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さてクラス換え当日、当然のように私の期待は裏切られる事となった。 なんで? なんで、クラスは別なの? なんで・・・? いや、冷静に考えれば、私がこなたと別のクラスになる確率は十分にあったのであって、なんでとたずねるまでもなく、先生方がそう決めたのだ。それは理屈としては分かる。 しかし私は、もしこなたと同じクラスになれたら、寂しい心の内を隠しているあいつと、もっと仲良くなれるような、助けてあげられるような、励ませるような、そんな空想を散々弄んでしまっていて・・・要は、期待し過ぎてしまっていたのだ。 私があいつと一緒のクラスになれば、もっとあいつを支えてあげられるのに。 神様を恨まずにいられない。 神様、なんでよ、なんで・・・ そんな風に身勝手にむくれていると、向こうの方で和気藹々と話しているこなた達が見えた。 私は気持ちを切り替え、できるだけ、どーでもいいよ、という顔をして近づいていく。 「あ・・」 こなたが私を見つけて、少し悲しそうな顔で言う。 「またかがみだけ違うクラスだね」 私はその悲しそうな顔を見て、私まで凹んだ顔をする訳にはいかない、と思った。そう、たまにがっかりする事だってある、100%満足なんてないでしょ、と自分に言い聞かせながら・・・。 「ただでさえ顔を合わせる機会が多いんだし、クラスぐらい別になってくれないと私が疲れるわ」 うん、自分でも完璧に、クールな態度が取れたと思う・・・それなのに、つかさもみゆきも、寂しそうな口調で言ってくる。 「お姉ちゃん・・・」 「残念ですね」 私は2人の態度を見て、なおさらクールな態度をとらなければいけない気がして、ことさらにおどけ、意地悪そうな口調で言った。 「別に、いつものことでしょ。それにどうせこなたあたりノートだの教科書だの借りに来るんだし?」 こなたは私の言葉に笑顔を見せて、その笑顔に私は安心する。うん、いつものこなただ。 こなたは照れくさそうに。 「よまれてるね~」 と言って、にやりと笑う。 ああ、この笑顔が、同じクラスだったらもっと・・・ 正直に言えば私は何度も、こなたと同じクラスになって、しょうがないわね、とか言いながらこなたの世話を焼く毎日を、夜毎寝る前に妄想していたのだ。今日のクラス換え発表の前日も、当然にそういう想像をベッドの中で膨らませ、私はその当てのない希望で、限界まで膨らんだ風船みたいにパンパンになっていた。 ほんとに、ほんとに、別のクラスだったのかな、と未練がましく、私は諦めきれない気持ちを抱いて、ことさらそっけなくこなた達に言った。 「まあ、そんな訳で先いってて」 またあとでね、という声を聞きながら、私は惨めな気持ちで、こっそりクラス換えの発表を見に行き、何度も何度も自分の名前を確認する。 そこには、こなたとは別のクラスの人間としての私しかいなかった。 どうみてもそれは揺らぎそうもない。 運命、という言葉が一瞬脳裏によぎり、いや、こうして毎年すれ違うのは、偶然だからね、と自分に言い聞かせる。 ともかく・・・どうやら私はこなたと同じクラスではない。 これは完全に純然たる事実だ。 そう分かると・・・イソップ童話ではないが、あの葡萄はすっぱいと言う狐のように、別に構わないわよ、平気よ、どーでもいいよ、とクールなつもりになろうと私は自分に暗示をかける。 でも当然、内心は落ち込んでいた。 ・・・・・・・・・ 放課後の帰り道、こなたと2人で夕暮れの道を歩く。 茜色に染められた空と土手が、私達を優しく包み、流れる川が夕日に照らされてキラキラと光っていた。隣を歩くこなたの影が長く伸び、滑らかな幼い頬が夕日に赤く染まっていた。 