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小さな女の子と狼な女の子 - (2010/06/29 (火) 22:26:41) の1つ前との変更点
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[[前編 終わりも始まりもない>http://www13.atwiki.jp/oyatu1/pages/1234.html]]
目を覚まして立ち上がろうとして久しぶりにかがみと一緒に寝たなぁと思った。
一年やそこらぶりではなかった。就職する前、大学生といってもまだまだ高校の頃のように遊んでいた時以来。
かがみはクッションだったりぬいぐるみだったり抱きつき癖があった。
寂しんぼさんなんだからと言っていた。昔真っ赤になって否定していた彼女もほんの少し認めてる。
今もこうしてすっぽり抱えられて、あの頃から全く成長していないことに嘆くべきか。それともかがみにとって安心できる存在だと自惚れてみるか。
意外とぐっすり眠っている。小さな規則正しい寝息が髪にかかる。
起こそうかもう少し寝かせとこうか。迷った挙句いつの間にか再び夢の世界に落ちていた。
結局かがみが先に起きる形になってからかうことはできなかった。
寝ぼけ眼の無防備なかがみじゃなくて、普段のようにきちんとした状態で、なぜか私の隣で。
呆れているようでいて優しさを含んだ声。ちょっと起きるのが惜しかった。
まぁだけど、頬をつっついてきたり髪をいじられたりしたらくすぐったくて寝られない。
「おはようこなた。相変わらず可愛い寝顔してたわよ」
「……かがみのえっち」
肘をついてにやにや笑っているかがみが目の前にいる。あの頃と何ら変わってなかった。
「というか着替えまで済ませてるくせになんで隣で寝てるのさ」
「いいじゃない別に。こなたは年を取らなくて羨ましいなーって」
「正直に全然成長していないって言ってくれていいから」
どこに行くにも身分証明に免許を常に携帯していないと大変だし。
ようやくかがみが体を起こす。ツインテールをやめたサラサラの長い髪は大人の女性っぽさを感じた。
いつからだろうか、確か大学に入ってからはポニーテールが中心だった。そして結わってかわいらしさを意識するのは少なくなった。
相変わらずの長くて長い自分の髪に触れる。毎朝寝癖がひどくて。
鏡に映る自分の姿。私はお母さんに近づけているのかな。
「こなた、どうしたの」
「なんでもない。着替えるから向こう向いててよ」
「ん、わかった」
薄紫の髪。ちょっと大きくなって見える背中。
普段より少し着替えるのに手間取った。
「一応ちゃんと自炊しているみたいね」
私の作った朝食を前にしてかがみが言った。
「これでも家事全般は小さいころからやってきてるからね。別に面倒だとも思わないわけですよ」
「そっか。あんたが一人暮らししたらぐーたらな趣味三昧の毎日になると思ってたけど」
「失礼ですなー。そういうかがみは料理の腕、少しは上達したのかな?」
「うっ。なんとかカレーとか肉じゃがならできるように……」
なんという定番な。男が喜ぶ女の子の手料理ベストスリーに入ってるじゃん、それって。
食べてみたいな、なんて思ってしまって。「かがみは誰に作ってあげるのかな?」とかいうバカな質問をしそうになった。
「こなた、美味しいよ」
「ん、んぐっ。あ、ありがと」
そんでもってかがみが急に褒めてくれるもんだから、ちょっとむせてしまったじゃん。
素早い動作でお茶を差し出される。これでめちゃくちゃ熱かったらコントかって感じだよ。
何やってんのよもうって感じの表情のかがみ。高校時代はどれだけこんな顔をさせてしまっただろう。でも本当は誰よりも優しかった。
心の中の小さなそれは決してなくなりはしなくて。
「あのさ、かがみ」
「うん?」
「今日時間ある? 久しぶりだしさ、どこか出かけようよ」
「もちろんよ。せっかく会いに行く機会なんだからそれくらい予定に入れてたわ」
言って歯を見せて笑った。思わず目を細めてしまうほど眩しかった。
高校時代に何度も行ったアニメショップとかのある場所じゃなくてまともな中心街を歩いていた。
別名オシャレ通りなんて呼び名もあるそうな、きらびやかな街並み。
ただ滅多なことでは行かなそうなアクセサリーショップも、道行く若者のファッションを見てても、私は違う世界の住民なんだって思う。
