストの点数に感心する彼女、ノートの隅にヘタクソなキャラクターを一生懸命描いている彼女、給食に対し以外に大喰らいな彼女、それを恥ずかしく想ってる彼女。
- 誠の中で、急激にクラスメイトに対する怒りが湧きあがった。
- 彼らは、はるかを北島へのいけにえにし、さらに自衛隊にも捧げることで自分たちだけ助かるつもりなのだ。
- これが友達だっていうのなら、友達など必要ない。ぼくは、自分ひとりでも志水さんを助けてみせる。
- 誠は自分でも驚くほどに安堵していた。
- はるかが無事だったことが何よりも嬉しかった。
- 彼は、自分を苛んでいた吐き気が消えていたことに気づいた。数分前までは、口から内臓系のすべてが飛び出しそうな勢いだった。人生であれほどに不快だったことはなかった。いまは逆に、これほどの幸福、喜びを感じたことはないと思える。彼女の無事が何よりも嬉しい。
- はるかは世界にたった一人だった。誰も彼女の味方はいない。
- かろうじて味方をしてくれる人間がいるとすれば一人だけだ。
- はるかは怯えていた。彼が彼女の"凄い力"に恐怖することに怯えていた。彼が彼女に恐怖することに怯えていた。
- 一日のうちにこれほど超能力が増進するなら、いつかは世界を滅ぼすほどの力を手にするかもしれない。
- ――だからといって、志水さんを死なせるわけにはいかないよな――
- 準備室に向かう心を決めるまでは逡巡していたが、あのときは誠自身が自覚していたよりも、ずっと強かった。いまさら後には引き返せない。世界中の人間と引き換えにしてもはるかを優先するつもりだった。
- ――死なせるわけにはいかない。志水さんは絶対に死なせない。
- たとえ、世界を滅ぼす人間だからってどうなんだ。
- そんなことはどうでもいいことだ――
- 「ねえ、もしもわたしが世界を滅ぼしちゃうとしたら、どうする?」綺麗に澄んだ声色だ。
- 誠は首を傾げ、いいかえした。
- 「いまさらだな。もしもぼくが世界を滅ぼしちゃうとしたらどうするんだい?」
- はるかが優しげに笑った。
- 「もちろん変わらず好きよ」
- 「ぼくも同じだよ」
概要
超能力が一般化した架空の近未来日本。突如、謎の武装集団によって占拠された港区第二十二中学校。死への不安と恐怖に苛まれながら打開策を考える矢口誠ら二年五組の生徒たち。やがて襲撃者の目的が、学校内に存在する一人の危険な能力者の抹殺で、そのターゲットの有力候補に幼馴染のはるかが含まれていることを知った誠は……。第4回小学館ライトノベル大賞ガガガ部門〈優秀賞〉受賞作。
突如、学校がテロリストに占拠され……。と、思春期の少年なら、一度は妄想するようなシチュエーションから始まる話。超能力がキーワードの一つになっているが異能バトル的な展開はなく、扱われる能力はテレパシーや未来予知といった精神的な能力が主である。主人公矢口誠は超能力を持たない一般人で、また秘められた力が覚醒……、といった展開もない。二年五組の生徒たちは、襲撃部隊の監視下で死の恐怖に怯える状況から始まり、続いて暴力を嵩にリーダー面して横暴な振る舞いを始める問題児北島への恐怖に怯える状況に立たされるという形で話は展開する。
その中で、襲撃部隊の目的が、超能力によって予知された、近い将来、世界を危機に陥れる危険な能力者の抹殺であることが分かり(能力者の正体は不明で、ただ襲撃の日に二十二中に存在する中の誰か一人であるという不明瞭な予知情報のみがある)、誠の幼馴染であるはるかが有力候補として疑われていることをが判明する。
はるかの命を狙う襲撃部隊。欲望のままにはるかを自分の物にしようと企む北島。自らの安全のためにはるかを生贄にしようとする二年五組の生徒たち。孤立していくはるかを守りたいと思いながら、死と暴力への恐怖と自分の無力さに葛藤する誠。極限状況下での心理模様が描かれていく。