歩く度に規則正しく揺れる通学鞄が微かな音を立てて、私の息遣いを知らせてくれる。私達は夕暮れの世界で不思議と孤独で、でも暖かく、昔見たシチューのCMみたいな空気を一緒に呼吸していた。 「でね、かがみ、もちろん私は二コニコ動画大好きなんだけど、そのジャンルは音弄り系ばっかでさー、特に星のカービィのアレンジとか、東方のアレンジが多いんだけど、それじゃ物足りないのだよー」 「私はそういう動画系サイトとかあんまり見ないんだけど・・・なんか著作権とかグレーっぽいし」 「いやいやかがみん!それは勿体ないよ!いい動画だって一杯あるんだから!そうだなー、sm1036051とかお勧め!」 「ふーん、まあ、見てみるけどさ」 こなたは話題が尽きないようで、自分の好きなそのジャンルが、音弄りがメインになってしまうと、ニコマスで言うところの未来派先生とTPTPしかいないようなもので、どうしても物足りなく感じる。もちろん、そうではない素晴らしいMADもそのジャンルにはあるし、百合囃し編とか百回見た、ORIGINALSTARもマイリストに入れてる、しかしながら年間ランキングの上位の大半が音弄り、なおかつ1位はハルヒ動画だったことに云々・・・もう以下省略でいいですよね、皆様? まあ、正直意味の分からない部分も多い会話なんだけど、こなたはとにかく楽しそうに話すし、なんとなく自分の知識が・・・あんまり良い方向じゃないんだけど、広がる気は確かにするのよね。最終的には、「音弄りって単純に言うけど、TPTPには、House Of Jealous Loversみたいな動画もあるじゃない」とか反論できるレベルに成長するけどその話は置いておく。 こなたがそういう話をする時には、本当に心底楽しそうで、そういう、楽しい、私の知らない世界があるのかな、って思える。 話題は尽きない。 でも何故だろう。 あの日、あの時、こなたの悲しさの一端に触れてしまったから? 時々、こなたが泣いているように見えるのは。 ねえ。 本心を話してくれないのは、寂しいよ。 ねえ、こなた。 私の声は、聞こえる? 「でさあ、かがみん、最近はラノベのアニメ化増えたじゃん。でもポリフォニカの余りの微妙さには涙を禁じえなかったよ」 「まあ、アニメの本数は増えたけど人材は・・・って感じなんでしょ。昔よりとにかくアニメが増えたし、ジャンプに載ってる漫画なんか大半アニメ化されてるイメージよね」 私がそういうと、こなたはいつもの(≡ω≡.)みたいな顔で笑った。 「ふふふ、かがみも大分オタトークできるようになったね」 「な!?これぐらい普通だろ!?」 「いやいや、なかなか一般人にその切り返しはできないよー。育ったねえ、かがみん」 「うれしくねえ?!」 全く育って欲しくないところが育っている・・・!! 「でもさ、私はうれしいんだよ、かがみが熱心に色々興味持ってくれるのってさ」 「オタ仲間が増えるからかー?」 ふふふ、とこなたは感情の読めない笑い方をする。 「つかさはねー、私がオタクでも全然気にしないんだ。普通に付き合ってくれる」 何で急につかさの話になるんだろう、と思いつつ、私は相槌を打つ。 「ああ、つかさは、人が良いからねー」 私の言葉に、こなたは微笑して言った。 「でね、かがみは、オタクのこと、知ろうとしてくれる。分かってくれようとしてくれる」 「え?」 「なんてね」 そう言ったこなたはもういつもの様子で、夕日が逆光になってその表情はよく見えなかった。 だからそこからはいつもの明るく楽しいこなたで、さっき見せた奇妙な屈託のようなものはなくて・・・ 話題は尽きないのに、私は時々寂しくなる。 バカみたいね。 