私の隣を歩くかがみには何も違和感なんて感じなかった。むしろ他のどの女の人よりも綺麗なんじゃないかって。
こんな美人と友達で私はなんて幸せ者なんだろう。
ほんの数センチだけど高くなった横顔。頬から顎のライン。紅い唇。
「ん? どうかした、こなた」
「な、なんでもないっ」
簡単に目を奪われてしまう。どれだけ見ていたかなんて自覚できてない。
顔を見られたくなかった。赤くなってるはず。ちょっと早足になった。
カッカッ。ヒールの鳴らす音のリズムが若干速くなって追いかけて来てくれた。
別に目的とか買いたい物とかがあったわけじゃなかった。ひたすらに歩く。
半歩先を歩く背の低い男の子みたいな格好をした私。メイクしてちょっぴり香水のいい匂いを振りまくかがみ。
何やってるんだろうって思いながらでも立ち止まるわけにはいかないし。
「ちょ、ちょっとこなた」
何度目かわからない私の名前を呼ぶかがみ。それから柔らかな感触が左手に。
「もう待ちなさいよ。急ぐ理由なんてないでしょ」
「えっ、あ、うん。そうだね」
「なに。……ああ、こうしてたら迷子にならずに済むんじゃない」
繋いでいる手を掲げて見せてきた。顔がどうしようもないくらいに笑ってる。
恥ずかしかった。悔しかった。だけど嬉しいと思ってしまう自分がいた。
何も言わない私によしとしたのかかがみが歩き始める。
今朝もそうだったけどかがみの手ってあったかくて。人の体温だから大差ないとわかっているからなんかずるい。
ずっとこのままでって思いたくなるような安心感を与えてくるんだもん。
前を歩くかがみの背中を見つめながら歩いていた。
「ほらこなた、次はこれ着てみなさいよ」
かがみが満面の笑みで超の付くほどのミニスカート勧めてくる。
きわどいってレベルじゃないですよかがみさん。手に持ってるとただの布きれみたいだし。あと、顔が近いよ。
さすがに強く拒否を示したら諦めてくれて、でも次はフリフリの私には似合わないでしょってやつを持ってきて。
いったいこれで何着目なんだろう。なんていうか個人的なファッションショーになっちゃってるよね。
事の始まりはなんだったのだろう。私が引き起こしたのかもしれない。
何人もの人とすれ違ったけどかがみは全然見劣りしなくて。そんなかがみと私は手を繋いでて。
私たちはどんな風に見えるのだろう。絶対同級生に見えないよね、姉妹とか。もしかしたら母娘とか。
ふとかがみとは反対側に視線を移すと高そうな服が売っている店が並んでいる光景で。
そしてそこのショーウインドウに二人の姿が映り込んでいて。
「どこからどう見ても小学生にしか見えないよね」
「……どうしたの?」
呟いていた。足も止めてしまった。
「んー、こうして見ると私たち姉妹みたいじゃん、なんてね」
鏡みたいに綺麗に映るわけじゃないけど、並んでいる二人の女の子は身長だけじゃなく服装にも差があった。
あはは、と声にしてもそこにいる私は笑っていなかった。
「──たは──わよ」
「えっ?」
「こなたは絶対磨けば光る。いい? 今から私が証明してあげるから」
暴走機関車のごとくかがみはそのまま目の前の店に突撃していって。現在に至る。
「かがみ、私用のを選んでるんじゃなくて、着せ替え人形みたいに楽しんでるだけでしょ、絶対」
「そんなことないわよ。だいたい服を選ぶのって適当に着れればいいじゃだめなのよ。似合う服を着たらもっと自分が好きになるし、見える世界だって変えてくれるんだから」
「そ、そういうもんかな」
「そういうものなの!」
力説するかがみはかわいいなぁ。今さらだけど。
なんて思ってみてもどうやらこの着せ替えごっこはまだまだ続くらしくて。
そしてなんだかんだ言いつつもかがみに可愛いって言われると嬉しくなる自分がいるわけで。
お店に居座ること二時間近く。で、お会計がほんとうにたったの一着という結末に店員さんは呆れるしかなかったようだ。
まぁ、私も疲れたけれど、その服はかがみからのプレゼントです、となると自然と頬は緩む。
とりあえず絶対にタンスの肥やしにしないこと、と心の中で誓ったのだった。
かがみの言う可愛いと私のかがみに対するかわいいは違うんだってわかってはいる。
それにたぶん久しぶりに会ったことが気持ちを高揚させたりしているのかもしれない。呆れ顔、怒った顔ばかり昔はさせていた。
けれど今この時がすごく楽しいっていうのに嘘はつけない。どうしようもなく私はかがみが好きなんだと自覚する。
