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ゆれたい・四 - (2009/05/30 (土) 14:57:12) の最新版との変更点

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 ゆれたい・四  その時、つかさがトイレに行くと言って、あと十分程で着くであろう駅へ一目散に走っていった。 私はかがみと二人きりで、突如その場に取り残された。号泣寸前になっていた私は呆気にとられてその場に立ち止まってしまった。 目の前が真っ白になっていた。何ぼーっとしてんのよ、というかがみの声を受けてようやく我に返り、私は歩きだした。 私はかがみの右隣り、つまりそれまでつかさがいたポジションに就いた。 後ろをついていくのも不自然に感じたし、何よりも、体が吸い込まれるようにその位置に向かっていたからだ。  かがみと二人きり。何の努力もしていないのに、私の望み通りの状況になっていた。 自力で状況を創りだして大コケしたカラオケボックスでの出来事を思い出し、皮肉を感じずにはいられなかった。 悲しみは一気に引き潮になり、今度は感激でいっぱいになった。  奇妙にも会話は無かった。私は頭の中で黄金色の宝石がキラキラと輝きだして会話どころではなかったし、かがみも何も話しかけてこなかった。 しかし、私にとっては、隣を歩ける、ただそれだけで十分だった。 左腕が何度もかがみの右腕と触れ合い、その都度私はかがみの顔をさりげなく覗き込んだが、いつもの優しげな横顔が見えるだけで何の変化もなかった。 隣を歩くのはいつも学校へ行く時にしていることなのに、その時の私にはそれが何よりも嬉しいものだった。 冷え切っていたはずの心が、ゆっくりと温まっていく。 私の悲しみを勝手に持っていかないでよかがみ、と恨んでも、私の気持ちなんて全く理解せず、どんどん悲しみはかがみに持ち去られた。 そんなことを考えて、また独り相撲を繰り返してしまっていた。  嬉しくなってきた私は、思い切ってさりげなく寄り添ってみた。 ただ単に、数センチの二人の隙間をさらに縮めて、僅かに二、三度左へ首を傾けただけのことだ。 それでも、ふざけているわけでも無い時に寄り添うなどとても出来たことではない。 しかしその時は、不思議なことに全く躊躇しなかった。カラオケボックスの時のような極度の緊張も全く無かった。 そして、かがみも私を離そうとはしなかった。本当は離したがっていたかもしれないが、そこまでは分からない。 かがみの肌の温もりが、かがみの制服と私の制服を渡って少しづつ伝わってきて、そのたった少しだけのその熱が、私の全身へ溶けていった。体中がポカポカとしてきた。 私の眼によってフィルターをかけられ黄金色になった街を背景に、私とかがみの周りで、色とりどりの宝石の沢山の欠片がくるくる、とろとろとまわっていた。 そこに私達だけの時間と空間がいつまでも流れていた。一生この空間から抜け出せなくてもいいとすら思ったが、 「ねえこなた。」 それをかがみの言葉が打ち破った。  歩きながら、私はかがみに呼ばれた。宝石の欠片が色と輝きを失って地面にジャラジャラと転がり、街は一瞬で黒色に戻った。 少しがっかりした。返事はせずに、顔だけをかがみの方へ向けた。 「あんたの歌聴いてるのも、本当はすごく楽しかったわよ。また行きましょ。」 真心のこもった言葉なのか、その場の何気ない一言なのかはよく分からない。 ただ一言優しく言ってくれたかがみだけがそこにいた。 例によっていつものツンデレですか、などとは一切考えずに、私は小声でありがとうとつぶやいた。心の中で言っただけだったかもしれない。 まだまだ脈ありと考えていいのかな、そんなことを考えながらかがみの言葉を反芻していた。  私はかがみと改札前で別れ、人ごみの中へ溶けていった。 改札をくぐり数メートル進み、くるりと全身で振り返ってみたところ、かがみはまだこちらを向いていた。小さく手を振っている。 私も手を振り、また元の方向を向き、更にもう何メートルから進んで、今度は首だけで振り返ってみた。かがみはまだこちらを向いていた。手はもう振ってない。 数十センチ進み、また全身で振り返った。かがみはもう反対側を向いていた。 妙に悔しくなって、元の方向を向いて五秒位立ち止まってから、再びちらと覗き見た。反対側を向いていたはずのかがみが、いつの間にかまたこちらを向いていた。 二、三歩進み、また覗き見た。周りを行く人に隠れてもう見えなかった。 磁石に引かれた鉄釘になった足を磁界から引き離し、ようやく進むべき方向へ歩きだした。 列車の窓の向こうは闇に染まっていた。その中に建物の窓から漏れ出した様々な形の光が、ある場所では長方形になって規則正しく並び、ある場所では雑然と散らばっていた。 揺れる列車の中で、私はかがみにメールを打った。リモコンのボタンを震えながら押していたその指が、その時は不気味なくらいにスラスラとキーの上を踊っていた。 「私もかがみんの歌をもっと聴きたいよ。」  今は切ない片想いだけど、いつか絶対に振り向かせてみせるよ。  木枯しに抱かれながら、私はきっと…。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - おぉ~、この作品を拝見してから、あのカラオケEDシーンもう一回見たくなった。 -- kk (2009-01-23 01:02:35) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(1)
