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ひとり、ふたり - (2009/05/30 (土) 14:10:10) のソース

ひとり、ふたり

そうなのかなって思い始めたのはずっと前
その言葉を聞いたときから
私はあの子をもっともっとよくみるようになった
それまでは あの子隠してたからわからなかったけれど
しっかり見据えるようになってやっとわかった
それで
私はこっそり決意した
誰にもわからないように
でも
絶対に揺れないように 

1
 最近、こなたの様子がおかしい。妙によそよそしいというか、多分私を避けている。つかさやみゆきと話しているときはいつも通りに見える。なのに、私が絡むと途端に態度が変わるみたいだ。昨日の放課後もこんな感じだった。

「つかさー、この前貸した漫画どうだったー?」
「あ、あれ?えーと…」
「2巻の主人公がもうかっこよくてさー。『ハリー!ハリーハリー!!ハリーハリーハリー!!!』は最高だね!私大好きなんだー。今一番燃えるねあれが」
「うんと…まだちょっとしか読んでないけど…」
「4巻の大演説もいいよね。ちょっと調べてみたけど、改変ネタとかけっこうあるみたいだし。もう作者やりたい放題だよね」
「あの…あれって主人公誰なのかな…?サングラスして帽子かぶってる男の人?それともおっきな大砲持ってる女の人の方…?振り仮名振ってないと読めない漢字とかあるし…。最近の漫画って難しいよね…」
「えええー?何それー…。ちょっとそりゃないよー…。もうちょっとさあ…まあつかさだししょうがないか」
「はぅ!ひどいよこなちゃん…」
「みゆきさんなら分かってくれるよねーきっと」
「うーんどうでしょう…。私は漫画はそれほど読みませんので…」
「んーでも小説とかは結構読むんじゃない?そこからファンタジー→ラノベ→漫画とくれば大丈夫!これでみゆきさんも私たちの一員だよ!」
「そ、そうなんですか…?」
「こらこら、みゆきをそっちの世界に引きずり込むんじゃない」
「あ、お姉ちゃん」
「おっす」
「!」
「かがみさんも漫画は読まれるんですよね?」
「まあこなたほどじゃないけどね。こなたは教科書まで漫画にしてるくらいだもんねぇ?」
「…ん」
「いつだったか教科書借りたときはひどい目にあったわよ、まったく」
「…私…そろそろ行くね…」
「え?こなちゃんもう帰っちゃうの?いつももう少し…」
「今日ちょっとバイトあるから一緒に帰れないや。じゃ」
「…そうですか。ではお気をつけて。さようなら」
「うん。じゃねー」
「じゃあこなちゃんまた明日ねー」
「あ、こなたっ…」

 まず、宿題を写しにこなくなった。夏休み中なんてあれだけ家に来てたのに、最近はぷっつりこなくなった。つかさは普通に教えてもらいにくるから、宿題が出てないってことはない。それとなくみゆきにきいてみたけど、やっぱりみゆきにも頼っている様子はない。
 それから、寄り道にも誘いにこなくなった。これまでは新刊やら限定グッズやらが出る度に寄り道に誘ってきたけど、最近はそれがない。というか、私と一緒に帰ること自体が少なくなった。バイトとか用事とか色々言って先に帰ってしまう。たまに一緒になることはある。けど、つかさには話しかける。つかさが話しかけたときも普通に答えてる。でも、私に話しかけることはない。私が話しかけると顔を背けて生返事をするだけだ。あとはずっと目をつぶってたり。多分寝てるのだろう。
 私の教室にも顔を出さなくなった。私がこなたの教室に行かないとき、ちょくちょく「かがみー」って言いながらきてたのに。
 朝も会わなくなった。前は一緒の電車に乗ったりすることも多かったのだが、最近は意図的に時間をずらしているようだ。私とつかさが乗るのより一本早い電車で登校しているらしい。
 総じて顔を合わせることが激減した。唯一残った時間はお弁当のときだが、それも最近になって急に一人だけ学食を使い出した。じゃあ、ということで皆で学食についていくと、やっぱり私とは目も合わせない。
 どう考えても普通じゃない。夏休みが終わってしばらくの間は確かに普通だった筈だ。おかしくなり始めたのは10月に入ってちょっとしたあたりからだと思う。
 最初は戸惑うばかりで心当たりなんてなかった。 

2
 でも、よく考えると、思い当たる節が一つある。ばれたのだ。あのことが。
 いつかは分からない。全く外に出したつもりはなかったのに。
 でも、だとすると、こなたが私を避け始めたのも合点がいく。
 …もしそうだとしたら…今がそのときなのかもしれない。少なくとも、このまま放置するわけにもいかない。
 そう考えて、私はその日、つかさとみゆきに話してみることにした。