たまたま通りがかった公園。ぶらぶらしているだけだったし、多少疲れてもいたので寄ることにした。
かがみは飲み物を買いに行ってくれている。今日という一日の中で初めての一人の時間だ。
昨夜のことは覚えている。好きな人が他の誰かと結婚することになった。
心からの祝福はできなかった。でも認めないなんて言えない。その理由を言うことすら叶わない。
かがみの気遣いが嬉しかった。親友だって言ってくれて嬉しかった。今過ごしているひとときは幸せだった。
かがみが好き。伝えられない言葉。静かな公園で呟いた。どこにも響かずに消えていった。
「はい、スポーツドリンク。コーヒーとかのがよかった?」
「ううん、なんでもよかったよ。ありがと」
手渡されたペットボトル。ひんやりとした感触が気持ち良くて、頬にあてたりした。
かがみはよほど喉が渇いていたのかすぐに飲み始める。喉を鳴らしていた。
ぐっと上を向いて飲む姿が男勝りというか、少しおかしかった。左手で掴んだペットボトルの中身が一気に減っていく。
「あっ」
思わず声に出していた。左手の薬指。
「どうかした?」
「なんでもないよ、なんでも」
「そう? なんか今日のこなたは少し変ね」
誤魔化してドリンクをちびちびと飲むことにする。冷たく染み込んでくるけど冷静さを取り戻してはくれない。
もう一度盗み見た。やっぱりしていない。記憶を掘り返してみてもそれらしい何かを見せてもらってはいなかった。
だからといって、何かが変わるわけでもないじゃん。
でも、聞かずにはいられなかった。
「ね、ねぇ、かがみ」
「なに」
もう長いこと会っていなかった。メールのやり取りでも深く聞いたりしていなかった。
相手はどんな人なのか、いつから付き合っているのか。結婚式の日はいつなのかも、何も知らない。
「あのさ、こ、婚約指輪とかって、もらってないの……?」
かがみは確かに綺麗になった。優しくなった。その理由が恋人ができたからだと、信じたくなかった。
かがみの頬が赤く染まった。初めて会った時からそうだ。普段はどんなに厳しくても、ちょっとツリ目でも、感情がすぐ表に出る。そこがかがみのかわいいところ。
「え、えっとそれは、その……」
目が泳いでいる。追いかけた。目があった。
じっと見つめた。離さない。また少しかがみの顔が赤くなった気がした。
私たちの間を沈黙が支配する。ただ私は逃げるつもりはない。
「ご、ごめんなさいっ、こなた」
「えっ」
今朝のようにあたたかい何かが私を包んでくれている。
かがみが、私を抱きしめていた。
「な、なに、どうしたのかがみ」
「ごめん、本当にごめん。あれ、全部嘘だから」
状況の変化についていけない私は両手の行き場も思いつかずにいた。
・
・
・
・
・
・
・
・
「数日前から考えていたんだけど、長いこと会っていないんだからサプライズにしなくちゃって思ってさ」
「ええと、結婚の話の前にもう一つ。もし私がいなかったらどうしたの?」
「そりゃ帰ってくるまで待つに決まってるじゃない」
「その日帰ってこなかったとしても?」
「当然よ。だってこなたの──きなんだもん」
「? で、なんで結婚するだなんて嘘ついたの。もう驚くどころじゃないし」
「そ、それは、その……」
こなたがじっとかがみを見上げていた。数分にもおよんで。
「ああ、もうっ。それ反則よ、こなた。我慢できるわけないじゃない」
「ふぇ、かがみっ?」
かがみ、こなたを力一杯抱きしめる。もう抱え上げてしまうくらいに。
こなたはただただ困惑していた。
「こなたの泣き顔が見てみたかったのよ。結婚なんてしない、付き合っている男もいない。だって私はこなたが好きだから」
「ば、かっ。かがみの、ばか……っ!」
「こ、こなた……? な、泣いて……?」
「ばかばかばかっ。かがみなんて、かがみなんて、だいっきらいだ」
「ごめん、こなた。私素直じゃなさすぎたわ。もう一度言うから、聞いてくれないかしら」
「うん」
「こなた。私ね、こなたのことが好きよ」
「っ、かがみぃ……」
こなたの行き場を失っていた両手は自然とかがみの背中に回されて。
二人のなかに身長差などは関係なかったのだ。
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#comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