誠とはるかは小学校来の付き合いで幼馴染と呼べる間柄だが、描写的には仲の良いクラスメイトのような印象で、いかにもな「幼馴染」といった雰囲気ではない。しかし、二人の間には、子供の頃、川で溺れかけたはるかを誠が助けた、家で辛いことがあって泣いていたはるかを誠が慰めた、不良に絡まれたはるかを誠が助け出したといった、強固な思い出の積み重ねがあり、誠ははるかに明確な好意を、はるかも誠に深い信頼を寄せている。周囲から孤立していくはるかを自分一人だけでも守り通そうと決意し、襲撃部隊や北島といった脅威に命懸けで立ち向かっていく誠と、そんな誠により好意を深めていくはるかの関係は禁止展開と言える。
全体として細かい設定部分などにやや首を傾げたくなる箇所などもあるが、この作品の最大の見所である真相の部分が物語の終盤にある。
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重大なネタバレ |
まず襲撃部隊の正体は自衛隊(この世界では強力な能力者で構成されたエリート部隊)で、事件はテロリストを装ってターゲットを抹殺するための政府の自演行為である。事件自体は、暴走した北島が保身のためにクラスメイト達を皆殺しにし、襲撃部隊の指揮官と相打ちとなることで幕を閉じる。北島の死によって予知が消えたことで、北島がターゲットであったと断定され、はるかへの疑いも晴れる。重傷を負った誠も幸運にも一命を取り留め、共に死線を潜り抜けたことではるかとの仲も深まり……という顛末を迎える。ここで終われば、主人公が幸運だけで生き残ったご都合主義な話で終わってしまうのだが、その後、誠とはるかの後日談とも言える姿が描かれ、ここから隠されていた真相が明らかになっていく。
テレパシー能力で、誠の心の中を覗き込んだはるかは、誠の無意識下にもう一つの隠された人格(第二の井戸)というべきものが存在することに気付く(誠自身は完全に無自覚、一般的に普及している能力者判定方法では発見不可)。その人格は誠の幸福のみを望んでおり、強力な未来予知能力と、自然現象に些細な干渉をする能力でバタフライ効果を生み出し、誠の都合の良いように事態が好転するように仕組んでいたのだった。これが誠の幸運の正体であり、誠こそが世界を危機に陥れる真のターゲットであったことをはるかは確信する。
誠がここぞという場面で大胆な行動に出れたのも、幸運に恵まれ命の危険を回避できたことも、はるかの危機に駆けつけることが出来たのも、北島がターゲットとして誠のスケープゴートになったことも、そして、自分が誠に惹かれていくきっかけになった思い出の数々が、全て第二の井戸によって演出されたものであったことをはるかは知ってしまう。そして、彼女が取った選択は……。
- 川から助けてくれたのも。遠足で不良から救ってくれたのも。屋上から水槽が落ちてきたのも。今回の事件で助けてくれたのも。何もかも演出だった。
- 演出でなかったのは、たった一つ。
- 第一の井戸の中にあった誠の気持ちだけだ。
- どんなときも、誠は本物の勇気と思いやりを持っていた。
- 第二の井戸は運命の脚本を作り、実行する監督だ。
- いま、あたしは脚本から完全に抜け出した。
- あたしは映画をぶち壊すの?
- 運命を壊して主人公を殺すの?
- そんなことできるはずがない。
- 誠ははるかのことを想っているし、はるかも誠のことを本当に想っている。
- それ以上に大切なものなどあるはずがない。
- ――死なせはしない。
- 矢口くんは絶対に死なせない。
- たとえ、世界を滅ぼす人間だからってどうなのよ。
- そんなことは"どうでもいいことだわ"――
- ――こんどは"わたし"が矢口くんを護る――
世界の危機よりも誠を選んだはるかは、誠を脅かす存在を排除する守護者となることを決意する。
二人の想いが襲撃事件でも多くの犠牲を生んだことは覆しようのない事実で、この後も二人が生み出していく犠牲を考えれば、素直に賞賛できない後味の悪い部分もあるが、幼馴染である二人が、他の全てを犠牲にしてでも、互いの存在を最優先にしようする姿は利己的でありつつも、強い決意と想いの強さを感じさせる。
話自体は、1冊でまとまっているので続刊は蛇足と言えるので単巻完結と判断して良いと思われる。しかし、この作者の著作はこれ一作のみで、新作を出す気配もない。
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最終更新:2012年10月14日 00:11