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ホントウノオモイヲ」を以下のとおり復元します。
「もう朝かぁ……。あれ、昼か……」 
目が覚めて時計を見ると、もう13時。 
休日の朝はゆっくり寝てられるから、寝起きの気分は最高~……のはずなんだけど、今日は最悪だった。 
その理由はもう言わずもがなだね……。 
空も私の心を映したようなどんよりとした曇天だった。 
今日雨降るって言ってたっけ……なぁ? 
あぁ……そういえば昨日はテレビもネットも見てないからわかんないや……。 
……天気だけじゃない。 
もう、何もわかんないよ……。 

唯一分かること。 
それは、私が望むこと。 
でも、それを実現するための手段・方法はわからなかった。 

「………はぁ」 
昨日、みゆきさんと少し話をしたけど、結局私は何も行動を起こせずにいた。 
「……かがみがなんであんな怒ったのかだけでもわかれば……」 
人の心が読める能力をこんなに欲しいと思ったことはないよ……。 
………まぁ、あったらあったなりの苦労があるんだろうけどね………。 

私はいつも、人の心を読む必要がないようにってあんまり人に関わらないようにしてきた。 
人と一線を張るってわけじゃない。 
言うならば、仮面をつけていた。 
人に認知されないような、気付かれないような仮面を。 

気付かれなければ、相手にされなければ人を傷つけることはない。 
人との馴れ合いを望まなければ、何も起こることなんてない。 
だから、いつも一人。 
だから、楽。 
だから、この仮面を私は選んだ。 
だから、慣れた。 
だから、ずっとこの仮面のはずだった。 
だけど、そうはならなかった。 

つかさと会って、みゆきさんと会って……そして、かがみと会って。 
私はみんなといることを望んでしまった。 
みんなの温かさを手放せなくなってしまった。 
馴れ合いなんてバカバカしい。 
そう思っていたはずだったのに、私はいつの間にか、自分でこの仮面を外していた。 

みんなに笑っていて欲しい。 
誰にも悲しい顔なんてして欲しくない。 
いつしか、そう思うようになっていった。 
親しくしてくれる人であればあるほど……。 


私の小さい頃に、お母さんは死んじゃった。 
それでも、私は人としての道は踏み外さず生きてこれた。 
これは一重に、お父さんのおかげだった。 

お父さんがキモい引きこもりがちなオタクであることは、疑う余地もない。 
でも……そんなお父さんでも……いや、だからこそ、私はとても感謝し、誇りに思ってもいる。 

お父さんは私が寂しくないように、悲しくないように、いつも明るく接してくれた。 
その笑顔でいつも楽しませてくれた。 

私に対する隠し事もなかった。 
エロゲーとかマンガやアニメも、私の前で堂々とやってたし、みてた。 
だから、私は非行に走るようなことはなかったし、お父さんに不信感を抱くようなこともなかった。 

色々な迷惑をかけたと思う。 
でも文句も言わずに、私のために本当に色々してくれた。 

もちろん、お母さんがいてくれたらもっと良かったよ。 
もっと甘えたかったし、一緒に話や家事とかしてみたかった。 
でも、それは絶対に言わない。 
お父さんを絶対に傷つけるから。 
別にお父さんの言動をキモいって言う限りでは、冗談だってとってくれる。 
でも、お母さんがいないことに関しては、冗談で取れる内容じゃない。 
あれだけ私に温かさをくれたお父さんを傷つけるなんて、神様が許しても私が許さない。 

……きっと言ったとしても、いつもみたいにふざけるんだと思う。 
でも、心の中ではきっと苦しくて、悲しくて辛くて………。 
でも、私の前では絶対に笑顔を絶やさないようにって、我慢して……。 
きっと、ごめんな、って言うんだろうな……。 
謝らなきゃいけないのは、そんなこと言ったほうなのに、ね……。 

この前だって、お母さんの話を少し出しただけで、お父さんは私に寂しいかって聞いてきた。 
私は内心焦ったけど、なんとか平静のままお父さんに本心を伝えられたけど……。 
もし少しでもお父さんに罪悪感を持たせちゃったら、私は娘として、人として自分が許せない。 

それに、お母さんは私のそばにいてくれてる。 
説明するのは難しいけど、絶対。 
時々お母さんの声を、温もり気を感じる気がするんだ。 
もちろん覚えてるわけないんだけど……。 
でも、わかるんだ。 
この優しさ。この温かさ。この心地よさ。 
お母さんに間違いないって。 