- 前作にて、かがみの事がすごく好きなんだけどもうどうにも &br()ならず、とてもつらいこなたの心情がすごく表されていた &br()ので、今回救われる内容で正直ホッとしました。 &br()GJです。 &br() &br() &br()あと関係ないですが、私的にはタイトル名 &br()『ごめん、なかったことにして』 &br()でも良いような気がしました。 &br()…はい、完全に蛇足ですね。失礼しました。 -- 名無しさん (2010-06-29 20:35:30)
- いつの間にか続編出ていたんですね &br()ハッピーエンドで本当に良かったとしか言い様がありません…、素晴らしい!! -- 名無し (2010-06-29 20:26:25)
- happyendで良かったです… &br()ほんとにかがみんてばツンデレなんだから… &br()下手なサプライズよりも大事なものを強引に奪い取る覚悟を決め立って下さい -- こなかがは正義ッ! (2010-06-29 12:31:37)
- よかった… ホントによかった!! -- 名無しさん (2010-06-29 08:00:09)
- 『終わりも〜』は過ぎる時間の無情さが好きでした。 &br() &br() &br()ちょうどリアルで離婚した後に読んだので、かがみが結婚を告白するシーンには、強く心を掴まれました。 &br() &br() &br()だから、余計こなたには好きな人が居なくなる辛さは味わって欲しくないな……なーんて考えてましたよw &br() &br() &br()なので、『小さな〜』を読んで気持ちが楽になりました☆ &br()こなたとかがみの時間が始まってくれて、ほんとに良かった。 &br() &br() &br()もう後悔するような選択はするなよ!こなた☆ &br()っと言ってやりたいw &br() &br() &br()作者様、GJでした! -- ♪ (2010-06-29 00:15:43)
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目を覚まして立ち上がろうとして久しぶりにかがみと一緒に寝たなぁと思った。
一年やそこらぶりではなかった。就職する前、大学生といってもまだまだ高校の頃のように遊んでいた時以来。
かがみはクッションだったりぬいぐるみだったり抱きつき癖があった。
寂しんぼさんなんだからと言っていた。昔真っ赤になって否定していた彼女もほんの少し認めてる。
今もこうしてすっぽり抱えられて、あの頃から全く成長していないことに嘆くべきか。それともかがみにとって安心できる存在だと自惚れてみるか。
意外とぐっすり眠っている。小さな規則正しい寝息が髪にかかる。
起こそうかもう少し寝かせとこうか。迷った挙句いつの間にか再び夢の世界に落ちていた。
結局かがみが先に起きる形になってからかうことはできなかった。
寝ぼけ眼の無防備なかがみじゃなくて、普段のようにきちんとした状態で、なぜか私の隣で。
呆れているようでいて優しさを含んだ声。ちょっと起きるのが惜しかった。
まぁだけど、頬をつっついてきたり髪をいじられたりしたらくすぐったくて寝られない。
「おはようこなた。相変わらず可愛い寝顔してたわよ」
「……かがみのえっち」
肘をついてにやにや笑っているかがみが目の前にいる。あの頃と何ら変わってなかった。
「というか着替えまで済ませてるくせになんで隣で寝てるのさ」
「いいじゃない別に。こなたは年を取らなくて羨ましいなーって」
「正直に全然成長していないって言ってくれていいから」
どこに行くにも身分証明に免許を常に携帯していないと大変だし。
ようやくかがみが体を起こす。ツインテールをやめたサラサラの長い髪は大人の女性っぽさを感じた。
いつからだろうか、確か大学に入ってからはポニーテールが中心だった。そして結わってかわいらしさを意識するのは少なくなった。
相変わらずの長くて長い自分の髪に触れる。毎朝寝癖がひどくて。
鏡に映る自分の姿。私はお母さんに近づけているのかな。
「こなた、どうしたの」
「なんでもない。着替えるから向こう向いててよ」
「ん、わかった」
薄紫の髪。ちょっと大きくなって見える背中。
普段より少し着替えるのに手間取った。
「一応ちゃんと自炊しているみたいね」
私の作った朝食を前にしてかがみが言った。
