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「かがみ~、あそぼ~よ~」 「ちょっと待って、今からこっち片付けないといけないんだから」 「え~」 そう言って唇を尖らせるこなた。そんなこなたを見て、かがみは苦笑しながら、 「後で遊んであげるから」 と、ポンポンと頭を軽く叩きました。 くすぐったそうに目を細めるこなた。頭に生えている狐の耳がピクピクと動きました。 そんな、2人の日常です。 助けた狐が人間になった。かがみも、そしてその家族も最初は驚きました。 ですが、昔から狐は何かに化ける動物と言われています。 なので、神社を営んでいるかがみの家の人達は、それを狐の恩返しと、解釈しました。 一方、狐であったこなたは、何故、人間になれたのか?そんなことは一切気にせず、ここぞとばかりにかがみに甘えてくるようになりました。 「かがみ~、あの時は助けてくれてありがと」 そう言ってかがみに擦り寄るこなた。ですが、こなたの中で2箇所、人間になりきれていない所がありました。それは、耳と尾です。 どういう訳か、狐の耳と尻尾だけは消えることなく、こなたの頭と腰の辺りから生えていました。 なので、こなたがかがみに擦り寄ると、ふさふさと毛が生えた耳や尾がかがみに当るわけで、 「ちょ、くすぐったいってば」 「んふふ~。か~がみん♪」 それでも、嬉しそうにしているこなたを見ると、ついつい口元を緩めてしまうのでした。 「あんまり足を動かすんじゃないわよ」 かがみが言うと、こなたは、は~い、と返事をしました。 人間になっても、足に負った怪我は治ってなくて、まだ包帯を巻いています。包帯を替えるのはかがみと、双子の妹のつかさの役目でした。 そのつかさは、今、かがみと一緒に神社の境内の掃除をしています。 サッサッ、とかがみが竹箒で石畳を掃き、つかさが一箇所に纏める。木々が多いここでは、必然、ゴミは落ち葉が主体になります。 はじめは、かがみが後で遊んでくれると言ってくれたので、こなたもおとなしく階段に腰をかけ、足をぶらぶらさせていました。 しかし段々と積もっていく葉っぱの山を見て、悪戯を思いついたのか、ニヤリと笑うと2人に気付かれないようにそっと、立ち上がりました。 「お姉ちゃん、これぐらいでいいかな?」 一通り境内を掃き終えて、かがみが、ふぅ、と息をついたところでつかさが話しかけました。かがみは辺りを見渡して、 「そうね。屋台の設営場所とかが綺麗になっていれば、とりあえずはいいと思う」 その時です。掃き溜めた山から一抱え葉っぱを持ってきたこなたが、2人に勢い良く、それを被せました。 「わっ!?」 「きゃっ!?」 狼狽する2人を見て、こなたはニコッと笑うと、 「驚いた?」 「~~~っ、こなた~っ!!」 かがみが、勢い良く拳を振り上げると、こなたは「かがみが怒った~っ」と、楽しそうに逃げ回り始めました。 「待ちなさいっ、こなたっ!!」 追いかけるかがみ。ですが、こなたの足は早く、また、元が狐なためか非常に俊敏で、中々捕まりません。 「ここまで、おい……痛っ!」 と、突然うずくまったこなた。かがみが追いつくとこなたは足を押さえ込んでいます。 「痛いよ~、かがみ~」 「はぁ……だからあんまり足を動かすなって言っといたのに――ほら」 一つ息をついて、かがみはこなたの肩と腰を抱えると持ち上げました。 「傷口が開いちゃってるか、ちょっと包帯外して見てみなくちゃね」 「うぅ~……」 ショボン、と目じりを下げるこなた。それと一緒に耳もぺたんと寝てしまいました。 「全く、なんであんなことしたのよ」 かがみが言っても、こなたは目を合わせようとはしません。不安そうに尻尾が揺れているだけです。 そんなこなたの様子を見てつかさが助け舟を出しました。 「きっと、見ているだけで退屈だったんだよ。ね?こなちゃん」 「……そうなの?」 かがみがこなたの瞳を覗き込むと、不安そうに揺れていたそれを伏せて、コクン、と頷くと、 「だって、後で、って言ったのに、かがみ全然遊んでくれないんだもん」 寂しそうに、そう呟きました。 そんなこなたの様子に、つかさは苦笑しながらかがみの方を向いて、 「ここは後、私がやっておくから、お姉ちゃんはこなちゃんをお願いしてもいいかな」 と言いました。