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何よあいつ、何よ、何よ、何よ! 私は私に背を向けてゲームセンターの奥に消えたこなたに、傷つけられた怒りで胸が一杯になった。 せっかく、みんなで遊ぼうと誘ってあげたのに。 そう思いながらも、本当は分かっていた。 こなたの言い分も、正しいんだって。 誘って「あげた」とか、オタクだから警戒しなきゃとか、楽しい現実を教えて「あげる」とか、いつの間にか私は、私の正しさをこなたに押し付けていたんだ。 それが悲しくて、情けなくて、自分が許せなくて泣きそうだった。 「お姉ちゃん、こなちゃんは?」 泣いている自分を見せたくなくて、私はつかさに背を向けた。 「何でもない!」 酷い顔になっている。とにかく、泣き止んでからじゃないと、つかさに顔を見せられない。 私はトイレに駆け込んで、鏡で自分の顔を見た、目が真っ赤だった。 「どうしよう……」 涙を拭きながら、私は考える。 泉さんを怒らせた。しかも、自分も悪い。それならきっと、謝るしかないんだと思う。 でもただ謝るだけじゃ、意味がない。 「お姉ちゃん?」 「うわっ!? どうしたのよ、つかさ……」 「泣いてたように見えたから……」 「べ、別に、泣いてなんか、ないわよ……」 強がる私、悪い癖だ。でもつかさの前では、格好いいおねえちゃんでいたいんだ。 「こなちゃん、怒っちゃった?」 「え? 分かるの?」 「うん、なんとなく……」 つかさは、私よりもずっとみんなの気持ちを分かっていたんだ、きっと。 私の傲慢や、泉さんの不満も。 「お姉ちゃん、こなちゃんのこと、嫌いになっちゃった?」 「ううん、どっちかっていうと、自分の馬鹿さ加減が嫌になってたところよ」 私のやり方は、確かに強引だったんだ。それなのにその強引さを、泉さんのためだからっていうのを免罪符にして、気にかけもしなかった。 自分の未熟さが嫌になる。 「泉さんに、謝りたいな、って思ってたところ」 「うん……お姉ちゃん、優しいね」 「優しい人間は、こんな失敗しないわよ」 「ううん、どんな人間でも失敗はするよ。でも謝れるのが、お姉ちゃんの良いところだと思う」 そうなのかな。そうだといいけど。 沈んだ気持ちをなかなか立て直せない私に、つかさは少し首をかしげて考えて、ぽつぽつと言った。 「あのね、お姉ちゃん。こなちゃんには、こなちゃんの現実があって、それが間違ってる訳じゃないと、私思うんだ」 「どういうこと?」 「お姉ちゃんは、現実しか正しいことはないって言ったけど、何て言うか……私、漫画とか読んでよく感動しちゃうんだけど、そういうのって、大事だと思うから……」 現実ではないこと、それを頭ごなしに否定する人間に、なりかけてたのかな、私。 たとえば、漫画も小説も映画も、全部下らないと言い出す人間と、紙一重に……。 「そうね、そうかも知れない……」 いつからだろう、こんな風に視野が狭くなっていたのは。 私だってシューティングゲームが好きで、本を読むのが好きで、現実じゃないものの価値を知っていた筈なのに。 現実にだけ価値があって、それだけに意味があって、法学部に進もうと思って、いつの間にか、視野が狭くなっていたのかも知れない。 「うん、ちょっと、泉さんに謝ってくる」 「あ、お姉ちゃん」 「何?」 「でも、お姉ちゃんが間違ってる訳じゃなくて……こなちゃんも多分、色んなことが見えなくなってると思うんだ。お姉ちゃんのやり方はこなちゃんに怒られちゃったかも知れないけど、現実に楽しいことが何も無いなんて、やっぱり、寂しいよ」 「あのさ、つかさ」 私はちょっと怒った顔をする。 「え、え?」 「そういうのを、自分で相手に言えるようになりなさいよね」 「はう~」 つかさが >< こんな顔になる。全く、頭いいんだか悪いんだか。 私は、ゲームセンターの喧騒の中に、歩きだす。 かがみと喧嘩したせいだろうか? 何故か、ゲームがいまいち楽しくない。 別につかさの姉と喧嘩したからと言って、気に病む必要などないのに。 それに、私は間違った事は言っていない。あれ以上我慢するのは不可能だったし、つかさの姉は強引過ぎた。 それなのに、どうして気になるのだろう? モニターの中では私の操作するチャイナ服を着た女性捜査官が勝ちポーズを決めている。 「心は乱れても、プレイは乱れない、私も小足見てから昇竜出せるようになる日も近いね」 そう思っていたら、不意に筐体がニューチャレンジャーと叫んだ。 