 放課後。こなたは今日も先に一人で帰ってしまった。私とは一度も会うことはなかった。でも、今日ばかりは都合がいい。教室に残っていたつかさとみゆきをつかまえて切り出す。
「ねえつかさ、みゆき、ちょっと話があるんだけど」
「何?お姉ちゃん?」
「どうしたんですか?かがみさん?」
「あの…こなたのことなんだけど」
 私がそう言うと、二人とも顔がちょっと引き締まった。
「そっか…。こなちゃん…最近ちょっとおかしいもんね…」
「ええ…言いにくいですけど…かがみさんから逃げているような…」
 やっぱり二人とも気づいてたか。
「…うん。多分、私を避けてる」
「あの、無理にお聞きするつもりはありません。言いづらければ言わないで下さい。でも、私たちに相談できることであれば仰って下さい。…何か心当たりがおありなんですか?」
「お姉ちゃん…」
 ここから先は言いにくい。私にも確証がないのだ。憶測の上に推測を重ねたものだから、私の単なる思い込みの可能性も十分ある。私の考えていることと全く別のことが起きているのかもしれない。でも、可能性は一つ一つ潰していかなきゃダメだ。そうしないと始まらない。
 ちょっと間をおいて、言った。
「私ね、こなたにひどいことしちゃったんだと思う。こなた、今すごい傷ついてる。私、避けられて当然かなって…」
「そうですか…」
 みゆきも声が沈む。
「でも、かがみさんはそのことをちゃんと分かってらっしゃるんですよね?」
「うん…。自分でも…なんでこんなことになっちゃったんだろうって…。こんなことするつもりじゃなかったのに…」
「なら大丈夫です。その気持ちをしっかり泉さんに伝えて下さい。そしていつもの泉さんに戻してあげて下さい。私も…泉さんとかがみさんがこのままでは…悲しいです」
「そうだよお姉ちゃん。こなちゃんだって、いつまでもこのままじゃいたくないと思ってるよ、きっと」
 本当のところは分からなかった。こなたが心底私を嫌ってるのなら、もうこのまま縁を切ってやりたいと思ってるのかもしれない。でも――
「…ありがとう、二人とも」
 背中は押してもらった。それは間違いない。
「あの…お姉ちゃん…ところで…」
 つかさがおずおずと口を開いた。
「その…何を…しちゃったの?そこ聞いてないんだけど…」
 それから、慌てて手を振った。
「あ、言えないならいいから!ほんとに!」
 私は首を傾ける。これをここで言っていいものかどうか。
 答えは勿論ダメだ。ここで言ってしまったら、こなたを余計傷つけることになる。
「ごめん…言えない」
「そっか…。あの、でも、そうしようと思ってやったことじゃないんでしょ?わざとこなちゃんを悲しませようとしたわけじゃないんでしょ?」
「それはそうなんだけどね…」
「いいんですよ、かがみさん。言えるときに、言いたくなったら言って下さい。このままずっと言わなくても、それでも構いません。ただ、これだけは覚えておいて下さい。私たちは、この件でかがみさんを見下げたりしません。そのことを気にしてらっしゃるのでしたら、ご心配には及びません。詳細は存じませんが、多分、不幸な行き違いなのでしょう。かがみさんもそのことは十分にお分かりなのではないですか?」
「そうだよね。私、いつでもお姉ちゃんを応援してるから」
 つかさのフォローが痛い。
 みゆきの優しい言葉が痛い。
 私はもっと嫌われなければならない人間なのかもしれないのだから。
 まだそうなのかどうかは、ちゃんと聞かないとわからないけれど。
 いや、それも逃げだよね。
 それでも、この二人に非はない。
 だから、もう一度、繰り返した。
「ありがとう、二人とも…」 

 さて、それからもうちょっとつめていかないと。
「それで、明日、こなたを家に呼んで一度ちゃんと謝りたいんだけど…」
「あ、そうか。明日、家、私とお姉ちゃんだけだもんね。明後日は土曜日だし」
「私たちが間に入ることは…できないのでしょうね」
「うん…ここまで話しといてごめん…これは、私とこなただけで解決したいことだから…」
「え、じゃあ私もどっか行ってた方がいいのかな?」
「…うん…本当にごめん…」
 つかさがちょっと微笑む。
「わかったよ。それじゃ、私、ゆきちゃんの家にいるから。何かあったらいつでも呼んでね」
「うん…」
「分かりました。では、明日、泉さんが先に帰ろうとしましたら、何とか引き止めておきます。あとは…こんなことしか言えませんが…がんばって下さい。月曜日、泉さんとかがみさんの笑顔にお会いできることを、心からお祈りしています」
「お姉ちゃん…大丈夫だから。お姉ちゃんとこなちゃんなら大丈夫だよ。きっと今までみたいに戻れるよ。だから…約束してね。絶対仲直りしてね」
「わかった…。私…やってみるよ…。二人とも…ごめんね…ありがとう…」
 私は本当に最低な人間だ。
 私の考えている通りにいくなら、この二人までも裏切ることになる。
 私の周りには誰もいなくなるのかもしれない。
 でもそれでいいんだ。
 いいんだ。
 いいんだよ。