「これでも家事全般は小さいころからやってきてるからね。別に面倒だとも思わないわけですよ」
「そっか。あんたが一人暮らししたらぐーたらな趣味三昧の毎日になると思ってたけど」
「失礼ですなー。そういうかがみは料理の腕、少しは上達したのかな?」
「うっ。なんとかカレーとか肉じゃがならできるように……」
なんという定番な。男が喜ぶ女の子の手料理ベストスリーに入ってるじゃん、それって。
食べてみたいな、なんて思ってしまって。「かがみは誰に作ってあげるのかな?」とかいうバカな質問をしそうになった。
「こなた、美味しいよ」
「ん、んぐっ。あ、ありがと」
そんでもってかがみが急に褒めてくれるもんだから、ちょっとむせてしまったじゃん。
素早い動作でお茶を差し出される。これでめちゃくちゃ熱かったらコントかって感じだよ。
何やってんのよもうって感じの表情のかがみ。高校時代はどれだけこんな顔をさせてしまっただろう。でも本当は誰よりも優しかった。
心の中の小さなそれは決してなくなりはしなくて。
「あのさ、かがみ」
「うん?」
「今日時間ある? 久しぶりだしさ、どこか出かけようよ」
「もちろんよ。せっかく会いに行く機会なんだからそれくらい予定に入れてたわ」
言って歯を見せて笑った。思わず目を細めてしまうほど眩しかった。
高校時代に何度も行ったアニメショップとかのある場所じゃなくてまともな中心街を歩いていた。
別名オシャレ通りなんて呼び名もあるそうな、きらびやかな街並み。
ただ滅多なことでは行かなそうなアクセサリーショップも、道行く若者のファッションを見てても、私は違う世界の住民なんだって思う。
私の隣を歩くかがみには何も違和感なんて感じなかった。むしろ他のどの女の人よりも綺麗なんじゃないかって。
こんな美人と友達で私はなんて幸せ者なんだろう。
ほんの数センチだけど高くなった横顔。頬から顎のライン。紅い唇。
「ん? どうかした、こなた」
「な、なんでもないっ」
簡単に目を奪われてしまう。どれだけ見ていたかなんて自覚できてない。
顔を見られたくなかった。赤くなってるはず。ちょっと早足になった。
カッカッ。ヒールの鳴らす音のリズムが若干速くなって追いかけて来てくれた。
別に目的とか買いたい物とかがあったわけじゃなかった。ひたすらに歩く。
半歩先を歩く背の低い男の子みたいな格好をした私。メイクしてちょっぴり香水のいい匂いを振りまくかがみ。
何やってるんだろうって思いながらでも立ち止まるわけにはいかないし。
「ちょ、ちょっとこなた」
何度目かわからない私の名前を呼ぶかがみ。それから柔らかな感触が左手に。
「もう待ちなさいよ。急ぐ理由なんてないでしょ」
「えっ、あ、うん。そうだね」
「なに。……ああ、こうしてたら迷子にならずに済むんじゃない」
繋いでいる手を掲げて見せてきた。顔がどうしようもないくらいに笑ってる。
恥ずかしかった。悔しかった。だけど嬉しいと思ってしまう自分がいた。
何も言わない私によしとしたのかかがみが歩き始める。
今朝もそうだったけどかがみの手ってあったかくて。人の体温だから大差ないとわかっているからなんかずるい。
ずっとこのままでって思いたくなるような安心感を与えてくるんだもん。
前を歩くかがみの背中を見つめながら歩いていた。
「ほらこなた、次はこれ着てみなさいよ」
かがみが満面の笑みで超の付くほどのミニスカート勧めてくる。
きわどいってレベルじゃないですよかがみさん。手に持ってるとただの布きれみたいだし。あと、顔が近いよ。
さすがに強く拒否を示したら諦めてくれて、でも次はフリフリの私には似合わないでしょってやつを持ってきて。
いったいこれで何着目なんだろう。なんていうか個人的なファッションショーになっちゃってるよね。
事の始まりはなんだったのだろう。私が引き起こしたのかもしれない。
何人もの人とすれ違ったけどかがみは全然見劣りしなくて。そんなかがみと私は手を繋いでて。
私たちはどんな風に見えるのだろう。絶対同級生に見えないよね、姉妹とか。もしかしたら母娘とか。
ふとかがみとは反対側に視線を移すと高そうな服が売っている店が並んでいる光景で。
そしてそこのショーウインドウに二人の姿が映り込んでいて。
「どこからどう見ても小学生にしか見えないよね」
「……どうしたの?」
呟いていた。足も止めてしまった。
「んー、こうして見ると私たち姉妹みたいじゃん、なんてね」
