• スレッド_レス番号 02_043
  • 作者 319 ◆K4NcOudD5E
  • 備考 短編,恋するセクサロイド


 「抱いて…下さい」

 目の前の女のカタチをしたモノが涙まで流して哀願する様は、違和感を通り越し、質(たち)の悪い喜劇を見ている
気分にさせられた。…十年前、便利な相棒が欲しかった俺は、少女趣味のどこかの変態野郎が散々弄んで飽きて
捨てた中古のセクサロイドを拾い、修理して傍に置いた。人間ならばテメエの都合で簡単に俺を裏切ってくれるが、
『機械』は少なくとも俺自身が手を懸けた分だけ裏切らない。…裏稼業に手を染める前からの俺の信条だった。

 「自己診断プログラムを走らせろ。自分が今、何言ったか自分で解ってるのか? …さっさと寝ろ」
 「何処もおかしくはありません…」
 「…なら命令だ。スリープモードに移行。これ以上、俺の貴重な睡眠時間を削るな」

 うなだれるドロイドを一瞥し、俺はソファーに転がる。俺は馬鹿が嫌いなのでコイツの集積回路をバージョンアップ。
それから戦闘技術を一から『俺の手で』学習させた。人間と違って反復演練の必要が無いのが救いだったが、今度は
ハードの方が要求性能に附いて行かなかった。御蔭でコイツを拾うまでに稼いだ金の大半をコイツの身体につぎ込む
羽目になったのは、安く済ませようとした俺の自業自得だろう。今やコイツは若い女のカタチをした…殺人機械だ。

 「復唱はどうした? …っておい! 」
 「寝ろ。マスターは男性、そしてわたしは女性型。性交しろとの意と拡大解釈」
 「熱暴走か…? 降りろ、重い」

 様子がこうもおかしいのは、つい一時間前まで俺の商売敵がコイツを俺の情婦か何かと勘違いして誘拐してくれた
御蔭だろう。スケジュール管理からカネの運用までコイツにまかせっきりだった俺は、商売敵の呼び出しに不承不承
『顔を出して』やったのだ。実はコイツが本気を出せば『敵を皆殺しにして自分で帰って来れる』はずなのだが、何故か
そうせずに『外見通りにか弱い乙女』を演じてしおらしくお嬢様を決め込みやがってた。…調子が悪かったのだろう。

 「…来てくれて…嬉しかった…」

 覆い被さり、狸寝入りを決め込む俺の耳に熱く、艶やかな声を吹き込む。…糞、何て真似をしやがる。意外と高級品
だったんじゃないのか? オマエ? …耳を舐めるなっての。…調整が面倒なのでセクサロイド用の生体機能を残した
ままだった俺の不精が今は呪わしい。コイツを拾ってきた当初は抜け殻同然だった。照れながら風呂に入れて洗った
のも俺だ。…今更言うのも難だが、俺がコイツを『本来の意味で使った』事は一度たりとも無い。…本当だぞ? これは?
表稼業時代のコネを使って、アタマの生体記憶回路やスキンを修理した後、擬似体液を補給し、オマケに『処女膜』まで
再生させた俺だぞ?

 「そりゃ行くさ。何せオマエは俺の『マギー』より金を掛けてて、その何倍も使えるからな」
 「…『マギー』よりも? わたし…嬉しいですっ! 」
 「そこまでだ。明日も一所懸命に稼がなきゃならん。互いにベストを尽くそうぜ、『相棒その2』」

 その『マギー』を、コイツの目の前に突き付けてやる。百年前のコンバットオート、DE50。スウェーデンはハクスバーナ社
設計、生産は嫉妬する神ヤハウェを国を挙げて信仰するイスラエル。火薬式なので厳重に管理されているエナジーパック
なんて代物は要らない『相棒その1』だ。…整備や清掃に手間がかかるのが玉に瑕だが、俺の命を何度も救ってくれた。
『相棒その2』は、まだ俺の上で身体をすり寄せてくる。コイツ…俺が股にぶら下げてるもう一つの相棒をどうするツモリだ?!

 「俺はベストを尽くそうと言ったんだぞ? 」
 「はい、だから…満足して貰おうとして…」
 「あのなぁ…もう直接話法だ。体力の消耗は避けたい。オマエは俺の戦闘能力を下げて殺したいのか? 」
 「!!」

 泣き出しそうになる『相棒その2』の頬を撫で、ついに溢れ出した涙を拭う。浮かれ気分のほろ酔いモードから抜け出したか…。
だが、コイツの戦闘性能も落とす訳にもいかない。メンタルな機能を取っ払えば済む話なのだが、それでは人間型をしている
意味が無い。難しい所だが、全て拾った俺の責任だ。…全部背負って闘って、生き抜いてやるさ。これまでも、これからも。
俺は潔く離れようとした『相棒その2』の身体を強く抱き寄せた。驚く『相棒その2』に、右眉を上げて微笑んで見せる。

 「ご褒美、欲しいんだろう? このまま寝ようや、エイミー」
 「はい…」 

 最高の性能を発揮するためには厳しい自己管理が必要だ。例え明日に野たれ死ぬとしても、精一杯生き抜くために。 




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最終更新:2008年02月14日 00:46