乱入してきたのは、中国拳法を使う双子の片割れ、このゲームでも最強の呼び声高いキャラクターだ。 「キャラの性能差が、格ゲーの全てではない事を教えてやんよ!」 さて、このゲームは2D対戦格闘の最高峰とも言われるゲームの一つで、相手の攻撃をタイミングを合わせたレバー操作でブロックできる、ブロッキングというシステムを搭載している。 私と相手は一進一退の攻防を繰り返し、何とか私は相手を画面端に追いつめ、千烈脚とかそういう感じの、連続キックを繰り出した。 相手の体力ゲージを考えれば、充分に削りきることの出来る局面だ。 「よし! 勝った! 第三部完!」 だが相手はまさかのブロッキングを駆使し、千烈脚を防ぎきった上に、分身する必殺技を使って怒涛の攻撃をしかけてきた。 「こいつ! やる!!」 あらゆる攻撃を防御できるブロッキングシステムだが、分身技とは相性が悪い。この中国拳法双子が最強と言われる理由の一つが、この分身攻撃で、本体と分身が同時に攻撃してくるので、非常にブロッキングのタイミングが合わせにくいのだ。 しかし。 「嘘!?」 筐体の向こうで悲鳴が上がる。私がその分身攻撃を、全てブロッキングしてみせたからだ。 「強キャラ対策はバッチリなのだよ!」 最後は私の気功掌で決着がつき、素晴らしい激戦だったので向こうの筐体を見てみると、そこに居たのは──柊かがみだった。 「なんですとー?!」 あんだけ、現実が全てとか、ゲーセンなんて駄目とか言ってた人間の腕前では、明らかになかったというのに?! 「あ、あの、さ、さっきはごめん!」 ツインテールが、私の前で下げられる。呆気に取られる私の前で、柊かがみは言った。 「私、確かに強引だったし、泉さんの気持ち、考えてなかった。それで、きっと不愉快な思いをしたと思うんだけど……また、友達で居てくれる?」 私は、あわあわしてしまって、上手く回答できない。 「本当は私もシューティングゲームとか好きだし、ラノベも好きだったって思い出して、何て言うか、現実がつまらないって言うのが、何だか歪んで聞こえて、一人で空回って……ごめん!」 私は不意に、感動に近い感情を覚えて動揺した。 多くのお局的な人々、いや、女子という生き物の多くが反省することが出来ない。 他人を受け入れる事が出来ない、そう思っていた。 一度仲違いすればそれで関係は終わりで、今回で言えば、私がせっかく誘ってやったのに逆切れされたとか何とか、相手の言葉も立場も考えず、ただただ相手だけを否定する、私はあいつに傷つけられた、だからあいつは間違っている、とか……そんな人間が大半じゃないか? あそこまでの罵倒を受けて、なお、相手の言い分には正しいところがあった、と思って謝れる女子が、一体世界に何人くらい居るだろう? ましてや私は、かがみの嫌いなオタクだと言うのに。 だから私はもう、ただただ、かがみに圧倒されていた。 「まだ、許せない?」 「まさか、許すも許さないもないよ」 ここでかがみを許せないなら、私もまた偏狭な女の子の一人になってしまうだろう。 だって、こんな風に謝ってくれているのに、『私は傷つけられた』とか言ってへそを曲げたり、許せないとか言う人間ばっかりじゃ息苦しいし、そんなの変じゃないか。 自分の感情より、大事なことだってある。 だから私はもう、かがみへのわだかまりを持ってはいなかった。 「っていうか、かがみ、何でそんなに上手いの? びっくりしたんだけど」 「まあ、ゲームもそれなりに好きなのよ、特にシューティング」 まさかのシューター設定だ。想像もしない話だと私は思う。 「意外だね」 「まあね。でもせっかくだから、今日はゲームセンターで私と遊んでよ」 「え、なんで?」 「なんでって……この場面で普通聞くか?」 「ははは、オタクの性なのだよ」 「でも、改めてそうやって聞くなら……そうねえ、私思ったんだけど、現実って要するに、化粧がどうとか服装がどうとかじゃなくて、友達とちゃんと友達としての関係を築けて、遊べるってことかなって……ネットの友達だって現実だとは思うけど、せっかく、クラスメイトなんだから、とか言うのは、押し付けがましい?」 「ううん、かがみ、いい人だなって、びっくりした」 「まあ、さっきまでは、さぞ悪い人に見えてたでしょうからね」 「引きずらないでよ」 つかさやみゆきさんと、一緒にゲームするのは難しいかも知れない。 しかし意外とかがみはゲームが上手く、というか、若干、かがみは隠れオタクっぽいのだ、と私は気付いた。 「これからよろしくね、かがみ」 「何その邪悪な笑顔!?」 引き出しを開ければ、きっと面白いことになる。 