鏡みたいに綺麗に映るわけじゃないけど、並んでいる二人の女の子は身長だけじゃなく服装にも差があった。
あはは、と声にしてもそこにいる私は笑っていなかった。
「──たは──わよ」
「えっ?」
「こなたは絶対磨けば光る。いい? 今から私が証明してあげるから」
暴走機関車のごとくかがみはそのまま目の前の店に突撃していって。現在に至る。
「かがみ、私用のを選んでるんじゃなくて、着せ替え人形みたいに楽しんでるだけでしょ、絶対」
「そんなことないわよ。だいたい服を選ぶのって適当に着れればいいじゃだめなのよ。似合う服を着たらもっと自分が好きになるし、見える世界だって変えてくれるんだから」
「そ、そういうもんかな」
「そういうものなの!」
力説するかがみはかわいいなぁ。今さらだけど。
なんて思ってみてもどうやらこの着せ替えごっこはまだまだ続くらしくて。
そしてなんだかんだ言いつつもかがみに可愛いって言われると嬉しくなる自分がいるわけで。
お店に居座ること二時間近く。で、お会計がほんとうにたったの一着という結末に店員さんは呆れるしかなかったようだ。
まぁ、私も疲れたけれど、その服はかがみからのプレゼントです、となると自然と頬は緩む。
とりあえず絶対にタンスの肥やしにしないこと、と心の中で誓ったのだった。
かがみの言う可愛いと私のかがみに対するかわいいは違うんだってわかってはいる。
それにたぶん久しぶりに会ったことが気持ちを高揚させたりしているのかもしれない。呆れ顔、怒った顔ばかり昔はさせていた。
けれど今この時がすごく楽しいっていうのに嘘はつけない。どうしようもなく私はかがみが好きなんだと自覚する。
たまたま通りがかった公園。ぶらぶらしているだけだったし、多少疲れてもいたので寄ることにした。
かがみは飲み物を買いに行ってくれている。今日という一日の中で初めての一人の時間だ。
昨夜のことは覚えている。好きな人が他の誰かと結婚することになった。
心からの祝福はできなかった。でも認めないなんて言えない。その理由を言うことすら叶わない。
かがみの気遣いが嬉しかった。親友だって言ってくれて嬉しかった。今過ごしているひとときは幸せだった。
かがみが好き。伝えられない言葉。静かな公園で呟いた。どこにも響かずに消えていった。
「はい、スポーツドリンク。コーヒーとかのがよかった?」
「ううん、なんでもよかったよ。ありがと」
手渡されたペットボトル。ひんやりとした感触が気持ち良くて、頬にあてたりした。
かがみはよほど喉が渇いていたのかすぐに飲み始める。喉を鳴らしていた。
ぐっと上を向いて飲む姿が男勝りというか、少しおかしかった。左手で掴んだペットボトルの中身が一気に減っていく。
「あっ」
思わず声に出していた。左手の薬指。
「どうかした?」
「なんでもないよ、なんでも」
「そう? なんか今日のこなたは少し変ね」
誤魔化してドリンクをちびちびと飲むことにする。冷たく染み込んでくるけど冷静さを取り戻してはくれない。
もう一度盗み見た。やっぱりしていない。記憶を掘り返してみてもそれらしい何かを見せてもらってはいなかった。
だからといって、何かが変わるわけでもないじゃん。
でも、聞かずにはいられなかった。
「ね、ねぇ、かがみ」
「なに」
もう長いこと会っていなかった。メールのやり取りでも深く聞いたりしていなかった。
相手はどんな人なのか、いつから付き合っているのか。結婚式の日はいつなのかも、何も知らない。
「あのさ、こ、婚約指輪とかって、もらってないの……?」
かがみは確かに綺麗になった。優しくなった。その理由が恋人ができたからだと、信じたくなかった。
かがみの頬が赤く染まった。初めて会った時からそうだ。普段はどんなに厳しくても、ちょっとツリ目でも、感情がすぐ表に出る。そこがかがみのかわいいところ。
「え、えっとそれは、その……」
目が泳いでいる。追いかけた。目があった。
じっと見つめた。離さない。また少しかがみの顔が赤くなった気がした。
私たちの間を沈黙が支配する。ただ私は逃げるつもりはない。
「ご、ごめんなさいっ、こなた」
「えっ」
今朝のようにあたたかい何かが私を包んでくれている。
かがみが、私を抱きしめていた。
「な、なに、どうしたのかがみ」
「ごめん、本当にごめん。あれ、全部嘘だから」
状況の変化についていけない私は両手の行き場も思いつかずにいた。
