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  • 備考 短編,西部劇風


 「抱かないの?」「ああ」
 目の覚めるようなブロンド、ブルーアイ、そして突き出したバストにそいつ覆うわずか
ばかりのチューブトップ、ストリートに立ってても可笑しくない際どいパレオ、典型的な
田舎から出てきたアメリカ女。
 この街でスターダムにのし上がるなんて一束幾らという安い夢を追って、自分の体を安
く振り回して、グラス、コーク、ドラッグを捌くところまで堕ちちまった。

 ―――馬鹿な女、哀しい女、そしていい女―――

 愛した男を殺させないために、ここまで抱かれにくる。そんな女。
 装弾を終え一振りすると、エジェクターロッドが硬い音を発てて弾倉がロックした。
 女はどぎつくルージュを塗った唇を噛み締めて、チューブトップを毟り取った。
 「こちらを見て、そして抱いて」
 女を見る。売った笑顔、売った体、金のためにヤクを売り、売れるものは何でも売った。
そして俺を売る、そのために自分を俺に売りつける。
 ジャケットの後ろでベルトに手挟むと、何時ものとおり何時もの重さ、馴染んだ
コルト・コブラが今日は重かった。
 静かにドアの前に立つ女を押しのけ、ドアを開けた。
 腕が首に廻った。背中で泣きながら「お願いいかないで、あのひとを殺さないで」告げる。

 ―――売ったもの、売らないもの、売れなかったもの―――

 静かに、腕を振り解くとドアをくぐった。
 「ベロシのところに行ったわ、あんたお終いなのよ!」
 叫びの後には、微かな啜り泣きが漏れてきた。それは階段を下りるにつれて外の雑踏の
音に紛れて消えた。

 血と汗と反吐とスナッフィング用のストローと注射にスプーン。そんなものが散らば
る路地を抜けていく。
 「よお」
 男はいた。メキシコ訛りで何時ものバァで会ったかのように挨拶をし、左手に下げた壜を
呷って、投げてよこした。左手で受け取って呷る。
 「ワイン?」
 「ああ、フランスならお互いに喧嘩のネタにゃならねぇ」
 「そうなのか?」「ああ」
 互いに笑った。
 「抱いたのか?」「………………」
 「抱いてないのか。お前さんらしいな」
 「このまま笑ってじゃあな、で終るわけにはいかんのか?」
 「駄目だな」
 「お互い良い友達になれそうなのにな」
 「無理だろう。お互い似過ぎてるからな」」笑いを含んだ声が応えた。
 「違いない」
 また、お互いに笑った。男は言った。
 「ベロシを殺った」
 「………………」
 「もし、俺が死んだらあいつを殺してやってくれ」
 黙って頷いた。
 「じゃあ―――」

 ―――売ったもの、売らなかったもの、売れなかったもの―――

 あの女も俺達も、売れるものは命でも二束三文で売った。そうして守ったもの、売らな
かったものは、誰も見向きもせず何の値段もつかなかった。

 そして銃声が響いた。
 「約束は守る」そういって止めを撃った。ポケットの弾は後二発だった。




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最終更新:2008年02月14日 00:42