私は近くからも遠くからも、十分過ぎるくらい温かさをもらっていた。 
そんな二人の温もりをずっと感じてきた。 

だから、二人の他にも私に温もりをくれたみんなに笑っていてほしかった。 
だから、みんなといつまでもこの日だまりのような日々を過ごしたかった。 
だから、みんなに悲しい顔をしてほしくなかった。 
だから、私は憂愁の気持ちを封印した。 

それはもしかしたら、仮面だったのかもしれない。 
決して悲しい顔をしない、そんな仮面。 
その仮面は、だんだんと張り付いて顔からはがれなくなっていた。 

―――それは、素顔の消失。 

けど、それでもよかった。 
みんなが笑顔でいられたから。 

――――でも、一人だけは違った。 

私の仮面を剥がしてくれて。 
私の素顔を見つめてくれて。 
その私を好きって言ってくれた。 
それが――――かがみだった。 

温かくて、安心出来て。 
お父さんでもなくて、お母さんでもなくて。 
特別な存在。 
そう呼ぶのが相応しい、そんな人だった。 


『つかさ~、次の授業で使うから辞書返してくれる?』 
『あ、ごめんね、お姉ちゃん。えと……はいっ』 
『ありがと』 
『……あなたがつかさの双子のお姉さんですか……?』 
『はい、そうですけど……』 
『お姉ちゃん、この人が前に話したこなちゃんだよ~』 
『あ……どうも、いつもつかさがお世話になってます』 
『いえいえ、私の方こそ』 

最初、私は1つ目の仮面をつけていた。 
かがみも、他人行儀な話し方だった。 
当たり前だけどね。 
私たちは、他人だったんだから。 


『泉さん、お弁当自分で作ってるんですか』 
『はい、朝が辛い時は、チョココロネで済ませちゃいますけどね』 
『あはは、つかさと同じで、朝弱いんですか』 
『そんなに強くないですねぇ』 

だんだんと近づいていった。 
………歩みよってきてくれたのは、かがみだったけど。 
私には、仲良くするっていう感覚がイマイチ分からなかったから。 
でも……もっと仲良くなりたい。他人じゃなくなりたい。 
仮面の下の私は、そう思っちゃったんだ。 


『泉さんのこと、名前で呼んでもいいですか?』 
『それなら、私も名前で呼んでもいいですか?』 
『もちろんですよ』 
『なら私もです』 
『そっか、じゃぁ……改めてよろしくね、こなた』 
『う、うん、よろしく、その……かがみ』 

この時、私は1つ目の仮面を外した。 
―――こなた。 
そう呼ばれるのが、どことなくくすぐったかった。 
―――かがみ。 
そう呼ぶのが、なんとなく気恥ずかしかった。 


『し、しまったぁ……宿題をぉぉ……』 
すっかり忘れていた宿題の存在。 
いつもならあんまり問題ないけど、今日は前回の流れから行って、絶対私の番。 
『後7分切ってる………』 
まさに絶体絶命………!! 
そうだ、みゆきさん……っ!! 
っていないしぃッ!? 
そういえばさっき先生に呼ばれてたような……。 
ならつかさは!? 
こちらもいないしッ!! 
みゆきさんと仲良く雲隠れ!? 
はぁ……武士のように潔く死を受け入れるしかなさそうだね……。 
ばたっと、机に突っ伏す。 
うう、でもやっぱり少しは言い訳考えとこ……。 
どんなのが良いかな……。 
とりあえず、やったけど置いてきたってのが―――。 
『ほら、そんなことしてる暇があるなら、うつしなさいよ。今回だけだからね?』 
『えっ……?』 
唐突に声が聞こえて顔をあげると、かがみがノートを差し出しなから立っていた。 
『かがみ……?どうして?』 
『たまたま来たら、あんたがなんか必死そうな顔してたから多分そうだろうなって思ったのよ。違った?』 
『いやいや、仰せの通りでございます、神様仏様かがみ様。そのお慈悲、遠慮なく頂戴させていただきます』 
『バカみたいなこと言ってないで、早くしなさいよ』 
『うん、ありがと、かがみ』 
私はかがみから受け取ったノートを必死にうつし、なんとか授業開始前に終わらせた。 
『ふぅ~、終わった~』 
『もう、次からはちゃんとやっときなさいよ?』 
『善処するってことで♪』 
『おいおい……』 

かがみに助けてもらった。 
だから私もかがみのことを助けてあげたい。 
家族でもない人にそう思ったのは、初めてだった。 


『うち、お母さんいないから』 
『『えっ……?』』 
つかさとかがみの声が重なった。 
『私がすごい小さい頃に死んじゃったんだ』 
そう言ったとき、二人は凄く驚いたような顔をしていた。 
あれ……?2人とも、どうしたの? 
それが私の正直な感想だった。 
その後すぐ悟る。 
しまった……やっちゃった……。 
そっか……私にとっては当たり前でも、2人にとっては違うんだよね……。 