でもそういう風に、自分だけの心の小箱をほんのちょっとだけ蓋をずらして中を見せて、すぐ閉めてしまうのってずるいと思うんだ、こなた。 「ねえ、こなた」 「なに?かがみ?」 「この前、こなたが中学時代の話、してくれたじゃない?」 「ん・・・うん」 こなたにとって、やっぱりこれは楽しい話題じゃないみたい。ごめんね。 でも・・・。 「それに、ゲマズでも、オタクであること、気にしてたよね」 もうこなたは頷くだけで、声を返さなかった。 「私さ・・・こなたの事、親友だと思ってるんだよね。だから、だからさ、もっと・・・」 心の中を、出せばいいのに。 私は、信用できない? 「思うこと、言っていいよ?」 私達は夕日の中で立ち止まった。 影が土手に細長く伸びている。土手に並んだ二人の影は、キラキラと輝く川に向かって、立ち止まって向かい合い、静かな流れる水の音だけを聞いている。夕焼けの中で互いの表情は強い光と影のコントラストに照らされて、目に染みる茜色の中にあった。 こなたは夜と昼の間の夕焼けの世界で、ぽつりと言った。 「かがみは、オタクを気持ち悪いって思わないの?」 こっちを見るこなたの目は真剣で、いい加減な答えをしたら、何かが永遠に失われそうに思えた。大人達がうやむやにごまかすような、何か。でも今この時間、この年齢には、絶対にごまかせない、ごまかしてはいけない何かは、確かにあるんだ。 「私は、こなたを気持ち悪いなんて思った事はないよ。オタクの事は詳しくないから分からないけど・・・誰かに迷惑かけてる訳じゃないじゃない。親友のこと、気持ち悪いなんて思う筈ないよ」 「オタクでも?」 「もちろん」 「エロゲやってても?」 「当然」 「陵辱ものでも?」 「オフコース」 私は正確な英語発音をして、したやったりとにこりと笑うと、こなたも笑顔を返した。 「やっぱりかがみ、いい人だよね」 「そうよ。全く感謝しなさいよね。こんなにいい人いないんだから」 「そしてツンデレ」 「それは断固拒否する」 2人で笑いあって下校する。 私達は親友で、分かり合ってて、思うことも言った。 同じクラスじゃなくても、きっと、私達は大丈夫。 でも何故だろう。 それなのにまだ、時々こなたを見て胸が切なくなるのは? ・・・・・・・・・・・ 月日は流れ。 私達はアニメライブのチケットを手に入れ・・・いやまあ、何の前振りもなくいきなり行列に並ばされて、チケットの当落を賭けるという無茶苦茶なやり方だったのだが、ともあれ、私達はアニメライブに行くことになったのだ。 ところで、このアニメライブには原作のラノベがバッチリと存在し、事あるごとに私はこなたに原作のラノベを読むように薦めてきたものである。 大体、私ばっかりオタク関係に詳しくなって、あいつは全然私の事を知ろうとしないのって、不公平じゃない? 確かに一度は、ラノベを読み始めたあいつがうれしくて、早くラノベの話題で盛り上がりたくて、その横顔をじっと眺めるという失態を犯したりはした。 しかし今回は、そのアニメのライブに行く訳だし、ライブまでに原作を読めば万々歳ではないか。ライブの待ち時間にラノベトークで盛り上がる私とこなたの姿が容易く想像できる。 ゆくゆくは、沖方丁→マルドゥック・スクランブル→ハヤカワ文庫、砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない→桜庭一樹→一般小説、などの流れに巻き込める筈だと信じてやまない。ああ、いずれはこなたと、川上弘美や江国香織や伊坂幸太郎やレイモンド・カーヴァーの話をしたりするのかしら? しかし実際には、そんな簡単にはいかないのだが、それは別の話。 「こなた!涼宮ハルヒの激奏、行くのよね」 休憩時間に、内心のたくらみを隠しながら声をかけると、こなたは元気よく挙手した。 