何故、こうなったのだろうか?
ナップは、昔のことを良く思い出せない。
多分生きるため、あまりにどうでもいい『情報』だったのだ。
そのスペースすら勿体無く、その為の脳の領域さえ栄養にしたのだろう。
でも、鮮明に覚えていることが2つある。
即ち――『泥』と『人間』の味だ。
生きるために必死だった。
食べれるものは何でも食べた。
泥も食べた。
手が汚れても食べた。
戻しても食べた。
味がしなくても食べた。
食べられなくても食べた。
それほどに必死だった。
ある時、ナップは密航を決意した。
それは力尽きる場所を探して這い回っていたのか、或いは生きるために現状から飛び出したのかは覚えていない。
月が照らし、漏れた水の溜まりに波紋を作る音を聞く場所で、名も知らぬ死体に出会った。
それも――『喰った』。
そうして腹を満たし、いくらばかりか入っていたそいつの財布と、麻薬の袋を奪った。
ナップは、その男の名前だ。
肉を奪い、服を奪い、金を奪い、職を奪い、名を奪い、今、『ナップ』はここにいる。
オウガーストリートに。
この街は生や死に無頓着だ。
隣で男が死んでも、足下で老人が死んでも、路地裏で女が死んでも、路上で子供が死んでも――――兎に角、関心が薄い。
昼飯を食べれば、どこで誰かが果てても忘れてしまう。
一山幾らかのオレンジのように、人の命が安い街。
最高だ。
『餌』にはこと欠かない。
『地上の楽園』――オウガーストリート。
今日もナップは獲物を探す。
最終更新:2010年01月22日 01:49