 ゆれたい・四  その時、つかさがトイレに行くと言って、あと十分程で着くであろう駅へ一目散に走っていった。 私はかがみと二人きりで、突如その場に取り残された。号泣寸前になっていた私は呆気にとられてその場に立ち止まってしまった。 目の前が真っ白になっていた。何ぼーっとしてんのよ、というかがみの声を受けてようやく我に返り、私は歩きだした。 私はかがみの右隣り、つまりそれまでつかさがいたポジションに就いた。 後ろをついていくのも不自然に感じたし、何よりも、体が吸い込まれるようにその位置に向かっていたからだ。  かがみと二人きり。何の努力もしていないのに、私の望み通りの状況になっていた。 自力で状況を創りだして大コケしたカラオケボックスでの出来事を思い出し、皮肉を感じずにはいられなかった。 悲しみは一気に引き潮になり、今度は感激でいっぱいになった。  奇妙にも会話は無かった。私は頭の中で黄金色の宝石がキラキラと輝きだして会話どころではなかったし、かがみも何も話しかけてこなかった。 しかし、私にとっては、隣を歩ける、ただそれだけで十分だった。 左腕が何度もかがみの右腕と触れ合い、その都度私はかがみの顔をさりげなく覗き込んだが、いつもの優しげな横顔が見えるだけで何の変化もなかった。 隣を歩くのはいつも学校へ行く時にしていることなのに、その時の私にはそれが何よりも嬉しいものだった。 冷え切っていたはずの心が、ゆっくりと温まっていく。 私の悲しみを勝手に持っていかないでよかがみ、と恨んでも、私の気持ちなんて全く理解せず、どんどん悲しみはかがみに持ち去られた。 そんなことを考えて、また独り相撲を繰り返してしまっていた。  嬉しくなってきた私は、思い切ってさりげなく寄り添ってみた。 ただ単に、数センチの二人の隙間をさらに縮めて、僅かに二、三度左へ首を傾けただけのことだ。 それでも、ふざけているわけでも無い時に寄り添うなどとても出来たことではない。 しかしその時は、不思議なことに全く躊躇しなかった。カラオケボックスの時のような極度の緊張も全く無かった。 そして、かがみも私を離そうとはしなかった。本当は離したがっていたかもしれないが、そこまでは分からない。 かがみの肌の温もりが、かがみの制服と私の制服を渡って少しづつ伝わってきて、そのたった少しだけのその熱が、私の全身へ溶けていった。体中がポカポカとしてきた。 私の眼によってフィルターをかけられ黄金色になった街を背景に、私とかがみの周りで、色とりどりの宝石の沢山の欠片がくるくる、とろとろとまわっていた。 そこに私達だけの時間と空間がいつまでも流れていた。一生この空間から抜け出せなくてもいいとすら思ったが、 「ねえこなた。」 それをかがみの言葉が打ち破った。  歩きながら、私はかがみに呼ばれた。宝石の欠片が色と輝きを失って地面にジャラジャラと転がり、街は一瞬で黒色に戻った。 少しがっかりした。返事はせずに、顔だけをかがみの方へ向けた。 「あんたの歌聴いてるのも、本当はすごく楽しかったわよ。また行きましょ。」 真心のこもった言葉なのか、その場の何気ない一言なのかはよく分からない。 ただ一言優しく言ってくれたかがみだけがそこにいた。 例によっていつものツンデレですか、などとは一切考えずに、私は小声でありがとうとつぶやいた。心の中で言っただけだったかもしれない。 まだまだ脈ありと考えていいのかな、そんなことを考えながらかがみの言葉を反芻していた。  私はかがみと改札前で別れ、人ごみの中へ溶けていった。 改札をくぐり数メートル進み、くるりと全身で振り返ってみたところ、かがみはまだこちらを向いていた。小さく手を振っている。 私も手を振り、また元の方向を向き、更にもう何メートルから進んで、今度は首だけで振り返ってみた。かがみはまだこちらを向いていた。手はもう振ってない。 数十センチ進み、また全身で振り返った。かがみはもう反対側を向いていた。 妙に悔しくなって、元の方向を向いて五秒位立ち止まってから、再びちらと覗き見た。反対側を向いていたはずのかがみが、いつの間にかまたこちらを向いていた。 二、三歩進み、また覗き見た。周りを行く人に隠れてもう見えなかった。 磁石に引かれた鉄釘になった足を磁界から引き離し、ようやく進むべき方向へ歩きだした。 列車の窓の向こうは闇に染まっていた。その中に建物の窓から漏れ出した様々な形の光が、ある場所では長方形になって規則正しく並び、ある場所では雑然と散らばっていた。 揺れる列車の中で、私はかがみにメールを打った。リモコンのボタンを震えながら押していたその指が、その時は不気味なくらいにスラスラとキーの上を踊っていた。 「私もかがみんの歌をもっと聴きたいよ。」  今は切ない片想いだけど、いつか絶対に振り向かせてみせるよ。  木枯しに抱かれながら、私はきっと…。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - GJ!!(≧∀≦)b -- 名無しさん (2023-07-27 07:56:14) - おぉ~、この作品を拝見してから、あのカラオケEDシーンもう一回見たくなった。 -- kk (2009-01-23 01:02:35) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(3)

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