かがみは私の邪な気持ちに気付いて、何か不安そうだけど。 ともあれ、こうして私はかがみと和解し、そうしてみると、四人で普通の街を歩くのも、全然苦じゃなかった。 買い物とか店とか関係なく、ただおしゃべりしているだけで楽しいのだから……。 これが、かがみの言いたかったことなのかな? 僕達は、待っていたんだ 誇り臭い古びたゲームセンターの片隅で、筐体のがなりたてる異常な煩さの中に、私はかがみを見つける。 シューティング好き、というかがみの言葉に、ここを思い出したからだ。 教室での、かがみとのやり取りを思い出す。 「ねえ、泉さん」 「あの、かがみさ、ちょっと、他人行儀じゃない?」 「え?」 「私だけ呼び捨てなのに、泉さん、じゃ他人行儀だよ」 「そ、そうかしら? じゃあ、こ、こなた……」 そう言ってかがみは顔を赤くする。後の私なら、かがみん可愛いー、と言って散々からかう場面だが、当然、今の私はそこまでは出来ない。 「お、赤面してる」 「う、うるさいな、とにかく! あの、こ、こなたの、普段行ってるゲーセンとか、一緒に付いていってあげてもいいわよ?」 「何で上から目線?」 「ちょ、ちょっと今日は暇なのよ。現実が大事って、教えてあげるためにね!」 そう、かがみは、私に現実という名の友達付き合いの大切さを教えるために、わざわざ放課後などに私を誘うのだ。 しかし単純に、ゲーム仲間として遊んでいるだけという気もしないでもない。 まあ、かがみは割とアニメも漫画も見るし、隠れオタクっぽいので、今後の成長が私も非常に楽しみだ。 だから私はその成長を眺めるためにも、一緒に遊ぶことはやぶさかではないのだった。 「いいよー、でも、あ! いいこと思いついた!」 「何よ?」 私は笑って言った。 「いいゲーセンがあるのだよ、かがみ」 古臭い骨董品みたいなシューティングゲームが最初に打ち出すスプライト、そこに映し出される文字、『僕達は、待っていたんだ』、そして自機は飛び出し、絶望的で孤独な戦いが、河原で石を積むみたいに開始される。十年以上も昔の、古い古いシューティング・ゲームだ。私の生まれた時に発売されていたかどうかだってあやしい。 「何だか、懐かしいわね」 「かがみ、生まれてないでしょ」 「でも、懐かしいんだもの」 僕達は、待っていたんだ。 「どういうストーリーなの? これ?」 「さあ?」 「さあって……」 「かがみもシューターなら分かるでしょ、STGのシナリオというのは、雰囲気みたいなものなのだよー」 この日常が全部変わってしまうような何か。 私の隣で、かがみが微笑んでいる。 「よし、いっちょ、シューターとしての腕を見せますか。格ゲーでは負けたけど、STGは私、ちょっとしたものなんだから」 私達は、二人でシューティングゲームをやってわいわい騒いだ。 「やっぱり、昔のゲームには味わいがあるわねえ」 「なんだか年寄り臭いよ、かがみ」 「なんだとー!」 気付いたらおしゃべりが嫌いな筈の私は、自分の身の丈にあったおしゃべりをかがみとしていて、私の日常は変わっていた。 それはかがみが踏み込もうとしてくれたからで、そこには行き違いもあったけど、かがみは確かにここにいる。手前味噌だけど、それは私がかがみを受け入れたからでもある。あそこでかがみを拒んでいたら、こうはならなかった筈だ。 「どうかね、こんな穴場があるとは知らなかったでしょかがみん!」 「まさか、今は亡き東亜プランのゲームが出来るとは……」 「っていうか、かがみも充分オタクだよね!?」 「断固否定する!」 そんな風に私達はたっぷり遊んで。 私は認めざるを得ない、かがみの言う通りなんだ、と。 ゲームセンターを二人で出て、太るのを気にする癖にクレープを食べるかがみをからかったり。 ふらふらとガチャガチャに引き寄せられてかがみに怒られたり。 私の日常は変わった。 そういう私の気持ちを見計らったように、かがみが満面の笑みを浮かべて、私に言った。 「現実も、悪くないでしょ?」 全く、仰るとおりですよ、と、私は苦笑するしかなかった。 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3) - こなたとかがみの『出会い編』は数々のSSを読ませていただきましたが、これ良いッスね。 -- kk (2010-01-05 01:08:12) **投票ボタン(web拍手の感覚でご利用ください) #vote3(2)
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