• スレッド_レス番号 01_635-636
  • 作者 304
  • 備考 長編,アマゾネス妄想


「妾の相手は不服と申すか」
 傲然とした女王の言葉に、周囲の女達がざわりと殺気立つのがわかった。
女兵士に地面へと組み伏せられた屈辱的な格好で、男はそれを受け止める。
 アマゾネス、というのだろうか。女しかいない社会だ。領土争いに戦う兵士が
女なら、狩を行い一族を養うのも女、それでいて家を整えるのも女、子供の
世話をみるのも女。
 そして城の最深部、大勢の世話人を侍らせ堂々と君臨しているのもまた、
女だった。
 迷い込んだ先で捕らえられ、玉座の前に引き出された男を、女達は冷たく
見下ろしている。
「なんと無礼な」
「男如きが、身の程知らずな」
 囁き交わす声音に、男は頭を上げる。すかさず押さえつける腕に力がこもった。
苦痛に顔をしかめた男に、女王は鷹揚に腕を振ってみせる。
「よい、ゆるめてやれ。言いたいことがあるのであろう。言うてみよ、何が望みじゃ。
富か、栄誉か?」
 彼女はけして暴君ではない―――と男は思う。よい君主だ。統率ある女達の
様子を見ていれば、それがわかる。
 だからこそ、悲しかった。これだけはどうしても譲れない。彼と女王の道が
交わることはありえないのだ。
「陛下」
「うん?」
「陛下はお美しくていらっしゃいます」
 男の言葉に、女王は満足そうに頷く。話の続きを待つ姿勢になった。
「……ですが、おわかりください。私と陛下では住む世界が違うのです。
ご所望にお応えすることはできません」
「わかっておらぬようだな。ここは妾の国、妾が法律じゃ。身分の差など、
妾の望みの前には小さきことぞ」
「国の法律などという些細な問題ではありません。天の摂理というものです」
 女王の顔が不快げに歪む。
「好いた女子(おなご)でもおるというのか。天の定めた伴侶と申すか」
「……いいえ、けしてそういうことでは」
 一瞬遅れた返答が、女王の神経を逆撫でした。ぴしりと言い放つ。
「これで最後じゃ。今ならまだ許してつかわす。こちらへ来やれ。ひざまずいて
妾に忠誠を誓うがよい」
「できません」
「そなた!」
「私には無理なのです! 気に入らぬというならこの首落としていただきたい!」
 男の言葉に女王は憤怒の表情を浮かべる。激情を込めて叫んだ。
「よう言うた! ならば望み通り殺してくれよう! その者の首を刎ねよ!!」



「―――とかだったらおもしろくね?」
「う?」
「……いや、いい。男同士の話はおまえにはまだ早かったな……」
 きょとんと見返す弟にそう呟くと、兄は『アリの巣穴観察キット』に目を戻す。
家の中で赤い羽根アリを見つけたので、針金を使って苦労しながら巣穴の奥に
押し込んだが、あっという間に黒アリ達にたかられてしまった。まぁこれはこれで
1つの研究成果だ。彼は『せいかつ』のノートに観察結果を書き記す。
『赤アリをすあなに入れてみました。赤アリはたべられてしまいました。くろアリと
赤アリはてきどうしなのだとおもいました。』
 アマゾネスというのがなんなのか、よくは知らない。ただ、父親のHなマンガに
そんなものが出てきたのだ。アリの世界はメスばかりだと聞いたので、そんな
感じかな、と彼は思う。あのマンガを見たときは女の人の裸ばかりで、とても
ドキドキした。以来時折こっそりと覗いている。
「にーた、にーた、アンパンマン!」
 当初にこにこしてアリを眺めていた弟は、兄がアリにばかり注意を向けるのが
おもしろくないのか単に飽きたのか、そう言いながらリモコンを押しつけてくる。
「あー、はいはい。アンパンマンね」
 仲良くビデオを観る兄弟の後ろで、アリ達は何事もなかったかのように、
せっせと砂糖の粒を運んでいた。



   END




バグ・不具合を見つけたら? 要望がある場合は?
お手数ですが、メールでお問い合わせください。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2008年02月14日 00:39