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「数日前から考えていたんだけど、長いこと会っていないんだからサプライズにしなくちゃって思ってさ」
「ええと、結婚の話の前にもう一つ。もし私がいなかったらどうしたの?」
「そりゃ帰ってくるまで待つに決まってるじゃない」
「その日帰ってこなかったとしても?」
「当然よ。だってこなたの──きなんだもん」
「? で、なんで結婚するだなんて嘘ついたの。もう驚くどころじゃないし」
「そ、それは、その……」
こなたがじっとかがみを見上げていた。数分にもおよんで。
「ああ、もうっ。それ反則よ、こなた。我慢できるわけないじゃない」
「ふぇ、かがみっ?」
かがみ、こなたを力一杯抱きしめる。もう抱え上げてしまうくらいに。
こなたはただただ困惑していた。
「こなたの泣き顔が見てみたかったのよ。結婚なんてしない、付き合っている男もいない。だって私はこなたが好きだから」
「ば、かっ。かがみの、ばか……っ!」
「こ、こなた……? な、泣いて……?」
「ばかばかばかっ。かがみなんて、かがみなんて、だいっきらいだ」
「ごめん、こなた。私素直じゃなさすぎたわ。もう一度言うから、聞いてくれないかしら」
「うん」
「こなた。私ね、こなたのことが好きよ」
「っ、かがみぃ……」
こなたの行き場を失っていた両手は自然とかがみの背中に回されて。
二人のなかに身長差などは関係なかったのだ。
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- かがみったらやってくれますねwww &br()何はともあれこなたが救われてホッとしてます。 &br() &br() &br()前作からの作者様のコメント拝見しました。 &br()多くの葛藤があったと思います、作品を読ませて頂いてる身で偉そうな事は言えませんが、 &br()御自身が納得される作品をお書きになれば良いのではないでしょうか? &br()私個人的にはあなたの作品はどれも大好きです、いつも新作を心待ちにしてます。 &br()これからも応援する気持ちと共に、GJ!!をおくらせてもらいます。 -- kk (2010-06-29 22:26:41)
- 前作にて、かがみの事がすごく好きなんだけどもうどうにも &br()ならず、とてもつらいこなたの心情がすごく表されていた &br()ので、今回救われる内容で正直ホッとしました。 &br()GJです。 &br() &br() &br()あと関係ないですが、私的にはタイトル名 &br()『ごめん、なかったことにして』 &br()でも良いような気がしました。 &br()…はい、完全に蛇足ですね。失礼しました。 -- 名無しさん (2010-06-29 20:35:30)
- いつの間にか続編出ていたんですね &br()ハッピーエンドで本当に良かったとしか言い様がありません…、素晴らしい!! -- 名無し (2010-06-29 20:26:25)
- happyendで良かったです… &br()ほんとにかがみんてばツンデレなんだから… &br()下手なサプライズよりも大事なものを強引に奪い取る覚悟を決め立って下さい -- こなかがは正義ッ! (2010-06-29 12:31:37)
- よかった… ホントによかった!! -- 名無しさん (2010-06-29 08:00:09)
- 『終わりも〜』は過ぎる時間の無情さが好きでした。 &br() &br() &br()ちょうどリアルで離婚した後に読んだので、かがみが結婚を告白するシーンには、強く心を掴まれました。 &br() &br() &br()だから、余計こなたには好きな人が居なくなる辛さは味わって欲しくないな……なーんて考えてましたよw &br() &br() &br()なので、『小さな〜』を読んで気持ちが楽になりました☆ &br()こなたとかがみの時間が始まってくれて、ほんとに良かった。 &br() &br() &br()もう後悔するような選択はするなよ!こなた☆ &br()っと言ってやりたいw &br() &br() &br()作者様、GJでした! -- ♪ (2010-06-29 00:15:43)
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