 そうだよね?
 こなた…。 

3
 翌日の放課後、意外なことが起きた。今日、一番難しいのは、いかにこなたと二人きりで家に行くかだと思っていた。こなたはみゆきが引き止めていてくれるにしても、私しか一緒に帰る相手がいないと分かれば、絶対嫌がるだろうし、下手すれば逃げ出してしまうだろうと考えていた。
 しかし放課後。私がこなたの教室に行くと、みゆきと話しているこなたが目に入った。引き止めてくれていたみゆきに感謝して、こなたの姿を見てほっとするとともに、これからどう切り出そうか、昨日考えた何パターンかの台詞を反芻しながら歩いていくと、私の姿を見とめたこなたの方からとてとてと近寄ってきた。そして、私に声をかけた。
「かがみ…。あの…今日、かがみの家に行ってもいい?」
 顔は相変わらず背けたままだったから分からないけど、久しぶりに聞く、私に向けられたこなたの声だった。ただ、その声はとても小さく、聞こえるか聞こえないかくらい。それに何かに怯えるようにちょっと震えていた。こんなこなたみたことがない。
 私は、努めて平静に返事をした。
「ええ、いいわよ。今日はバイトとかないの?最近忙しそうだったじゃない」
 こなたは顔を俯かせた。
 しまった。嫌味に聞こえたかな?
 しかし、私が次の句を告げる前にこなたの方から声を出した。
「…うん。今日はないよ…。その…ちょっと…話したいことがあって」
「そっか。じゃ、行きましょ」
 ごめんこなた。
 また嫌な思いさせちゃったね。
 でも、もうすぐ終わりにするから。
 こなたがちょっと不安そうにきいてきた。
「あれ…?つかさは…?」
「ああ、つかさはね、この前みゆきの家に遊びに行ったとき忘れ物しちゃって、それ取りに行くついでにちょっとみゆきの家で勉強教えてもらうんだって。だから今日は一緒じゃないのよ。あの子ほんとに忘れ物とか多いんだから」
「そっか…」
 この辺は用意した通りの台詞だ。
 こなたはそれで納得したらしく、みゆきに手を振って歩き始め、それからはまた下を向いたっきり、黙ってしまった。

 電車の中でも、こなたは何も喋らなかった。こっちを向こうともしない。しかし、こちらから話しかけてもあまり意味がないことはわかっているので、何よりもうすぐ家だ、私も何も話しかけなかった。
 ただ並んでじっとしているだけの時間が過ぎる。
 そんな時間が、少しだけ、欲しかった頃もあった。
 でも、それを考えてはいけないんだ。
 私は、もうそれを許される人間じゃないから。 

 家に向かって、こなたと並んで歩く。こなたはいつもよりペースが遅い。こころなしかふらふらしているようにも見える。私も合わせてゆっくり歩く。
 これから私がしようとしていることに対して、こなたがどういう反応をするか、それは勿論気にはなる。けど、ちょっと別のことが心配になってきた。思わず声をかける。
「ちょっとこなた、あんた体とか大丈夫なの?なんか足元おぼついてないわよ?」
 倒れられては話どころではない。
「あ…うん、平気だよ。別に風邪とかじゃないし」
 本当なのだろうか。熱をはかったりしたいのだが、今のこなたに不用意に近づくと逃げられてしまいそうだ。やめておくことにする。。
 話題を変えてみる。
「実はさ、今日、私もこなたを家に誘おうと思ってたのよね」
「え…?」
 こなたがほんの少しだけこっちに顔を向ける。髪に隠れて表情は読み取れない。
「…なんで?」
「いや、私も話したいことがあってさ」
 こなたは何も言わずに、また顔を背けてしまった。ただ、何かをとても小さい声で呟いた気がした。それがなんなのか、追求することはしなかったけど。