突然お母さんがいない、なんていわれたらどう思うだろう? 
私には直接には分からない。私にはお母さんがいないのが当たり前だから。 
でも、ゲームで考えれば分かる。 
大技の前に何かしらの兆候があれば、防御したり離れたりして被害を抑えられる。 
でも、それが突然来たら―――? 
その結果が、今。 
微妙な空気が漂っている、今。 
かがみなんか、泣きそうな顔をしているようにさえ見える。 

ごめんね……二人とも。 
私、全然気にしてなかった……。 

私に出来る唯一のこと。 
それは―――。 
『まぁ、だから家事はかがみ以上に出来るけどね~♪』 
『突っ込み辛い雰囲気で余計なこと言うな……』 
……何とか少し緩和出来た……かな。 
あんまり深く受け取ってなければいいけど……。 
これでもし今まで通りに接してくれなくなっちゃったなら。 
―――それは、最悪な末路。 

でも、二人は私に今まで通りに接してくれた。 
そこには、こっちが虚しくなる生温い同情なんてものは、少しも感じられなかった。 


『かがみ~ん、どったの~?』 
『はぁ……また、体重がね……』 
『ふむぅ』 
『ダイエットしなきゃいけないわね……』 
『数値1つに左右されて……。まったく、これだから女ってやつは……』 
『アンタも生物学上は女だろ……』 

かがみは別に太ったりなんてしてないんだから、ダイエットなんてする必要ないよ。 
そう言ってあげたいけど、言えない。 
仮面が私の発言を制限しているから。 

張り付いた仮面は、もう剥がせなくなっていた。 


『ん~~ん~~っ!!』 
せっかくみゆきさんとつかさに当ててもらえて、これたライブ。 
なのに、私の目の前には背の高い人がいて、どんなに背伸びしても全然見えない。 
くう、今日ほど自分の背の低さを恨めしく思った日はないよ……。 
そう思ったとき。 
『……ほらっ』 
『ぁっ………』 
肩をそっとつかまれ、私は隣の席に移される。 
そこは丁度隙間になっていて、ステージの上が良く見えた。 
『わぁ……』 
ギターを弾きながら熱唱している平野さん。 
ずっと憧れていたその姿をみて、思わずドキドキした。 

『すごかったねぇ~~!』 
『感動しました』 
つかさとみゆきさんがそれぞれ、感想を言い合う。 
かがみも、2人の話に自分の感想を言っていた。 

ライブ、本当に凄かった。 
平野さんはかっこよかったし、それに生声も聞けた。 
憧れの人を自分の目で見れて、すっごい嬉しかった。 

―――でもあのドキドキは、それだけ……なのかな………? 

『あれ、こなた、さっきから全然しゃべってないじゃん』 
『あ、うん……』 
かがみに言われて、顔を上げる。 
『祭の後の脱力感って感じね。確かに、私も感動しちゃった』 
けれど、その顔を真っ直ぐ見てられず、私は再び地面へと視線を戻した。 
『うん……何だろうね……この気持ち……』 

私の心をわかってくれて。 
私の望みを叶えてくれて。 
私に喜びを与えてくれて。 

お父さんでもない。お母さんでもない。 
もっともっと違う、温かさ。 
それは、私のまったく知らないもの。 

これって……もしかして――――。 

もっと前の日からも、かがみと一緒にいたいって思うことは何度もあった。 
でもそれは、つかさやみゆきさんと同じだったんだと思ってた。 
かがみだけ違うクラスで一緒にいる時間が少ないから、二人よりもそう思うだけだと思ってた。 
でも………違った。 
私の感情は、『友達』に向けられるものじゃない。 
私の感情は、『愛しい』というもの。 