それを聞いてこなたは顔を上げると、 「かがみ……?」 「……分かったわよ。ほら、こなた、つかさにお礼言いなさい」 「うん。つかさ、ありがと」 「ううん。気にしないでいいよ」 そして、つかさを残して、2人は家の方へと戻りました。 「はい、じゃあ、足を見せて」 かがみがそう言うと、こなたは借りている巫女服の袴の裾を持ち上げて、傷口が見えるようにしました。 「あ~、やっぱり、ちょっと傷口開いちゃってる」 ちょっと待ってて、と言うとかがみは家の奥の方へと引っ込んで行きました。後に残されたこなたは特にすることもなく、畳敷きの部屋の中を見渡しています。と、 「あら、こなたちゃんじゃない」 かがみが向かった方とは別の方から、かがみのお母さんの柊みきが盆にお茶とお菓子を乗せて現れました。 「あ、おば……」 さん、と言おうとした時、一瞬背筋が寒くなった気がしたので、こなたは会釈をしておくだけに留めて置きました。 みきは、盆を傍の机に置くとにっこりと微笑んで、 「こなたちゃんも、大分人間の言葉について覚えてきたようね」 と言いました。 「ところで、こんな所でどうしたの?かがみとつかさは?」 みきが不思議そうに呟くと、こなたは足元の傷口を指しました。それを見て、みきは納得したようで成る程、と頷きました。 「痛くない?大丈夫?」 と、聞かれて、少しこなたは後ろに下がりました。 「どうしたの?」 みきが訝しげに眉を顰めます。こなたは、耳と尾の毛をピンと張り詰めさせて、 「人間は、嫌い」 と、言って四つん這いになると、姿勢を低くし警戒の意を示しました。 それを見て、みきは苦笑すると、 「あらあら。どうして?」 「だって、人間は私達を罠にかけたり、大きな音を出す棒を持って追い立てるから」 こなたは、更に姿勢を低くして、唸り声を上げました。その様は、人間になった狐といった佇まいは消えて、元の子狐のようにも見えます。 ですが、みきは、その様子を見ても動じません。ふっと笑うと、 「じゃあ、かがみは?」 と、聞きました。 すると、こなたの張り詰めていた緊張がほぐれ、立っていた毛も元通りにぺしゃりと寝ました。頭頂の一房だけは立ったままでしたが。 「かがみは、好き。人間だけど、優しいし。ツンデレだし」 「え~と……それは狐の言葉、なのかしら?」 「それにね、かがみといると、温かい。ずっと一緒にいたいって思える」 そこまで言って、でも、とこなたの耳がぺしゃっと寝ました。 「かがみは、私のこと、どう思ってるのか分からない。私、迷惑かけちゃってるよね。自分勝手な狐だし、怪我もしてるし……でも、かがみといると楽しいから、だから……」 ぐすっ、と鼻を啜り上げ始めたこなたを、みきは制しました。そして、 「大丈夫よ、こなたちゃん。かがみは素直じゃない所もあるけど、きっと」 「きっと?」 それには答えず、みきは目線を横にずらしました。つられて、こなたもそちらを見ます。すると、 「ゴメン、お待たせ。中々替えの包帯が見当たらなくて。あれ?お母さん?」 かがみが戻ってきました。みきの姿に一瞬訝りましたが、直ぐにこなたのところに向き直ると、 「大丈夫?痛くない?直ぐに包帯を替えるから」 そう言ってこなたの足元を優しく両手で包みました。はっとして、こなたがみきを見ると、みきは微かに頷きました。 「あ、そうそう。かがみ、包帯を替えるなら先にお風呂に入れちゃったほうがいいわよ?」 「それもそうね。傷回りも洗わないとだし」 「……え?」 「こらっ、こなた!暴れないの!!」 「ちょっ、かがみ!?ダメ、お湯だけはダメ!!」 お風呂場、ちょっと早い入浴です。 かがみはこなたをお風呂に入れようと持ち上げますが、こなたは暴れて抵抗します。 「ヤダッ!毛が濡れると気持ち悪いんだよ?」 「ダ~メ。清潔にしないと傷の治りが遅くなるわよ」 お互いに一歩も譲りません。狭い浴場の中をじりじりとにらみ合いながらこなたとかがみは間合いを計ります。 これは、こなたが人間の姿になった初日から続く戦いです。元々、狐であるこなたは毛が濡れる事を極端に嫌います。人間の姿になってもそれは変わらなかったようです。 しかし、元は野生の子狐。外に出れば泥だらけになるまで駆けずり回ります。それで家に上がられては困ると、無理を承知でこなたをお風呂に入れるのです。 