 家に着いた。恥ずかしいことに、私が話そうとしていることに、自分で緊張し始めていた。
 これでいいのかな。
 いいんだよね。
 何度も言い聞かせる。
 鼓動が、少し早い。
 でも、それ以上にこなたが言っていた話したいこと、というのも気になっていた。私の予想通りなら、それは多分私の罪を責めるものだろう。それは覚悟していた。
 そして、それにどう対応するべきかも、考えてはいた。

 私の部屋にこなたを通す。
 しかし、こなたは入り口のところで足を止めた。
 下を向いたまま、手をぎゅっと握りしめている。
 私とこなたとつかさとみゆき。何度も皆で遊んで、勉強して、お喋りして、お菓子を食べて――思い出のいっぱい詰まったこの部屋。
 でも、もうこの部屋には――
「まあ、座ってよ」
 入り口で固まっていたこなたをなんとか中に入れ、取りあえず座らせる。こなたは大きく息を吐き、無言でクッションの上に座った。私も隣に座る。
 しばらく静寂が続いた。
 少しして、こなたがぽつりと口を開いた。
「かがみ…なんか今日、静かだけど…」
「えーとね、お父さんとお母さんは仕事でちょっと遠出してて、いのりお姉ちゃんとまつりお姉ちゃんはお友だちのところに泊まるんだって。だから今日は誰もいないのよ。ちょっとくらい騒いでも平気かな」
「そうなんだ…」
 こなたはまた黙る。
 ちょっと待ってみたが、口を開く気配はない。
 このままじゃ埒が明かない。
 もう直接いかなきゃだめかな。
 こなたに話しかける。
「ねぇこなた、話したいことがあるって言ってたよね。何か、聞いてもいい?」
 こなたはまた沈黙した後、言った。
「…かがみも話したいことあるって言ってたよね。そっちからでいいよ…」
 できればこなたの話を聞いてから、この話はしたかった。
 もう、聞くチャンスはないかもしれないから。
 でも、こなたがこの様子では、多分いくら待っても話さないだろう。
 仕方ないか。 