多分、そこで始めて自分の気持ちに気づいたんだと思う。 


『またかがみだけ違うクラスだね……』 
結局、3年生になっても私たち4人が一緒になることはなかった。 
『ただでさえ顔合わせる機会が多いんだし、クラスぐらい別になってくれないと私が疲れるわ』 
その言葉が、心に突き刺さる。 
そっか……かがみは思ってなかったんだ……。みんな同じクラスになりたいって……。 
『お姉ちゃん……』『残念ですね……』 
つかさとみゆきさんの言葉が重なる。 
『別に、いつものことでしょ?それにどうせ、こなたあたり、ノートだの教科書だの借りに来るんだし~』 
『読まれてるね』 
クラスが違っても、それを口実に会える。 
それくらいなら、かがみと一緒にいてもいいよね……? 
『まぁ、そんなわけで、先行ってて』 
『うん、じゃ』『うん、また後でね~』 
私たちはそのまま新たなクラス、3年B組の教室を目指して歩き出した。 
つかさとみゆきさんがこれからのことを話しているのを尻目に、私はそっと後ろを振り返る。 
そこでは、かがみがクラス発表の張り紙をもう一度確認していた。 
泣きそうな、悲しそうな、そんな顔で。 
……よかった、かがみも思ってくれてたんだ……。 
私は心の中で嬉しいと思う反面、同じクラスになれなかったことが哀しく思われた。 
同時に、かがみに出来るだけ寂しい思いをさせないようにしよう、と決心した。 
友達として。そして、ちょっとだけ―――。 



『昨日のドラマ、あの展開は読めたよね。流石にあれだけやったら分かりやすすぎだよねぇ』 
『えっ!?こなた、お嬢様があの娘だってわかってたの?』 
『そりゃ、あれだけ布石あれはね~。出会いのシチュとか、無意味に明るすぎるところとか、露骨だったよ』 
『そ、それでなんでわかるのよ』 
『王道じゃん。あんな出会いだったらどう考えても普通じゃないし、明るい性格ってのもね。 
どうせ、お嬢様の時は暗い感じになるんだと思うよ。令嬢だからって抑止されてるって展開じゃないの? 
で、主人公が強制は間違ってる!とか言うんでしょ』 
『こ、こなた、凄いわね……。確かにそうなりそうかも……』 
『ま、かがみにもしものことがあったら、私がどんな障害を乗り越え……いーや、壊してでも、助けてあげるよ♪』 
『アンタに助けられるようなことなんて、この先もないわよ……』 
『いやぁ~、かがみも何だかんだでねぇ?』 
『何が言いたいッ!!』 
『かがみは俺の嫁ッ!!』 
『ば、バカみたいなこと言ってんじゃないわよッ!』 

冗談なんかじゃないよ……。 
私は、本気だから……。 


あはは……笑っちゃうよね……。 
ゲームとか小説の中だけの話だと思ってたのに、まさか、自分自身がそうなってようとは……ね。 
でも、気づけたから後は簡単。 
相手に気持ちを伝えるだけ。 
なのに……その勇気がでなかった。 
ギャルゲーの主人公のことをヘタレってよく言ってたくせに、私自身もこのザマ……。 
自嘲するように思わず笑ったのを覚えている。 
「結局私が告白するまえに、かがみがしてくれたんだよね……」 
机の上に飾ってある写真を見つめる。 
一番近くにいて欲しい人が、私に笑顔を向けていた。 
「かがみの気持ち……分かんないよ……」 


☆ 


昼食の後しばらくテレビを見てから部屋に戻ると、既にもう3時が回っていた。 
外は、いつの間にか雨が降ってきていた。 
「せっかくの休みだし、Lvあげでもするかな……」 
そう独り言をぼやきながら、PCの電源を立ち上げる。 
少しでも、忘れられたら。 
そんな気持ちで、デスクトップのネトゲのアイコンをダブルクリックした。 

[注意書:プライバシー保護のためキャラ名は伏せさせていただきます] 

こなた:ふ~……とりあえずソロでなんかしよっかぁ…… 
ここ2日間、全くPCに触れてなかったせいで、少し感覚も鈍ってるし……。 
しばらくザコを乱獲して勘を取り戻すかな~。 
ということで、軽く1時間ほど続けてると、唐突に誰かに話しかけられた。 
ななこ:お、泉。久しぶりやな~ 
こなた:先生こんにちは。2日ぶりだから、そんなでもないですよ 
ななこ:泉が2日間やらんなんて、相当珍しいで~? 
こなた:んまぁ………そかもしれませんね 
ななこ:そや、PT組んで狩りいかへんか?w 
こなた:あぁ、おkですよ~ 
ななこ:おっしゃ、気合いいれていこか!o(`ω´*)o 
しばらくして、私と先生は狩り場に到着する。 
こなた:釣りますね~ 
ななこ:おう、こいや! 
私のキャラが、敵目掛けてクロスボウからボルトを発射する。 
こなた:しまった……すいません、2匹きます 
ななこ:おkや!どんとこい! 
先生のキャラが、片方に睡眠魔法をかけて、行動不能にする。 
こなた:あり~です 
ななこ:おkやって。それよりはよ起きてる方つぶさな、面倒やで 
こなた:ですね、速攻で倒しましょう 
私のキャラが腰から下げた短剣を抜いた。 