「うぅ~……かがみにはあの気持ち悪さが分からないんだよ」 こなたが呟くと、かがみは組んでいた腕を解いて、 「そうね、そんなに嫌なら強制するのも悪いかしら」 と言いました。それを聞いてこなたも、ほぅ、と息を吐きました。 「良かった……」 無い胸をなでおろしたこなたを見て、かがみは少しだけ微笑みました。 「ちょっとこなた、こっち来なさい。頭撫でてあげるから」 「ホントッ!」 疑うことなく、こなたはかがみの胸に飛び込みました。お風呂場なのでお互い何も身につけていない状態です。ポフッ、と音がしました。 「ん~、かがみん柔らかい」 「く、くすぐったいってば」 すりすりと頬と耳をかがみに擦り付けるこなた。その時です、密着した状態のこなたの背中にかがみは右腕を回しました。 「ほぇ?」 しっかりと捕まえて離しません。そして、かがみの左手にはお湯の入った桶。 「ぁぁぁあっ!?」 ザパッとこなたの頭からお湯をかけました。 「うみゅぅ~!?」 そして、こなたが逃げないように両足で挟み込むと布に石鹸を絡ませてこなたの背中を洗い始めました。 「ちょ、か、がみ……ぁ」 「じっとしてなさいよ」 背中を流し、尻尾の付け根へ。すると、こなたの体がピクっと硬直しました。 「じっとしてなさいって」 丁寧に、丁寧に尻尾周りを洗います。最初は強張っていたこなたの体も段々と緊張がほぐれてきました。 「次、頭洗うわよ~」 かがみの声が届いていないのか、こなたは何も答えませんでした。それを肯定の意と取って、こなたの髪の毛に石鹸を絡ませます。 耳に泡が入らないように気をつけて、ゆっくりと。 「(あ、耳がぴくぴくしてる)」 こなたは先程から俯いたままで、その表情は分かりません。ですが、ぴくぴく動く耳を見ると、きっと気持ちいいんだろう、とかがみは思いました。 そっと、こなたの耳に手を当てます。 「(うわ、狐の耳って柔らかい……)」 ふわふわでもふもふ。そしてぴくぴく動く耳。ゆっくりと、毛並みに沿って指を滑らせます。 こなたの体がまた強張りました。 「こなた……?」 流石に心配になってこなたの顔を覗き込むと、潤んだ瞳と目が合いました。 心なしか、こなたの息遣いも荒くなっているみたいです。 こなたは、かがみを潤んだ瞳で見上げると微かな声で、 「かがみ、ずるいよ……そんなことされたら、私、私……」 そう言ってこなたは尻尾をかがみの体に巻きつけました。そして、ゆっくりと、顔を近づけていきます。 かがみも、こなたにあわせるように顔を近づけます。こなたが、目を閉じました。 そして、 「にゃぅあ!?」 頭の上から、またお湯をかけました。 「はい、頭洗い終わったわよ」 「うぅぅ~……」 お風呂に入った後は、かがみの部屋に行って足の包帯の付け替えです。 お風呂に入って毛が濡れたことが相当嫌だったのか、こなたはかがみの布団に丸まって唸り声を上げ続けています。 「ちょっとこなた、いい加減機嫌直しなさいよ」 かがみが言うのに、プイと横を向いて。 「フンだ。かがみひどいよ。頭撫でてくれるって嘘までついてさ」 と言った時です。こなたの頭をフワ、と撫でるものがありました。 「……嘘は、言ってないわよ?」 こなたが顔を上げると、ちょっと困ったような、微笑んだような、かがみの顔がありました。 かがみはこなたを布団から持ち上げると後ろから抱え込むようにしました。 そして、そのまま、また頭を撫でます。 「嫌だったお風呂、頑張ったからね。ご褒美」 「かがみ……」 また、耳がぴくぴくと動き、尾がパタパタ跳ねます。短い付き合いですが、かがみには、これがこなたの喜んでいる証だと、分かりました。 ゆっくり、ゆっくり、こなたの蒼い髪の毛を撫で梳き、耳をかいてあげます。 気持ち良さそうに、こなたは目を瞑りました。 「包帯替えるの、後でいい?」 かがみが言いました。 「もう少し、こうしていたいから」 「うん」 こなたは頷きました。そして、かがみの方を向いて、その頬をペロリ、と舐めました。 「かがみ……好きだよ」 **コメントフォーム #comment(below,size=50,nsize=20,vsize=3)
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