「…わかった。じゃあ話すね。…あのさ、私、こなたにずっと謝ろうと思ってたんだよ」
 こなたの方を向いて話し出す。
 ひとことひとことはっきり口にする。
 こなたがこっちを向いてくれないのが、少し、心残りだ。
「私、こなたに、ひどいこと、したよね…。ごめんね。ごめん。本当にごめん。ここ2週間くらいかな、こなた、私から…離れようとしてたよね?だから分かったんだけど…」
 こなたが、ちょっと顔を上げている。片方の目だけが、こっちを見ているように思った。
「あのね、でも、私、これでいいかな、とも思ってたんだよ。勿論、謝らなきゃとは思ってた。なんとかして話す機会つくれないかなって考えてて、それで今日こなたを誘ったんだけど。…謝れてよかったよ。あ、気がすまないなら何でも言ってね。何でもするから。それでね、謝って、謝って、本当に心から謝って、それから…こなたと、お別れした方がいいのかなって、そう思ってた」
「え…?」
 こなたがはじめてこっちを向いた。
 真正面からこなたの顔を見れたのは本当に久しぶりだ。
「えーと、転校するとかじゃなくて、普通に学校には行くよ?でも、もうこなたとは…あんまり話さない方がいいんだよ…。そっちのクラスにも行かないようにするね…。私は…もう、こなたと一緒には――」
 そこまで言ったとき、こなたが飛び込んできた。
「かがみっ…」
 私の名前を呼びながら私の身体をぐっと抱き締めた。
「やだよ…かがみと会えなくなるなんて…やだよぉ…」
 こなたの目には涙が滲んでいた。
 身体が小刻みに震えている。
「こなた…?」
「かがみ…今度は私の話す番。…聞いて」
「うん…」
 こなたは私に身体をうずめながら、囁くような声で、言った。
「かがみは、私のこと、どう思ってるの?」
「え…?そりゃ…親友よ。今、一番大切な友だちっていったらあんたになるわね」
 むかついたり呆れたりすることも結構あるけどね、とつけたそうかとも思ったが、こなたの雰囲気にちょっと押されて、口に出すのはやめておいた。
「そっか…。…もう一つ聞かせて。今、かがみに好きな人っている?」
 脈絡のない質問だったが、私には、その質問の意図するところがぼんやりとつかめたような気がした。
 だからこそ、どう答えるか悩んだ。
 難しい。
 正直に言ってしまっていいのだろうか。それもまずいだろう。それとも嘘をついた方がいいのだろうか。いや、それでは何のための真剣な話しあいなのかわからない。
 少し考えて、結局その折衷案をとることにした。
「いないといえばいないわね。ちょっといいかなーって思ってる人はいるけど」
「…わかった」
 こなたはそれからまたちょっと黙ったが、意を決したように、しかし濡れた声で、言った。
「私…かがみのことが…好き…なんだよ…。大好き…なんだよ…。だから…お別れなんてやだよ…」 
「…そう…なんだ…」
 さっきの質問を聞いてから、なんとなく予想はしていたけど、やはりちょっと驚いた。こなたの口から、私に向かってそんな言葉が出てくるとは。というかこなたは私を避けてたんじゃ?
「あのね、最初にそうなのかなって気づいたのは、あのライブのとき…。覚えてる?つかさもみゆきさんも前が見えないで跳ねてた私のことに気づかないでいたところで、かがみだけが、私に場所譲って前見せてくれたよね?あの後…。なんだかすごくどきどきして、気持ちが落ち着かなくて…そのときはよくわからなかったの。お祭の熱とも萌えとも違う、この気持ちが何なのか。でもね、それから考えてみると、かがみのこと考えるとおんなじ感じになるんだよ…。これがきっと、好きってことなんだよね…。それに気づいてからは…もう止まらなくて…かがみと会うたびに、かがみと話すたびに、かがみに触るたびにどんどんこの気持ちが強くなっていって…。でも、女どうしで好きなんて、そんなこと言えるわけなくて…。ずっと我慢してて…それでこの2週間は限界だったんだよ…。もうかがみとどんな顔して会えばいいのか、何を話せばいいのかわかんなくなって…。かがみと一緒にいたら、この気持ちがあふれ出しそうで…。変だよね?おかしいよね?迷惑だよね…。ごめんねかがみ…。でも、かがみがキライになったからじゃないんだよ…」
 そっか…そうだったんだ…。
「…それ、ひょっとして今も?」
「…うん…。もう押さえられないんだよ…。かがみが…かがみが…好きで…ごめんね…」
 あとはもう言葉にならなかった。
 こなたの嗚咽だけが部屋に響いていた。
 気がつけば、こなたの顔は真っ赤で、目からは涙がぽろぽろこぼれていた。私の背中に回した手はぎゅうっと私の制服を掴んでいる。
 私は息をついた。
 そして、こなたの肩に手をかけた。
「こなた…ちょっといい?」
「…え?」
 私はこなたを優しく身体から離すと、こなたの背中に手を回した。
「こなた…」
 名前を呼んで、同時に唇を重ねた。
「んっ…!」
 こなたは目を見開いたようだったが、私の方はすぐに目を閉じたのでよくは見えなかった。
 時間にしてどれくらいだろう。わからない。ほんの10秒くらいだったかもしれないし、2、3分はそのままだったかもしれない。
 私たちは、どちらからともなく唇を離した。
 こなたをみると、目はとろんとしており、呼吸は浅く、荒かった。半ば放心状態のようで、全身から力が抜けているようだった。
 私はこなたを抱きかかえると、そのままベッドに横になった。
「こなた…まだ…収まらない?どきどきする?」
「ん…」
 こなたはぼーっとしながら、曖昧に声を出した。
「だったら…私の身体…好きにしていいから…。このままじゃ話もできないでしょ?ほら…」
 私はこなたを抱く力を少し強めた。
 それで、こなたはちょっと意識が戻ってきたようだった。
「え…でも…かがみは…」
「私のことなら気にしないで…。こなたのやりたいようにやっていいよ…」
「…あの…でも…わかんないんだよ…どうすればいいのか…」
 こなたはまた少し泣きながら、戸惑いの声を出す。
「え?でもあんたよくゲームとかでやってるんじゃ…」
「…そういうのとは違うんだよこれは…。あ…じゃあ…」
 こなたは私の身体に手を回してきた。そして、ぎゅっと抱き締めた。
「ふふ…さっきと同じじゃない?これでいいの?」
「いいんだよ…これで…。これが一番…落ち着くから…。かがみ…もっと、ぎゅってして…」
「うん…いいよ…」
 私はこなたに抱かれながら、少しずつ力を強めた。
 こなたの涙は止まらなかった。
「かがみ…ごめんね…いっぱいからかって…ごめんね…いっぱい嫌な思いさせて…ごめんね…いっぱい迷惑かけて…ごめんね…。…なんにもできなくて…ごめんね…。私は…かがみにいっぱいいっぱい好きって気持ち…もらったのに…。かがみの気持ち…少しも考えてなくて…今も私は自分のことしか考えられなくて…本当に…ごめんね…」
「こなた…大丈夫よ…大丈夫だから…。今はその気持ち、思いっきり出していいから…」
「うん…」
 私たちは、強く、強く、抱きしめあった。 


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