「おー!もちろんだよー!」 「原作は、アニメよりずっと先まで話が進んでるのよねー?」 「ほえ?」 私の口調に不審なものを感じたのか、こなたが首を傾げた。 「はい、原作だよ、ラノベも読みなよ」 私の手には涼宮ハルヒの既刊が全て収められていた。ずずい、と私がそれを差し出すと、こなたは「げげぇ」と呻きながら、まるでそれが恐ろしいものでもあるかのように身を仰け反らせた。 「いやー、まあ、何と言いますか・・・そういう文字ばっかりの本って眠たくならない?」 「ならない。貸したげる」 「うー」 困ったように唸ってこなたが頭を抱える。そんなに嫌か? 「あんた、いつも愛だ愛だって言ってるけど。原作を嫌がるなんて、作品を愛してないんじゃない?」 昔、こなたが雑誌の小説コーナーだけ読み飛ばしているのを見て、所詮その程度の愛なのねー、とからかったらムキになったのを私は覚えている。ムキになるこなたは可愛かった、それはともかく、こなたをのせるにはこれが一番なのだと私は悟ったのだ。 「まあ、別に読まなくてもいいけどー?とりあえず貸してあげるだけで?ライブ終わったら返してくれたらいいし?まあ、愛の無い人は読まないだろうけどー?」 「ぐぐぐぐ・・・読むもん!ハルヒ愛してるもん!ライブ行くぐらいだもん!」 「どうかしらねー?なんとなくライブで盛り上がりたい、にわか的なファンなんじゃないのー?」 「な、なにぃ!?かがみん!オタクにとってにわかファンと言われるのがどれくらいプライドを傷つけるか分かっての狼藉か?!」 ムキー!となったこなたは、私が机に置いたハルヒ全巻を鞄に入れると、絶対、全部読んでくるからね!と断言したのだった。 ・・・・・・・・・・・ アニメライブという事で、当日の仕切りをこなたに任せた訳だったが、その日、奴はいきなり遅刻してきた。 「いやー、ごめんごめん」 「お前な」 「こういうイベント前ってなかなか寝付けなかったりするよね」 「遠足前の子供か!」 しっかりしてもう! 私達はこなたについて行き、会場入りの準備をしていく訳だが・・・。 「飲み物とか、いらないの?」 「あ、忘れてた、ペットボトルとか持っていった方がいいかも」 おいおい。 途中でこなたがガシャポンを見つけたり・・・ 「一回、一回だけ!」 「はいはい」 あんたが仕切り役の筈でしょ!? がんばりなもう! しょうがないなあ、と私は思い、気合を入れなおす。 結局、自分で仕切る事にしたのだ。 そうすると何故か私だけがばたばたと忙しく、いつの間にかこなたは完全に何もせず、役割分担がおかしい事になっていくのだった。 しっかりしな、マジ。 「こなた、切符買った?」 「あ、忘れた」 がんばれよ、マジで・・・ ・・・・・・・・・・・・ アニメライブでは、うるうる感動してしまった。 ライブ会場の暗闇と、輝くスポットライトの舞台、観客が渾然一体となるあの感じ・・・ その空気が、私を感動させたのだろう。 歌と、暗がりと、光・・・。 途中、こなたが前の人のせいで舞台が見えないみたいなので、私は席を変わった。 そしたら、こなたが凄く純粋な目で舞台を見ていて、そんなこなたを見ているだけで、不思議と私は優しい気持ちになれた。 やっぱりあんたは、そういう風に、好きなものに熱中しているのが一番だと思うな、私は。 ライブ会場の暗闇で、熱心に舞台を見ているこなたは、凄く、私の好きなこなただった。 そんな帰り道、四人で雑談しながら歩いていると、こなたは黙って自分の足元ばかり見ている。 夜の車道を、車のランプが光の軌跡を残して流れていき、微かな音を響かせ消えていく。夜の青い空気は私達の間に満ちて、そこにはライブの余熱がみっしり詰まっていた。 