ななこ:………泉どうしたんや? 
こなた:すいません……なんか今日は調子悪いみたいで…… 
ななこ:そんなレベルじゃなさそうやで?泉が釣り・アビ・スキルをミスるなんて滅多になかっ 
たやろ 
先生の言う通り、今日は半分以上……多分、70%くらいミスしていた。 
自分で言うのもなんだけれど、普段の私ならミスなんて10%にも満たない。多分、3%くらい。 
でも今日の私は、まるで初心者さながらの腕前だった。 
ななこ:なんかあったんか? 
こなた:いえ、そう言うわけではないんですけどね~ 
チャットは良い。 
直接話すわけじゃないから、感情を悟られづらい。 
心の中がどんなにぐちゃぐちゃになってても、口調さえ変えなければ大丈夫だから。 
ななこ:……まぁええわ。ちょっとMP回復するで 
こなた:はい 

少しの休憩時間、先生がふと思い出したように話し出した。 
ななこ:そや泉、一昨日の掃除、本当に一人でやったんか? 
こなた:やりましたよ……。もう、すごい大変だったんですからね? 
ななこ:マジにやっとったんか……。高良や柊達が手伝うと思ったんやけどなぁ 
こなた:先生が一人でやれって言ったから、わざわざ申し出を断って、先に帰ってもらったんですよ…… 
ななこ:おいおい、うちがそんなことマジで言うと思ったんかいなw 
こなた:先生だからこそ、本気でとったんですよw 
ななこ:なんやそれ……誉めてないよな? 
こなた:当たり前ですw 
ななこ:まぁええわ。それはそうとして、泉、確かあのとき、夜中までこれやっとったって言っとったよな? 
こなた:えぇ……それが? 

しまった………。 
そう思った時には、大抵の物事はもう間に合わないんだよね。 

ななこ:確か柊から電話きた、とかで早く落ちとらなかったっけ? 

そう、私はあの日早々と落ちていた。 
それだけならいいが、その直前に先生と話していたのをすっかりと忘れていた。 
そっか……一昨日、先生がなんか言おうとしたのは、それだったんだ……。 
ヤバいなぁ……なんて返そう……。 

こなた:先生が落ちてから、またインしたんですよw 
ななこ:朝の6時からインしたんじゃ、遅刻確定やで? 
うぁ、先生、よりによってあの日にオールですか……。 
こなた:まぁ、色々あったんですよ 
ななこ:ふん……苦し紛れの嘘かいな 
こなた:はぁ、わかってたんですか 
ななこ:伊達に教師やっとらんわ。……で、どうしたんや? 
普段ならその問いは、適当にはぐらかしたと思う。 
でも、私は……。 
こなた:かがみと……その……ケンカ……?しました 
ななこ:柊と……?珍しいやないか。それこそなんでや? 
こなた:わからないんです…… 
ななこ:はぁ?どゆことや? 
かくかくしかじか、と先生に成り行きを説明する。 
こなた:そしたら、怒鳴られちゃったんです…… 
私が言いきっても、先生からはしばらく返答が返ってこない。 
やっぱり理由わからないですか?と途中まで入力した時、先生からの返答がきた。 
ななこ:泉……そいつは、泉が悪いで 
こなた:先生、なんでかがみが怒ったか、わかるんですか!? 
ななこ:そりゃなぁ。うちでもブチキレやで 
こなた:…………なんで、ですか……? 
ななこ:それはなぁ…… 
そこで、私は本来のメイドのことについて知った。 
それは、私の想像していたものとは違っていた。 
朝はおはようございますから、夜はおやすみなさいまで、たっぷりご奉仕三昧。 
1日中ずっと一緒にいて、好きなように愛でてあげる。そんな、私だけの大切な人。 

それは――――虚像だった。 
7 
こなた:そう……だったんですか…… 
ななこ:そうや。柊がブチギレたのも頷けるやろ 
こなた:はい…… 
私、どうすればいいんでしょうか? 
そうタイプしていた途中に、こんこんっと扉をノックされた。 
「お姉ちゃん、電話だよ」 
ゆーちゃんのその言葉に淡い希望を抱きながら、扉を開ける。 
「ゆーちゃん、誰から?」 
「えっと、高良先輩だって」 
みゆきさん……か。何の用だろ? 
「了解、ありがとね~」 
私はゆーちゃんから子機を受け取った。 
こなた:先生、ちょっと電話です 
ななこ:お、柊かいな? 
こなた:いえ、みゆきさんです 
ななこ:なんや、高良かいな。ならきっと連絡網やな。もう泉のとこまでいったか~ 
こなた:連絡網なんですか、珍しいですね 
何の連絡網だろう?私は、そんな軽い気持ちで子機に耳を当てた。 



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