何故、こうなったのだろうか?
自分はあのロクデナシの父親からこの街――オウガーストリートに逃げてきた。
父は酒を飲めば暴力を振るう男だった。そして、いつも酒ばかり飲んでいる。
稼ぎと呼べるほど禄なモノもなく、それすらも酒に使ってしまう。
クロネッカーは仕方なく、犯罪に手を染めた。
だが、そうは言っても非力な少女にできることといえば、売春か、スリか……クロネッカーの取ったのは前者であり、後者だ。
金を先に支払わせ、走って逃げる。ぶつかって、財布をすって逃げる――必然的に逃げ足は早くなる。
捕まったことは一度や二度ではないが、幸いに、死なない程度に蹴りや殴りを喰らうだけで済んだ。
(自分はこうやって、ロクでもないことをして、いつか捕まって、殺されるんだろうな…)
そう考えていた。
だが、父親を見捨てることはできなかった。
親子3人でいる時は、優しい父親だったのだ。
母が行方不明に――殺されるまでは、優しい父親だったのだ。
母を失った悲しみで酒に溺れてしまった父。
そんな父を、どうして見捨てることができようか。
そう思っていた。
――あのときまでの自分は。
いつものように金を手に入れて帰ってきたある晩、父は、また酒を煽っていた。
下を向き、顔を歪めながら、「花を売ってきたよ」と言った。
「今日も買ってくれる親切な人がいたんだよ」と続ける。
しかし、父は真っ赤な顔で、その金で酒を買ってこいと怒鳴るだけだった。
「……お父さん。でも…今月の家賃が、まだ」
「金、金うるせぇ! そんなに言うならコイツを売ってきやがれ! オラ!」
そう言って父は、クロネッカーを押し倒して、無理やりに剥ぎ取った。
母の髪留めと、ネックレスに通した結婚指輪を。
これまで生活が辛くて、母の遺品は2つを残して金に変えてしまった。
それでも髪留めと結婚指輪だけは母との思い出に残し、懐かしい日を振り返ってなんとか生きてきたのだ。
それなのに、父はそれを踏みにじった。
限界だった。
改めて良く見れば、既に銀色の輝きがない父の薬指を見ながら、「…買ってくるね」と外に出た。
そして、そのまま、母の形見とともにオウガーストリートへと向かったのだ。
最愛だった父を、殺すために。
最終更新:2009年03月07日 19:14