「こなた、さっきから全然喋ってないじゃん」 うん、と聞こえるような聞こえないような、曖昧な相槌をこなたが打つ。考え事に沈むそのこなたの目を見て、私は優しく笑いかける。 「祭りのあとの、脱力感って感じね」 俯いてるこなたを、私は優しく包むように言う。 「確かに私も感動しちゃった」 それでもこなたは放心しているみたいで、私はクスリと笑って、その日は別れたのだった。 ・・・・・・・・・・・・ どんなに感動した祭りがあっても、それは終わり、日常はやってくる。 ライブの熱気は昨日の夜に過ぎ去り、微かに余熱を残しても、朝はやってきて、私達は学校に行かなければならない。 そうやって日々は過ぎていく。 朝、登校すると、珍しくこなたの方から私のクラスに来て、言った。 「あ、かがみ」 「おっす、こなた」 「これ、読んだから」 そう言ってこなたが差し出してきたのは、涼宮ハルヒ全巻だった。そういえば、結局バタバタして当日はラノベトークなんてしていなかった。 「ほんとに読んだのかー?」 ふざけ半分にジト目で見ると、こなたは割りと本気で不満気な顔になった。 「読んだよ!かがみが薦めてくれたし、ハルヒ好きだもん!」 「ほんとかー?」 「ほんとだもん!」 じゃあさ、と私が幾つか話題を振ると、こなたは本当に読んだらしく、それら全てに答える事が出来た。 「ちょ、お前、ほんとに読んでるじゃん」 「だからほんとって言ってるじゃん!」 私はちょっとびっくりして、感心もした。 するとこなたは、更にびっくりする事を言った。 「他にもお勧めがあったら、貸してね、かがみ」 「ちょ!?お前!?誰だ?!」 偽者!? 「失敬な。だってさ、かがみんはオタクの事を理解しようとするのに、私が何もしないのも不公平かな、って思ってさ」 「あんたにしては偉く殊勝な心がけね」 「いいじゃん別に、かがみは、私には読んでもらいたくないの?」 そう言うこなたがちょっと悲しそうだったので、私は内心動揺した。 「そんな訳ないじゃない。いいわ、たっぷり貸し付けてあげるからね」 「うん!」 こなたも多分、私に近づこうとしてくれていて。 そういえば、あの夕日の帰り道以降、前よりちょっとだけ、心を見せてくれるようになった気がする。 そして今は、心を見せるだけでなく、私のこと、分かろうとしてくれている、気がする。 なんだか嬉しくて。 でも少し切なくて。 私は、うーん、と伸びをした。 私達はもうすぐ卒業で。 こなたがいて私がいる教室はなくなって。 心残りがたくさんあるような。 ないような。 「ねえ、こなた」 「ん?」 「ちょっと聞いてよ」 なんだろう、この気持ち。 こなたを見ていて、胸が締め付けられるような・・・。 「今が、幸せなのかな?」 こなたがいて、私がいる、この時間が大切だってこと、本当は振り返って初めて分かるような、人生の青春の一瞬の大切さが、何故か今ここで分かってしまった。 そう思うと、胸が切なくて、時間が過ぎるのが悲しくて・・・ 今がずっと、続けばいいのに。 「かがみん、センチメンタルだねえ。寂しがりやさんなんだから」 「うっさい!からかうなよ!」 「まあ、どんなになっても、私達は友達じゃん?」 うん・・・ だけど、どんな事も、永遠ではない。 でも、でも・・。 どうにかなるよね? 卒業しても、就職しても、ゴールは見えない。 ずっと私達は一緒で。 そうだったらいいな。 いつか来る卒業を想像したら、10パーセントくらいは悲しくなるけど・・・そういう悲しいときがあるほど・・・笑ってればいいや。 私はできる限りの笑顔をこなたに向けた。 「これからバシバシ、ラノベ貸すからね」 「お手柔らかにね」 と言ってこなたは笑った。 ・・・・・・・・・ 夜、家に帰ってもこなたを思い出す。 なんでだろう。最近、一緒にいない時も、いや、いない時ほど、こなたの事ばかり考えている気がする。 それに時々、胸が苦しい。 ずっと友達で、って思うのに、友達でいるのが苦しい気さえ、する。 毎週毎週、夜になるとこなたと長電話して、こなたの声を聞くとほっとして。それなのに何故か切なくて。 私ちょっと、変だ。 今だって、いそいそと携帯を充電してしまう。 当然、今夜も、電話が長いんだよね。 ずっとこなたの声が聞きたくて、切る時を失ってしまう長電話。 そうなってもいいように、携帯はバッチリ充電して、いつでもOK。 待ちきれないような気持ちで電話を待っていると、時間が長く感じる。 やがて着信音がして、私はすばやく電話を取った。 「はい、かがみです」 「やふー、かがみんや、こなたです」 さて、今日もいつものように長電話を始めますか。 子供のように幼いこなたの声を聞きながら、私は何度も相槌を打つ。その声を聞いていると胸の中に小さな暖かい火が点るみたいで、ずっと聞いていたくなるようで、それはまるで・・・いや、そんな筈はない。 私達が話す内容は他愛ないことばかりで、こなたはいつものようにマニアックなトークで、私はそれに突っ込んで・・・ こんな時間がずっと続けばいいのに、と私は思ってしまう。 「あのさ、かがみ」 と、急に真剣な声でこなたが言った。 「なによ、こなた」 「言いたい事があるんだ」 「なあに?」 急に、部屋から音が消えた。 こなたが、沈黙したからだ。 何故か私は胸が凄くドキドキしてきて、何かを期待しているみたいな気持ちになって。 真っ先に思ったのは、告白、されるんじゃ、って事で・・・ 「いま借りてるラノベ、難しくて読めなかった」 「え、あ、ううん、構わないわよ。いきなりマルドゥックはハードル高かったわね。確かに」 なんだろう、この、寂しいような、変な気持ち。 っていうか、さっき私、告白とか思った? 女の子同士で、告白って何よ、告白って。罪の告白? 「かがみ?」 「あ、ごめん、なんだっけ」 「もう、かがみん、聞き流すなんて冷たいよー」 ちょっと動揺したけど、すぐ元通りの私達。 電話の向こうのこなたの表情や動きを、私は想像する。 小さくて、かわいらしい、こなた。 「あ、もうこんな時間だ、ネトゲで狩りの約束が」 「はいはい、また明日ね」 「あーい、また明日」 そう言って電話が切れて。 なんだか会話の余熱が残っていて。 私は目を瞑ってこなたの顔を想像して。 胸が熱くなる。 気づけば携帯電話に、唇を、ちゅ、とつけていた。 って、何してるの私?! 「お姉ちゃん・・・?」 こっちを覗いているつかさと目が合った。 見られた!?つかさに?! 「あ、いや、あはは、あはははは・・・なあに、つかさ?」 物凄く狼狽して赤くなって、しどろもどろになってしまう。やばい、か、かくなる上は消すしか・・・。 しかしつかさは、とりあえずはさっきの行動は追求せず、部屋に入ってきて正座すると、小さく咳払いした。 「ちょっと国語辞典を貸して欲しかったんだけど・・・」 それからつかさは上目使いに私を見て、おずおずと尋ねた。 「おねえちゃん、恋してるの?」 「はあ?!」 恋ってなんだ!?恋って!? 「最近のお姉ちゃん、なんか変だったし・・・」 「ない!それはない!100%ない!私が恋とかないから!いやまあ、それは、永遠に恋しないとかそういう意味ではなく、今別に誰かに恋してるとか、そんなのはないわよ!」 「100%ないの?」 「ない!」 と、この時の私は断言したのだった。 ・・・・・・・・・・・ もしも私達の日常を代表するとしたら、それは四人で一緒にお弁当を食べる休み時間になるだろう。 だから私が語るこのやまなしおちなし意味なしのやおい話を締めくくるとするなら、この私達の日常そのものの風景で締めくくるだろう。 「かがみ、なんか毎回朝昼一緒だよね」 とこなたは言う。 「偶然よ、最近は、なんとなくこっちの教室に来てるだけよ」 「ふうん?私に会いに来てるのかと思ったのにー」 「ねえよ。会いに来てるとしたら、つかさによ」 「かがみはほんと、つかさにべったりだよねー。どうなのつかさ?うっとうしいとか言ってみたら?」 「えー?!ありえないよー」 「つかささんとかがみさんは、本当に仲がよろしいですよね」 私達四人の日常。 ずっとこれが続けばいいのに、と私は思って、クラス換えの時は願いを叶えてくれなかった神様に心の中で文句を言う。 ──もし私が何かを間違って、この風景が壊れそうになったら、繰り返しやり直せるようにして下さいよね。 一応、巫女だから、むむ、と力を込めて祈ってみた。まあ、ご利益があるかどうか分からないけど。 私達の話題は尽きない。 女の子が四人もいれば、きっと話題は無限にあるんだ。 明るく響く少女達の笑い声には、湿っぽいところなんて全くない。 でも私は不思議と切ない気持ちがして、100%は満足していない。理由は分からない。でも、きっと、そんなものだよね。 こなたを横目でちらちらと見ていると、不思議と寂しいような気持ちには、確かになる。 私、何を期待しちゃってるんだろう。こなたに。 昨日の電話を思い出す。 告白? まさか。 「かがみ、最近では百合ものも、かなりのブームなんだよ。いやー、可愛い女の子はいいですなあ」 「お前が女じゃなかったら、ほんと犯罪者だよな」 ほんと、バカみたい。 私はつかさの言葉を思い出す。 『おねえちゃん、恋してるの?』 バカみたい。 誰が、誰に、誰のことを、気にしてるっていうのよ。 「なんかもう、少しでもそれっぽく見えたらカップリングしちゃうのがオタクなんだよねー」 そう言ってこなたがいきなり、私の頬に頬をくっつけてきた。 「私とかがみで百合ー、とか」 いつもの私なら、やめんか、とか、離れろ、とか言う筈なのに、不意を突かれて、私は真っ赤になって、何を言っていいか分からなくなってしまった。 こなたの頬は滑らかで、柔らかく、幼い感じがした。 それとやっぱり、こなたからはいい匂いがした。 「な・・・何すんのよ!」 「冗談じゃん、怒んないでよ」 「そりゃ怒るわよ!いきなりこんなことされたら!まったく!」 至近距離から見る、こなたの澄んだ目。 『100%、ないの?』 私は赤くなって目を逸らした。 悲しいことや辛いことも、私達の世界にあって、こなたはそれを見せずに明るく笑おうとして、私もまた、思うところを全て表すことは出来ずに、この世界を生きる人たちは本心を隠して生きている。 でも心の全てを見せ合わなくても、確かに私達の心は通い合って、ゲマズで抱き枕を買ったあの時、夕日の土手でこなたの全てを受け入れると誓ったあの時、私達の心と心には通路が出来て、そこできっと通じ合っている。 そう信じるのは、勝手なことかな? 私はこなたの心に触れて、こなたは私の心に触れて、きっとそれはかけがえの無いことなんだと、私は信じられる。 どんなに年を取って長生きしても、本当に心が通じ合える相手はきっと少なくて、こなたは私にとって、人間が人生の上で滅多に出会うことの出来ない、本当の意味で大事な人で間違いなくて・・・。 だから私は、小さく呟いた。 「100%、なくもない、かな・・・・」 了 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
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